- 著者: Gomez DR, Blumenschein GR Jr, Lee JJ, Hernandez M, Ye R, Camidge DR, Doebele RC, Skoulidis F, Gaspar LE, Gibbons DL, Karam JA, Kavanagh BD, Tang C, Komaki R, Heymach JV, Vaporciyan AA, Welsh JW
- Corresponding author: Daniel R. Gomez, MD (Department of Radiation Oncology, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-10-17
- Article種別: Original Article
- PMID: 27789196
背景
「オリゴ転移 (oligometastatic)」状態は、全身転移と局所進行の生物学的・臨床的中間状態として1990年代に提唱された概念であり、限られた数の転移巣 (一般的に3-5個以下) を持つ患者では積極的局所療法が疾患制御・生存延長に寄与しうると考えられてきた。NSCLC (非小細胞肺癌) の転移後の再発パターンに関する後方視的解析では、1次化学療法後の増悪イベントの大部分はベースライン時に既知であった部位から発生することが示されており、その既知病変の局所的根絶が後続の新規転移出現を抑制しうるという仮説が形成されてきた。
1次治療後のオリゴ転移NSCLCに対する局所統合療法 (LCT: Local Consolidative Therapy) の有効性は、複数の後方視的研究や単群前向き試験で示唆されてきた。しかし、選択バイアスや不死時間バイアス等の方法論的限界により、確立された治療戦略とはなっていなかった。特に、プロペンシティスコア解析では積極的局所療法群での生存改善が示されたものの、ランダム化比較試験 (RCT) による確認が不可欠であった。これまでの研究では、オリゴ転移NSCLC患者に対する最適な治療戦略は未解明であり、特に全身療法後の局所統合療法の役割については、その有効性と安全性を評価するための質の高いエビデンスが不足していた。
先行研究である Billing et al. (2001) や Bonnette et al. (2001)、さらに Iwasaki et al. (2004) においては、脳転移などの単一臓器転移に対する局所切除の役割が検討されてきたが、全身の複数転移巣を対象とした包括的局所療法の意義は十分に検証されていなかった。複数の前向きランダム化試験が計画されたものの、患者登録の困難さから早期に中止されるケースも報告されており、この領域におけるエビデンスの不足、すなわち重大な知識ギャップ (knowledge gap) が残されていた。オリゴ転移NSCLCに対する局所統合療法の真のベネフィットを検証するためのランダム化比較試験が決定的に不足しているという課題が残されており、本試験はその初のRCTとして設計され、このエビデンス不足を解消することを目指した。
目的
プラチナを含む1次化学療法または分子標的治療後に病勢進行のないオリゴ転移NSCLC (転移巣3個以下) 患者において、全転移巣および原発巣への積極的な局所統合療法、すなわち LCT (Local Consolidative Therapy) が、標準治療である維持療法または観察に対抗して無増悪生存期間 (PFS) を改善するかを初のRCTとして検証すること (NCT01725165)。本研究は、LCTが疾患の自然経過を変化させ、新規病変の出現を遅らせる可能性についても探索的に評価することを目的とした。また、LCTの安全性プロファイルや、患者の生活の質 (QOL) に与える影響についても副次評価項目として評価された。
結果
主要評価項目:PFSの著明な改善と早期中止: データ安全性モニタリング委員会による年次レビューにおいて、LCT群がベネフィットを示す確率が99.46%と計算されたため、計画された94名に対し49名が登録された時点で試験は早期中止となった (Figure 1)。中止時点での全ランダム化患者の追跡期間中央値は12.39ヶ月 (IQR 5.52-20.30) であった。主要評価項目の解析 (PFS評価可能48名、各群24名) では、PFS中央値は 11.9 vs 3.9 months であり、LCT群で維持療法/観察群と比較して有意な改善が示された (HR 0.35, 95% CI 0.18-0.66, p=0.0054) (Figure 2A)。1年PFS率は 48% vs 20% であった。この観察されたPFS改善は、研究仮説の7ヶ月を大きく上回るものであった。
新規病変出現までの期間の延長: LCT群での新規病変出現までの期間中央値は 11.9 vs 5.7 months であり、維持療法群と比較して有意な延長が認められた (HR 0.43, 95% CI 0.22-0.86, p=0.0497) (Figure 2B)。LCT群での進行13例中11例 (85%) が新規病変の出現を来していたのに対し、維持療法群では17例中14例 (82%) が既知病変の進行または新規病変の両方を来していた。この結果は、LCTが局所的な疾患制御を超えて、遠隔転移の発生を抑制する可能性を示唆する。
全生存期間 (OS) の傾向: データ解析時点 (2016年4月1日) でOS中央値はいずれの群でも未達であり、OSデータは成熟度不足であった。死亡はLCT群で6名、維持療法群で8名であった。LCT群の1例は疾患の証拠がない状態での突然の心臓死であり、治療関連ではないと判断された。残りの死亡例はいずれも疾患進行によるものであった。
安全性プロファイル: 両群でGrade 4以上の有害事象は発生せず、治療関連死亡も認められなかった。LCT群のGrade 3有害事象は5名 (20%) であり、内訳は放射線食道炎2名、輸血を要する貧血1名 (脾臓照射後)、肺定位照射後の肋骨骨折に伴う気胸1名 (照射17ヶ月後)、入院を要する腹痛1名 (治療関連性は低い) であった。維持療法群のGrade 3有害事象は疲労1名、貧血1名と少なく、維持療法の忍容性不良により3名がLCT群にクロスオーバーした (いずれも進行前)。
患者背景のバランス: 両群は主要な患者特性において良好にバランスが取れていた (Table 1)。年齢中央値はLCT群で63歳、維持療法群で61歳であった。腺癌の割合はLCT群で84%、維持療法群で75%であった。同時性転移はLCT群で96%、維持療法群で92%に認められた。CNS転移はLCT群で28%、維持療法群で25%の患者に存在した。N2/N3リンパ節の関与はLCT群で52%、維持療法群で54%であった。転移巣が0-1個の患者はLCT群で68%、維持療法群で62%であった。1次治療での効果は、部分奏効または完全奏効がLCT群で36%、維持療法群で38%であった。EGFRまたはALK変異陽性患者はLCT群で20%、維持療法群で12%であった。
サブグループ解析と多変量解析: プラチナダブレット化学療法のみを施行した患者群 (EGFR/ALK変異陽性例を除外) の後方視的解析でも、LCT群でPFS改善が維持された (HR 0.41, 95% CI 0.21-0.79, p=0.022)。多変量解析では、PFSと関連する独立因子は治療割付 (LCT vs 維持療法) とEGFR/ALK変異陽性のみであり、性別、CNS転移、リンパ節状態、1次治療効果、転移巣数は有意な関連を示さなかった (Table 2)。EGFR/ALK変異陽性例におけるPFSハザード比は 0.19 (95% CI 0.06-0.64, p=0.012) と極めて良好であった。
進行後の治療パターンとクロスオーバー: 維持療法群で病勢進行が確認された17名のうち、11名 (65%) が進行時に局所療法 (LCT) を受けた (Table 2)。内訳は、SBRT単独が6名、手術単独が3名、手術と放射線療法の併用が1名、SBRTと化学放射線療法の併用が1名であった。局所療法を受けなかった6名のうち、3名は後続の全身療法に移行し、1名はワクチン試験に参加、1名はPS不良のため局所療法を断念、1名は緩和的放射線療法を受けた後に死亡した。
考察/結論
本試験は、1次化学療法後に非進行のオリゴ転移NSCLC (3転移巣以下) に対するLCTが、標準治療 (維持療法または観察) と比較してPFSを有意に改善することを、初のランダム化比較試験として示した。PFS中央値 11.9 vs 3.9 months (HR 0.35, 95% CI 0.18-0.66, p=0.0054) という著明なハザード比の改善は、研究仮説を大きく上回る効果であり、早期中止の妥当性を支持する。
先行研究との違い: これまでの後方視的研究や単群前向き試験では選択バイアスが問題であったが、本試験は動的バランス法による1:1ランダム化により交絡因子を制御した。維持療法の標準治療を確立した Ciuleanu et al. Lancet 2009 や Cappuzzo et al. LancetOncol 2010 などの先行研究と異なり、本試験は全身療法後に病勢進行のないオリゴ転移患者に対して、局所統合療法 (LCT) を介入させることの優位性を初めてランダム化比較試験で証明した。特に重要なのは、LCTが新規病変出現を遅延させたことであり、これはLCTが局所的根絶のみならず、遠隔転移の発生を抑制している可能性を示唆する。
新規性: 本研究で初めて、オリゴ転移NSCLC患者において、一次全身療法後の局所統合療法が維持療法または観察と比較して無増悪生存期間を統計学的に有意に延長することを示した。この知見は、オリゴ転移という概念に対する積極的な局所治療の有効性をランダム化比較試験で裏付けた新規性を持つ。
臨床応用: 本試験の結果は、オリゴ転移NSCLC患者に対する治療パラダイムに大きな臨床的意義を持つ。一次治療後に病勢進行のないオリゴ転移患者に対して、局所統合療法が標準的な維持療法よりも優れた疾患制御をもたらす可能性を示唆しており、臨床現場での治療選択肢として考慮されるべきである。特に、安全性プロファイルが良好であったことも、その臨床応用を後押しする。
残された課題: 本試験の限界 (limitation) として、(1) 早期中止による小規模サンプル (n=49) とそれに伴う統計的検出力不足、(2) オープンラベルデザイン、(3) 異なる組織型・分子サブタイプを含む異質な集団、(4) LCT技術の多様性、(5) QOLデータ不足が挙げられる。今後の検討課題として、より大規模な第III相試験でOSを主要評価項目としてLCTの有効性を検証し、最適な患者サブグループを特定することが必要である。また、免疫療法時代においては、化学免疫療法後のLCT、あるいはLCTと免疫チェックポイント阻害薬の併用療法の探索も今後の研究方向性として重要である。
方法
本研究は、米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンター、カナダのロンドンヘルスサイエンスセンター、コロラド大学の3施設による多施設ランダム化Phase 2対照試験として実施された。登録期間は2012年11月28日から2016年1月19日までであった。
適格基準は、病理学的に確認されたStage IV NSCLC (AJCC第7版)、1次全身療法後に3個以下の転移巣 (1次治療中に消失した病変は含めない、縦隔リンパ節である N1-N3 (領域リンパ節) は1病変として計数)、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) 2以下、18歳以上、および1次全身療法 (プラチナダブレット化学療法4サイクル以上、またはEGFR/ALK変異陽性例へのTKI (チロシンキナーゼ阻害薬) 3ヶ月以上) 後に病勢進行がないことであった。除外基準として、悪性胸水、不安定心疾患、および完全奏効例 (局所療法すべき病変がない場合) が含まれた。
患者は1:1の比率でLCT群 (n=25) または維持療法/観察群 (n=24) にランダムに割り付けられた。層別化の代わりに、Pocock-Simon動的バランス法 (Pocock and Simon 1975) を採用し、5つの因子 (転移巣数、1次治療効果、CNS転移の有無、縦隔リンパ節状態、EGFR/ALK変異の有無) で両群間のバランスが取られた。ランダム化は非盲検で行われた。
LCT群では、全既知転移巣および原発巣に対して多学際チームの協議に基づき局所療法が実施された。治療法は、SBRT (体幹部定位放射線療法) または低分割照射 (12名、48%)、手術と放射線の併用 (6名、24%)、化学放射線療法 (2名、8%)、低分割照射と化学放射線療法の併用 (3名、12%)、または全部位手術 (1名、4%) であった。LCT後の維持療法は担当医の判断で実施可能であった。維持療法/観察群では、pemetrexed (16名、67%)、erlotinib (2名、8%)、afatinib (1名、4%)、bevacizumab (1名、4%)、または観察 (4名、17%) の承認済みレジメンから担当医が選択した。
主要評価項目はPFS (ランダム化から病勢進行または死亡まで) であり、RECIST 1.1 (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors version 1.1) (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) に基づく担当医評価によって決定された。副次評価項目はOS (全生存期間)、安全性、新病変出現までの期間、およびQOL (MD Anderson Symptom Inventory) であった。統計設計では、片側α=10%、検出力90%で、維持療法群のPFS中央値4ヶ月からLCT群の7ヶ月への改善を検出するために94名の患者登録を計画した (HR 0.57を想定)。PFSの比較にはログランク検定 (log-rank test) が用いられ、ハザード比 (HR) はCox比例ハザード回帰モデル (Cox regression) で推定された。