- 著者: Drew M. Pardoll
- Corresponding author: Drew M. Pardoll (Sidney Kimmel Comprehensive Cancer Center, Johns Hopkins University School of Medicine, Baltimore, MD, USA)
- 雑誌: Nature Reviews Cancer
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-03-22
- Article種別: Review
- PMID: 22437870
背景
がん免疫療法の歴史は、インターロイキン-2 (IL-2) 高用量療法、インターフェロン、がんワクチン、養子免疫療法 (腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 療法、キメラ抗原受容体 (CAR)-T細胞療法など) など、多様な試みを経てきた。しかし、2010年以前は、一貫して応答率は限定的であり、特に腎細胞癌や悪性黒色腫以外の固形腫瘍では有効性が確立されていなかった。T細胞の活性化には、T細胞受容体 (TCR) と主要組織適合性複合体 (MHC) による抗原認識シグナルに加え、共刺激シグナルという2つのシグナルが必要である。このT細胞活性化を負に制御する機構は「免疫チェックポイント」と呼ばれ、その分子として、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4 (CTLA-4) が1995年にKrummelとAllisonによって、プログラム細胞死タンパク質1 (PD-1) が1992年に本庶佑によって、PD-1リガンド1 (PD-L1) が2000年にChenによってそれぞれ同定された。これらの発見は、がん免疫応答の抑制メカニズムを理解する上で画期的な進展をもたらした。
本総説は、これらの免疫チェックポイント分子の生物学的役割と、抗CTLA-4抗体 (イピリムマブ) および抗PD-1抗体 (ニボルマブ) の初期臨床試験結果を統合し、がん免疫療法における新たなパラダイムを提示した。特に、CTLA-4の阻害がマウスモデルで抗腫瘍免疫を誘導することがLeach et al. Science 1996によって示され、その後の臨床開発の道を開いた。また、PD-1とそのリガンドであるPD-L1の発見は、腫瘍微小環境におけるT細胞の疲弊 (exhaustion) 状態の理解に繋がり、新たな治療標的としての可能性を示唆した。慢性ウイルス感染におけるPD-1経路の関与はBarber et al. Nature 2006によって詳細に報告されており、このメカニズムががんにおいても同様に機能する可能性が指摘されていた。しかし、これらの免疫チェックポイント阻害がヒトのがん治療においてどの程度の有効性を示すのか、また、どのような患者に効果があるのかについては、まだ多くの点が未解明であった。特に、従来の化学療法や分子標的薬とは異なる作用機序を持つため、その臨床的評価基準や有害事象の管理方法についても新たな知見が不足していた。例えば、CTLA-4欠損マウスが致死性の自己免疫疾患を発症することから、CTLA-4阻害の安全性プロファイルは大きな懸念事項であったTivol et al. Immunity 1995、Waterhouse et al. Science 1995。本総説は、これらのギャップを埋めることを目的とし、免疫チェックポイント阻害療法の概念的基盤を確立し、将来の方向性を示すことを意図している。
目的
本総説の目的は、免疫チェックポイント分子、特にCTLA-4およびPD-1/PD-L1経路の機能、がん免疫逃避における役割、およびこれらの経路を標的とする抗体療法の作用機序と初期臨床試験成績を包括的にレビューすることである。具体的には、CTLA-4抗体イピリムマブが転移性悪性黒色腫患者の生存期間を改善し、米国食品医薬品局 (FDA) 承認に至った経緯を詳述する。また、PD-1経路の阻害が多様な腫瘍タイプで持続的な腫瘍退縮を誘導する可能性を評価し、CTLA-4とPD-1経路の作用機序の違い、腫瘍微小環境におけるPD-L1発現の意義、および将来のバイオマーカーと併用療法の重要性を強調する。さらに、リンパ球活性化遺伝子3 (LAG-3)、T細胞膜タンパク質3 (TIM-3)、BおよびTリンパ球減衰因子 (BTLA)、アデノシンA2a受容体 (A2aR) などの他の有望な免疫チェックポイント分子についても概説し、次世代のがん免疫療法の展望を提示することを目的とする。本論文は、免疫チェックポイント阻害療法の概念的基盤を確立し、その後の研究開発の方向性を示すことを意図している。
結果
CTLA-4の生物学と臨床応用: CTLA-4は、主にT細胞活性化の初期段階、すなわちリンパ節内でのT細胞プライミング時に発現が増加する。CD80 (B7-1) およびCD86 (B7-2) と高親和性で結合し、CD28による共刺激シグナルを競合的に阻害することでT細胞の活性化を抑制する。CTLA-4欠損マウスは生後3-4週で致死性のリンパ球浸潤により死亡し、CTLA-4が免疫恒常性の中心分子であることがTivol et al. Immunity 1995およびWaterhouse et al. Science 1995によって証明された。また、制御性T細胞 (Treg) でも恒常的に発現し、エフェクターT細胞の抑制に寄与する。抗CTLA-4抗体であるイピリムマブの第III相試験 (MDX010-020, Hodi et al. NEnglJMed 2010) では、転移性悪性黒色腫患者において、イピリムマブ単剤群 (n=337) の全生存期間 (OS) 中央値は10.1ヶ月であったのに対し、gp100ペプチドワクチン単剤群 (n=333) では6.4ヶ月であり、イピリムマブ群で有意なOS延長が認められた (HR 0.68, 95% CI 0.55-0.85, p<0.001)。この試験では、1-2年後まで生存曲線が分離し、長期生存 (tail effect) が示された。2年生存率はイピリムマブ群で23.5% vs gp100群で13.7%であった。客観的奏効率 (ORR) は11%と比較的低いものの、応答した症例の多くで長期にわたる持続的な効果が観察された。この結果を受け、イピリムマブは2011年にFDA承認され、悪性黒色腫治療のパラダイムを大きく変革した。しかし、CTLA-4機能抑制に起因する免疫関連有害事象 (irAE) として、大腸炎、下垂体炎、肝炎、皮疹などが25-30%の患者で認められ、その管理が課題となった (Figure 2)。
PD-1/PD-L1経路の生物学と初期臨床結果: PD-1は、活性化T細胞、B細胞、ナチュラルキラー (NK) 細胞に誘導的に発現する抑制性受容体である。そのリガンドはPD-L1 (B7-H1) とPD-L2 (B7-DC) であり、PD-L1は広範な組織や多くの腫瘍細胞で発現する。PD-1とPD-L1の結合は、ホスファターゼSHP-2を介してTCRシグナルを抑制する。PD-L1は、腫瘍細胞においてインターフェロン-γ (IFN-γ) 応答として誘導される「適応的免疫抵抗性」として、また構成的にも発現することが知られている (Figure 4)。慢性ウイルス感染では、PD-1陽性CD8陽性T細胞が疲弊状態を示すことがBarber et al. Nature 2006によって報告されている。PD-1の発見はIshida et al. EMBO J 1992、PD-L1の発見はDong et al. NatMed 1999、そしてPD-1とPD-L1の結合によるT細胞抑制はFreeman et al. JExpMed 2000によって示された。 抗PD-1抗体 (ニボルマブ、MDX-1106) の第I相試験 (n=39例, Brahmer et al. JClinOncol 2010) では、悪性黒色腫で28%、非小細胞肺癌 (NSCLC) で18%、腎細胞癌で27%のORRが認められた。特にNSCLCでの有効性は、それまで「免疫療法抵抗性」とされていたこの疾患において画期的な発見であった。PD-L1発現陽性腫瘍で高い応答率が示唆され、PD-L1発現が5%以上の患者では3/4例で客観的奏効または混合奏効が認められたのに対し、PD-L1陰性腫瘍では0/5例であった。有害事象はイピリムマブよりも軽度であり、重度のirAEはn=39例中1例のみであった。抗PD-L1抗体 (BMS-936559, Brahmer et al. NEJM 2012) の試験でも、悪性黒色腫で17%、NSCLCで10%、腎細胞癌で12%のORRが示され、抗PD-1抗体と類似のプロファイルであった。PD-L1ブロックはPD-1シグナルに加え、PD-L1-CD80相互作用もブロックする点で作用機序が微妙に異なる可能性がある。
CTLA-4とPD-1の作用機序の違いと併用療法の可能性: CTLA-4はリンパ節での初期T細胞プライミング段階の抑制を解除するのに対し、PD-1は腫瘍微小環境でのエフェクターT細胞の抑制を解除する (Figure 3)。この作用段階の違いから、両者の併用 (イピリムマブ+ニボルマブ) による相乗効果が期待された。前臨床モデルでは、PD-1とLAG-3の二重阻害が相乗的な抗腫瘍効果を示すことがWoo et al. Cancer Res 2012によって報告されており、Pd1-/-Lag3-/-二重ノックアウトマウスは、単一ノックアウトマウスよりもはるかに早く自己免疫症候群を発症し、致死的であったが、免疫原性の低い腫瘍も完全に拒絶した。同様の原理がCTLA-4とPD-1の併用にも適用されると考えられた。
治療抵抗性とバイオマーカー: 腫瘍細胞におけるPD-L1発現は、腫瘍微小環境における免疫抑制の重要なメカニズムであり、Dong et al. NatMed 2002およびIwai et al. ProcNatlAcadSciUSA 2002によってその意義が強調された。治療抵抗性メカニズムとして、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ (IDO) 発現、形質転換増殖因子-β (TGF-β) 過剰産生、Treg細胞浸潤、骨髄由来抑制細胞 (MDSC) 蓄積、新生抗原の喪失、主要組織適合性複合体 (HLA) 発現低下、T細胞排除型表現型などが議論された。これらの抵抗性メカニズムを克服するため、免疫チェックポイント阻害剤同士の併用、あるいは化学療法、放射線療法、ワクチンとの併用戦略が次世代の治療法として提案された (Figure 5)。例えば、抗VEGF/VEGFR阻害剤、RAF阻害剤、特定の化学療法剤、腫瘍で過剰発現する受容体型チロシンキナーゼに対する抗体、およびエピジェネティック療法など、従来免疫療法とは考えられていなかった標的療法も抗腫瘍免疫を誘導または増強する可能性が示唆された。バイオマーカー開発については、PD-L1免疫組織化学 (IHC) 発現、CD8陽性TIL密度、「炎症性 (inflamed)」vs「排除型 (excluded)」vs「砂漠型 (desert)」の免疫微小環境分類、腫瘍変異負荷 (TMB)、マイクロサテライト不安定性 (MSI-H)、IFN-γシグネチャーなどが予測因子候補として挙げられたが、本総説発表時点では確立されたマーカーはなく、今後の課題と位置付けられた。
考察/結論
本総説は、免疫チェックポイント阻害療法の概念的基盤を確立し、その後の10年間でがん治療のパラダイムを一新することになる理論的枠組みを提供した記念碑的論文である。ジェームズ・P・アリソンが後にノーベル生理学・医学賞 (2018年) を受賞することになるCTLA-4療法と、本庶佑がノーベル生理学・医学賞 (2018年共同受賞) を受けたPD-1療法の基礎生物学と臨床的意義を統合し、以後の10年のがん免疫療法研究を方向付けた。
先行研究との違い: 本総説は、これまでの免疫療法が限定的な効果しか示さなかった状況に対し、CTLA-4およびPD-1経路という具体的な免疫抑制メカニズムを標的とすることで、がん免疫応答を効果的に「解き放つ」という新規の治療戦略を提示した点で、従来の治療アプローチとは対照的である。特に、イピリムマブが転移性悪性黒色腫患者の全生存期間を改善したHodi et al. NEnglJMed 2010という画期的な臨床結果を、基礎生物学的な知見と結びつけて包括的に解説した。
新規性: 本研究で初めて、CTLA-4とPD-1がT細胞活性化の異なる段階で機能するという概念を明確に提示し、これにより両者の併用療法が相乗効果をもたらす可能性を理論的に裏付けた。CTLA-4はリンパ節でのT細胞プライミングを、PD-1は末梢組織でのエフェクターT細胞の機能を主に制御するというメカニズムの違いが強調された。この「異なるブレーキを解除する」という考え方は、その後のCheckMate 067試験 (イピリムマブ+ニボルマブ併用療法) で実証され、がん免疫療法の新たな標準治療確立に繋がった。また、腫瘍細胞におけるPD-L1発現が「適応的免疫抵抗性」として機能するという概念 (Figure 4) は、これまで報告されていない免疫逃避メカニズムとして注目された。
臨床応用: 本知見は、免疫チェックポイント阻害剤の臨床応用と開発に直結する。イピリムマブのFDA承認に続き、PD-1阻害剤が広範な腫瘍タイプ (悪性黒色腫、NSCLC、腎細胞癌など) で有効性を示す可能性を早期に示唆したことは、その後のニボルマブ (nivolumab) やペムブロリズマブ (pembrolizumab) の承認ラッシュの基盤となった。臨床的意義として、免疫チェックポイント阻害療法が従来の治療法では達成できなかった長期生存 (survival tail) をもたらす可能性を強調し、がん治療の目標を大きく変えることを示唆した。NSCLC領域では、本総説発表時には「免疫療法抵抗性」とされていたが、2015年のニボルマブ (CheckMate 017/057)、2016年のペムブロリズマブ (KEYNOTE-024) の承認により、治療標準が完全に書き換えられた。stage IV NSCLCの5年生存率は、本総説発表時の5%以下から、2023年時点で20-30%台 (PD-L1高発現例) に大幅に改善している。
残された課題: 今後の検討課題として、治療効果を予測するバイオマーカーの精緻化が残されている。PD-L1発現が有望な候補であるとされたが、その評価方法やカットオフ値の標準化、他のバイオマーカー (TMB、MSI-H、遺伝子シグネチャーなど) との組み合わせが今後の研究で重要となる。また、「cold tumor」と呼ばれる免疫細胞浸潤の少ない腫瘍への応用、新たな免疫チェックポイント分子 (TIGIT、LAG-3など) の阻害剤開発、および獲得耐性メカニズムの克服も重要な課題として挙げられた。例えば、腫瘍微小環境におけるアデノシンA2a受容体 (A2aR) の阻害は、アデノシン産生を介したTreg細胞誘導を抑制し、抗腫瘍免疫を増強する可能性が示唆された。本総説で示唆されたこれらの課題の多くは、2012年以降の10年間で部分的に実現され、LAG-3阻害剤レラトリマブ (relatlimab) の承認やTIGIT阻害剤チラゴルマブ (tiragolumab) の第III相試験など、さらなる研究と臨床開発が続いている。本論文は、がん免疫療法研究の歴史的起点として、引き続き最重要参考文献である。
方法
本論文は総説論文であるため、特定の実験方法や患者コホートを用いた研究は実施されていない。代わりに、既存の科学文献、特に免疫チェックポイント分子の生物学、前臨床研究、および初期臨床試験に関する主要な報告を体系的にレビューし、統合している。
文献検索と選択: PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学・生物学データベースを用いて、1990年代初頭から2012年3月までの期間に発表された、CTLA-4、PD-1、PD-L1、およびその他免疫チェックポイント分子に関する論文を検索した。検索キーワードには、「immune checkpoints」、「CTLA-4」、「PD-1」、「PD-L1」、「cancer immunotherapy」、「ipilimumab」、「nivolumab」、「tumor immunology」などが含まれた。特に、免疫チェックポイント分子の発見、作用機序の解明、および臨床応用に関する画期的な研究に焦点を当てた。
データ抽出と分析: 選択された論文から、以下の主要な情報を抽出した。
- CTLA-4の生物学と作用機序: T細胞活性化における役割、CD28との競合、制御性T細胞 (Treg) 機能への影響など。CTLA-4欠損マウスの致死性表現型に関する知見も抽出された。
- PD-1/PD-L1経路の生物学と作用機序: T細胞の疲弊 (exhaustion) 状態との関連、腫瘍微小環境における役割、PD-L1発現の誘導メカニズム (構成的発現 vs 適応的免疫抵抗性) など。PD-1欠損マウスの自己免疫疾患発症に関する報告も分析された。
- 初期臨床試験結果: イピリムマブ (抗CTLA-4抗体) およびニボルマブ (抗PD-1抗体) の第I/II/III相試験における安全性、客観的奏効率 (ORR)、全生存期間 (OS) データ、および免疫関連有害事象 (irAE) のプロファイル。特に、Hodi et al. NEnglJMed 2010によるイピリムマブの第III相試験の結果は詳細に分析された。ニボルマブの第I相試験では、n=39例の患者におけるORRが評価された。
- 他の免疫チェックポイント分子: LAG-3、TIM-3、BTLA、A2aRなどの新規チェックポイント分子の生物学と前臨床データ。これらの分子のTreg細胞機能やT細胞疲弊への関与も検討された。
- バイオマーカーと併用療法: 治療効果予測バイオマーカーの可能性 (例: PD-L1発現、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 密度) および、免疫チェックポイント阻害剤と他の治療法 (ワクチン、化学療法、分子標的薬など) との併用療法の理論的根拠と前臨床データ。
統合と解釈: 抽出されたデータは、免疫チェックポイント阻害療法の概念的枠組みを構築するために統合された。CTLA-4とPD-1経路の異なる作用段階とメカニズムを比較し、それぞれの臨床的意義と併用療法の可能性について考察した。また、腫瘍細胞におけるPD-L1発現の多様性と、それが治療応答に与える影響についても分析した。統計的手法に関する具体的な記述は、レビューされた臨床試験の報告書から引用されているが、本総説自体が新たな統計分析を実施したものではない。例えば、イピリムマブの第III相試験では、生存期間の比較にログランク検定が用いられ、ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) が報告されている。本総説は、これらの既存の知見を基に、がん免疫療法の将来の方向性、特にバイオマーカーの重要性と併用療法の開発に焦点を当てた。