- 著者: Gary Middleton, Kristian Brock, Joshua Savage, Rhys Mant, Yvonne Summers, John Connibear, Riyaz Shah, Christian Ottensmeier, Paul Shaw, Siow-Ming Lee, Sanjay Popat, Colin Barrie, Gloria Barone, Lucinda Billingham
- Corresponding author: Gary Middleton (Institute of Immunology and Immunotherapy, University of Birmingham, Birmingham, UK)
- 雑誌: Lancet Respiratory Medicine
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-03-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 32199466
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の約30-40%は、ECOG Performance Status (PS) 2に分類される。PS2の患者は、日常活動の50%以上は可能であるが、労働は不可能であり、起きている時間の半分は臥床せずに過ごすことができる状態である。しかし、これらの患者は主要な臨床試験から除外されることが多く、治療に関するエビデンスが著しく不足している点が長年の課題であった。PS2の患者では、全身状態の悪化により化学療法の毒性が増大し、その効果も限定的であることが知られている。例えば、PS2患者を対象とした過去の試験では、カルボプラチンとペメトレキセド併用療法のOS中央値が9.3ヶ月と報告されているが、これはPS0-1患者と比較して不良な成績である。
近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) であるペムブロリズマブは、PD-L1陽性NSCLC患者において標準治療としての地位を確立した。例えば、PD-L1 TPS ≥50%のPS0-1患者を対象としたKEYNOTE-024試験では、プラチナ併用化学療法と比較してペムブロリズマブ単剤療法がOSを大幅に改善し (OS中央値30ヶ月 vs 14.2ヶ月)、第一選択薬として推奨されるようになった。また、PD-L1 TPS ≥1%のPS0-1患者を対象としたKEYNOTE-001試験では、既治療患者におけるOS中央値が10.5ヶ月、5年OS率が15.5%と報告されている。しかし、これらの画期的な試験は全てPS0-1の患者を対象としており、PS2の患者におけるペムブロリズマブの有効性と安全性は未解明であった。
PS2患者におけるICI治療のデータは、後方視的観察研究やサブグループ解析に限られており、その結果は一貫していない。一部の報告では、PS2患者のICI治療後の予後が不良である可能性が示唆されているものの、これらの研究は選択バイアスや交絡因子の影響を受けやすいという限界があった。例えば、Passaro et al. JClinOncol 2019は、PS2 NSCLC患者における免疫療法のデータが「乏しいエビデンス」に基づいていると指摘し、前向き試験の必要性を強調している。また、Felip et al. EurJCancer 2020によるCheckMate 171試験では、既治療の扁平上皮NSCLC患者にニボルマブが投与され、PS2患者の忍容性はPS0-1患者と同程度であったものの、OSは劣る傾向が示されたが、PD-L1発現別の解析は行われていなかった。これらの先行研究では、PS2患者におけるペムブロリズマブの有効性と安全性に関する堅牢なデータが不足しており、特にPD-L1発現レベル別の層別化された評価はこれまで報告されていない。
このような背景から、PS2の進行NSCLC患者に特化した前向き臨床試験の実施は、喫緊の課題であった。本研究であるPePS2試験は、PS2のNSCLC患者を対象にペムブロリズマブ単剤療法の有効性と安全性を評価することを目的とした世界初の第2相単アーム試験であり、PD-L1発現レベル別に層別化された解析を行うことで、この治療がこの脆弱な患者集団にとって適切な選択肢となり得るかを検証するものである。特に、PS2患者における化学療法の忍容性が低いことを考慮すると、より忍容性の高い治療選択肢の確立は、臨床現場において極めて重要である。
目的
本研究の目的は、ECOG PS2の進行NSCLC患者に対するペムブロリズマブ単剤療法の有効性および安全性を前向きに評価することである。主要評価項目として、治療開始後18週時点でのDurable Clinical Benefit (DCB) 率と治療関連毒性の発生率を設定した。DCBは、完全奏効 (CR)、部分奏効 (PR)、または安定病変 (SD) が治療開始後18週目 (2回目のCTスキャン時) まで継続することと定義された。治療関連毒性は、治療関連の用量遅延または有害事象による治療中止の発生と定義された。副次評価項目として、客観的奏効割合 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、奏効期間 (DOR)、安定病変期間 (DOSD)、および安全性 (CTCAE v4.0に基づく有害事象の評価) を評価した。さらに、PD-L1腫瘍細胞における発現割合 (TPS) 別 (<1%、1-49%、≥50%) および治療ライン別 (一次治療、二次治療以降) のサブグループ解析を実施し、ペムブロリズマブの有効性と安全性の層別化された評価を行うことを目指した。本研究は、PS2 NSCLC患者におけるペムブロリズマブの臨床的有用性に関するエビデンスを確立することを意図する。
結果
患者背景: 2017年1月4日から2018年2月13日までに、112例の適格性評価が行われ、62例が登録された。そのうち60例が主要評価項目および副次評価項目の評価対象となった (Figure 1)。データカットオフは2019年3月8日であり、追跡期間中央値は10ヶ月であった。患者の年齢中央値は72歳 (IQR 65-75) であり、55%が男性、45%が女性であった。組織型は腺癌が68%、扁平上皮癌が20%、その他が12%であった。PD-L1 TPSは、<1%が45% (n=27)、1-49%が25% (n=15)、≥50%が25% (n=15) であり、3例 (5%) は不明であった。治療ラインは、一次治療が40% (n=24)、二次治療以降が60% (n=36) であった。Charlson併存疾患指数は、8-10の患者が55%と最も多く、PS2の原因として併存疾患が寄与していることが示唆された。ベースラインのEQ-5D-5L視覚的アナログスコア中央値は53%であり、PS0-1患者と比較してQOLが低いことが示された。患者は治療サイクル中央値4.5サイクル (IQR 2.0-12.8) を受けた。
主要評価項目 (DCB): 全患者60例中22例 (37%、95% CI 26-49) でDCBが達成され、事前規定された閾値 (25%) を超えた。これにより、ペムブロリズマブはPS2 NSCLC患者において有効性があると判断された。ベイズ統計学的手法による事後確率は、DCB率が25%を超える確率が0.98であり、帰無仮説は棄却された。PD-L1発現レベル別のDCB率は、TPS <1%群で22% (95% CI 11-41)、TPS 1-49%群で47% (95% CI 25-70)、TPS ≥50%群で53% (95% CI 30-75) であった。PD-L1発現とDCB率の間には有意な線形関係が認められた (trend test p=0.013)。一次治療患者におけるDCB率は38% (95% CI 21-57)、二次治療以降の患者では36% (95% CI 22-52) であり、治療ラインによる大きな差は認められなかった (Table 2, Figure 2)。
主要評価項目 (治療関連毒性): 治療関連毒性は17例 (28%、95% CI 19-41) で観察された。このうち、用量遅延によるものが11例 (18%)、治療中止によるものが6例 (10%) であった。治療関連毒性の発生率中央値は2.6ヶ月であった。ベイズ推定による毒性発生率は28% (95%信用区間 17.4-39.5) であり、真の毒性発生率が30%未満である確率は67%であった。Grade 3-4の治療関連有害事象は10例 (17%) で発生し、主なものは疲労 (5%)、下痢 (3%)、肺臓炎 (3%)、皮疹 (3%) であった。重篤な治療関連有害事象は5例 (8%) であった。治療関連死は報告されなかった。免疫関連有害事象 (irAE) としては、甲状腺機能異常 (低下症10%、亢進症5%) が最も多く、Grade 3-4の肺臓炎が3%、Grade 3の肝炎が2%であった。治療中止につながった治療関連有害事象は7%であった。ステロイドを要するirAEは20%で発生したが、ほとんどがGrade 1-2であり管理可能であった。ハイパープログレッションに起因する早期死亡は認められなかった。
客観的奏効割合 (ORR): 全患者におけるORRは27% (95% CI 16-40) であった。PD-L1発現レベル別では、TPS <1%群で11% (95% CI 4-28)、TPS 1-49%群で33% (95% CI 15-58)、TPS ≥50%群で47% (95% CI 25-70) であった。確定PRが15例、CRが1例であった。奏効までの期間中央値は2.1ヶ月であり、奏効期間中央値は14.6ヶ月 (95% CI 5.8-NR) であった。
無増悪生存期間 (PFS): 全患者におけるPFS中央値は4.4ヶ月 (95% CI 3.3-9.9) であり、6ヶ月PFS率は38%、12ヶ月PFS率は27%であった。PD-L1発現レベル別では、TPS <1%群で3.7ヶ月 (95% CI 2.1-6.0)、TPS 1-49%群で8.3ヶ月 (95% CI 3.5-NR)、TPS ≥50%群で12.6ヶ月 (95% CI 1.9-NR) と、PD-L1発現が高いほどPFSが延長する傾向が認められた (Figure 4A)。
全生存期間 (OS): 全患者におけるOS中央値は9.8ヶ月 (95% CI 7.1-14.6) であり、6ヶ月OS率は62%、12ヶ月OS率は42%、2年OS率は27%であった。PD-L1発現レベル別では、TPS <1%群で8.1ヶ月 (95% CI 4.5-13.0)、TPS 1-49%群で12.6ヶ月 (95% CI 7.9-NR)、TPS ≥50%群で14.6ヶ月 (95% CI 4.6-NR) であった (Figure 4B)。このPS2集団におけるOS成績は、過去の化学療法対照試験 (OS中央値5-7ヶ月) と比較して良好な結果であった。例えば、Zukin et al. JClinOncol 2013によるPS2 NSCLC患者を対象とした化学療法試験では、カルボプラチンとペメトレキセド併用療法のOS中央値が9.3ヶ月であったのに対し、本研究のペムブロリズマブ単剤療法ではOS中央値9.8ヶ月 (95% CI 7.1-14.6) と、同等以上の成績を示した。
サブグループ解析: 治療ラインによるDCB率に大きな差は認められなかった (一次治療38% vs 二次治療以降36%)。PS2の原因 (全身状態の低下 vs 併存疾患) による効果の差も小さかった。組織型別、年齢別、脳転移の有無別でも、ペムブロリズマブの一貫した効果が示された。脳転移を有する患者でもDCB率は36%であった。
考察/結論
PePS2試験は、ECOG PS2の進行NSCLC患者に対するペムブロリズマブ単剤療法の有効性と安全性を前向きに評価した世界初の第2相試験である。本研究の主要な所見は以下の通りである。
新規性: 本研究で初めて、PS2の進行NSCLC患者においてペムブロリズマブ単剤療法が、許容可能な安全性プロファイルを有し、かつ臨床的に意義のある有効性を示すことを実証した。特に、PD-L1 TPS ≥50%の患者では、DCB率53% (95% CI 30-75) およびOS中央値14.6ヶ月 (95% CI 4.6-NR) という良好な成績が得られ、これはPS0-1患者を対象とした過去の試験データ (例: KEYNOTE-024のOS中央値30ヶ月) と比較しても遜色ない結果であった。このことは、PS2患者であってもPD-L1高発現であれば、ペムブロリズマブが有効な治療選択肢となり得ることを示唆する。
先行研究との違い: 従来の臨床試験ではPS0-1の患者のみが対象とされ、PS2患者に対するICIのデータは限られていた。本研究は、PS2患者に特化し、厳格なPS評価基準を設けることで、このアンメットメディカルニーズの高い集団におけるペムブロリズマブの真の有効性と安全性を評価した点で、これまでの研究とは一線を画す。例えば、Zukin et al. JClinOncol 2013によるPS2 NSCLC患者を対象とした化学療法試験では、カルボプラチンとペメトレキセド併用療法のOS中央値が9.3ヶ月であったのに対し、本研究のペムブロリズマブ単剤療法ではOS中央値9.8ヶ月 (95% CI 7.1-14.6) と、同等以上の成績を示した。また、Grade 3-4の治療関連有害事象の発生率が17%であり、PS2患者における化学療法で報告される30-50%と比較して忍容性が良好であった点も、これまでの治療選択肢と対照的である。治療関連死がゼロであったことも特筆すべき点である。
臨床応用: 本研究の結果は、PS2のNSCLC患者、特にPD-L1 TPS ≥50%の患者において、ペムブロリズマブ単剤療法が第一選択肢として考慮されるべきであるという強力な科学的根拠を提供する。PD-L1 TPS <1%の患者においてもDCB率22% (95% CI 11-41) と限定的ではあるが、代替治療 (支持療法や単剤化学療法) と比較して優れる可能性があり、個々の患者の状態に応じた個別化された治療判断が求められる。PS2患者は、全身状態の低下や併存疾患の存在により、有害事象の重症化リスクが高い異質な集団であるが、本試験ではPS2の原因 (performance低下 vs 併存症) による効果差が小さく、幅広いPS2患者でペムブロリズマブの適応可能性が示唆された。これらの知見は、国際的な診療ガイドライン (ESMO、NCCN) におけるPS2 NSCLC患者の治療推奨に影響を与え、臨床現場での治療選択肢を拡大する上で重要な臨床的意義を持つ。
残された課題: 本研究にはいくつかの限界が存在する。第一に、単アーム試験であるため、直接的な比較対照群がなく、ペムブロリズマブの優位性を統計学的に証明することはできない。第二に、60例というサンプルサイズは、サブグループ解析、特にPD-L1発現レベル別の詳細な解析において検出力が限定的となる可能性がある。第三に、患者報告アウトカム (QOL) データは本報告では詳細に議論されていない。第四に、長期追跡データ (3年以上) が不足しており、ペムブロリズマブの長期的な効果と安全性についてはさらなる検討が必要である。第五に、症候性脳転移を有する患者は除外されており、このサブグループにおけるペムブロリズマブの有効性は不明である。最後に、PS2の原因の定義が主観的である可能性も指摘される。今後の検討課題として、PS2患者におけるペムブロリズマブと化学療法の比較試験、あるいはペムブロリズマブと化学療法の併用療法 (例: IPSOS試験におけるアテゾリズマブと化学療法の比較) の評価、およびQOLを主要エンドポイントとする試験の実施が重要である。
方法
本研究は、英国の10施設で実施された多施設共同、単アーム、非盲検の第2相臨床試験 (PePS2試験、ClinicalTrials.gov: NCT02733159、EudraCT: 2015-002241-55、ISRCTN: 10047797) である。
患者選択基準: 18歳以上の組織学的または細胞学的に確定診断されたステージIIIB/IVのNSCLC患者を対象とした。ECOG PS2の厳格な評価が必須であり、PS2の状態が少なくとも2週間安定していることを確認した。PS評価は医師によって行われた。EGFR遺伝子変異およびALK融合遺伝子陰性であること、測定可能病変を有すること (RECIST v1.1)、およびステロイドの全身投与量がプレドニゾロン換算で10 mg/日以下であることが条件とされた。治療歴は問わず、一次治療から三次治療以降の患者が含まれた。除外基準には、症候性脳転移、活動性自己免疫疾患、間質性肺疾患、過去2年以内に全身治療を要する自己免疫疾患の既往などが含まれた。PD-L1発現は、Merck, Sharp & Dohme社が承認した22C3抗体を用いた検査で評価された。PD-L1 TPSが評価不能な場合は、再生検が必須とされたが、それでも評価不能な場合は試験に含めることが可能であった。
治療プロトコル: ペムブロリズマブ200 mgを3週間ごとに30分かけて静脈内投与した。治療は最長2年間 (35サイクル) または疾患進行、許容できない毒性、患者の同意撤回まで継続された。用量調整やサイクル遅延は、プロトコルに規定された毒性管理ガイドラインに従って許可された。治療前評価には、病歴、臨床診察、臨床検査、CTスキャンによる腫瘍評価が含まれた。CT評価は9週間ごとに実施され、RECIST v1.1に基づき奏効が評価された。治療中止後も、患者は6ヶ月間は4週間ごと、その後は12週間ごとに追跡調査された。
評価項目:
- 主要評価項目:
- Durable Clinical Benefit (DCB): RECIST v1.1に基づき、完全奏効 (CR)、部分奏効 (PR)、または安定病変 (SD) が治療開始後18週目 (2回目のCTスキャン時) まで継続することと定義された。
- 治療関連毒性: 治療関連の用量遅延または有害事象による治療中止の発生と定義された。
- 副次評価項目: 客観的奏効割合 (ORR、RECIST v1.1によるCRまたはPR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、奏効期間 (DOR)、安定病変期間 (DOSD)、および安全性 (CTCAE v4.0に基づく有害事象の評価) が含まれた。患者報告アウトカム (QOL) は、FACT-LおよびEQ-5D-5L (EuroQol quality of life questionnaire with five domains and five levels) 質問票を用いて各サイクル開始時に評価された。
統計解析: 主要評価項目であるDCBと毒性の発生率は、連結ロジスティック回帰モデルを用いたベイズ統計学的手法により同時に推定された。DCBのモデルには、PD-L1 TPS (<1%、1-49%、≥50%) と治療ライン (一次治療、二次治療以降) のカテゴリカル共変量が含まれた。毒性のモデルには共変量は含まれず、全てのコホートで均一な毒性を仮定した。ベイズ推定では、事後確率分布の中央値と95%信用区間が真の発生率の推定値として用いられた。DCBの臨床的意義のある閾値は10%超、毒性の閾値は30%未満と設定され、DCB発生率が10%超である確率が0.70以上、毒性発生率が30%未満である確率が0.90以上であれば治療は成功と判断された。副次評価項目であるPFSおよびOSは、カプラン・マイヤー曲線を用いて記述され、中央値と95%信頼区間が推定された。ORRはウィルソン法を用いて95%信頼区間とともに発生率として報告された。全ての解析は、Rバージョン3.5.2を用いて実施された。