• 著者: Rizvi NA, Mazières J, Planchard D, Stinchcombe TE, Dy GK, Antonia SJ, Horn L, Lena H, Minenza E, Mennecier B, Otterson GA, Campos LT, Gandara DR, Levy BP, Nair SG, Zalcman G, Wolf J, Souquet PJ, Baldini E, Cappuzzo F, Chouaid C, Dowlati A, Sanborn R, Lopez-Chavez A, Grohe C, Huber RM, Harbison CT, Baudelet C, Lestini BJ, Ramalingam SS
  • Corresponding author: Naiyer A. Rizvi, MD (Columbia University Medical Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-02-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25704439

背景

扁平上皮非小細胞肺癌 (squamous non-small-cell lung cancer, Sq-NSCLC) は、非扁平上皮型と比較してEGFR変異やALK転座といった既知のドライバー変異の陽性率が低く (5%未満)、分子標的治療の恩恵を受けにくいという特徴がある。そのため、白金製剤ベースの化学療法後に病勢が進行した患者に対する治療選択肢は極めて限られていた。歴史的に、2次治療以降に進行したSq-NSCLCに対してはドセタキセルのみが承認されていたが、その全生存期間中央値 (mOS) は4.0〜6.5ヶ月、1年全生存率 (OS) は6〜18%と、極めて劣悪な予後が報告されていた (Massarelli et al. 2003 Lung Cancer, Scartozzi et al. 2010 Lung Cancer)。本研究の対象となる患者は、ほとんどが直近の前治療 (76%が3ヶ月以内) から移行する高度難治性の集団であり、新たな治療法の開発が喫緊の課題であった。

近年、免疫チェックポイント阻害薬が複数の腫瘍型において有望な抗腫瘍活性を示すことが報告され、特にPD-1 (programmed cell death protein 1) 経路の阻害は、T細胞の抗腫瘍応答を再活性化させることで、がん治療に革新をもたらす可能性が示唆されていた (Pardoll et al. NatRevCancer 2012)。非小細胞肺癌 (NSCLC) に対するニボルマブの第1相試験 (Topalian et al. NEnglJMed 2012)では、客観的奏効率 (ORR) 17%、1年OS 42%、2年OS 24%、3年OS 18%という持続的な効果が報告されており、これは従来の治療成績を大きく上回るものであった。しかし、この第1相試験ではSq-NSCLCに特化した大規模なデータは不足しており、難治性Sq-NSCLC患者におけるニボルマブの有効性と安全性を検証する必要があった。

CheckMate 063試験は、この第1相試験で示された有望なデータを受けて、特に治療選択肢が手薄であった進行・難治性Sq-NSCLC患者に対するニボルマブの有効性と安全性を確認するために設計された第2相試験である。この患者集団におけるPD-1阻害薬の臨床的意義を確立することは、新たな治療パラダイムを確立する上で極めて重要であった。従来の化学療法では長期生存が困難であったこの集団において、ニボルマブがどの程度の抗腫瘍活性と生存期間延長効果をもたらすのか、またその安全性プロファイルは許容範囲内であるのかが未解明であった。これらの疑問に対する回答が、この難治性患者集団の治療戦略を大きく変える可能性を秘めていた。

目的

本研究 (CheckMate 063) の目的は、2次以上の化学療法後に病勢が進行した進行・難治性扁平上皮非小細胞肺癌 (Sq-NSCLC) 患者において、ニボルマブ3mg/kgを2週ごとに投与した場合の有効性と安全性を評価することである。主要評価項目は、独立中央画像評価委員会 (IRC) が評価した確認済みの客観的奏効率 (ORR) であった。副次評価項目として、奏効期間中央値 (mDOR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、安全性プロファイル、およびPD-L1発現とORRとの関連性を評価した。これらの評価を通じて、ニボルマブがこの難治性患者集団に対する新たな治療選択肢となり得るか否かを検証することを目的とした。特に、従来の治療では得られなかった長期的な生存利益と、許容可能な安全性プロファイルのバランスを明らかにすることが、本試験の重要な目標であった。

結果

患者背景: 2012年11月16日から2013年7月22日までに140名の患者が登録され、そのうち117名 (84%) がニボルマブの投与を受けた。患者の年齢中央値は65歳 (IQR 57-71) であり、男性が85名 (73%) を占めた。ECOG PS 1の患者が91名 (78%) と大半を占め、疾患ステージはStage IVが97名 (83%) であった。喫煙歴のある患者は108名 (92%) であった。前治療歴は、2ラインが41名 (35%)、3ラインが52名 (44%)、4ライン以上が24名 (21%) と、高度に前治療を受けた難治性患者集団であった (Table 1)。直近の前治療に対する最良効果は、病勢進行 (PD) が71名 (61%) と最も多く、89名 (76%) の患者が直近の前治療完了から3ヶ月以内に本試験に参加していた。ニボルマブの投与回数中央値は6回 (IQR 3.0-14.0) であり、治療期間中央値は2.3ヶ月 (95% CI 1.4-2.8) であった。

客観的奏効率 (ORR) と奏効持続期間 (DOR): 独立中央画像評価委員会 (IRC) の評価により、17例 (14.5%、95% CI 8.7-22.2%) が確認済みの部分奏効 (PR) を達成した。完全奏効 (CR) は認められなかった。安定 (SD) は30例 (26%) であり、疾患コントロール率 (ORR+SD) は40.5% (47/117例) であった。病勢進行 (PD) は51例 (44%)、判定不能は7例 (6%)、未報告は12例 (10%) であった。治験責任医師評価によるORRは12.8% (15例) であり、IRC評価との一致率は92.2%であった。奏効を達成した17例のうち8例 (47%) は、直前の治療で病勢進行が最良効果であり、かつ3ヶ月以内に本試験に参加した積極的難治例であった。11例 (65%) の奏効患者で標的病変の50%以上の縮小が認められた (Figure 1)。ベースラインで中枢神経系 (CNS) 転移を有していた2例の患者においても、CNS病変の縮小が確認された。奏効期間中央値 (mDOR) は未到達であり (95% CI 8.3ヶ月〜未到達)、奏効した17例中13例 (77%) が解析時点で奏効を継続していた。奏効達成までの中央値は3.3ヶ月 (IQR 2.2-4.8) であった。安定 (SD) を示した患者の持続期間中央値は6.0ヶ月 (95% CI 4.7-10.9) であった。

無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS): 無増悪生存期間中央値 (mPFS) は1.9ヶ月 (95% CI 1.8-3.2) であり、6ヶ月PFS率は25.9% (95% CI 18.0-34.6%)、1年PFS率は20.0% (95% CI 12.7-28.5%) を示した (Figure 3A)。全生存期間中央値 (mOS) は8.2ヶ月 (95% CI 6.1-10.9) であり、1年OS率は40.8% (95% CI 31.6-49.7%) を示した (Figure 3B)。この1年OS率は、この高度に前治療を受けた難治性Sq-NSCLC患者集団における歴史的対照 (ドセタキセル2次治療後の1年OSは約25〜30%、mOSは通常4〜6.5ヶ月) を大きく上回るものであった。

PD-L1発現とORRの関連性: 前治療前の腫瘍検体86例 (74%) がPD-L1発現評価に供され、そのうち76例 (88%) で評価可能であった。PD-L1陽性 (腫瘍細胞の5%以上で発現) の患者は25例 (33%) であった。PD-L1陽性患者におけるORRは24% (6/25例) であり、PD-L1陰性 (<5%発現) 患者におけるORRは14% (7/51例) であった (Table 2)。PD-L1評価不能な患者でも3例 (30%) が奏効を示した。PD-L1陽性患者で数値的に高い奏効率が認められたものの、PD-L1陰性患者でも一定の抗腫瘍活性が確認された。標的病変の縮小は、PD-L1陽性患者 (13/25例、52%) でPD-L1陰性患者 (15/40例、38%) よりも多く認められた。

安全性プロファイル: 治療関連有害事象 (TRAE) は87例 (74%) の患者で任意のグレードで報告された。最も頻度の高かったTRAEは、倦怠感 (33%)、食欲減退 (19%)、悪心 (15%)、下痢 (10%) であった。グレード3-4のTRAEは20例 (17%) に発生し、主なものは倦怠感 (4%)、肺炎 (3%)、下痢 (3%) であった (Table 3)。肺炎は全グレードで6例 (5%) に発生し、最終投与後30〜100日以内に1例のグレード3肺炎が追加報告された。全ての肺炎患者はコルチコステロイドで管理され、解消までの中央値は3.4週 (範囲 1.6-13.4) であった。治療中止に至ったTRAEは14例 (12%) であり、肺炎が5例 (4%)、倦怠感が2例 (2%) であった。投与遅延は32例 (27%) に発生したが、そのうち21例 (66%) は1回のみの遅延であった。99例 (85%) の患者が計画用量の90%以上を完遂した。ニボルマブに起因すると判断された治療関連死は2例であった。1例は低酸素性肺炎 (最終投与後28日)、もう1例は虚血性脳卒中 (初回投与後41日) であった。両患者ともに複数の合併症と進行性疾患を有していた。免疫関連有害事象 (irAE) は全体的に低グレードであり、皮膚障害や消化器系イベントが最も多く、コルチコステロイドや免疫抑制剤で管理可能であった。irAEの発現中央値は投与開始後5.1週 (範囲 0.1-40.4週) であり、多くは2〜4週以内に解消した。

考察/結論

CheckMate 063試験は、進行・難治性扁平上皮非小細胞肺癌 (Sq-NSCLC) 患者に対するPD-1阻害薬ニボルマブ単剤療法の臨床的に意義のある抗腫瘍活性と管理可能な安全性プロファイルを確認した、初の第2相試験として画期的な意義を持つ。

先行研究との違い: 本研究で示されたORR 14.5% (95% CI 8.7-22.2%) は、この高度に前治療を受けた難治性患者集団における従来の化学療法の奏効率 (2〜8%程度) を大きく上回るものであった。さらに、奏効期間中央値が未到達であり、奏効患者の77%が解析時点で奏効を継続していたことは、従来のドセタキセルによる治療 (奏効期間中央値は通常3〜5ヶ月) とは対照的に、ニボルマブによる奏効が極めて持続的であることを示唆する。また、1年OS率40.8% (95% CI 31.6-49.7%) は、歴史的対照の約2倍近い値であり、免疫チェックポイント阻害薬に特有の生存曲線の「テール効果」、すなわち長期生存者の増加を明確に示している。これは、従来の治療法では見られなかった顕著な改善であり、この患者集団の予後を大きく変える可能性を示唆する。

新規性: 本研究は、難治性Sq-NSCLCという治療選択肢が極めて限られていた患者集団において、PD-1阻害薬が臨床的に意義のある有効性を示すことを初めて実証した。特に、登録患者の92%が喫煙歴を持ち、腫瘍変異量 (TMB) が高い可能性のある集団であったことが、PD-1阻害に対する応答性に寄与した可能性が考えられる。これは、ニボルマブがこの特定の患者群において新規の治療パラダイムを確立する可能性を示唆するものである。また、ベースラインでCNS転移を有する患者においてもCNS病変の縮小が確認されたことは、ニボルマブの全身的な抗腫瘍効果がCNSにも及ぶ可能性を示す新規の知見である。

臨床応用: 本試験の結果は、2015年3月の米国食品医薬品局 (FDA) による扁平上皮NSCLCの2次治療に対するニボルマブの加速承認に直接つながり、NSCLCに対する免疫チェックポイント阻害薬として初めての承認となった。これは、EGFR変異やALK転座といったドライバー変異を欠く患者群に対する有効な治療選択肢の確立という点で、肺癌治療の転換点となる臨床的意義を持つ。続く第3相CheckMate 017試験 (ニボルマブ vs ドセタキセル) の結果 (OSのハザード比 HR 0.59 (95% CI 0.44-0.79, p<0.001)) とも整合性が高く、CheckMate 063で得られたシグナルが先行指標として機能したことが確認された。これにより、難治性Sq-NSCLC患者に対する新たな標準治療の確立に大きく貢献した。

残された課題: PD-L1発現とORRの関連性については、PD-L1陽性患者で数値的に高い奏効率が認められたものの、PD-L1陰性患者でも一定の奏効が確認された。このことは、ニボルマブの適応においてPD-L1単独での患者選択の限界を示唆しており、今後の検討課題として、PD-L1以外のバイオマーカー (例: PD-L2、CD8陽性T細胞浸潤、腫瘍変異負荷など) の探索や、複合的なバイオマーカーパネルの開発が挙げられる。また、本試験は単アームの第2相試験であるため、無作為化比較試験によるさらなる検証が必要である。治療関連死が2例報告されたことや、免疫関連有害事象の長期的な管理戦略についても、今後の研究で詳細な検討が求められるlimitationである。特に、免疫関連有害事象の予測因子や、発現時の最適な管理プロトコルの確立が、安全な臨床応用を拡大するために重要となる。

方法

本研究は、国際多施設共同第2相単アーム試験 (ClinicalTrials.gov登録番号: NCT01721759) として実施された。フランス7施設、ドイツ3施設、イタリア3施設、米国14施設の計27施設が参加した。

患者選択: 対象患者は、組織学的または細胞学的にStage IIIBまたはIVの扁平上皮非小細胞肺癌と診断され、CTまたはMRIで測定可能な病変を有する18歳以上の患者であった。Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status (ECOG PS) は0または1であり、許容可能な血液学的、腎機能、肝機能を有することが条件とされた。主要な適格基準として、白金製剤ベースの化学療法レジメンに加え、少なくとも1種類以上の全身治療 (合計2ライン以上) の後に病勢進行または再発を経験していることが求められた。治療済みの安定した脳転移を有する患者は、登録前2週間以上神経学的にベースラインに戻っていれば適格とされた。自己免疫疾患、全身性免疫抑制剤を必要とする疾患、T細胞共刺激またはチェックポイント経路を特異的に標的とする抗体または薬剤による前治療歴、HIV、B型肝炎、C型肝炎の陽性、症候性間質性肺疾患の既往は除外基準とされた。

治療プロトコル: ニボルマブは3mg/kgを2週ごとに静脈内投与し、疾患進行または許容できない毒性が発現するまで継続された。臨床的有用性が認められる場合、画像上の進行後も治療継続が許可された。これは、免疫療法において一部の患者が初期の画像上の進行にもかかわらず臨床的利益を得る可能性が報告されていたためである (Wolchok et al. ClinCancerRes 2009)。ニボルマブの用量およびスケジュールは、第1相試験の安全性および有効性データに基づいて決定された。用量変更は許可されず、プロトコルで定義された理由 (グレード2以上の非皮膚治療関連有害事象、グレード3の皮膚治療関連有害事象、グレード3の治療関連臨床検査値異常など) に限り、投与遅延が許可された。

評価項目: 主要評価項目は、独立中央画像評価委員会 (IRC) がRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1基準 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) に基づいて評価した確認済みの客観的奏効率 (ORR) であった。副次評価項目には、治験責任医師評価によるORR、ニボルマブの薬物動態、免疫原性、安全性および忍容性、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、PD-L1発現とORRの関連性が含まれた。腫瘍評価は治療開始8週後、その後は6週ごとに疾患進行またはニボルマブ中止まで実施された。生存期間は治療完了後3ヶ月ごとに、死亡または同意撤回まで評価された。

PD-L1発現評価: 前治療前のホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍組織検体を用いて、検証済みの自動免疫組織化学 (IHC) アッセイ (Dako社製) によりPD-L1タンパク質発現が測定された。PD-L1陽性は、腫瘍細胞膜が1%以上、5%以上、10%以上のいずれかの強度で染色された場合に陽性と定義されたが、本研究では第1相試験の予備的知見に基づき、5%をカットオフ値としてPD-L1陽性を定義した。

統計解析: 安全性および有効性解析は、少なくとも1回ニボルマブを投与された全患者 (n=117) を対象に実施された。ORRは二項応答として、対応する両側95%信頼区間 (CI) はClopper-Pearson法を用いて要約された。奏効期間、PFS、OSはKaplan-Meier法により評価され、中央値および両側95% CIはBrookmeyer and Crowley法を用いて算出された。主要な安全性解析は、ニボルマブ最終投与後30日以内に報告された有害事象に基づき、SAS (version 9.02) を用いて実施された。有害事象の重症度は、National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.0に基づいて評価された。