• 著者: Takahiro Kamada, Yosuke Togashi, Christopher Tay, et al.
  • Corresponding author: Shimon Sakaguchi (Osaka University, WPI-IFReC); Hiroyoshi Nishikawa (National Cancer Center Research Institute, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: PNAS
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-04-26
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31028147

背景

抗PD-1療法(ニボルマブなど)は、多種多様な固形癌に対して有効な治療法として確立されている。しかし、一部の患者では治療開始後に腫瘍が急速に増大する「過増悪(Hyperprogressive Disease, HPD)」と呼ばれる逆説的な現象が報告されており、そのメカニズムは未解明であった Topalian et al. NEnglJMed 2012Brahmer et al. NEnglJMed 2012。HPDは奏効例の陰に隠れて見落とされがちであり、その発生頻度、メカニズム、およびリスク因子についてはほとんど不明であった Hodi et al. NEnglJMed 2010。FoxP3+ 制御性T細胞(Treg)は、腫瘍微小環境における免疫抑制の主要な担い手であり、CD4+エフェクターT細胞やCD8+ T細胞と同程度にPD-1を発現することが知られている。しかし、抗PD-1療法がTregに及ぼす機能的影響、特にTregのPD-1シグナル遮断がHPDと関連する可能性については、これまで詳細な検証が不足しており、このギャップが残されている。

目的

本研究の目的は、ニボルマブ投与を受けた進行胃癌(GC)患者におけるHPDの発生頻度と臨床的特徴を前向きに評価することである。さらに、HPD患者と非HPD患者の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)におけるTreg(特にPD-1+ エフェクター制御性T細胞 (eTreg))のKi67陽性率を比較し、抗PD-1療法がTregの増殖および免疫抑制機能に及ぼす影響をin vitro、in vivo、およびマウス遺伝子欠損モデルを用いて多角的に検証することを目指した。

結果

進行胃癌患者の11.1%でHPDが発生し、そのうち3名は20–65日以内に死亡: 36名の進行胃癌患者のうち4名(11.1%)がHPDの基準を満たした。HPD患者の腫瘍体積は、治療後中央値42日間で2倍以上増大した。4名のHPD患者のうち3名は、治療開始後20日、43日、65日で腫瘍増悪により死亡した(Table S2)。非HPD患者(32名)では、ニボルマブによる腫瘍増大速度の加速は認められなかった。HPD患者の1例(case 3)ではMDM2遺伝子増幅が認められたが、他のHPD患者では特定の遺伝子変異は同定されなかった(Fig. 1A, Table S2)。この結果は、HPDが特定の遺伝子変異に限定されないことを示唆している。

HPD患者ではPD-1+ eTregのKi67陽性率が上昇し、非HPD患者では有意に低下: TILのFr.Ⅱ(eTreg)は、腫瘍浸潤CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞とほぼ同程度の高いPD-1発現を示した(Fig. 1D, E)。ニボルマブ治療後、HPD患者ではKi67+ eTreg(PD-1+)の比率が有意に増加(p<0.01)した一方、非HPD患者では有意に低下(p<0.01)した(Fig. 2B)。この結果は、非HPD患者ではニボルマブがCD8+ T細胞のKi67を増加させ腫瘍排除に寄与するのに対し、HPD患者ではeTregが増殖し免疫抑制が優勢になる可能性を示唆した。PD-1+ eTregはPD-1− eTregよりもCTLA-4およびKi67が高値であり、より強い活性化状態にあることが示された(Fig. 3A, B)。HPD患者の腫瘍生検では、治療後にFoxP3+ CD4+ T細胞の数が増加していることが免疫組織化学染色によって確認された(Fig. 2C)。

In vitroにおいてニボルマブはeTregの増殖を増強し、CD8+ T細胞の抑制を促進する: 精製したPD-1+ eTregをニボルマブ存在下で培養すると、Ki67+ FoxP3+細胞の比率が有意に増加(p<0.01)した(Fig. 4C)。ニボルマブ処理したeTregによるCTV標識CD8+ T細胞の増殖抑制能は、対照群と比較して有意に増強された(p<0.01)(Fig. 4A, B)。PD-L1 Fc IgによるPD-1結合はPD-1+ eTregの増殖を抑制し、そこへ抗PD-1 mAbを添加すると増殖が回復した(Fig. 4D)。この実験では、PD-1+ eTreg細胞の増殖が約1.5-fold increaseした(Fig. 4D)。これらの結果は、PD-1シグナルがeTregに対して抑制的に作用しており、その遮断がTregの活性化と増殖を促進することを示唆した。

PD-1欠損Tregはより強い抑制活性を持ち、in vivoで腫瘍増大を促進する: Treg細胞特異的PD-1欠損マウス(CD4Cre × PD-1floxedマウス)では、Ki67+ Tregのみが増加し(TconvおよびCD8+ T細胞に変化なし)、PD-1欠損Tregの抑制活性は野生型Tregよりも有意に高値であった(Fig. 5C, D)。特に、Ki67+ Treg細胞の割合は野生型マウスと比較して約2.5-fold increaseした(p<0.05)。B16F0腫瘍モデルにおいて、PD-1欠損Tregを持つCD4Cre × PD-1floxedマウス(n=5 mice)では腫瘍増大が加速した(野生型と比較してp<0.05)(Fig. 6B)。野生型B16F0モデルへのPD-1欠損Treg転入でも腫瘍増大が増強され、抗PD-1 mAb投与による野生型Tregへの影響でも同様の腫瘍増大が再現された(Fig. 6C)。PD-1欠損Treg細胞を養子移入したマウスでは、腫瘍体積が対照群と比較して約2.5倍に増大した(p<0.05)。

HPD患者のeTregはCTLA-4、OX-40、CCR4を高発現しており、追加標的の候補となる: HPD患者のeTreg(vs CD4+/CD8+ Tconv)では、CTLA-4、OX-40、CCR4 (C-C chemokine receptor type 4) が際立って高発現していた(Fig. S7)。CTLA-4はTreg機能の核心的分子であり、OX-40は活性化Treg、CCR4は腫瘍浸潤に関与する分子として知られている。これらの分子は、HPDにおけるTregの機能を規定し、治療標的候補として位置付けられる。

考察/結論

本研究は、抗PD-1療法による癌の急速増悪(HPD)の分子メカニズムとして、PD-1+ eTregの増殖促進と免疫抑制活性の増強という新規機構を実証した。PD-1ブロッキングがエフェクターT細胞の活性化とTregの増殖促進という双方向性に働くという発見は、臨床的奏効とHPDという対極の治療アウトカムを、患者内のエフェクターT細胞とTregのバランスで説明する理論的枠組みを提供した。進行胃癌患者におけるHPDの発生頻度11.1%と、それに伴う短期死亡(20–65日)という結果は、HPDが患者予後に深刻な影響を及ぼすことを示している。HPDリスク予測バイオマーカーとして、eTregのKi67増加やPD-1+ eTreg比率が有望であることが示唆される。

先行研究との違い: これまでの研究では、PD-1阻害が主にエフェクターT細胞の活性化を介して抗腫瘍免疫を増強すると考えられていたが、本研究はPD-1阻害がTreg細胞の増殖と免疫抑制活性も増強するという、これまでとは対照的な側面を明らかにした。

新規性: 本研究で初めて、PD-1阻害がPD-1陽性eTreg細胞の増殖を促進し、その結果として抗腫瘍免疫を圧倒することでHPDを引き起こす可能性を、ヒト臨床検体、in vitro実験、およびマウスモデルを用いて多角的に実証した。PD-1欠損Treg細胞がin vivoで腫瘍増大を促進するという発見は、PD-1シグナルがTreg細胞の機能に抑制的に働いているという新規の知見である。

臨床応用: 本知見は、HPDのリスクが高い患者群を特定し、個別化された治療戦略を開発するための臨床的意義を持つ。HPD患者のeTregに高発現していたCTLA-4、OX-40、CCR4を標的とする抗体療法(例:抗CTLA-4抗体との併用や選択的Treg除去療法)が、HPDリスク患者におけるPD-1ブロッキングの増強策となりうる可能性を提示した。例えば、Larkin et al. NEnglJMed 2015が報告したニボルマブとイピリムマブの併用療法は、Treg細胞の枯渇を介してHPDを減少させる可能性があり、臨床現場での応用が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、HPD患者におけるTreg細胞の優先的な増殖を誘導する腫瘍微小環境の特異的な因子(例:アデノシン、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼなど)を特定することが残されている。また、大規模なコホート研究によるHPDのバイオマーカーのさらなる検証と、HPDを効果的に検出・治療するための新規戦略の開発が今後の研究方向性として挙げられる。本研究のlimitationとして、HPD患者のサンプル数が少ない点が挙げられる。

方法

本研究では、ニボルマブ(1–3mg/kgを2週間ごとに投与)による治療を受けた36名の進行胃癌患者を対象とした。ベースライン時およびニボルマブ2コース後に腫瘍生検を採取した。HPDは、治療失敗までの期間(TTF)が2ヶ月未満、かつ腫瘍増大速度が2倍以上加速、かつ腫瘍体積増加が50%を超えるものと定義した。TILの解析には、CD3、CD4、CD8、CD25、CD45RA、FoxP3、Ki67、CTLA-4、OX-40、CCR4、CD127、CD215に対するフローサイトメトリーを用いた。FoxP3+ Tregは、CD45RAおよびCD25の発現レベルに基づいて3つの分画に分類した。すなわち、Fr.Ⅰ(CD45RA+CD25low ナイーブ型)、Fr.Ⅱ(CD45RA−CD25high eTreg)、Fr.Ⅲ(CD45RA−CD25low 活性化T細胞)である。各分画におけるPD-1の発現を評価した。

In vitro実験では、ニボルマブ存在下でPD-1+ eTregと抗CD3/28抗体を用いてTregの増殖(Ki67陽性率)および免疫抑制活性(CTV標識CD8+ T細胞の増殖抑制)を評価した。また、PD-L1 Fc IgによるPD-1+ Tregの増殖抑制効果と、抗PD-1 mAbによるその回復効果を検証した。統計解析にはStudent t-testを用いた。

マウス実験では、Treg細胞特異的にPD-1を欠損させたCD4Cre (CD4-Cre recombinase) × PD-1floxed (PD-1遺伝子をloxPサイトで挟んだ) マウス(C57BL/6J系統)を用いて、B16F0腫瘍モデルにおける腫瘍増殖とTregの抑制活性を評価した。さらに、野生型B16F0モデルにPD-1欠損Tregを養子移入し、抗PD-1療法がTreg機能に及ぼす影響を解析した。これらの実験において、各群n=4-5 miceで実施し、結果の有意差はp<0.05を基準とした。