- 著者: Scott Antonia, Sarah B Goldberg, Ani Balmanoukian, Jamie E Chaft, Rachel E Sanborn, Ashok Gupta, Rajesh Narwal, Keith Steele, Yu Gu, Joyson J Karakunnel, Naiyer A Rizvi
- Corresponding author: Naiyer A Rizvi (Columbia University Medical Center, Division of Hematology-Oncology, New York, NY, USA)
- 雑誌: The Lancet Oncology
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-02-05
- Article種別: Original Article
- PMID: 26858122
背景
進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対する免疫チェックポイント阻害薬の単剤療法、特に抗PD-1/PD-L1モノクローナル抗体は、PD-L1発現状況を問わない患者集団において10-30%の客観的奏効率(ORR)を示すことが報告されている。しかし、PD-L1陰性腫瘍における効果は限定的であり、多くの患者が単剤療法に奏効しないという課題が残されていた。このため、より効果的な治療戦略の開発が強く求められていた。特に、PD-L1陰性患者における奏効が不十分であるという知識ギャップが存在し、従来の治療では十分な恩恵を受けられなかった患者群に対する新たな治療選択肢が不足していた。
免疫チェックポイント阻害薬は、異なる作用機序を持つことが知られている。抗PD-L1抗体は主に腫瘍微小環境においてT細胞の抑制を解除し、抗CTLA-4抗体はリンパ組織においてT細胞の活性化を促進し、腫瘍反応性T細胞のレパートリーを拡大させる。これらの異なる経路を同時に阻害することで、相乗的または相加的な抗腫瘍効果が期待された。先行研究では、メラノーマ患者を対象としたニボルマブ(抗PD-1抗体)とイピリムマブ(抗CTLA-4抗体)の併用療法において、PD-L1陰性患者でも持続的な奏効が報告されており(Larkin et al. NEnglJMed 2015、Wolchok et al. NEnglJMed 2013)、NSCLCにおいても同様の併用療法の有効性が検証される必要があった。
本研究で用いられたデュルバルマブ(MEDI4736)は、PD-L1に選択的に結合するヒトIgG1モノクローナル抗体であり、PD-1およびCD80へのPD-L1結合を阻害するが、PD-L2には結合しない。これにより、PD-L2関連の潜在的な免疫関連毒性を回避できる可能性が示唆された。一方、トレメリムマブはCTLA-4を阻害するヒトIgG2モノクローナル抗体であり、T細胞の活性化を促進するが、制御性T細胞(Treg)を直接除去しない特徴を持つ(Kvistborg et al. SciTranslMed 2014)。これらの薬剤の併用は、非冗長な経路を標的とすることで、単剤療法を上回る効果をもたらす可能性が示唆されていた。
本研究の実施以前には、進行NSCLC患者において、一次治療後の治療選択肢が限られており、アンメットニーズが顕著であった。単一の免疫チェックポイント阻害薬による治療では、PD-L1陰性患者における奏効が不十分であるという知識ギャップが存在した。例えば、デュルバルマブ単剤療法では、PD-L1陰性腫瘍における奏効が限定的であることが報告されていた。したがって、PD-L1発現状況に関わらず、より広範な患者集団に有効性を示す併用療法の開発が喫緊の課題であった。本試験は、デュルバルマブとトレメリムマブの併用療法が、進行NSCLC患者において、PD-L1発現状況に関わらず安全性と抗腫瘍活性を示すか否かを評価することを目的として計画された。特に、PD-L1陰性腫瘍における有効性の検証は、従来の単剤療法では十分な恩恵を受けられなかった患者群に対する新たな治療選択肢を提供する上で重要であった。
目的
本第Ib相試験の目的は、進行NSCLC患者におけるデュルバルマブとトレメリムマブ併用療法の最大耐用量(MTD)および推奨用量を特定することであった。また、主要な副次目的として、この併用療法の安全性プロファイルと、PD-L1発現状況別の抗腫瘍活性(客観的奏効率を含む)を評価することであった。さらに、薬物動態(PK)および薬力学(PD)的特性、ならびに免疫原性も探索的に評価された。特に、PD-L1陰性腫瘍患者における抗腫瘍活性の有無を明らかにすることは、本研究の重要な目的の一つであった。本研究は、デュルバルマブ単剤療法では効果が限定的であったPD-L1陰性患者における治療選択肢を拡大する可能性を追求した。
結果
患者背景: 2013年10月28日から2015年4月1日までに、米国5施設から102名の患者が用量漸増相に登録され、治療を受けた。データカットオフ(2015年6月1日)時点での追跡期間中央値は18.8週(IQR 11-33)であった。患者のベースライン特性は、非扁平上皮NSCLCが主体であり、前治療ラインの中央値は2であった。PD-L1陽性腫瘍と陰性腫瘍の患者数はほぼ同等であり、EGFR変異やALK変異を有する患者も含まれていた(Table 1)。
MTDの決定と推奨用量: デュルバルマブ20 mg/kg 4週ごと + トレメリムマブ3 mg/kgのコホートにおいて、6例中2例(30%)が用量制限毒性(DLT)を発現した。具体的には、1例でグレード3のAST/ALT上昇、もう1例でグレード4のリパーゼ上昇が認められ、このコホートはMTDを超過したと判断された。安全性、薬物動態、薬力学、および臨床活性のデータに基づき、デュルバルマブ20 mg/kg 4週ごと + トレメリムマブ1 mg/kgのレジメンが、その後の第III相試験の推奨用量として選択された。この推奨用量コホート(n=18)では、11例(61%)が治療関連有害事象を経験し、3例(17%)がグレード3または4の治療関連有害事象を経験した。
安全性プロファイル: 全患者102例中82例(80%)が治療関連有害事象を経験した。最も一般的な治療関連有害事象(全グレード)は下痢(33例、32%)、疲労(24例、24%)、そう痒症(21例、21%)であった。グレード3または4の治療関連有害事象で最も頻度が高かったのは、下痢(11例、11%)、大腸炎(9例、9%)、リパーゼ上昇(8例、8%)であった(Table 2)。治療関連有害事象による治療中止は29例(28%)に認められ、治療関連重篤有害事象は37例(36%)に発生した。試験期間中に22例が死亡し、そのうち3例の死亡が治療関連と判断された。治療関連死の原因は、重症筋無力症の合併症(デュルバルマブ10 mg/kg 4週ごと + トレメリムママブ1 mg/kgコホート)、心嚢液貯留(デュルバルマブ20 mg/kg 4週ごと + トレメリムマブ1 mg/kgコホート)、および神経筋障害(デュルバルマブ20 mg/kg 4週ごと + トレメリムマブ3 mg/kgコホート)であった。これらの重篤な免疫関連有害事象のリスクは、ニボルマブとイピリムマブの併用療法で報告されたものと同様であった。
抗腫瘍活性(ORRおよびDCR): 腫瘍奏効が評価可能であった63例において、11例(17% [95% CI 9-29])が客観的奏効を達成し、18例(29% [95% CI 18-41])が24週時点での病勢コントロールを達成した(Table 3)。奏効を達成した11例の患者における奏効までの期間中央値は7.1週(IQR 7.1-15.0)であり、奏効期間の中央値はデータカットオフ時点で未到達であった(IQR 16.7-未到達)。奏効例の多くは持続的な奏効を示し、9例で奏効が継続中であった(Figure 2)。EGFR/ALK野生型患者58例中11例(19% [95% CI 10-31])が客観的奏効を達成した。
PD-L1発現状態別の抗腫瘍活性: 最も重要な所見として、PD-L1発現状況に関わらず臨床活性が認められた。トレメリムマブ1 mg/kgを含む用量コホート(n=26)における客観的奏効率は23%(95% CI 9-44)であった。このコホートにおけるPD-L1発現状況別の奏効率は以下の通りであった(Table 3):PD-L1陽性腫瘍(≥25%発現、n=9)ではORR 22%(2/9例、95% CI 3-60)、PD-L1陰性腫瘍(<25%発現、n=14)ではORR 29%(4/14例、95% CI 8-58)、PD-L1完全陰性腫瘍(0%発現、n=10)ではORR 40%(4/10例、95% CI 12-74)が示された。この結果は、デュルバルマブ単剤療法がPD-L1陰性腫瘍に対して限定的な効果しか示さないのに対し、デュルバルマブとトレメリムマブの併用療法がPD-L1発現に非依存的な有効性、特にPD-L1完全陰性腫瘍においてより高い奏効率を示した点で画期的であった。
薬物動態(PK)および免疫学的相関: デュルバルマブのPKプロファイルは用量依存的なクリアランスと半減期を示し、3 mg/kg以上の用量で非線形排除の飽和が認められた。トレメリムマブのPKは線形であり、半減期は約3週であった。両薬剤の併用による薬物動態学的相互作用は限定的であった。デュルバルマブによる遊離可溶性PD-L1の完全な抑制は、ほぼ全ての患者で達成され、効果的な標的結合が示唆された。末梢血CD4/CD8 T細胞におけるHLA-DRおよびKi67発現の増加が観察され、CTLA-4阻害によるT細胞活性化が示唆された。抗薬物抗体はデュルバルマブに対して4例(7%)、トレメリムマブに対して1例(2%)で検出されたが、忍容性や抗腫瘍活性との関連は認められなかった。
考察/結論
本第Ib相試験は、進行NSCLC患者に対するデュルバルマブ(抗PD-L1抗体)とトレメリムマブ(抗CTLA-4抗体)併用療法の推奨用量として、デュルバルマブ20 mg/kg 4週ごと + トレメリムマブ1 mg/kgを決定した。この用量レジメンは管理可能な忍容性プロファイルを示し、特にPD-L1陰性NSCLC患者(ORR 29%、PD-L1完全陰性群では40%)において抗腫瘍活性が認められた点で極めて重要である。この結果は、抗PD-1/PD-L1単剤療法では十分な効果が得られにくい患者集団に対する新たな治療戦略を提示するものである。
先行研究との違い: 本研究の結果は、メラノーマおよびNSCLCにおけるニボルマブとイピリムマブの併用療法に関する先行研究、例えばLarkin et al. NEnglJMed 2015やWolchok et al. NEnglJMed 2013で示された知見と概ね一致しており、抗PD-L1/PD-1抗体と抗CTLA-4抗体の併用療法が、単剤療法と比較して高い臨床活性を示すという概念を補強するものである。しかし、本試験の独自性は、PD-L1発現状況別の詳細な解析により、PD-L1陰性腫瘍、特に完全陰性腫瘍における明確な有効性を示した点にある。これは、デュルバルマブがPD-L2に結合しないIgG1プラットフォームであること、およびトレメリムマブがTregを直接除去しないIgG2プラットフォームであることと関連している可能性があり、従来の抗体とは異なる毒性プロファイルや有効性パターンを示す可能性がある点で、これまでの報告とは異なる。
新規性: 本研究で初めて、デュルバルマブとトレメリムマブの併用療法が、PD-L1発現状況に関わらず進行NSCLC患者に抗腫瘍活性を示すことを実証した。特に、デュルバルマブ単剤では奏効が限定的であったPD-L1陰性腫瘍において、トレメリムマブの併用が免疫抑制を解除し、抗腫瘍応答を誘導する可能性を新規に示したことは重要な知見である。薬力学的解析においても、併用療法が末梢血T細胞の活性化と増殖をデュルバルマブ単剤よりも促進することが示唆され、両経路の同時阻害が単剤療法よりも高い生物学的活性をもたらすことを初めて実証した。
臨床応用: 本研究の結果は、進行NSCLCの治療戦略に大きな臨床的意義を持つ。第一に、本試験で決定された推奨用量(デュルバルマブ20 mg/kg 4週ごと + トレメリムマブ1 mg/kg)は、現在進行中のMYSTIC(デュルバルマブ±トレメリムマブ vs 標準化学療法)第III相試験の用量選択の基盤となった。第二に、非切除性III期NSCLCに対するデュルバルマブ地固め療法のPACIFIC試験の成功に続く、免疫療法併用戦略の可能性を示唆する。第三に、POSEIDON試験(デュルバルマブ+トレメリムマブ+化学療法 vs 化学療法)の基礎データを提供し、化学療法との併用によるさらなる治療効果の向上に繋がる可能性を示唆している。特に、PD-L1陰性腫瘍患者に対する有効性は、現在の抗PD-1/PD-L1単剤療法では十分な恩恵を受けられない患者群にとって、新たな治療選択肢となる可能性を秘めている。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。まず、用量漸増試験であるため、各コホートの患者数が少なく、全体として患者集団が不均一であった(前治療ライン数、腫瘍変異状態、喫煙歴など)。また、抗腫瘍活性の評価はデータカットオフ時点で治療開始から24週間以上経過した患者に限定されており、追跡期間が短いため、生存期間への影響は評価できていない。治療関連死亡が3例報告され、グレード3または4の有害事象の頻度も比較的高かったことから、併用療法の毒性管理は今後の検討課題である。さらに、PD-L1に代わる予測バイオマーカー(例えば、腫瘍変異負荷(TMB)、STK11やKEAP1変異など)の特定、併用療法の最適持続期間、および他の抗PD-1+抗CTLA-4併用療法(例: ニボルマブ+イピリムマブ)との直接比較も今後の研究で明らかにされるべき課題である。本試験は、NSCLCにおける併用免疫療法の基礎的な位置付けを確立した重要な第Ib相試験であり、これらの課題を克服することで、より多くの患者に恩恵をもたらすことが期待される。
方法
試験デザイン: 本研究は、米国5施設で実施された非無作為化、オープンラベル、多施設共同第Ib相用量漸増試験(NCT02000947)である。試験デザインは、標準的な3+3デザインを修正したゾーンベースデザインを採用し、安全性を評価するためのコホート拡張も行われた。このデザインにより、複数の用量コホートを並行して評価し、許容可能な毒性プロファイルを持つ組み合わせに多くの患者を割り当てることが可能であった。
対象患者: 18歳以上の免疫療法未治療の局所進行または転移性NSCLC患者(扁平上皮癌および非扁平上皮癌の両組織型を含む)が組み入れられた。患者はRECIST version 1.1に基づき測定可能な病変を1つ以上有し、ECOGパフォーマンスステータスが0または1であった。過去の全身治療ライン数に制限はなかった。詳細な組み入れ・除外基準は付録に記載されている。
治療レジメンと用量漸増: 患者はデュルバルマブとトレメリムマブの併用療法を受けた。デュルバルマブは3 mg/kg、10 mg/kg、15 mg/kg、または20 mg/kgを4週間ごとに投与、または10 mg/kgを2週間ごとに投与された。トレメリムマブは1 mg/kg、3 mg/kg、または10 mg/kgを4週間ごとに6回投与後、12週間ごとに3回投与された。合計10種類の用量コホートが設定された。治療は最長12ヶ月間、または病勢進行、許容できない毒性、その他の中止基準を満たすまで継続された。用量漸減は許可されず、治療中断のみが許容された。
エンドポイント: 主要エンドポイントは、用量漸増相における安全性(MTDおよび忍容性の決定)であった。副次エンドポイントには、客観的奏効率(ORR、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009に基づく確定完全奏効または部分奏効)、24週時点での病勢コントロール率(DCR)、薬物動態学的変数(デュルバルマブおよびトレメリムマブの血中濃度、AUC、クリアランス、半減期)、および免疫原性(抗薬物抗体の有無)が含まれた。探索的エンドポイントとして、薬力学的変数(遊離可溶性PD-L1の抑制)およびT細胞活性化マーカー(CD4/CD8 T細胞におけるHLA-DRおよびKi67発現)が評価された。
PD-L1発現評価: PD-L1発現は、Ventana SP263免疫組織化学(IHC)アッセイを用いて、ベースライン時のアーカイブ腫瘍組織または新鮮生検サンプルで評価された。腫瘍細胞膜のPD-L1染色が25%以上の場合をPD-L1陽性と定義した。PD-L1染色が0%の患者は、PD-L1陰性患者とは別のカテゴリーとして解析された。EGFR、ALK、KRASなどの遺伝子変異状態も各施設で評価された。
統計解析: 安全性解析は、少なくとも1回いずれかの治験薬を投与された全治療集団(as-treated population)に基づいて行われた。MTDの評価は、用量制限毒性(DLT)が評価可能な患者集団に基づいて行われた。抗腫瘍活性の評価は、データカットオフ時点で治療開始から24週間以上経過した奏効評価可能集団(response-evaluable population)に基づいて行われた。客観的奏効率および95%信頼区間(CI)は、正確二項分布法を用いてPD-L1発現状況別に推定された。奏効期間の中央値はカプラン・マイヤー法で算出された。薬物動態パラメータは、Phoenix WinNonlinを用いた非コンパートメント解析アプローチにより推定された。免疫学的相関は、フローサイトメトリーベースのアッセイを用いて評価された。すべての統計解析はSAS version 9.3を用いて行われた。