- 著者: Skoulidis F, Goldberg ME, Greenawalt DM, Hellmann MD, Awad MM, Gainor JF, Schrock AB, Hartmaier RJ, Trabucco SE, Gay L, Ali SM, Elvin JA, Singal G, Ross JS, Fabrizio D, et al.
- Corresponding author: John V. Heymach, MD, PhD (MD Anderson Cancer Center, Houston, TX); Lee A. Albacker, PhD (Foundation Medicine, Cambridge, MA)
- 雑誌: Cancer Discovery
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29773717
背景
KRAS変異は肺腺癌 (LUAC) において最も頻度の高い発癌ドライバーであり、全LUACの約25%を占める。長年、KRAS直接標的療法は困難とされてきたため、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) が主要な治療オプションとして期待されてきた。PD-1/PD-L1阻害薬は非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療に革命をもたらしたが、実際にはKRAS変異NSCLCの過半数で有効性が認められず、一次耐性の予測バイオマーカーの同定が急務であった。この領域には依然として未解明な部分が多く、治療効果を予測する新たな指標が不足していた。
著者らは以前のゲノム解析で、KRAS変異LUACをSTK11/LKB1共変異 (KL)、TP53共変異 (KP)、K-onlyの3つの生物学的サブグループに分類し、それぞれが異なる腫瘍微小環境 (TME) プロファイルを持つことを報告した (Skoulidis et al. Cancer Discov 2015)。STK11/LKB1は、AMPK (AMP活性化キナーゼ) の上流マスターキナーゼとして、細胞代謝、エネルギーセンシング、極性形成、および増殖抑制を調節するがん抑制遺伝子である。STK11/LKB1の不活化は、マウスモデルおよびヒト腫瘍においてCD8+T細胞の腫瘍内浸潤を低下させ、中性球優位の「免疫砂漠 (immune desert)」型TMEを形成することが前臨床的に示唆されていた (Koyama et al. Cancer Res 2016)。このSTK11/LKB1喪失による「cold tumor化」がPD-1阻害薬への一次耐性を引き起こすという仮説が提唱されていたが、大規模かつ多コホートでの検証はこれまで報告されていなかった。特に、PD-L1発現や腫瘍変異負荷 (TMB) といった既存のバイオマーカーだけでは、KRAS変異LUACにおけるICIの効果を十分に予測できないという知識ギャップが残されていた。本研究は、このギャップを埋めることを目的とした。PD-1/PD-L1阻害薬の有効性は、PD-L1発現やTMBと相関することが報告されているが (Rizvi et al. Science 2015; Reck et al. NEnglJMed 2016)、これらのバイオマーカーは万能ではなく、特にKRAS変異LUACにおいてはその予測能に限界があることが指摘されていた。本研究は、この未解明な領域に焦点を当て、STK11/LKB1変異がKRAS変異LUACにおけるPD-1阻害薬耐性の主要なゲノムドライバーであるという仮説を検証することを目的とした。
目的
本研究の目的は、KRAS変異肺腺癌 (LUAC) 患者において、以下の点を明らかにすることである。(1) STK11/LKB1 (KL) およびTP53 (KP) 共変異サブグループ別にPD-1阻害薬の奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) を評価し、その差異を明らかにすること。(2) STK11/LKB1変異が腫瘍変異負荷 (TMB) およびPD-L1発現といった既存のバイオマーカーに対してどのように作用するかを詳細に解析すること。(3) STK11/LKB1変異がKRAS変異LUACにおけるPD-1阻害薬への一次耐性の独立した主要なゲノムドライバーであることを、複数の臨床コホートおよび前臨床マウスモデルを用いて実証すること。これらの目的を達成することで、KRAS変異LUAC患者における免疫チェックポイント阻害薬の治療効果予測を向上させ、個別化された治療戦略の確立に貢献することを目指した。特に、PD-L1発現やTMBといった従来のバイオマーカーでは捉えきれない、KRAS変異LUACにおけるPD-1阻害薬への一次耐性の分子メカニズムを解明し、より精密な患者層別化に資する新規バイオマーカーを確立することが重要な目的であった。
結果
KLサブグループにおけるPD-1阻害薬への極めて低い奏効率 (ORR) の多施設一致: SU2Cコホート全体において、PD-1阻害薬に対するORRは、KLサブグループで7.4% (4/54例) であったのに対し、KPサブグループでは35.7% (20/56例)、K-onlyサブグループでは28.6% (18/63例) と、KLサブグループで有意に低い結果を示した (P<0.001、Fisher’s exact検定)。この低奏効率は、各施設においても一貫して再現された。具体的には、MDACCではKL 9.1% vs KP 36.4%、MSKCCではKL 9.1% vs KP 38.1%、DFCI/MGHではKL 4.8% vs KP 31.3%であった。さらに、CheckMate-057試験のnivolumab群におけるKRAS変異サブセット (n=24) でも、KLサブグループは0/6例 (0%) と奏効が全く見られなかったのに対し、KPサブグループでは4/7例 (57.1%) が奏効し、K-onlyサブグループでは18.2%の奏効率を示した (P=0.047)。一方、docetaxel群ではKLとKPサブグループ間でORRに有意差は認められず (P=0.65)、この耐性がICIに特異的であることが示唆された (Figure 1A, B, C)。
PFSおよびOSにおける著明な差異: SU2CコホートにおけるPFSは、3つのサブグループ間で有意差が認められた (P=0.0018)。KLサブグループの患者は、KRAS変異かつSTK11/LKB1野生型 (KPおよびK-onlyを統合) の患者と比較して、有意に短いPFSを示した (HR 1.87、95% CI 1.32-2.66、P<0.001)。OSについても3つのサブグループ間で有意差があり (P=0.0045)、KLサブグループのmOSは6.4ヶ月であったのに対し、KPサブグループは16.0ヶ月、K-onlyサブグループは16.1ヶ月であった。STK11/LKB1変異を有する腫瘍と野生型腫瘍を比較すると、OSはSTK11/LKB1変異群で有意に短縮していた (HR 1.99、95% CI 1.29-3.06、P=0.0015)。多変量解析においても、KRASサブグループ分類は独立したOS予測因子であることが示された (P=0.00055)。CheckMate-057試験のnivolumab群では、KLサブグループのmOSは3.6ヶ月と極めて短く、docetaxel群では両サブグループ間で有意差がなかったことから、免疫療法特異的な予後不良が確認された (Figure 2A, B)。
TMB高値・PD-L1陽性であっても効果が期待できないKL腫瘍の独自性: FMIの924例のLUACゲノムプロファイリング解析において、STK11/LKB1変異は、TMB中間値/高値 (≥10 mut/Mb) かつPD-L1陰性 (TPS<1%) の腫瘍において有意に多く認められた (調整P<0.001)。PD-L1発現とTMBの組み合わせ解析では、STK11/LKB1変異はTMB中間値/高値でありながらPD-L1陰性の腫瘍に最も顕著に濃縮されていた。このことは、KL腫瘍がTMBが高くてもPD-L1陰性となる傾向があり、PD-L1発現とTMBがSTK11/LKB1耐性機序によって独立して調節されることを示唆する。したがって、PD-L1やTMB単独での予測が不十分であり、STK11/LKB1の評価がKRAS変異LUACにおける免疫療法効果予測に不可欠であることが実証された (Figure 4A, B, C)。さらに、PD-L1陽性 (≥1%) の非扁平上皮NSCLC患者66例のMDACCコホートにおいて、STK11/LKB1変異腫瘍は野生型腫瘍と比較してORRが有意に低く (0% vs 34.5%、P=0.026) (Figure 5A)、PFS (HR 4.76、95% CI 2.0-11.1、P=0.00012) およびOS (HR 14.3、95% CI 3.4-50.0、P<0.0001) も著しく短縮していた (Figure 5C, D)。これは、STK11/LKB1変異がPD-L1発現とは部分的に独立してPD-1/PD-L1阻害薬への耐性を予測することを示している。
STK11/LKB1タンパク喪失の付加的予後影響: SU2CコホートのサブセットにおけるSTK11/LKB1タンパク発現のIHC評価では、STK11/LKB1変異を有さない腫瘍の17.6%にSTK11/LKB1タンパク喪失 (H-score=0) が認められた。この「STK11/LKB1機能喪失」グループ (変異例とタンパク喪失例を統合、n=61) は、変異単独のグループよりもさらに不良なPFS (HR 1.80、95% CI 1.15-2.82、P=0.0094) およびOS (HR 2.03、95% CI 1.13-3.65、P=0.016) を示した (Figure 3B)。この結果は、STK11/LKB1の機能喪失が変異だけでなくタンパク発現レベルでも生じ、IHCによる評価がゲノム解析を補完する価値を持つことを示唆している。
マウスモデルでの因果関係の実証: KrasG12D変異マウス肺腺癌モデルにおいて、Stk11/Lkb1の同時欠損はPD-1/PD-L1阻害薬に対する耐性を誘導することが確認された。Kras変異単独 (Stk11/Lkb1野生型) モデルではPD-1阻害薬への感受性が維持されていたことから、STK11/LKB1機能喪失が免疫療法耐性の直接的な原因 (因果的ドライバー) であることが示された。LKR13細胞株を用いた実験では、Stk11/Lkb1欠損LKR13KO腫瘍は抗PD-L1抗体治療後も増殖が継続した (Figure 6A)。Stk11/Lkb1欠損腫瘍では、Stk11/Lkb1野生型腫瘍と比較してCD3+CD8+T細胞の浸潤が低下しており、非T細胞炎症性の腫瘍免疫微小環境が形成されることが示唆された (Figure 6A, B)。
考察/結論
本研究は、STK11/LKB1変異がKRAS変異肺腺癌 (LUAC) においてPD-1阻害薬に対する一次耐性の最も重要なゲノムドライバーであることを、SU2Cコホート、CheckMate-057第III相試験、およびFMIゲノムデータベースという3つの独立した臨床データ源と、さらにマウスモデルを用いた前臨床実験によって初めて実証した。
新規性: 本研究で初めて、STK11/LKB1変異がKRAS変異LUACにおけるPD-1阻害薬への一次耐性の主要なゲノムドライバーであることを、複数の大規模コホートと前臨床モデルで一貫して示した。これは、これまでの免疫チェックポイント阻害薬のバイオマーカー研究とは異なる、新規かつ重要な知見である。
先行研究との違い: 従来のPD-L1発現やTMBは免疫療法の効果予測に用いられてきたが、本研究の結果は、TMBが高値であっても、PD-L1が陽性であっても、STK11/LKB1変異を有する腫瘍はPD-1阻害薬に反応しないという点で、これまでの知見と対照的である。これは、PD-L1発現やTMBを主要なバイオマーカーとして構築されてきた免疫療法の患者選択アルゴリズムが、KRAS変異LUACにおいては不十分であることを明確に示した。
臨床応用: 本知見は、KRAS変異LUAC患者における免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 治療の適応精度を大幅に向上させ、STK11/LKB1変異を有する患者を無効な免疫療法から転換させ、より適切な治療戦略へと導く可能性を秘めている。ゲノムプロファイリングとSTK11/LKB1状態の評価を組み合わせることで、個別化された治療戦略の確立に貢献できる。また、本研究では非変異によるSTK11/LKB1タンパク喪失例もPD-1耐性を示すことが示されたため、変異検出だけでなく、IHCによるタンパク発現評価が補完的な価値を持つことも明らかになった。これは、臨床現場でのバイオマーカー検査の選択肢を広げる上で重要な含意を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、STK11/LKB1をバイオマーカーとする前向き臨床試験での検証 (例: KRAS G12C阻害薬のCodeBreak-200試験におけるサブグループ解析など) が必要である。また、STK11/LKB1喪失による免疫抑制的な微小環境を逆転させる戦略として、STINGアゴニスト、インターフェロン (IFN) 経路活性化剤、中性球機能調節薬などとICBの組み合わせが今後の治療開発の方向性として探索されるべきである。本研究の限界として、SU2Cコホートが後向き・多施設の統合解析であるため、治療レジメンの多様性やサンプルサイズの制約が存在する点が挙げられる。特にCheckMate-057のKRASサブセットは少数 (n=44) であり、統計的検出力に限界があった。
方法
本研究では、複数の独立したコホートを用いて、KRAS変異LUACにおけるSTK11/LKB1変異とPD-1阻害薬耐性の関連を評価した。
SU2Cコホート: Stand Up To Cancer (SU2C) の枠組みで、MD Anderson Cancer Center (MDACC)、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC)、Dana-Farber/Brigham and Women’s (DFCI/BWH)、Massachusetts General Hospital (MGH) の4施設から後向きに同定されたKRAS変異LUAC患者174例を対象とした。これらの患者はPD-1/PD-L1阻害薬による治療歴を有していた。患者はゲノムプロファイリングに基づき、STK11/LKB1変異を有するKLサブグループ (n=54、31%)、TP53変異のみを有するKPサブグループ (n=56、32%)、および両遺伝子野生型のK-onlyサブグループ (n=64、37%) の3つに分類された。変異の判定にはFoundation Medicine社 (FMI) の次世代シークエンシング (CGP、324遺伝子パネル) が用いられた。主要評価項目はORR、PFS、およびOSであり、サブグループ間で比較された。
CheckMate-057サブセット解析: 進行非扁平上皮NSCLCを対象としたnivolumabとdocetaxelを比較する第III相無作為化臨床試験 (NCT01673867) のKRAS変異患者44例のサブセット解析を実施した。このうちnivolumab群は24例、docetaxel群は20例であった。サブグループの内訳はKLが6例、KPが7例、K-onlyが22例、データ不明が9例であった。ここではOSおよびORRのサブグループ間比較が行われた。
FMIゲノムプロファイリング: Foundation Medicine社の商業的ゲノムプロファイリングデータベースから、KRAS変異を有するLUAC患者924例を同定した。このコホートを用いて、各サブグループにおけるTMB (変異負荷量) とPD-L1発現 (免疫組織化学 [IHC] 法) のプロファイルを評価した。TMBはmutations/Mb単位で測定され、低値 (<6)、中間値 (6-20)、高値 (≥20) に分類された。PD-L1発現は、腫瘍細胞膜の染色強度に基づいてPD-L1陰性 (<1%)、低陽性 (1-49%)、高陽性 (≥50%) に分類された。
STK11/LKB1タンパク発現 (IHC): SU2Cコホートのサブセットにおいて、STK11/LKB1タンパク発現をIHCで評価した。H-scoreが0の症例をタンパク喪失と定義し、STK11/LKB1変異非保有例におけるタンパク喪失率を評価した。これにより、「STK11/LKB1機能喪失」グループ (変異例とタンパク喪失例を含む) を構成し、その予後影響を検討した。
マウスモデル: KrasG12D変異とStk11/Lkb1欠損を組み合わせたマウス肺腺癌モデルを用いて、PD-1/PD-L1阻害薬投与実験を実施した。これは、STK11/LKB1機能喪失が免疫療法耐性を直接的に促進するかどうかという因果関係を検証することを目的とした。LKR13およびLKR10細胞株のStk11/Lkb1欠損アイソジェニック誘導体を作成し、免疫担当マウスに皮下移植後、抗PD-L1または抗PD-1抗体を投与し、腫瘍増殖と免疫細胞浸潤を評価した。
統計解析: ORRの比較にはFisher’s exact検定を用いた。PFSおよびOSの解析にはKaplan-Meier法とログランク検定を適用し、ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) はCox比例ハザードモデルを用いて算出した。多重比較を考慮し、Bonferroni補正済みP値も使用した。P値が0.05以下を統計的に有意と判断した。