• 著者: Vivek Naranbhai, Mathias Viard, Michael Dean, Stefan Groha, David A Braun, Chris Labaki, Sachet A Shukla, Yuko Yuki, Parantu Shah, Kevin Chin, Megan Wind-Rotolo, Xinmeng Jasmine Mu, Paul B Robbins, Alexander Gusev, Toni K Choueiri, James L Gulley, Mary Carrington
  • Corresponding author: Mary Carrington (Basic Science Program, Frederick National Laboratory for Cancer Research, National Cancer Institute, Bethesda, MD, USA)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2021-12-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34895481

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI, 抗PD-1/PD-L1/CTLA-4抗体) は、進行がんの治療において画期的な進歩をもたらしたが、奏効する患者は全体の50%未満に留まることが課題である。ICI治療の精密な適用を可能にする予測バイオマーカーの同定は、患者アウトカムの改善、治療効果の向上、そして治療アクセスにおける不平等の是正に寄与すると考えられる。PD-L1発現や腫瘍遺伝子変異量 (TMB) は、ICI奏効予測バイオマーカーとして広く研究されてきたが、そのアッセイは複雑であり、応答者と非応答者の間で重なりが大きく、臨床的有用性は限定的であると報告されている (Lu et al. JAMA Oncol 2019)。

HLA分子は抗原提示において中心的な役割を担い、ICIはT細胞による腫瘍抗原認識を介して効果を発揮するため、HLA遺伝子座のバリエーションがICI応答性に影響を及ぼす可能性が指摘されてきた。先行研究では、HLAヘテロ接合性がメラノーマおよび非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の全生存期間 (OS) 改善と関連することが示されたが、その検証結果は一貫していない (Chowell et al. Science 2017, Abed et al. J Immunother Cancer 2020)。また、HLAアレルは特定のスーパータイプに分類され、HLA-B62スーパータイプがOS短縮と、HLA-B44スーパータイプがOS改善と関連するという報告もあったが、HLA-B62の結果は別のコホートで再現されず、HLA-B44の関連もメラノーマ患者の特定サブセットに限定されるなど、その臨床的意義は未確立である (Chowell et al. Science 2017)。抗原提示の障害、例えばHLAのヘテロ接合性喪失やHLA発現の低下は、ICI応答性の低下と関連することが示されている (Sade-Feldman et al. NatCommun 2017)。これらの知見は、HLAのバリエーションがICI応答性に影響を与えるという仮説を支持するものの、特定のHLAアレルとICI応答性との堅牢な関連性を示すデータは不足しており、依然として多くの点が未解明である。特に、ICI治療の個別化に資する宿主遺伝学的バイオマーカーの同定は、依然として手薄な領域である。

本研究は、特定のHLAクラスIアミノ酸変異に着目し、8つのコホート、計3335例のICI治療患者と10,917例の非ICI治療患者を対象とした、これまでで最大規模の疫学研究である。これにより、ICI治療後の臨床アウトカムとHLAクラスIアミノ酸変異の関連を、複数の観察コホートおよび臨床試験を横断的に解析し、予測バイオマーカーとしての有用性を検証することを目的とした。特に、HLA-A*03アレルがICI応答性に与える影響について、腎細胞癌 (RCC) のランダム化比較試験 (RCT) 4件を含む広範なデータセットを用いて詳細に評価した。

目的

本研究の目的は、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療後の臨床アウトカム (全生存期間 [OS]、無増悪生存期間 [PFS]、客観的奏効割合 [ORR]) とHLAクラスIアミノ酸変異の関連を、複数の観察コホートおよび臨床試験を横断的に解析し、予測バイオマーカーとしての有用性を検証することである。特に、HLA-A03アレルがICI応答性に与える影響を、腎細胞癌 (RCC) のランダム化比較試験4件を含む8つのコホートで評価し、その予測的価値を確立することを目指した。また、非ICI治療患者コホートとの比較を通じて、HLA-A03が予後マーカーではなく、ICIに特異的な予測マーカーであるかを明確に区別することも目的とした。これにより、ICI治療の個別化に資する新たな宿主遺伝学的バイオマーカーを同定し、臨床現場での治療選択に貢献することを目指した。

結果

HLA-Aポジション161の同定: MSK-IMPACT discoveryコホート (30癌種 n=1166) において、HLA-Aの71箇所、HLA-Bの76箇所、HLA-Cの69箇所のポリモルフィックアミノ酸サイトを解析した結果、HLA-Aポジション161のアミノ酸変異がOSと最も強い関連を示した。この関連は、非グルタミン酸残基1つあたりHR 1.47 (95% CI 1.20-1.81, 名目p=2×10⁻⁴, Bonferroni補正p=0.048) であった (Figure 2A)。このポジション161は、HLA-A*03系統のアレルのみがアスパラギン酸をコードし、他の系統はグルタミン酸をコードする点で特徴的である。ポジション161で調整後、他のHLA-A残基はOSと有意な関連を示さなかった (Figure 2B)。

HLA-A*03アレルと全生存期間 (OS) の関連 (MSK-IMPACTコホート): HLA-A03アレル保有は、MSK-IMPACTコホートにおいてICI治療後のOS短縮と有意に関連した。この関連は加算モデルで示され、HLA-A03アレル1つあたりHR 1.48 (95% CI 1.20-1.82, p=0.00022) であった (Figure 3A)。特に、HLA-A03ホモ接合体患者ではOS短縮のリスクが顕著に高く (HR 2.31, 95% CI 1.23-4.33)、ヘテロ接合体患者でもリスク増加が認められた (HR 1.47, 95% CI 1.14-1.90)。この効果は、膀胱癌、膠芽腫、黒色腫、非小細胞肺癌 (NSCLC)、腎細胞癌 (RCC) の主要5癌種すべてで一貫して観察された (Figure 3B)。さらに、HLAヘテロ接合性、HLA-A発現レベル、TMB、およびHLA-A01/02/11などの他の主要アレルで調整しても、HLA-A*03のOSへの影響は維持された (調整後HR 1.47, 95% CI 1.19-1.83, p=0.00047)。ICIの標的 (PD-1、PD-L1、CTLA-4単独または併用) による効果の変動は認められなかった (p相互作用=0.76)。

DFCI Profileコホートでの検証: 独立したDFCI Profileコホート (n=1326) でも、HLA-A03アレル保有とOS短縮の関連が再現された。全コホートにおいて、HLA-A03アレル1つあたりHR 1.22 (95% CI 1.05-1.42, p=0.0097) であった。年齢、性別、治療ライン、併用化学療法、祖先主成分で調整後も、この関連は有意であった (調整後HR 1.21, 95% CI 1.04-1.41, p=0.0092)。NSCLCにおけるSkoulidis et al. CancerDiscov 2018やRCCにおけるPBRM1変異など、癌種特異的な体細胞変異との交互作用は認められなかった。

JAVELIN Solid Tumour試験 (膀胱癌) での検証: 膀胱癌のavelumab治療患者 n=169 を対象としたJAVELIN Solid Tumour試験でも、HLA-A*03アレル保有はOS短縮と関連した (HR 1.36/アレル, 95% CI 1.01-1.85, p=0.047)。

CheckMate試験 (腎細胞癌) における無増悪生存期間 (PFS) と客観的奏効割合 (ORR) の関連: CheckMate-009/010/025の統合解析 (nivolumab群 n=324、everolimus群 n=219、計 n=543) では、nivolumab群においてHLA-A03保有がPFS短縮と関連した (HR 1.31, 95% CI 1.01-1.71, p=0.044) (Figure 4C)。一方、everolimus群ではHLA-A03とPFSの関連は認められなかった (Figure 4D)。治療とHLA-A03の間に有意な交互作用が認められた (p相互作用=0.049)。ORRについては、HLA-A03非保有者で26.5% (59/222)、ヘテロ接合体で17.1% (13/76) であったのに対し、ホモ接合体では8例中0例であった (χ² p=0.059) (Figure 4E)。MSKCCリスクスコアとHLA-A03は独立した因子であり (p=0.81)、MSKCCリスクスコアで調整後もICI群におけるHLA-A03とPFSの関連は維持された (HR 1.37, 95% CI 1.01-1.77, p=0.042)。

JAVELIN Renal 101試験 (腎細胞癌) におけるPFSとORRの関連: JAVELIN Renal 101試験 (avelumab+axitinib群 n=350、sunitinib群 n=370、計 n=886) では、avelumab+axitinib群においてHLA-A03アレル数が増加するにつれてPFSが有意に短縮した (HR 1.59/アレル, 95% CI 1.16-2.16, p=0.0036) (Figure 5A)。sunitinib群では関連は認められなかった (Figure 5B)。ここでも治療とHLA-A03の間に有意な交互作用が認められた (p相互作用=0.049)。この効果はPD-L1発現状態とは独立していた (HR 1.58, 95% CI 1.16-2.15, p=0.0039)。ORRについては、HLA-A03非保有者で63.8% (162/254)、ヘテロ接合体で55.6% (40/72) であったのに対し、ホモ接合体では8例中1例 (12.5%) に留まった (χ² p=0.018) (Figure 5C)。ICI併用療法が標準治療に対して示す優位性は、HLA-A03保有者では減弱することが示唆された。

TCGAコホート (非ICI対照) での予後効果の評価: n=10,917例のTCGA患者 (非ICI治療、化学療法・インターフェロン等) では、HLA-A03とOSの間に有意な関連は認められなかった (全コホートおよび主要5癌種サブグループすべて)。この結果は、HLA-A03が予後マーカーではなく、ICI治療に特異的な予測マーカーであることを強く支持する。

統合メタ解析: 全ICI治療患者 n=3335例を対象とした固定効果メタ解析では、HLA-A03アレル保有と不良な臨床アウトカムの関連がゲノムワイドな有意水準 (p=2.01×10⁻⁸) で認められた (Table)。効果の異質性は認められず (I²=0%, 95% CI 0-0.76)、HLA-A03の効果が複数の癌種および治療レジメン間で一貫していることが示された。

考察/結論

本研究は、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療における予測バイオマーカーとして、HLA-A03保有が複数の癌種および治療レジメンを横断して独立かつ再現性のある不良予後予測因子であることを、大規模疫学的に初めて実証した。特に、HLA-A03ホモ接合体患者ではICIから利益を得られないどころか、代替治療よりも不利な転帰となる可能性が示唆され、これは臨床的に重要な知見である。腎細胞癌 (RCC) のランダム化比較試験における治療とHLA-A03の交互作用 (p=0.049) は、HLA-A03が予後マーカーではなく、ICIに特異的な予測マーカーであるという結論を強く支持する。この結果は、ICI治療の個別化において宿主遺伝学的因子が重要な役割を果たすことを示している。

先行研究との違い: これまでの研究では、HLAヘテロ接合性や特定のHLAスーパータイプとICI応答性の関連が報告されてきたが、その検証結果は一貫せず、特定のHLAアレルに焦点を当てた大規模かつ堅牢な予測バイオマーカーは確立されていなかった。本研究は、HLA-A*03という特定のアレルが、複数の癌種と治療レジメンにわたって一貫してICI治療後の不良な臨床アウトカムと関連することを初めて大規模に示した点で、これまでの知見と対照的であり、新規性が高い。

新規性: 本研究で初めて、HLA-Aポジション161のアミノ酸バリエーションがICI治療後のOSと最も強く関連することを発見した。このポジションはHLA-A03系統のアレルを特徴づけるものであり、HLA-A03アレルがICI応答性に特異的な影響を与える可能性を示唆する。また、HLA-A*03ホモ接合体患者がICIからほとんど利益を得られない、あるいは有害な影響を受ける可能性を示したことは、これまでに報告されていない重要な新規所見である。

機序的意義として、いくつかの可能性が考えられる。第一に、HLA-A03はKIR3DL2、LILRB1、LILRB2などの抑制性自然免疫受容体の強力なリガンドであり、先天免疫応答を減弱させる可能性がある。第二に、HLA-Aアレルは発現レベルが系統依存的に異なり、HLA-A03は最も低い発現レベルを示す系統の一つであるため、抗原提示機能の低下が関与する可能性も考えられる。しかし、HLA-A発現レベルで調整してもHLA-A03の効果は維持されたことから、発現レベルのみでは説明できない特異的な機序の存在が示唆される。第三に、HIV感染症の分野では、HLA-A03拘束性CD8 T細胞が制御性T細胞 (Treg) による抑制を受けやすいことが報告されており (Elahi et al. Nat Med 2011)、Treg機能の亢進はICI治療後のハイパープログレッションと関連することが示唆されている (Kamada et al. ProcNatlAcadSciUSA 2019)。これらの機序は複雑に絡み合っている可能性があり、さらなる機能解析が必要である。

臨床応用: HLA-A03は、臨床検査で標準化された遺伝子型判定が容易であり、ブカビル (abacavir) のHLA-B57:01テストやカルバマゼピンのHLA-B15:02テストと同様に、ICI治療開始前のスクリーニング検査として臨床応用される可能性が高い。特に、RCC患者においてHLA-A03ホモ接合体の場合、ICI治療から得られる利益が限定的であるか、あるいは有害となる可能性を考慮し、チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) 単剤療法などの代替治療を優先的に検討すべきという臨床的意義を持つ。HLA-A*03保有率は欧州系集団で20-30%と比較的高いことから、このバイオマーカーは世界中の多くのICI治療患者に影響を与える可能性がある。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、一部のコホートは観察研究であり、ICI治療ラインやレジメンが不均一である。第二に、HLA-A03の頻度が低いアジア系集団 (0-2%) での検証が不十分である。第三に、RCC以外の癌種におけるランダム化比較試験データが限定的であるため、他癌種での予測的価値をより強固に確立するためには、さらなる大規模な検証が必要である。第四に、HLA-A03ホモ接合体患者の症例数が比較的少なく、効果推定の精度に限界がある。最後に、HLA-A03がICI応答性に影響を与える分子機序については、本研究では直接的な機能解析を行っておらず、今後の研究課題として残されている。今後は、HLA-A03遺伝子型で層別化された前向き臨床試験、NSCLCやメラノーマなど他癌種での大規模検証、および治療後の腫瘍生検を用いたT細胞応答評価などの機能解析を通じて、機序解明と臨床的有用性のさらなる確立が求められる。本研究は、精密免疫腫瘍学における宿主遺伝学の重要性を示し、HLAジェノタイピングに基づく治療最適化戦略の基盤となるものである。

方法

本研究では、合計3335例のICI治療患者と10,917例の非ICI治療患者を含む8つのコホートを解析対象とした。ICI治療コホートは、3つの観察コホート (Memorial Sloan Kettering Integrated Mutation Profiling of Actionable Cancer Targets [MSK-IMPACT] コホート [n=1166, discoveryコホート]、Dana-Farber Cancer Institute [DFCI] Profile コホート [n=1326]、JAVELIN Solid Tumour urothelial carcinoma コホート [n=169]) と、4つの腎細胞癌 (RCC) 臨床試験 (CheckMate-009/010/025 pooled [n=543]、JAVELIN Renal 101 [n=886]) から構成された。非ICI治療患者コホートとしては、The Cancer Genome Atlas (TCGA) の10,917例が用いられた。これらのコホートは、様々な癌種と治療レジメンを含むため、HLA-A*03の予測的価値を広範に検証することが可能であった。

HLAタイピングは、MSK-IMPACTコホートでは既報データから取得され、DFCI ProfileコホートではSNP2HLAを用いたimputationにより実施された (4桁解像度での精度は平均91.6%)。JAVELIN関連コホートおよびCheckMate関連コホートでは、腫瘍エクソームデータからHLAタイピングが行われた。HLAアミノ酸の頻度、発現レベル、ハプロタイプのコーディングについては付録に詳述されている。

統計解析は、まずMSK-IMPACT discoveryコホート (30癌種1166例) において、HLA-A/B/Cの各ポリモルフィックアミノ酸位置 (合計216箇所) とOSとの関連を評価した。各アミノ酸位置のバリアントを0 (最も一般的でない) または1 (最も一般的) とコーディングし、両アレルからの合計スコア (0, 1, または2) を算出した。腫瘍遺伝子変異量 (TMB) で調整したCox比例ハザードモデルを用いて検定し、多重比較補正としてBonferroni補正を適用した。HLA-Aポジション161でのバリエーションが有意な関連を示した後、他のHLA-A残基の関連を評価するために条件付き解析を実施した。

HLA-A03アレルと臨床アウトカムの関連解析では、HLA-A03アレルカウント (0, 1, または2) を曝露変数とした。年齢、性別、TMB (Zスコア変換)、HLA-A発現レベル、祖先主成分で調整したCox比例ハザードモデルを用いた。複数の癌種を組み合わせた解析では、癌種を層別変数としてモデルに含めた。DFCI Profileコホートでは、年齢、性別、治療ライン、併用化学療法、祖先主成分で調整した。CheckMate-009、CheckMate-010、CheckMate-025、および JAVELIN Renal 101試験 (ClinicalTrials.gov番号 NCT02684006) では、治療群とHLA-A03アレルカウントの交互作用を評価した。客観的奏効割合 (ORR) の比較にはχ²検定を用いた。TCGAコホートでは、HLA-A03がICI治療に特異的な予測マーカーであるかを確認するため、非ICI治療患者における予後効果を評価した。最後に、全ICI治療患者3335例を対象に、固定効果メタ解析を実施し、HLA-A*03の全体的な効果量と異質性を評価した。統計解析はRバージョン4.0.2を用いて行われた。