• 著者: Moshe Sade-Feldman, Yunxin J. Jiao, Jonathan H. Chen, Michael S. Rooney, Michal Barzily-Rokni, Jean-Pierre Eliane, Stacey L. Bjorgaard, Marc R. Hammond, Hans Vitzthum, Shauna M. Blackmon, Dennie T. Frederick, Mehlika Hazar-Rethinam, Brandon A. Nadres, Emily E. Van Seventer, Sachet A. Shukla, Keren Yizhak, John P. Ray, Daniel Rosebrock, Dimitri Livitz, Viktor Adalsteinsson, Gad Getz, Lyn M. Duncan, Bo Li, Ryan B. Corcoran, Donald P. Lawrence, Anat Stemmer-Rachamimov, Genevieve M. Boland, Dan A. Landau, Keith T. Flaherty, Ryan J. Sullivan, Nir Hacohen
  • Corresponding author: Ryan J. Sullivan; Nir Hacohen (Massachusetts General Hospital Cancer Center and Broad Institute of MIT and Harvard, Boston/Cambridge, MA, USA)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29070816

背景

免疫チェックポイント阻害 (CPB) 療法、具体的にはイピリムマブ (抗CTLA-4抗体)、ペムブロリズマブおよびニボルマブ (抗PD-1抗体)、アテゾリズマブ (抗PD-L1抗体) は、転移性メラノーマ患者の15-40%において長期的な奏効をもたらす。しかし、治療抵抗性や初期奏効後の疾患進行は依然として主要な死亡原因であるとRobert et al. NEnglJMed 2015Herbst et al. Nature 2014によって報告されている。CPB療法の効果は、細胞傷害性CD8+ T細胞 (CTL) が腫瘍抗原を主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) クラスI複合体(重鎖とβ2ミクログロブリン、B2Mから構成される)上で認識することに依存する。B2Mは、全てのHLAクラスI複合体の組み立てと、腫瘍細胞による抗原の安定的な提示に不可欠な因子であるとPardoll et al. NatRevCancer 2012などで示されている。

CPBに対する奏効と抵抗性のメカニズムを深く理解し、より効果的な予測バイオマーカーを開発することは、進行性疾患の早期発見と、長期奏効を誘導する新たな治療戦略の確立を可能にする。これまでに、メラノーマにおけるCPB奏効の臨床的予測因子として、変異量やネオアンチゲン量、PD-L1発現などが同定されており、PD-L1発現は治療患者の選択に実用的に用いられている。前治療サンプルでは、IFN-γ経路遺伝子の欠損が抗CTLA-4療法に対する一次抵抗性のメカニズムとして同定された。さらに、後治療サンプルでは、JAK1、JAK2、およびB2Mの変異が、抗PD-1療法を受けた3人のメラノーマ患者において獲得抵抗性のメカニズムとして最近提唱された。

しかし、これらの先行研究は単一の治療法に限定されており、大規模なコホートでの検証が不足していた。また、ほとんどの患者において、異なるCPBに対する奏効の欠如や抵抗性の根拠は未解明のままであった。本研究は、異なるCPB療法が腫瘍集団に与える強い免疫圧力が、腫瘍が免疫破壊を回避するための共通の抵抗性メカニズムの選択につながるという仮説に基づいている。この知識ギャップを埋めるため、複数のCPB療法を受けたメラノーマ患者の経時的サンプルを解析し、一次および獲得抵抗性の共通機序を同定し、大規模な独立コホートでその臨床的関連性を検証することが残された課題であった。

目的

本研究の目的は、複数の免疫チェックポイント阻害 (CPB) 療法を受けた転移性メラノーマ患者の経時的な腫瘍サンプルを詳細に解析することにより、CPBに対する一次抵抗性および獲得抵抗性の共通メカニズムを同定することである。さらに、同定されたメカニズムの臨床的関連性を、抗CTLA-4療法および抗PD-1療法を受けたメラノーマ患者の2つの大規模かつ独立したコホートにおいて検証し、そのバイオマーカーとしての可能性と新たな治療戦略開発への示唆を得ることを目指す。特に、主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) クラスI抗原提示に不可欠なβ2ミクログロブリン (B2M) の不活性化が、CPB抵抗性の共通メカニズムであるという仮説を検証する。

結果

B2M変異の同定とケーススタディ (Pat208): CPB治療後に進行した患者5例のうち、Pat208の経時的生検サンプルを詳細に解析した。248個の変異のうち、疾患進行期にのみ高頻度で存在し、ヘテロ接合性消失 (LOH) を伴う変異はB2Mのみであった (Fig 1b)。具体的には、B2Mのエキソン1にp.Leu13fsとp.Ser14fsの2つのフレームシフト変異を同定した。これらの変異は進行期サンプルでのみ確認され、Sangerシーケンスで検証された。さらに、染色体15のB2M遺伝子座に重複する単一の欠失イベントが全ての進行期サンプルで観察され、これはフレームシフト変異の獲得に先行していた (Fig 1c)。系統発生学的解析は、2つの抵抗性サブクローンが独立してB2M欠失を獲得したことを示唆した。免疫組織化学 (IHC) では、Pat208の抵抗性獲得後に腫瘍特異的なB2Mタンパク質レベルの劇的な低下が確認され、HLAクラスIの細胞膜局在も消失していた (Fig 1d)。これにより、CD8+ TIL (tumor-infiltrating lymphocyte) の劇的な減少が伴っていた (Fig 2b)。

他の患者におけるB2M異常: PatT33では、イピリムマブに1年間奏効後進行したサンプルにおいて、B2Mのp.Ser14fs (癌細胞の50-90%) およびp.Gly63fs (癌細胞の70-90%) の2つのフレームシフト変異が検出された。TCGAデータ解析により、Ser14がB2M変異のホットスポットであり、全てのB2M変異が4塩基のジヌクレオチドリピート領域に局在することが示され、DNAミスマッチ修復 (MMR) 障害の可能性が示唆された。Pat99 (抗PD-1療法後に進行) では、全てのサンプルでB2M LOHが認められ、進行期にはB2Mタンパク質の発現喪失が確認された (Fig 3b)。非応答者であるPat25およびPat115もB2M LOHを保持しており、Pat25ではB2Mタンパク質の発現喪失が全てのサンプルで観察された (Fig 3c)。これらの患者では、HLAクラスIが細胞質に局在しており、細胞膜への輸送障害が示唆された。また、Pat208のB2Mフレームシフト変異およびPat99のB2M LOHは、血漿中のcell-free DNAからも検出可能であった (Supplementary Fig. 15)。本研究の17例の患者コホートにおいて、5例 (29.4%) がB2Mの欠損を示した。

IFN-γ経路および抗原提示経路の他の変異: JAK1のLOHは6例 (2例の非応答者、2例の抵抗性患者、1例の応答者、およびB2Mフレームシフト変異も持つPatT33を含む) で検出された。JAK2のLOHは10例 (4例の非応答者、3例の抵抗性患者、3例の応答者) で検出され、IFNGR1のLOHは5例 (3例の非応答者、1例の抵抗性患者、1例の応答者) で検出された。STAT1、STAT2、TAP1、TAP2などの他の抗原提示経路関連遺伝子の変異も検出されたが、これらは進行期サンプルに限定されず、応答者と非応答者の両方に存在したため、B2Mほどの特異性は示さなかった。

検証コホートにおけるB2M異常の臨床的関連性 (Van Allenコホート): 抗CTLA-4療法を受けたメラノーマ患者105例のコホートにおいて、3例の非応答者でB2Mフレームシフト変異とLOHが同時に確認され、B2Mの完全な機能喪失に至っていた。応答者ではB2M変異は認められなかった。B2M LOHは非応答者で有意に濃縮されており (20/69, 28.9% vs 4/36, 11.1%、片側フィッシャー正確検定 p=0.03)、全生存期間の不良と有意に関連していた (ログランク検定 p=0.01) (Figure 4c)。

検証コホートにおけるB2M異常の臨床的関連性 (Hugoコホート): 抗PD-1療法を受けたメラノーマ患者38例のコホートにおいても、B2M LOHは全生存期間の不良と有意に関連していた (ログランク検定 p=0.006) (Figure 4d)。B2M LOHの割合は非応答者で29.4% (n=5/17)、応答者で9.5% (n=2/21) と、本研究のコホートおよびVan Allenコホートと類似していたが、フィッシャー正確検定では統計的に有意な濃縮は示されなかった。このコホートではB2Mのヌクレオチド変異は検出されなかった。IFN-γ経路および抗原提示経路の他の遺伝子のLOHは、IFNGR1のLOHがHugoコホートでのみ全生存期間の不良と有意に関連したことを除き、非応答者での有意な濃縮や生存期間との関連は認められなかった。

NK細胞によるB2M欠損細胞の制御: マウスメラノーマモデルを用いて、B2M欠損細胞に対するNK細胞の役割を評価した。BRAF V600E; PTEN-/-メラノーマ細胞株にCRISPR/Cas9を用いてB2Mをノックアウトし、B2M+/+細胞とB2M-/-細胞を1:1で混合してn=10 miceに移植した。NK細胞を枯渇させたn=5 miceでは、B2M-/-腫瘍細胞がB2M+/+細胞と比較して有意に増加した (約2.5-fold increase)。一方、NK細胞を保持したn=5 miceでは、B2M-/-腫瘍細胞の増加が抑制された (p<0.01)。この結果は、NK細胞がB2M欠損 (HLAクラスI低発現) 腫瘍の免疫監視を担う可能性を示唆している。

考察/結論

本研究は、免疫チェックポイント阻害 (CPB) 療法に対する共通の抵抗性メカニズムとして、主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) クラスI抗原提示に必須なβ2ミクログロブリン (B2M) の機能喪失が関与することを、大規模な患者コホート(合計160例)で検証した決定的な報告である。3つの異なるコホート(複数のCPB療法を受けた17例、抗CTLA-4療法を受けた105例、抗PD-1療法を受けた38例)において、B2Mのヘテロ接合性消失 (LOH) が非応答者で応答者と比較して約3倍濃縮されており、全生存期間の不良と有意に関連することが一貫して示された。これは、B2Mの機能喪失がCPBに対する共通の抵抗性メカニズムであることを強く示唆する。

先行研究との違い: これまでの研究では、B2M変異が抗PD-1療法に対する獲得抵抗性の一因として小規模なコホートで報告されていたが、本研究は、B2MのLOHがより頻繁なB2M異常の形態であり、抗CTLA-4療法と抗PD-1療法の両方に対する抵抗性に関与することを大規模コホートで初めて示した点で、これまでの知見と対照的である。また、B2MのLOHが非応答者で有意に濃縮され、生存不良と関連するという臨床的意義を、複数の独立コホートで検証した点は新規性がある。

新規性: 本研究で初めて、B2Mの機能喪失がCPB抵抗性の「進化的に最適な」逃避経路であるという機序的統合像を提示した。すなわち、免疫編集とCPBの選択圧の下で、B2M LOHが生じ、残ったB2Mアレルにフレームシフト変異が導入され、最終的に両アレルが欠失することでHLAクラスIの完全な喪失に至り、CD8+ T細胞の認識を完全に回避するという段階的な経路が示された。このメカニズムは、B2Mが全てのHLAクラスI複合体に必須の共通成分であり、代替できないため、CD8+ T細胞認識の完全喪失を生むという点で、腫瘍にとって極めて有利な逃避戦略である。

臨床応用: 本知見は、いくつかの重要な臨床的意義を持つ。第一に、B2M LOHや変異は、治療前から同定可能なバイオマーカー候補であり、CPBに対する非応答や進行のリスクが高い患者を特定するのに役立つ可能性がある。第二に、cell-free DNAを用いたB2M異常のモニタリングは、低侵襲な方法で治療抵抗性の出現を早期に検出する手段となり得る。第三に、B2Mの機能喪失は、抗CTLA-4療法と抗PD-1療法の両方に共通する抵抗性メカニズムであるため、両治療法に適用可能な汎用的なバイオマーカーとなり得る。第四に、B2M欠損腫瘍はHLAクラスI発現が低いため、NK細胞による認識を受けやすくなる可能性がある。したがって、NK細胞活性化を標的とする治療法(例えば、放射線やDNA損傷剤によるNKG2Dリガンドの誘導、IL-15アゴニストなど)は、B2M欠損腫瘍に対する救済戦略として臨床応用が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、第一に、B2M変異やLOHが一次抵抗性および獲得抵抗性のどの程度の割合を説明するのかをさらに詳細に評価する必要がある。第二に、遺伝的変異によらないB2Mの喪失(エピジェネティックな抑制や転写後制御など)の頻度とメカニズムを解明する必要がある。特に、ヘテロ接合性のB2M状態におけるエピジェネティックな転写抑制の役割は未解明である。第三に、他の抗原提示経路やIFN-γ経路の変異との相互作用についても、さらなる研究が必要である。最後に、NK細胞活性化リガンド誘導療法(放射線、DNA損傷剤、IL-15アゴニストなど)とCPBとの併用療法の有効性を臨床試験で検証することが、残された重要な課題である。本論文は、その後の免疫療法耐性研究とNK細胞標的治療開発の基盤となった重要な研究である。

方法

患者コホートとサンプル収集: 転移性メラノーマ患者17例から49個の経時的腫瘍生検サンプル(および対応する血液サンプル)を収集した。このうち10例はCPBに初期奏効を示し、5例は耐久性のある奏効、5例は最終的に進行、7例は非応答者であった。サンプルはベースライン時およびCPB治療後に採取された。

全エクソームシーケンス (WES) およびRNAシーケンス: 新鮮凍結腫瘍および対応する正常血液サンプルから抽出したDNAを用いてWESを実施した。最小カバレッジは腫瘍サンプルで150倍、正常サンプルで80倍であった。RNAシーケンスは全トランスクリプトームキャプチャー法を用いて実施し、各サンプルあたり5000万リードを目標とした。遺伝子発現解析には、Dobin et al. Bioinformatics 2013およびLi et al. BMCBioinformatics 2011を用いてTPM (Transcripts Per Million) 値を算出した。

変異解析: 体細胞単一ヌクレオチド変異 (SSNV) および挿入・欠失 (INDEL) は、Strelka、VarDict、Mutectのコンセンサス投票アルゴリズムを用いて検出した。少なくとも2つの検出器によってコールされた変異のみを採用した。変異の癌細胞分画 (CCF) はABSOLUTEを用いて推定し、腫瘍のploidy、purity、絶対DNAコピー数も算出した。系統発生学的関係はPhyloWGSを用いて再構築した。

ネオアンチゲン負荷の計算: POLYSOLVERを用いてHLA型を推定し、NetMHCPanを用いてネオアンチゲン結合予測を行った。強い結合性および弱い結合性のネオアンチゲンを定義し、ネオアンチゲン負荷を算出した。

免疫組織化学 (IHC): ホルマリン固定パラフィン包埋切片を用いて、B2M、メラノーマカクテル (HMB45/MART-1/Tyrosinase)、HLAクラスI ABC、CD8、CD4に対する抗体でIHC染色を実施した。B2M発現スコアは、腫瘍細胞分画における発現レベルに基づき、minimal (0-10%)、low (10-50%)、intermediate (50-80%)、high (80-100%)の4段階で評価した。CD8+およびCD4+ T細胞の腫瘍浸潤は、Schindelin et al. NatMethods 2012画像処理ソフトウェアの細胞カウンター機能を用いて手動で定量した。

cell-free DNA (cfDNA) 解析: 血液サンプルからcfDNAを抽出し、ddPCR (droplet digital PCR) を用いてB2Mフレームシフト変異およびLOHの検出を試みた。

検証コホート:

  1. Van Allenコホート: 抗CTLA-4療法前の生検サンプル (n=105評価可能患者) を含む。26例の応答者、69例の非応答者、10例の長期生存者(客観的臨床奏効なし)で構成された。
  2. Hugoコホート: 抗PD-1療法前の生検サンプル (n=38患者) を含む。21例の応答者、17例の非応答者で構成された。 両コホートのWESデータは、本研究のコホートと同じパイプラインを用いて解析された。

統計解析: B2M LOHの非応答者と応答者における濃縮の統計的有意性は、比較的小規模なサンプルサイズとデータのカテゴリ的性質を考慮し、片側フィッシャー正確検定 (Fisher’s exact test) を用いて評価した。全生存期間の差は、コホート間の生存データを比較するためによく用いられるログランク検定 (log-rank test) を用いて評価した。

マウスモデル: BRAF V600E; PTEN-/-トランスジェニックマウス由来のメラノーマ細胞株にCRISPR/Cas9技術を用いてB2Mをノックアウトした。B2M+/+細胞とB2M-/-細胞を1:1で混合してマウスに皮内移植し、抗NK1.1抗体によるNK細胞枯渇の有無で、B2M欠損細胞の増殖に対するNK細胞の役割を評価した。使用したマウスはC57BL/6系統であった。