• 著者: Pia Kvistborg, Daisy Philips, Sander Kelderman, Lois Hageman, Christian Ottensmeier, Deborah Joseph-Pietras, Marij J. P. Welters, Sjoerd van der Burg, Ellen Kapiteijn, Olivier Michielin, Emanuela Romano, Carsten Linnemann, Daniel Speiser, Christian Blank, John B. Haanen, Ton N. Schumacher
  • Corresponding author: Pia Kvistborg (p.kvistborg@nki.nl); Ton N. Schumacher (t.schumacher@nki.nl) (The Netherlands Cancer Institute, Amsterdam, Netherlands)
  • 雑誌: Science Translational Medicine
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-09-17
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25232180

背景

イピリムマブ (抗CTLA-4モノクローナル抗体) は、転移性メラノーマ患者の全生存期間 (OS) を有意に改善する初の免疫チェックポイント阻害薬として、FDAおよびEMAに承認された Hodi et al. NEnglJMed 2010Robert et al. NEnglJMed 2011。しかし、その抗腫瘍効果の正確なメカニズムについては、依然として活発な議論が続いており、複数の仮説が提唱されてきた。主要な仮説として、(1) 既存の腫瘍反応性T細胞クローンの増幅・活性化促進、(2) 新規腫瘍特異的T細胞応答の誘導 (T細胞プライミング促進)、(3) 制御性T細胞 (Treg) のFc依存的な除去を介したT細胞応答の脱抑制、の3つが挙げられる。これらのメカニズムは互いに排他的ではなく、複合的に作用する可能性も指摘されている。

前臨床試験では、抗CTLA-4がCD8+ T細胞依存的に抗腫瘍効果を発揮することが示されており Leach et al. Science 1996、一部のマウスモデルではTreg除去も寄与することが示唆されていた。しかし、ヒトにおいて治療前後のメラノーマ特異的T細胞応答を包括的に追跡した大規模研究は当時存在せず、抗CTLA-4治療が既存のT細胞応答を増幅するのか、あるいは新規のT細胞応答を誘導するのかという根本的な問いは未解明であった。従来のMHCテトラマー法では、同時に追跡できる腫瘍抗原エピトープ数が数種類に限定されており、複数の候補エピトープをカバーする包括的モニタリングが技術的に困難であったことが、この知識ギャップの主な原因であった。特に、低頻度の腫瘍特異的T細胞応答を検出する感度が不足しており、治療による微細な変化を捉えることが困難であった。

近年開発されたUV誘導ペプチド交換法とpMHCコンビナトリアルコーディング技術は、単一の実験で数百規模のエピトープに対するT細胞応答を網羅的にスクリーニングすることを可能にした。この技術革新により、これまで不足していたヒトにおける抗CTLA-4治療の免疫学的メカニズムに関する詳細な解析が可能となった。例えば、vanRooij et al. JClinOncol 2013 はイピリムマブ応答患者におけるネオアンチゲン特異的T細胞反応性を報告しているが、広範な共有抗原に対する網羅的な解析は行われていなかった。本研究は、この先進的な技術を用いて、イピリムマブ治療がメラノーマ特異的CD8+ T細胞レパートリーに与える影響を体系的に解析し、その作用機序を解明することを目的とした。これにより、抗CTLA-4療法がT細胞プライミングを促進するのか、既存の応答を増強するのかという長年の論争に終止符を打つことを目指した。

目的

本研究の目的は、UV誘導ペプチド交換法とpMHCコンビナトリアルコーディングを組み合わせた高感度・多重T細胞モニタリング技術を適用し、イピリムマブ治療前後の転移性メラノーマ患者 (n=40 patients) におけるメラノーマ特異的CD8+ T細胞応答を145エピトープ規模で追跡することである。これにより、抗CTLA-4治療が「既存応答の増幅」と「新規応答の誘導」のどちらに主として作用するかを決定する。具体的には、治療前から存在するメラノーマ特異的T細胞応答の頻度変化、および治療後に新規に出現するT細胞応答の数を定量的に評価する。さらに、治療後に新規に検出されたT細胞クローンの腫瘍認識能をin vitroアッセイで検証し、in vivoでの抗腫瘍効果との関連性を明らかにすることも目的とした。最終的には、抗CTLA-4治療の作用機序に関するヒトでの直接的なエビデンスを提供し、今後の免疫療法戦略の最適化に貢献することを目指す。本研究は、特にHLA-A*0201陽性患者に焦点を当てることで、多くの既知のメラノーマ関連エピトープに対するT細胞応答を網羅的に評価することを可能にした。

結果

既存の腫瘍特異的T細胞応答は増幅されない: イピリムマブ投与後、治療前から検出されていたメラノーマ特異的T細胞応答の大きさは有意な変化を示さなかった。40名の患者において、既存のメラノーマ特異的T細胞応答の大きさは中央値fold change 1.04 (p=0.69, 対応のある両側Student’s t検定; n=40 patients) であり、これはほぼ正確に1倍、すなわち応答サイズが変化しなかったことを意味する (Figure 4A)。同様に、コントロールとして解析したEBV、CMV、インフルエンザAウイルス特異的T細胞応答も、イピリムマブ投与による有意な変化は認められなかった (中央値fold change 1.1、p=0.74, 対応のある両側Student’s t検定; n=96 virus-specific responses) (Figure 4B)。これらの結果は、イピリムマブが既存の免疫記憶クローンを単純に増幅するという仮説を明確に否定するものである。

新規メラノーマ特異的T細胞応答が40名中19名で出現: 治療前に検出されなかった新規のメラノーマ特異的CD8+ T細胞応答が、40名中19名 (48%) の患者において治療後に出現した (p=0.0009, 対応のある両側Student’s t検定; n=40 patients) (Figure 3)。これらの新規応答は複数の異なるエピトープにわたっており、T細胞応答の幅の拡大 (broadening) が生じていることが示された。一部の患者では、単一の新規応答だけでなく、最大6種類の新規HLA-A*0201拘束性T細胞応答が短期間に出現するケースも観察された。これらの新規応答は、治療開始後数週間以内に顕在化する傾向があり (中央値13.5日、範囲3〜54日)、イピリムマブの作用が迅速であることを示唆した。ウイルス特異的応答における新規出現は対照的に有意でなく、この非対称性はイピリムマブの作用が腫瘍特異的なT細胞プライミング促進に特化していることを示唆する。

応答の幅の拡大速度が治療後に約11倍に増加: 治療前後の一致サンプルを有する20名の患者での解析では、メラノーマ特異的T細胞応答の出現速度 (broadening rate) が、治療前 (診断から治療開始まで) の0.029応答/月から、治療後 (治療開始後12週間以内) の0.321応答/月へと約11倍に有意に増加した (p=0.015, 対応のある両側Student’s t検定; n=20 patients) (Figure 4C)。この増加はイピリムマブ投与と時間的に密接に一致しており、治療がT細胞レパートリーの拡大を直接的に促進することを示唆する。臨床奏効 (部分奏効PR 17.5% + 完全奏効CR 5% = 22.5%) と新規応答誘導の直接的な対応関係は本研究では詳細に解析されなかったが、broadening rateの増加は奏効患者と非奏効患者の両方で観察される傾向にあった。

新規T細胞クローンの機能的腫瘍認識: 治療後に新規検出されたT細胞クローンから4例のTCRをクローニングし、その特異性を確認した。同定されたT細胞クローンはそれぞれNY-ESO-1 (SLL9エピトープ)、SSX-2 (KAS9エピトープ)、MAGE-C2 (ALK9エピトープ) に特異的であった。これら4例中3例のTCRは、in vitroでHLA-A*0201陽性メラノーマ細胞株 (n=6 cell lines) を認識し、IFN-γ産生などの機能的な腫瘍反応性を示した (Figure 5)。1例はエピトープ特異的pMHCには結合するものの腫瘍細胞株の認識は陰性であり、内因性抗原提示の効率の問題が示唆された。機能的腫瘍認識が確認されたTCRは3種の異なる腫瘍抗原 (cancer-testis antigen) に由来しており、イピリムマブによって誘導された新規T細胞クローンが実際に腫瘍細胞を認識しうる機能的な抗腫瘍T細胞であることを実証した。

アッセイ技術の精度と規模: 本研究で用いられたpMHCコンビナトリアルコーディング技術は、繰り返し測定間再現性がR²=0.9626と高く、検出感度はCD8+ T細胞20,000個中1個と算出された。同時検出可能なエピトープ数145種は当時の他のどの研究をも上回り、MAGE、NY-ESO-1、SSX、MART-1、gp100、tyrosinaseなどのメラノーマ関連腫瘍抗原を包括的にカバーした。UV誘導ペプチド交換法によりpMHC多量体の作製効率が飛躍的に向上し、エピトープごとの応答検出は独立してバックグラウンド補正で偽陽性が制御されていた。このアッセイ基盤が145エピトープ規模の包括的追跡を単一実験で可能にした技術的骨格である。

考察/結論

本研究は、抗CTLA-4治療 (イピリムマブ) の主要な作用様式が「既存の腫瘍反応性T細胞クローンの増幅」ではなく、「新規腫瘍特異的T細胞応答の誘導 (T細胞プライミングの増強)」であることをヒトで初めて直接的かつ145エピトープという大規模スクリーニングで実証した。この知見は、抗CTLA-4がリンパ節における抗原提示細胞によるT細胞プライミングを増強するというメカニズム仮説と合致し、同時にTreg除去による間接的なプライミング促進の可能性も残している。

先行研究との違い: これまでの研究では、抗CTLA-4治療が既存のT細胞応答を増幅する可能性が示唆されてきたが、本研究の結果はそれらと異なり、既存のT細胞応答の大きさは治療によってほとんど変化しないことを明確に示した。代わりに、新規のT細胞応答が多数誘導されるという、これまで報告されていない主要な作用機序を明らかにした。この結果は、抗CTLA-4の作用が腫瘍部位でのT細胞機能回復に限定されるという一部の仮説とも対照的である。

新規性: 本研究で初めて、pMHCコンビナトリアルコーディング技術を用いて145種類のメラノーマ関連エピトープに対するCD8+ T細胞応答を網羅的に解析し、イピリムマブ治療が新規腫瘍特異的T細胞応答の出現を顕著に増加させ、T細胞応答の幅を拡大することを示した。さらに、これらの新規に誘導されたT細胞クローンが実際に腫瘍細胞を認識する機能を持つことをin vitroで実証した点も新規性が高い。特に、NY-ESO-1 (SLL9エピトープ)、SSX-2 (KAS9エピトープ)、MAGE-C2 (ALK9エピトープ) など、複数の異なる腫瘍抗原に対する新規応答が確認されたことは、イピリムマブが広範な抗原に対するプライミングを促進することを示唆する。

臨床応用: 本知見は、イピリムマブの臨床効果が、既存の免疫応答の増強ではなく、新たな抗腫瘍T細胞レパートリーの創出に起因するという重要な臨床的意義を持つ。これにより、イピリムマブ奏効者の免疫学的選択に向けた重要な洞察が提供される。新規応答誘導が非奏効患者でも観察されたことは、応答の「幅」だけでなく、誘導された腫瘍特異的T細胞の「質 (腫瘍認識能)」や腫瘍側の免疫逃避機構との兼ね合いが臨床応答を規定することを示唆する。また、抗PD-1/PD-L1抗体が既存の疲弊T細胞を再活性化する一方、抗CTLA-4が新規プライミングを担うという「役割分担モデル」の分子基盤を提供した点でも重要である。この多重pMHCモニタリング技術は、免疫療法の免疫学的評価において強力なプラットフォームであることを確立し、その後の大規模ネオアンチゲン研究や腫瘍特異的T細胞追跡研究への道を開いた基盤技術論文として位置付けられている。

残された課題: 今後の検討課題として、新規に誘導されたT細胞応答のクローン多様性や、腫瘍微小環境におけるこれらのT細胞の動態を詳細に解析する必要がある。また、新規応答誘導と臨床奏効の直接的な相関関係をより大規模なコホートで検証することも重要である。本研究はHLA-A*0201陽性患者に焦点を当てたため、他のHLAアレルを持つ患者における抗CTLA-4の作用機序についても検討が求められる。さらに、変異抗原 (ネオアンチゲン) に対するT細胞応答へのイピリムマブの影響を評価することも、今後の研究方向性として挙げられる。本研究では、末梢血中のT細胞応答を解析したが、腫瘍浸潤T細胞 (TIL) の変化を直接評価することも重要である。

方法

患者とサンプル採取: HLA-A*0201陽性の転移性メラノーマ患者40名を対象とした。イピリムマブ治療前後の末梢血単核細胞 (PBMC) を経時的に採取した。各患者から治療前および治療後1〜4時点のサンプルを収集し、最長3年間液体窒素中で凍結保存した。PBMCは標準的なFicoll密度勾配遠心分離法により分離され、DNAse処理後に解析に供された。

pMHC多量体パネルの作製: 145種類のメラノーマ関連エピトープ (MAGE-A、NY-ESO-1、SSX、MART-1、gp100、tyrosinaseなどの腫瘍関連抗原由来) を、UV誘導ペプチド交換法によりHLA-A*0201 pMHC多量体化した。このパネルには、EBV、CMV、インフルエンザAウイルス由来の3種類のウイルスエピトープも含まれ、コントロールとして使用した。UV誘導ペプチド交換法は、UV感受性ペプチドをロードしたpMHC複合体をUV照射下でレスキューペプチドと交換することで、効率的に目的のpMHC複合体を生成する。

T細胞応答のモニタリング: pMHC多量体は、8種類の異なる蛍光ストレプトアビジンコンジュゲートを用いてコンビナトリアル蛍光コーディングされた。これにより、複数の蛍光色素ラベルの組み合わせによって、理論上数十から数百のエピトープを同時に識別することが可能となった。フローサイトメトリーを用いて、CD8+ T細胞応答を個別エピトープ別に定量した。抗原特異的T細胞集団は、二重蛍光陽性細胞集団として検出され、単一マーカーに基づく解析と比較して感度が大幅に向上した。検出感度はCD8+ T細胞20,000個中1個と算出された。各サンプルにつき最低50,000個のCD8+ T細胞が取得された。

データ解析: 治療前から検出されていたメラノーマ特異的T細胞応答の治療後fold changeを解析した (前後一致サンプルを有するn=20 patientsで主解析)。治療後に新規に出現した応答をエピトープ別に記録し、出現速度 (broadening rate: 単位時間あたりの新規応答数) を算出した。ウイルス特異的T細胞応答も同様に解析し、比較対象とした。統計解析には、対応のある両側Student’s t検定を用いた。陽性応答の定義には、総CD8+細胞の0.005%以上かつ10イベント以上という標準化されたカットオフ値を用いた。

新規T細胞クローンの機能検証: 治療後に新規検出されたT細胞クローン4例からTCRをサンガーシーケンシングでクローニングした。これらのTCRを健常ドナーPBMC (n=4 donors) にレトロウイルスベクターを用いて導入し、HLA-A*0201陽性メラノーマ細胞株 (Tumor 1-6) に対するin vitro認識アッセイ (CD107a発現を指標としたIFN-γ産生) で機能的腫瘍反応性を検証した。使用した腫瘍細胞株は、患者由来の確立されたメラノーマ細胞株 (Tumor 1-6) であった。TCR導入効率はpMHC多量体染色で確認された。

アッセイの再現性と感度: pMHCコンビナトリアルコーディング技術の繰り返し測定間再現性はR²=0.9626 (Spearman R検定; n=179 measurements) と高く、検出感度はCD8+ T細胞20,000個中1個と算出された。陽性応答の定義には、総CD8+細胞の0.005%以上かつ10イベント以上という標準化されたカットオフ値を用いた。