- 著者: Jeffrey S Weber, Geoff Gibney, Ryan J Sullivan, Jeffrey A Sosman, Craig L Slingluff Jr, Donald P Lawrence, Theodore F Logan, Lynn M Schuchter, Suresh Nair, Leslie Fecher, Elizabeth I Buchbinder, Elmer Berghorn, Mary Ruisi, George Kong, Joel Jiang, Christine Horak, F Stephen Hodi
- Corresponding author: F Stephen Hodi (Dana-Farber Cancer Institute, 450 Brookline Avenue, Boston, MA, USA)
- 雑誌: The Lancet Oncology
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-06-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 27269740
背景
進行悪性黒色腫の治療は、近年、免疫チェックポイント阻害薬の導入により劇的な進歩を遂げた。特に、CTLA-4阻害薬であるイピリムマブとPD-1阻害薬であるニボルマブは、単剤療法および併用療法において、患者の生存期間を大幅に改善することが示されている。イピリムマブは、転移性悪性黒色腫患者の全生存期間を改善することがHodi et al. NEnglJMed 2010により報告され、ニボルマブもまた、BRAF野生型進行悪性黒色腫患者において良好な奏効率と全生存期間を示すことがRobert et al. NEnglJMed 2015によって示された。
これらの薬剤の同時併用療法は、CheckMate 067試験において、ニボルマブ単剤療法やイピリムマブ単剤療法と比較して、高い奏効率 (58% vs 44% vs 19%) と長い無増悪生存期間 (PFS中央値 11.5ヶ月 vs 6.9ヶ月 vs 2.9ヶ月) を示すことがLarkin et al. NEnglJMed 2015により報告された。しかし、同時併用療法では、Grade 3-4の治療関連有害事象の発生率が55%と、単剤療法 (ニボルマブ単剤16%、イピリムマブ単剤27%) と比較して顕著に高かった。この高い毒性プロファイルは、一部の患者にとって治療継続を困難にする可能性があり、毒性を軽減しつつ有効性を維持する治療戦略が求められていた。
同時併用療法の毒性を軽減するアプローチとして、免疫チェックポイント阻害薬の逐次投与(sequential administration)が提案された。イピリムマブ先行投与は、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の増加やIFN-γ誘導遺伝子の発現増加を介して、腫瘍微小環境におけるPD-L1発現を増強し、後続のニボルマブの効果を増強する可能性が仮説として提唱されていた。しかし、ニボルマブ先行投与がイピリムマブ先行投与と比較して、安全性および有効性においてどのような違いをもたらすかは、これまでのところ未解明であった。特に、両薬剤の薬理学的特性や作用機序の違いを考慮すると、最適な投与順序が臨床転帰に与える影響は非常に重要であると考えられたが、この点に関する前向きな無作為化比較試験は不足していた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的として実施された。
目的
本研究の目的は、進行悪性黒色腫患者において、ニボルマブ先行イピリムマブ逐次投与(nivolumab followed by ipilimumab)とイピリムマブ先行ニボルマブ逐次投与(ipilimumab followed by nivolumab)の2つの計画的逐次投与レジメンの安全性および有効性を比較することであった。主要評価項目は、導入期間(Week 25まで)におけるGrade 3-5の治療関連有害事象の発生頻度とされた。副次評価項目としては、Week 25時点での奏効率(objective response rate, ORR)、Week 13およびWeek 25時点での疾患進行率、ならびに全生存期間(overall survival, OS)が設定された。本研究は、免疫チェックポイント阻害薬の逐次投与における最適なシーケンスを特定し、毒性を最小限に抑えつつ有効性を最大化する新たな治療戦略の確立に貢献することを目指した。
結果
患者背景: 2013年4月30日から2014年7月21日までに140名の患者が無作為化され、ニボルマブ先行イピリムマブ逐次投与群に68名、イピリムマブ先行ニボルマブ逐次投与群に70名が割り付けられた。両群間で患者の人口統計学的特性およびベースライン特性は概ね均衡していたが、ニボルマブ先行群ではECOGパフォーマンスステータス0の患者、PD-L1発現5%以上の患者、および脳転移歴のある患者の割合がやや高かった(Table 1)。
主要エンドポイント:Grade 3-5治療関連有害事象: Week 25までのGrade 3-5治療関連有害事象の発生頻度は、ニボルマブ先行イピリムマブ逐次投与群で34/68例(50%、95% CI 37.6-62.4)、イピリムマブ先行ニボルマブ逐次投与群で30/70例(43%、95% CI 31.1-55.3)であり、両群間で同程度であった(Figure 2)。治療関連死亡は両群ともに報告されなかった。全試験期間(中央値15ヶ月の追跡期間)では、Grade 3-4の治療関連有害事象はニボルマブ先行群で43/68例(63%)、イピリムマブ先行群で35/70例(50%)に認められた。最も頻繁に報告されたGrade 3-4の治療関連有害事象は、大腸炎(ニボルマブ先行群 15% vs イピリムマブ先行群 20%)、リパーゼ上昇(15% vs 17%)、下痢(12% vs 7%)であった。ニボルマブ先行群では、イピリムマブ投与期間である第2導入期間および維持期間において、Grade 3-4の有害事象発生率が増加する傾向が認められた(Table 3)。全身性コルチコステロイドの使用は、ニボルマブ先行群で57/68例(84%)、イピリムマブ先行群で36/70例(51%)と、ニボルマブ先行群でより高頻度であった。
副次エンドポイント:奏効率: Week 25時点での奏効率は、ニボルマブ先行イピリムマブ逐次投与群で28/68例(41%、95% CI 29.4-53.8)、イピリムマブ先行ニボルマブ逐次投与群で14/70例(20%、95% CI 11.4-31.3)であり、ニボルマブ先行群で約2倍の奏効率が達成された(Table 5)。全試験期間における最良総合奏効率(best overall response)は、ニボルマブ先行群で56%(完全奏効12%、部分奏効44%)、イピリムマブ先行群で31%(完全奏効6%、部分奏効26%)であった。奏効期間中央値は両群ともに未到達であった。
副次エンドポイント:疾患進行率: Week 13時点での疾患進行率は、ニボルマブ先行イピリムマブ逐次投与群で26/68例(38%、95% CI 26.7-50.8)、イピリムマブ先行ニボルマブ逐次投与群で43/70例(61%、95% CI 49.0-72.8)であった。Week 25時点でも同様の傾向が維持され、ニボルマブ先行群で26/68例(38%)、イピリムマブ先行群で42/70例(60%)が進行を示した。ニボルマブ先行投与により、早期の疾患進行が抑制されることが示唆された(Figure 3)。
探索的エンドポイント:全生存期間(OS): 中央値19.8ヶ月(IQR 12.8-25.7)の追跡期間において、ニボルマブ先行イピリムマブ逐次投与群のOS中央値は未到達(95% CI 23.7-未到達)であった。一方、イピリムマブ先行ニボルマブ逐次投与群では、中央値14.7ヶ月(IQR 5.6-23.9)の追跡期間でOS中央値は16.9ヶ月(95% CI 9.2-26.5)であった。ハザード比(HR)は0.48(95% CI 0.29-0.80)であり、ニボルマブ先行イピリムマブ逐次投与がイピリムマブ先行ニボルマブ逐次投与と比較して、全生存期間を約半分に改善することが示された(Figure 4)。12ヶ月OS率は、ニボルマブ先行群で76%(95% CI 64-85)、イピリムマブ先行群で54%(95% CI 42-65)であった。ベースライン特性の不均衡を調整した多変量解析においても、調整済みHRは0.57(95% CI 0.33-0.99)と、ニボルマブ先行群の優位性が一貫して示された。
PD-L1発現別解析: ベースラインPD-L1発現が5%以上の患者では、両群ともにPD-L1発現が5%未満の患者と比較して高い奏効率を示した。ニボルマブ先行群では、PD-L1発現レベルにかかわらず、イピリムマブ先行群よりも高い奏効率が認められた(Table 5)。ただし、ニボルマブ先行群ではPD-L1発現評価可能患者の割合が高く、PD-L1発現5%以上の患者の割合も高かった(ニボルマブ先行群 22/53例 (42%) vs イピリムマブ先行群 10/44例 (23%))。
治療中止と後続治療: ニボルマブ先行群では、治療中止の最も一般的な理由は治験薬毒性(35%)と疾患進行(26%)であった。一方、イピリムマブ先行群では、疾患進行(56%)が最も一般的な中止理由であり、治験薬毒性(17%)はそれに続いた。後続の全身抗がん治療を受けた患者の割合は、ニボルマブ先行群で25/68例(37%)、イピリムマブ先行群で14/70例(20%)であった。
考察/結論
先行研究との違い: CheckMate 064試験は、進行悪性黒色腫患者におけるニボルマブ先行イピリムマブ逐次投与とイピリムマブ先行ニボルマブ逐次投与の安全性および有効性を比較した、初めての前向き無作為化第II相試験である。以前のCheckMate 067試験では、ニボルマブとイピリムマブの同時併用療法が単剤療法よりも優れていることが示されたが、高い毒性が課題であった。本研究は、同時併用療法とは異なり、逐次投与というアプローチで毒性管理と有効性の両立を試み、さらに投与順序の重要性を明確にした点で新規性がある。特に、ニボルマブ先行投与がイピリムマブ先行投与よりも良好な臨床転帰をもたらすという結果は、これまでのイピリムマブによる免疫プライミング効果を期待する仮説とは対照的であった。
新規性: 本研究で初めて、ニボルマブ先行イピリムマブ逐次投与が、イピリムマブ先行ニボルマブ逐次投与と比較して、高い奏効率(41% vs 20%)と良好な全生存期間(HR 0.48, 95% CI 0.29-0.80)を示すことを新規に同定した。この結果は、免疫チェックポイント阻害薬の最適な投与順序に関する重要な臨床的示唆を提供する。ニボルマブ先行投与が優越する機序としては、(1) 早期のPD-1阻害によるT細胞の迅速な活性化、(2) 腫瘍縮小開始後のイピリムマブによる免疫記憶の強化、などが考えられる。また、ニボルマブ単剤がイピリムマブ単剤よりも高い奏効率と低い毒性を示すという既報の知見も、この結果を支持する。
臨床応用: 本知見は、進行悪性黒色腫患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の治療戦略において、投与順序を考慮することの臨床的意義を強調する。ニボルマブ先行イピリムマブ逐次投与は、同時併用療法に匹敵する有効性を示しつつ、毒性プロファイルが管理可能であることが示されたため、特定の患者集団における新たな治療選択肢となる可能性がある。特に、早期の疾患進行を抑制し、長期的な生存ベネフィットをもたらす点で、臨床現場での応用が期待される。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。まず、第II相試験であるため、検出力に限りがあり、ベースライン特性の不均衡(ECOGパフォーマンスステータス、PD-L1発現、脳転移歴など)が結果に影響を与えた可能性は否定できない。これらの不均衡は多変量解析で調整されたものの、結果の解釈には注意が必要である。また、計画的な治療スイッチは実臨床とは異なる場合がある。今後の検討課題として、(1) 第III相試験による本結果の確認、(2) 最適な薬剤切り替えタイミングの特定、(3) PD-L1発現やBRAF変異などのバイオマーカーに基づく個別化治療戦略の確立、(4) 他の固形腫瘍(非小細胞肺がん、腎細胞がん、頭頸部がんなど)への応用可能性、(5) 投与順序による免疫応答の変化や免疫記憶形成機序に関するトランスレーショナル解析の深化が挙げられる。これらの課題を解決することで、免疫療法の精密化と患者アウトカムのさらなる改善が期待される。
方法
試験デザインと参加者: 本研究は、米国9施設で実施された無作為化、オープンラベル、第II相試験(CheckMate 064、ClinicalTrials.gov登録番号 NCT01783938)である。対象患者は、18歳以上の切除不能なStage IIIまたはIVの悪性黒色腫患者で、未治療または1ライン以下の前治療歴を有し、ECOGパフォーマンスステータスが0または1であった。活動性脳転移や自己免疫疾患の既往がある患者は除外された。患者は、層別化因子なしで、独立したIVRS(interactive voice response system)を用いて1:1の比率で無作為に2つの治療群に割り付けられた。
介入:
- Group A(ニボルマブ先行イピリムマブ逐次投与群、n=68): ニボルマブ3 mg/kgを2週間ごとに6回(Week 1-13)静脈内投与した後、イピリムマブ3 mg/kgを3週間ごとに4回(Week 13-25)静脈内投与した。その後、ニボルマブ3 mg/kgを2週間ごとに維持療法として投与した。
- Group B(イピリムマブ先行ニボルマブ逐次投与群、n=70): イピリムマブ3 mg/kgを3週間ごとに4回静脈内投与した後、ニボルマブ3 mg/kgを2週間ごとに6回静脈内投与した。その後、ニボルマブ3 mg/kgを2週間ごとに維持療法として投与した。
評価項目:
- 主要評価項目: 導入期間(Week 25まで)におけるGrade 3-5の治療関連有害事象の発生頻度。
- 副次評価項目: Week 25時点での奏効率(RECIST v1.1基準に基づく)、Week 13およびWeek 25時点での疾患進行率、全生存期間(探索的エンドポイント)。
- 安全性評価: 有害事象はNCI-CTCAE v4.0に基づき評価された。
- 腫瘍評価: CTまたはMRIにより、ベースライン、Week 13、25、33、41、その後12週間ごとにRECIST v1.1基準に従って実施された。Week 25での奏効は、Week 33での確認画像をもって確定された。
- バイオマーカー解析: ベースライン時の腫瘍PD-L1発現が中央検査室で評価された。高PD-L1発現は、腫瘍細胞の5%以上がPD-L1染色陽性であると定義された。
統計解析: サンプルサイズは、有害事象発生率の推定精度を確保するために設定され、群間差を検出するための統計的検出力に基づくものではなかった。主要評価項目は安全性であったため、統計的仮説検定は計画されなかった。すべての主要、副次、探索的評価項目は、少なくとも1回治験薬を投与された全治療集団(as-treated population)で解析された。Grade 3-5有害事象の発生割合とその95%信頼区間(CI)が各治療群で算出された。奏効率の95% CIはClopper-Pearson法を用いて算出された。全生存期間および奏効期間は、Kaplan-Meier法により推定され、ハザード比(HR)および95% CIはCox比例ハザードモデルを用いて算出された。データベースロックは2015年5月22日と2015年11月13日に実施され、SAS version 9.2を用いて統計解析が行われた。