• 著者: Ciuleanu T, Brodowicz T, Zielinski C, Kim JH, Krzakowski M, Laack E, Wu YL, Bover I, Begbie S, Tzekova V, Cucevic B, Pereira JR, Yang SH, Madhavan J, Sugarman KP, Peterson P, John WJ, Krejcy K, Belani CP
  • Corresponding author: Chandra P. Belani, MD (Penn State Hershey Cancer Institute, Hershey, PA, USA)
  • 雑誌: The Lancet
  • 発行年: 2009
  • Epub日: 2009-09-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 19767093

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療において、プラチナ製剤ベースの一次化学療法は標準的なアプローチである。しかし、この導入療法(通常4〜6サイクル)後の標準的な管理は、病勢進行までの最良支持療法 (BSC) による経過観察であり、増悪時に二次治療へ移行する戦略が一般的であった。この方針の背景には、長期にわたる化学療法が毒性を増加させる一方で、生存期間の延長には寄与しないという先行研究のメタ解析結果(無増悪生存期間 (PFS) の改善は認められたが、全生存期間 (OS) の改善はなかった)や、増悪後に二次治療を受けられる患者が半数未満にとどまるという臨床上の課題が存在した。例えば、Giaccone et al. JClinOncol 2004の研究では、ゲフィチニブと化学療法の併用がOS改善を示さなかったことが報告されている。また、Sandler et al. NEnglJMed 2006の研究では、ベバシズマブの追加がOSを改善したものの、維持療法としての継続的な効果は証明されていなかった。

近年、導入療法とは異なる薬剤を用いた維持療法 (switch-maintenance) の概念が注目を集めていた。例えば、ゲムシタビン維持療法やドセタキセル即時投与はPFSの改善を示したが、OSの有意な改善には至っていなかった。Schiller et al. NEnglJMed 2002の研究をはじめとする多くの先行研究では、導入化学療法後のOS延長が不足しており、新たな維持療法の開発が喫緊の課題として認識されていた。特に、導入療法後に病勢進行が認められない患者群において、その後の治療戦略が未確立であるというギャップが残されていた。

ペメトレキセドは、抗葉酸代謝拮抗薬であり、NSCLCの二次治療においてドセタキセルと同等の有効性を示し(Hanna et al. JClinOncol 2004)、またシスプラチンとの併用による一次治療では、特に非扁平上皮NSCLCにおいて優れた有効性が報告されていた(Scagliotti et al. JClinOncol 2008)。この組織型による活性の差異は、チミジル酸合成酵素 (TS) の発現レベルが扁平上皮癌で高く、非扁平上皮癌で低いことに関連していると考えられており、ペメトレキセドの感受性の違いを説明する機序として提唱されていた。

本研究は、これらの背景を踏まえ、プラチナ製剤ベースの導入化学療法後に病勢進行が認められなかった進行NSCLC患者を対象として、ペメトレキセドによる維持療法がPFSおよびOSに与える影響を検証する最初の大規模二重盲検第III相試験として計画された。従来の維持療法がOS改善を示せていなかったというギャップを埋め、特に組織型別の有効性を評価することで、個別化医療の可能性を探ることを目的とした。

目的

本研究の主要な目的は、ステージIIIBまたはIVの進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、4サイクルのプラチナ製剤ベースの導入化学療法後に病勢進行が認められなかった症例を対象に、ペメトレキセド維持療法(500 mg/m²、21日サイクル、最良支持療法 (BSC) 併用)とプラセボ維持療法(BSC併用)を比較し、無増悪生存期間 (PFS) の優越性を評価することであった。

副次的な目的としては、両群間の全生存期間 (OS)、客観的奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR)、安全性プロファイル、および患者報告アウトカム(Lung Cancer Symptom Scale)を比較評価することであった。さらに、事前に規定されたサブグループ解析として、組織型別(非扁平上皮NSCLCと扁平上皮NSCLC)におけるペメトレキセド維持療法の有効性の差異を詳細に検討することも重要な目的の一つであった。本研究は、従来の維持療法研究でOS改善が不足していた点を克服し、特に組織型別の有効性を明確にすることで、個別化された治療戦略の確立に貢献することを目指した。

結果

患者背景と治療継続性: 663例の患者が無作為化され、ペメトレキセド群 n=441、プラセボ群 n=222 であった。両群間で患者の年齢、性別、病期、ECOGパフォーマンスステータス、組織型(非扁平上皮73% vs 70%、扁平上皮26% vs 30%)、導入療法への奏効、導入レジメンなどのベースライン特性は良好にバランスが取れていた(Table 1)。ペメトレキセド群の98% (n=434)、プラセボ群の100% (n=222) が少なくとも1サイクル以上の治験薬投与を受けた。維持療法のサイクル数中央値は、ペメトレキセド群で5.0サイクル(範囲1-55)、プラセボ群で3.5サイクル(範囲1-46)であった。6サイクル以上継続した患者は、ペメトレキセド群で213例 (48%)、プラセボ群で61例 (27%) であり、10サイクル以上継続した患者はそれぞれ103例 (23%)、19例 (9%) であった。

主要エンドポイント: 無増悪生存期間 (PFS) の改善: 治験担当医師評価によるPFSの中央値は、ペメトレキセド群で4.3ヶ月 (95% CI 4.1-4.7) であったのに対し、プラセボ群では2.6ヶ月 (95% CI 1.7-2.8) であった。ハザード比 (HR) は0.50 (95% CI 0.42-0.61, p<0.0001) であり、ペメトレキセド群で病勢進行または死亡のリスクが50%有意に低減されたことを示した(Figure 2A)。独立中央画像評価によるPFS解析でも同様の結果が得られ、中央値はペメトレキセド群で4.0ヶ月 (95% CI 3.1-4.4)、プラセボ群で2.0ヶ月 (95% CI 1.5-2.8) であり、HRは0.60 (95% CI 0.49-0.73, p<0.0001) であった(Figure 2B)。病勢コントロール率 (CR+PR+SD) は、ペメトレキセド群で51.7% (n=228)、プラセボ群で33.3% (n=74) と、ペメトレキセド群で有意に高かった (p<0.0001)。客観的奏効率は、ペメトレキセド群で6.8% (n=30)、プラセボ群で1.8% (n=4) であった (p=0.005)。

副次エンドポイント: 全生存期間 (OS) の改善: 全生存期間の中央値は、ペメトレキセド群で13.4ヶ月 (95% CI 11.9-15.9) であったのに対し、プラセボ群では10.6ヶ月 (95% CI 8.7-12.0) であった。ハザード比 (HR) は0.79 (95% CI 0.65-0.95, p=0.012) であり、ペメトレキセド群で死亡リスクが21%有意に低減されたことを示した(Figure 2C)。導入療法開始時点からのOSを算定した場合でも、中央値はペメトレキセド群で16.5ヶ月、プラセボ群で13.9ヶ月であり、HRは0.79と変化はなかった。プラセボ群では、ペメトレキセド群と比較して、治験薬中止後の後続全身療法を受ける患者の割合が有意に高かった(67% vs 51%, p=0.0001)。この後続治療の差にもかかわらずOSの改善が認められたことは、維持療法の効果を強く支持する結果であると解釈された。

組織型別有効性解析: 非扁平上皮NSCLCにおける顕著な効果: 事前に規定されたサブグループ解析として、組織型別の有効性が評価された(Table 2)。非扁平上皮NSCLC患者 (n=481) では、ペメトレキセド群でPFSのHRが0.44 (95% CI 0.36-0.55, p<0.0001) と顕著な改善を示し、OSのHRも0.70 (95% CI 0.56-0.88, p=0.002) と有意な改善が認められた(Figure 3)。非扁平上皮NSCLCにおけるOS中央値は、ペメトレキセド群で15.5ヶ月 (95% CI 13.2-18.1)、プラセボ群で10.3ヶ月 (95% CI 8.1-12.0) であった。特に腺癌サブグループ (n=328) では、PFSのHRが0.45 (p<0.0001)、OSのHRが0.73 (95% CI 0.56-0.96, p=0.026) であり、OS中央値は16.8ヶ月 vs 11.5ヶ月であった。

組織型別有効性解析: 扁平上皮NSCLCにおける効果の限定性: 扁平上皮NSCLC患者 (n=182) では、PFSのHRは0.69 (95% CI 0.49-0.98, p=0.039) と限定的な改善が認められたものの、OSのHRは1.07 (95% CI 0.77-1.50, p=0.678) であり、統計的に有意なOSの改善は認められなかった(Table 2)。扁平上皮NSCLCにおけるOS中央値は、ペメトレキセド群で9.9ヶ月、プラセボ群で10.8ヶ月であった。治療と組織型の交互作用は、PFS (p=0.036) およびOS (p=0.033) の両方で統計的に有意であった。

安全性プロファイルと忍容性: 治験薬関連のGrade 3以上の有害事象は、ペメトレキセド群で70例 (16%)、プラセボ群で9例 (4%) と、ペメトレキセド群で有意に高頻度であった (p<0.0001)(Table 3)。主なGrade 3以上の有害事象は、ペメトレキセド群で好中球減少13例 (3%)、貧血12例 (3%)、白血球減少7例 (2%)、倦怠感22例 (5%) であった。発熱性好中球減少はペメトレキセド群で3例 (<1%) に認められた。治療関連死は両群ともにゼロであった。治験薬関連の有害事象による治療中止は、ペメトレキセド群で21例 (5%)、プラセボ群で3例 (1%) であった。投与量減量は、ペメトレキセド群で22例 (5%)、プラセボ群で2例 (1%) であった。長期投与(6サイクル以上または10サイクル以上)におけるGrade 3以上の毒性の増加は認められなかった。

患者報告アウトカムの改善: Lung Cancer Symptom Scaleによる評価では、疼痛増悪までの期間中央値は、ペメトレキセド群で6.1ヶ月 (95% CI 4.6-9.6)、プラセボ群で4.6ヶ月 (95% CI 3.3-6.0) であり、ペメトレキセド群で有意な遅延が認められた (HR 0.76, 95% CI 0.59-0.99, p=0.041)。喀血増悪までの期間もペメトレキセド群で有意に遅延した (HR 0.58, 95% CI 0.34-0.97, p=0.038)。その他の症状項目では有意差は認められなかった。これらの結果は、ペメトレキセド維持療法が患者のQOLを著しく損なうことなく実施可能であることを示唆した。

考察/結論

本第III相二重盲検プラセボ対照試験は、プラチナ製剤ベースの導入化学療法後に病勢進行が認められなかった進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、ペメトレキセド維持療法が無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) を有意に改善することを明確に示した。PFSのハザード比 (HR) 0.50 (95% CI 0.42-0.61, p<0.0001)、OSのHR 0.79 (95% CI 0.65-0.95, p=0.012) という結果は、それぞれ病勢進行または死亡のリスクを50%、死亡リスクを21%低減することを示しており、統計的にも臨床的にも極めて意義深い。特に、プラセボ群でより高い割合の患者が治験薬中止後に後続全身療法を受けていたにもかかわらずOSの改善が確認されたことは、維持療法が実質的な生存延長効果をもたらすことを強く裏付けている。これは、治療開始のタイミングが生存に影響を与える可能性を示唆し、「早期維持療法」戦略の有用性を支持する重要な間接的エビデンスとなる。

新規性: 本研究の最も重要な新規性は、ペメトレキセドの有効性が組織型によって大きく異なることを大規模な臨床試験で初めて明確に示した点である。非扁平上皮NSCLC(特に腺癌)患者では、PFSのHRが0.44 (95% CI 0.36-0.55, p<0.0001)、OSのHRが0.70 (95% CI 0.56-0.88, p=0.002) と顕著な改善が認められた。一方、扁平上皮NSCLC患者では、PFSに限定的な改善が見られたものの、OSの有意な改善は認められなかった(HR 1.07, 95% CI 0.77-1.50, p=0.678)。この組織型依存的な効果は、ペメトレキセドの作用機序であるチミジル酸合成酵素 (TS) の発現差(扁平上皮癌でTS発現が高い)によって説明される可能性が示唆される。

先行研究との違い: 従来の維持療法に関する研究、例えばゲムシタビン維持療法やドセタキセル即時投与の試験では、PFSの改善は報告されていたものの、OSの有意な改善を示すことはこれまで困難であった。本研究は、OSの有意な改善を達成した点で、これらの先行研究とは対照的であり、維持療法の概念を大きく進展させた。また、Scagliotti et al. JClinOncol 2008の一次治療試験やScagliotti et al. Oncologist 2009のレビューでも同様の組織型依存的効果が報告されており、本試験の結果と整合性が高い。

安全性と忍容性、および臨床応用: 安全性プロファイルは許容可能であり、治療関連死はゼロであった。Grade 3以上の有害事象はペメトレキセド群で16%とプラセボ群 (4%) より高かったものの、倦怠感や好中球減少が主であり、長期投与においても重篤な毒性の増加は認められなかった。患者報告アウトカムにおいても、疼痛や喀血の増悪までの期間が延長されており、維持療法が患者のQOLを著しく損なうことなく実施可能であることが示された。本研究の結果は、非扁平上皮NSCLC患者に対するペメトレキセド維持療法が、プラチナ製剤ベースの導入化学療法後の新たな標準治療選択肢となることを強く支持する。このエビデンスに基づき、2009年には米国食品医薬品局 (FDA) がこの適応でペメトレキセドを承認した。免疫チェックポイント阻害薬が一次治療の標準となる現代においても、化学療法ベースの維持療法の基準比較対象として、本試験の結果は引き続き臨床現場で参照される。

残された課題: 本研究は、ペメトレキセド含有レジメンを導入療法として受けた患者におけるペメトレキセド維持療法の安全性と有効性については評価していない。この点は残された課題であり、今後の検討が必要である。また、本試験は、維持療法開始のタイミングが生存に影響を与える可能性を示唆したが、最適な維持療法の期間や、特定のバイオマーカーに基づく患者選択のさらなる最適化は、今後の研究の方向性となる。

方法

試験デザインと患者選択: 本研究は、83施設、20カ国で実施された多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照の第III相臨床試験 (ClinicalTrials.gov 登録番号: NCT00102804) である。2005年3月から2007年7月にかけて、合計745例がスクリーニングされ、663例の患者が登録された。対象患者は、18歳以上、ECOGパフォーマンスステータス0または1、組織学的または細胞学的に診断されたステージIIIB(胸水またはN3リンパ節転移以上)またはIVのNSCLC患者であった。主要な組み入れ基準は、以下の6種類のプラチナ製剤ベースの導入化学療法(ゲムシタビン-カルボプラチン、ゲムシタビン-シスプラチン、パクリタキセル-カルボプラチン、パクリタキセル-シスプラチン、ドセタキセル-カルボプラチン、ドセタキセル-シスプラチン)のいずれかを4サイクル完了し、病勢進行が認められなかったことであった。ペメトレキセドを含む導入療法を受けた患者は除外された。

無作為化と盲検化: 患者はペメトレキセド群とプラセボ群に2:1の比率で無作為に割り付けられた(ペメトレキセド群 n=441、プラセボ群 n=222)。無作為化は、病期(IIIB vs IV)、ECOGパフォーマンスステータス(0 vs 1)、性別、導入療法への最良奏効(完全奏効 (CR) + 部分奏効 (PR) vs 安定 (SD))、導入療法の非プラチナ製剤成分(ゲムシタビン vs パクリタキセル vs ドセタキセル)、および脳転移の既往の要因で層別化され、Pocock-Simon最小化法を用いて実施された。患者および治験担当医師は治療割り付けについて盲検化され、薬剤師を介した中央管理型の対話式音声応答システム (IVRS: interactive voice-activated response system) によって盲検性が維持された。

治療プロトコル: ペメトレキセド群の患者は、ペメトレキセド500 mg/m²を21日ごとに静脈内投与され、プラセボ群の患者は0.9%塩化ナトリウムを同様に投与された。両群ともに、疾患進行が認められるまで、または許容できない毒性が発現するまで治療が継続された。全患者は、ビタミンB12、葉酸、およびデキサメタゾンによる前投薬を受けた。

エンドポイント評価: 主要評価項目は、無作為化日から客観的な病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間として定義されたPFSであった。PFSは、独立中央画像評価委員会による評価と治験担当医師による評価の両方で分析された。副次評価項目は、OS、客観的奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR)、安全性(有害事象のCommon Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) version 3.0に基づく評価)、および患者報告アウトカム(Lung Cancer Symptom Scale)であった。OSは、無作為化日からあらゆる原因による死亡までの期間として定義された。腫瘍縮小効果はRECIST (Response Evaluation Criteria In Solid Tumors) に基づき評価された。

統計解析: 統計解析は、intention-to-treat (ITT) 集団に対して実施された。PFSの優越性を検証するために、サンプルサイズは660例(2:1割り付け)と計画され、PFSのハザード比 (HR) 0.75を仮定した場合に462イベントで85%の検出力を有するとされた。OSについては、HR 0.767を仮定した場合に475イベントで80%の検出力を有するとされた。多重比較の問題を制御するため、PFSが名目上のαレベル0.05で有意であった場合、OSの予備解析はαレベル0.00002で、最終解析はαレベル0.04998で実施されるよう、αエラーが全体で0.05以下に制御された。Cox比例ハザードモデルが、PFSおよびOSのハザード比と95%信頼区間 (CI) を推定するために使用された。組織型別のサブグループ解析は事前に規定されており、治療と組織型の交互作用も評価された。