- 著者: Satouchi M, Okamoto I, Sakai H, Yamamoto N, Ichinose Y, Ohmatsu H, Nogami N, Takeda K, Mitsudomi T, Kasahara K, Negoro S, Nishio M, Katakami N, Gemma A, Fukuoka M, Nakagawa K
- Corresponding author: Miyako Satouchi (Hyogo Cancer Center, Akashi, Japan)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2013
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 23545279
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) は、新規治療薬、特に分子標的薬の開発にもかかわらず、依然として予後不良な疾患である。初回治療として、溶媒ベースのパクリタキセル (sb-P) とカルボプラチン (C) の併用療法は世界的に広く用いられてきた重要な治療選択肢の一つであり、特に扁平上皮癌患者においてその有用性が報告されている Sandler et al. NEnglJMed 2006。しかし、sb-Pに含まれるCremophor EL溶剤は、過敏症反応や末梢神経障害などの重篤な毒性リスクを伴うことが知られており、これらの副作用を軽減するためにステロイドや抗ヒスタミン剤の前投薬が必須であった。これらの溶剤関連の毒性は、新たなパクリタキセル製剤の開発を促進する主要な要因であった。
アルブミン結合パクリタキセル (nab-P) は、130 nmのアルブミン粒子と結合したパクリタキセル製剤であり、Cremophor ELを含まないため、生理食塩水に容易に溶解し、短時間 (30分) で投与が可能であるという利点を持つ。これにより、溶剤関連の過敏症反応を予防するための前投薬が不要となる。この特性は、従来のパクリタキセル製剤の臨床的課題を克服する可能性を秘めていると考えられた。
nab-PとCの併用療法 (nab-PC) とsb-PとCの併用療法 (sb-PC) の有効性および安全性を比較する大規模な国際多施設共同第III相試験 (CA031試験) が実施された Socinski et al. JClinOncol 2012。この試験は、日本を含む6カ国で実施され、nab-PC群がsb-PC群と比較して、主要評価項目である全奏効率 (ORR) において統計学的に有意な優位性を示した (33% vs 25%, 奏効率比 1.313, p=0.005)。また、無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) においてもnab-PC群で良好な傾向が認められた。しかし、CA031試験の全体集団は中央ヨーロッパおよび東欧の患者が多くを占めており、日本人やアジア人患者のデータは限定的であった。人種間のEGFR変異率の違いなど、地域差が臨床成績に影響を与える可能性が指摘されており、特にアジア人集団におけるEGFR-TKIの有効性が示されている Shepherd et al. NEnglJMed 2005、Thatcher et al. Lancet 2005。そのため、日本人集団におけるnab-PCの有効性と安全性プロファイルを詳細に評価する必要性が認識されていたが、この点についてはまだ未解明な部分が多かった。特に、日本人患者に特有の患者背景(例:腺癌の割合の高さ、EGFR変異率の可能性)が治療成績にどのように影響するかについての詳細なデータが不足していた。
本研究では、CA031試験に登録された日本人患者のサブセット解析を実施し、weekly nab-PC療法の日本人進行NSCLC患者に対する有効性と安全性に関する知見を深めることを目的とした。特に、先行研究で報告された末梢神経障害の軽減効果が日本人患者においても同様に観察されるか、また、日本人集団に特有の患者背景が治療成績にどのように影響するかを評価することは、今後の臨床現場における治療選択において重要な情報となる。
目的
国際第III相CA031試験に登録された日本人進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象とした事前計画済みサブセット解析を実施し、weekly nab-paclitaxel (nab-P) + carboplatin (C) 併用療法と3週ごとsolvent-based paclitaxel (sb-P) + C併用療法の有効性 (全奏効率 [ORR]、無増悪生存期間 [PFS]、全生存期間 [OS]) および安全性プロファイルを評価することを目的とした。特に、日本人患者におけるnab-PCの末梢感覚神経障害に対する影響を詳細に検討し、全体集団の結果との比較を通じて、日本人集団における治療の最適化に資するデータを提供することを目指した。また、組織型別の有効性についても探索的に解析し、扁平上皮癌患者におけるnab-PCの潜在的な臨床的有用性を評価することも目的とした。この解析を通じて、日本人患者におけるnab-PCの最適な位置付けを明確にし、個別化医療の推進に貢献することを目指した。
結果
患者背景: 日本人サブセット149例 (nab-PC群74例、sb-PC群75例) の患者背景因子は、両群間で良好にバランスが取れていた (Table 1)。中央年齢はnab-PC群で65.0歳、sb-PC群で64.0歳であった。男性患者が全体の68%を占め、喫煙歴のある患者が多数であった。組織型では腺癌が76%と最も多く、次いで扁平上皮癌が11%であった。病期はStage IVが72%を占めていた。全体集団と比較して、日本人患者は非扁平上皮NSCLCの割合が高く、EGFR変異率も高い可能性が示唆された。ECOG Performance Status 0の患者はnab-PC群で47%、sb-PC群で48%であり、全体集団の23%と比較して高い割合であった。
全奏効率 (ORR): 主要評価項目であるORRは、nab-PC群で35% (95% CI 24.3-46.0%)、sb-PC群で27% (95% CI 16.7-36.7%) であった。奏効率比 (RR) は1.318 (95% CI 0.810-2.143) であり、nab-PC群で数値的に高い奏効率が認められた (Table 2)。この結果は、CA031試験の全体集団で報告されたORR (nab-PC群33% vs sb-PC群25%) と一貫した傾向を示した。
無増悪生存期間 (PFS): PFS中央値は、nab-PC群で6.9ヶ月 (95% CI 5.4-8.3ヶ月)、sb-PC群で5.6ヶ月 (95% CI 5.4-6.9ヶ月) であった。ハザード比 (HR) は0.845 (95% CI 0.539-1.325) であり、nab-PC群で約1.3ヶ月のPFS延長が数値的に認められた (Table 2, Fig. 2A)。この傾向は、全体集団のPFS中央値 (nab-PC群6.3ヶ月 vs sb-PC群5.8ヶ月、HR 0.902, 95% CI 0.77-1.05, p=0.214) と同様であった。
全生存期間 (OS): OS中央値は、nab-PC群で16.7ヶ月 (95% CI 12.2-22.3ヶ月)、sb-PC群で15.9ヶ月 (95% CI 11.2-n/cヶ月) であった。HRは0.930 (95% CI 0.608-1.425) であり、nab-PC群で約0.8ヶ月のOS延長が数値的に認められた (Table 2, Fig. 2B)。CA031試験の全体集団のOS中央値 (nab-PC群12.1ヶ月 vs sb-PC群11.2ヶ月) と比較して、日本人集団では両群ともに約4~5ヶ月長いOSが観察された。これは、日本人患者のEGFR変異率の高さや、二次治療としてのEGFR-TKIへのアクセスが影響している可能性が示唆された。
組織型別ORR: 扁平上皮癌サブグループにおけるORRは、nab-PC群で50% (95% CI 18.7-81.3%)、sb-PC群で43% (95% CI 9.9-81.6%) であり、nab-PC群で数値的な優位性が認められた (Table 3)。非扁平上皮癌サブグループでは、nab-PC群で33% (95% CI 21.3-44.3%)、sb-PC群で25% (95% CI 14.7-35.3%) であった。全体集団のCA031試験で扁平上皮癌のORR (41.0%) が非扁平上皮癌 (26.0%) より高いという傾向は、日本人サブセットでも同様に観察された。
Grade ≥ 3有害事象プロファイル: Grade 3以上の治療関連有害事象の発生率はTable 4に示されている。nab-PC群では、Grade 3以上の貧血が32% vs sb-PC群9% (p<0.001)、血小板減少が14% vs sb-PC群3% (p=0.016) と有意に高頻度で認められた。一方、好中球減少はnab-PC群69% vs sb-PC群75%とsb-PC群で高い傾向にあったが、統計学的な有意差はなかった (p=0.582)。
特筆すべきは、Grade 3以上の末梢感覚神経障害の発生率がnab-PC群で3% vs sb-PC群13% (p=0.032) と、nab-PC群で有意に低率であった点である。Grade 2以上の末梢感覚神経障害もnab-PC群18% vs sb-PC群39%とnab-PC群で低かった。脱毛症 (nab-PC群93% vs sb-PC群83%)、疲労 (nab-PC群74% vs sb-PC群67%)、食欲不振 (nab-PC群69% vs sb-PC群72%)、悪心 (nab-PC群68% vs sb-PC群52%)、関節痛 (nab-PC群42% vs sb-PC群68%)、筋肉痛 (nab-PC群29% vs sb-PC群60%) など、他の非血液学的有害事象は両群で同程度か、sb-PC群で高い傾向が見られた。治療関連死亡は両群ともに認められなかった。有害事象による治療中止率はnab-PC群で21%、sb-PC群で28%であった。nab-PC群における貧血の大部分は輸血を必要とせず解決した (11%の患者が1回、1%の患者が2回の輸血を必要とした)。
考察/結論
本サブセット解析では、日本人進行NSCLC患者において、weekly nab-PC療法がq3w sb-PC療法と比較して、ORR、PFS、OSのいずれにおいても数値的に良好な傾向を示し、国際第III相CA031試験の全体集団の結果と一貫性のあるものであった。この結果は、日本人患者に対するnab-PC療法の有効性を支持するものである。
先行研究との違い: これまでのsb-Pを用いた治療では、Cremophor ELに起因する過敏症反応や末梢神経障害が大きな課題であった。本研究で示されたように、nab-PC群でGrade 3以上の末梢感覚神経障害がsb-PC群の13%に対し3%と有意に低率であったことは、従来のパクリタキセル製剤と異なり、nab-P製剤が神経毒性を大幅に軽減できることを明確に示している。これは、神経毒性が患者の長期的なQoLに大きく影響する細胞障害性化学療法において、臨床的に非常に重要な利点である。特に、日本人集団における神経感受性の高さを考慮すると、実臨床での大きなメリットとなる。
新規性: 本研究は、国際第III相試験の日本人サブセット解析として、nab-PC療法の日本人進行NSCLC患者における詳細な有効性および安全性プロファイルを本研究で初めて報告したものである。特に、日本人患者のOSが全体集団より長い傾向 (nab-PC群16.7ヶ月 vs 全体集団12.1ヶ月) が見られた点は新規の知見であり、これは日本人集団における腺癌の割合の高さ (76% vs 全体集団49%)、PS 0の患者割合の高さ (48% vs 全体集団23%)、および二次治療としてのEGFR-TKI (gefitinibやerlotinibなど) の到達率の高さ (85% vs 全体集団54%) を反映している可能性が高い。これは、日本独自の治療環境と患者背景が治療成績に影響を与えることを示唆する重要な所見である。
臨床応用: 本解析結果に基づき、nab-PC 100 mg/m² weekly + カルボプラチンAUC 6 q3wは、日本人進行NSCLC患者の一次治療選択肢として2013年に日本で承認された。特に、末梢神経障害のリスクを避けたい症例や、Cremophor ELに対する過敏症リスクの高い症例において、nab-PCは重要な治療選択肢として臨床現場で定着した。また、扁平上皮癌サブグループにおいてもnab-PC群で数値的なORRの優位性が認められており、アンメットメディカルニーズが高い扁平上皮癌患者に対する新たな治療選択肢となる可能性が示唆される。
残された課題: 一方で、nab-PC群ではGrade 3以上の貧血 (32%) や血小板減少 (14%) がsb-PC群と比較して高頻度であった。これは、weekly投与スケジュールによる骨髄抑制の蓄積が原因である可能性があり、高齢者や腎機能低下患者では慎重なモニタリングと用量調整が必要となる。今後の検討課題として、免疫チェックポイント阻害薬との併用療法におけるnab-PCの役割、高齢者サブグループにおける最適な用量とスケジュール、およびbevacizumabとの併用療法の是非などが挙げられる。また、本研究はサブセット解析であり、サンプルサイズが小さいため、扁平上皮癌におけるnab-PCの明確な優位性を確立するためには、より大規模な検証試験が必要であるというlimitationがある。
方法
本研究は、国際多施設共同ランダム化オープンラベル第III相CA031試験 (ClinicalTrials.gov Identifier: NCT00540514) の日本人サブセット解析である。CA031試験は、米国、ロシア、日本、ウクライナなど6カ国で実施された。対象患者は、組織学的または細胞学的に確認された測定可能病変を有する未治療のStage IIIBまたはIVのNSCLC患者であった。主要な適格基準として、ECOG Performance Status (PS) が0または1、推定余命が12週以上であることが求められた。症候性脳転移を有する患者、またはNCI-CTCAE version 3.0でGrade 2以上の既存の末梢神経障害を有する患者は除外された。
患者は、nab-PC群またはsb-PC群に1:1の割合でランダムに割り付けられた。ランダム化は、病期 (IIIB/IV)、年齢 (<70歳/≥70歳)、性別、組織型 (扁平上皮癌/腺癌/その他)、および地域 (北米/ロシア・ウクライナ/日本/オーストラリア) で層別化された。nab-PC群の患者には、nab-P 100 mg/m²を週1回 (Day 1, 8, 15) に30分かけて点滴静注し、その後カルボプラチン (C) をAUC 6でDay 1に投与した。sb-PC群の患者には、sb-P 200 mg/m²を3週ごとに3時間かけて点滴静注し、その後CをAUC 6でDay 1に投与した。治療は、病勢進行 (PD) または許容できない毒性が認められるまで継続された。少なくとも6サイクルまでの治療が推奨された。
本サブセット解析では、CA031試験に登録された日本人患者149例 (nab-PC群74例、sb-PC群75例) を対象とした。有効性評価の解析対象集団はITT (intent-to-treat) 集団であり、安全性評価の解析対象集団は少なくとも1回治験薬を投与された全患者 (n=147) であった。
主要評価項目は、盲検化された独立放射線科医によるRECIST version 1.0に基づく全奏効率 (ORR) であった。ORRは、確定された完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) の割合と定義された。腫瘍評価は、PDが確認されるまで6週間隔でスパイラルCTスキャンにより実施された。副次評価項目には、PFSおよびOSが含まれた。PFSは、ランダム化からPDまたはあらゆる原因による死亡までの期間と定義され、OSはランダム化からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。追跡期間終了時点でPDまたは死亡が確認されなかった患者は、最後に進行が認められなかった時点または生存が確認された時点に打ち切られた。有害事象は、NCI-CTCAE version 3.0に従って評価された。
統計解析では、PFSおよびOSの推定にはカプラン・マイヤー法が用いられ、中央値の95%信頼区間 (CI) が算出された。奏効率の比較にはフィッシャーの正確検定が用いられた。ハザード比 (HR) はコックス比例ハザードモデルを用いて算出された。扁平上皮癌および非扁平上皮癌患者におけるnab-PCとsb-PCの奏効を探索的に評価するため、レトロスペクティブなサブグループ解析も実施された。統計的有意水準は両側p値0.05と設定された。