• 著者: Giulia Galli, Alessandro De Toma, Filippo Pagani, Giovanni Randon, Benedetta Trevisan, Arsela Prelaj, Roberto Ferrara, Claudia Proto, Diego Signorelli, Monica Ganzinelli, Nicoletta Zilembo, Filippo de Braud, Marina Chiara Garassino, Giuseppe Lo Russo
  • Corresponding author: Giulia Galli (Department of Medical Oncology, Fondazione IRCCS Istituto Nazionale dei Tumori, Milan, Italy)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-09-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31526910

背景

進行非小細胞肺がん (non-small cell lung cancer, NSCLC) は全がん罹患の上位を占め、診断時年齢中央値が高く約半数が70歳以上で発症する高齢者疾患である。免疫チェックポイント阻害薬 (immune checkpoint inhibitor, ICI) は過去10年で進行NSCLCの治療体系を変革したが、登録臨床試験は70歳以上、特に80歳以上の高齢者を限定的にしか組み入れておらず、最も罹患率が高い集団でのエビデンスが構造的に不足するというギャップが存在する。

先行研究として、(i) Ferrara et al. 2017 (Cancer Treat Rev) は加齢に伴う免疫老化 (immunosenescence) — T細胞多様性低下・サイトカイン分泌減弱・炎症亢進 — がICI応答を変えうると総説し、(ii) Hurez et al. 2012 (Cancer Res) はマウスで加齢個体ではICI後の重症免疫関連有害事象 (irAE) 発生が増加すると報告、(iii) Nishijima et al. 2016 (Cancer Treat Rev) は若年と高齢でICI効果に大きな差はないがOSのHRが高齢でやや上昇する傾向を示し、(iv) Grossi et al. 2018 (Eur J Cancer) はイタリアnivolumab拡大プログラムの扁平上皮NSCLCで75歳以上の安全性を示した。これらに加え、(v) Nosaki et al. 2019 (Ann Oncol) はKEYNOTE-010/024/042のpooled解析で ≥75歳400例近くでもペムブロリズマブのOS延長を示したが、80歳以上の独立サブグループは未解明のままで議論が分かれていた。

しかし、これら先行研究では (a) 75歳/80歳カットオフ別解析が乏しく、(b) 全組織型を含むリアルワールドコホートが少なく、(c) PS・併存症等の予後因子の影響と年齢効果の分離が十分検討されてこなかった、という点で「真に高齢者特異的なICI効果」のエビデンスは何が足りなかったかが明らかであり、欠落部分の補完が必要であった。本研究はこの3点のギャップに対応し、扁平・非扁平を含む単一施設290例で年齢層別の有効性・安全性を解析し、ICI適応判断における暦年齢の位置付けを問い直す。

目的

進行NSCLC患者を年齢で <70歳・70-79歳・≥80歳の3群に層別し、(1) 奏効率 (response rate, RR) ・無増悪生存期間 (progression-free survival, PFS) ・全生存期間 (overall survival, OS) の有効性指標、(2) Grade ≥ 2の毒性発生率、(3) 多変量解析による独立予後因子を比較し、高齢NSCLC患者へのICI適応の妥当性を実臨床コホートで評価すること。

結果

患者背景と治療内訳 (Table 1):290例中、年齢中央値67歳 (範囲29-89)、男性が179例 (61.7%) と若干優勢で、現喫煙者/既往喫煙者は234例 (80.7%) を占めた。組織型は非扁平上皮NSCLC 225例 (77.6%) ・扁平上皮NSCLC 65例 (22.4%) 。PD-L1は陽性119例 (41.0%) ・陰性78例 (26.9%) ・不明93例 (32.1%) 。ECOG PSは0が108例 (37.2%) ・1が147例 (50.7%) ・2が35例 (12.1%) 、転移臓器数≥2が166例 (57.2%) 。ICI薬剤内訳は抗PD-1抗体205例 (70.7%) ・抗PD-L1抗体77例 (26.5%) ・抗CTLA-4抗体または併用療法8例 (2.8%) であった。年齢サブグループ間で多くの臨床病理学的変数は均等に分布したが、70-79歳群で男性 (p=0.0228) と扁平上皮 (p=0.0071) の比率が有意に高かった。

毒性プロファイルは年齢群間で同等:Grade ≥ 2の有害事象発生率は<70歳群26.7%、70-79歳群27.7%、≥80歳群37.5%で、3群間に有意差なし (p=0.6493) 。全集団のGrade ≥ 2発生率は27.6%。≥80歳群でわずかに高い数値傾向は症例数 (n=16) の小ささに起因する可能性があり、高齢者特異的なirAEクラスター (高度大腸炎・肺障害等) の集積は認められなかった (Table 1) 。本所見は高齢者ICI使用に対する毒性懸念を払拭する。

奏効率は年齢に依存しない:RECIST 1.1によるRRは<70歳群21.5%、70-79歳群22.3%、≥80歳群18.8%で、3群間で統計学的有意差なし (p=0.9470) 。≥80歳群でわずかに低い傾向はサンプルサイズに起因する可能性が高い。年齢を連続変数として扱った解析でも、RRは年齢と有意な関連を示さず、ICIの腫瘍縮小効果が暦年齢に左右されないことが示された。

PFS・OSも年齢と独立:全集団のmPFSは3.0か月 (95%CI 2.57-3.75) 、サブグループ別では<70歳群2.8か月、70-79歳群3.5か月、≥80歳群2.6か月で、log-rank testで有意差なし (p=0.2020) 。全集団のmOSは9.93か月 (95%CI 8.26-12.11) 、サブグループ別では<70歳群9.1か月、70-79歳群11.3か月、≥80歳群9.6か月で、ここでも有意差なし (p=0.5154、年齢連続変数での解析でもp=0.7077、log-rank p=0.9144) 。70-79歳群でわずかに長いOS傾向は男性・扁平上皮の集積による交絡の可能性があるが、性別・組織型で層別後も差は消失し (PFS p=0.516、OS p=0.5154 for gender、PFS p=0.9057、OS p=0.1002 for histology) 、頑健性が示された (Fig 1, Fig 2) 。

多変量解析で年齢でなくPSが規定因子:Cox比例ハザードモデルによる多変量解析 (n=290 cohort全例) で、PFSの独立予後因子はECOG PS (p<0.0001) と治療ライン (HR 1.345, 95%CI 1.084-1.669, p=0.0070) 、OSの独立予後因子はECOG PS (p=0.0192) と転移臓器数 (HR 1.689, 95%CI 1.136-2.539, p=0.0098) であった (Table 2) 。年齢は独立因子として残らず、PD-L1陽性は単変量ではOS良好と相関したが (HR 0.727, 95%CI 0.489-1.078, p=0.0242) 多変量では有意性が消失 (HR 0.727→non-sig) 。1次治療例のmOSは22.01か月 (95%CI 12.11-NR) 、2次治療例で7.76か月 (95%CI 5.43-9.93) 、3次治療以降で8.59か月 (95%CI 5.23-13.39) で、治療ラインHRは 1.151 (95%CI 0.888-1.492) と治療ラインがOSを大きく規定した。ECOG PS 0群のmOSは21.91か月 (95%CI 13.39-24.44) 、PS 1群で7.57か月 (95%CI 5.13-10.26) 、PS ≥2群で2.67か月 (95%CI 1.52-5.13) と、PS悪化に伴いOSが約8倍短縮しPSが最強の予後因子であることが定量的に示された。

サブグループ層別解析で年齢効果なし:性別と組織型は70-79歳群で偏っていたため層別解析を実施した結果、性別層別後のPFS (p=0.516) ・OS (p=0.5154) 、組織型層別後のPFS (p=0.9057) ・OS (p=0.1002) と、いずれも年齢効果は再現されず、本コホート (n=290) の年齢非依存性は交絡で説明されない頑健な所見であることが確認された。

考察/結論

本単施設後方視的解析は、進行NSCLC 290例において暦年齢がICIの有効性・安全性を規定しないことを明確に示した。<70歳・70-79歳・≥80歳の3群でRR (21.5/22.3/18.8%) ・mPFS (2.8/3.5/2.6か月) ・mOS (9.1/11.3/9.6か月) ・Grade ≥ 2毒性 (26.7/27.7/37.5%) のいずれも有意差なく、多変量解析でも年齢は独立予後因子として残らずECOG PS・転移臓器数・治療ラインこそが転帰を規定した。

先行研究との違い・新規な貢献:Grossiら (Eur J Cancer 2018) のイタリア拡大プログラム解析は扁平上皮NSCLCに限定し ≥75歳でOSが若年群より短縮することを報告したが、本研究の結果はそれとは異なり、全組織型・全治療ラインを含む290例で ≥80歳群でも若年群と遜色ないOSが得られた。さらにNishijimaら (Cancer Treat Rev 2016) のメタ解析はトライアル登録例中心で「真の」高齢者を反映していなかったのに対し、本研究で初めてリアルワールド単施設コホートで ≥80歳という最年長群16例の独立サブグループ解析を提示し、暦年齢それ自体ではなくPSと併存症が転帰を規定するという臨床的に重要な novel な所見を確立した。70-79歳群でわずかに長いOS傾向 (11.3か月) は男性・扁平上皮集積による交絡として説明可能で、性別/組織型による層別後に消失したことが新規な交絡調整の知見である。

臨床応用と意義:本研究の結果は、(1) 年齢を理由にICI適応を制限すべきでない、(2) ECOG PS 0-1で全身状態が保たれていれば ≥80歳でも積極的にICIを考慮すべき、(3) 高齢者で選択肢の限られる化学療法と比較してICIは毒性面でむしろ受容性が高い、という3つの臨床応用上の含意を持つ。特に高齢進行NSCLCでは化学療法の毒性が忍容性の壁となることが多く、ICIは「年齢に対する治療の壁」を下げる手段として bench-to-bedside で実装可能な戦略である。Nosakiら (Ann Oncol 2019) によるKEYNOTE-010/024/042の ≥75歳pooled解析でもペムブロリズマブが化学療法と比較しOSを延長し毒性が少ないとされており、本リアルワールドデータと方向性が一致する。

残された課題と限界:(1) ≥80歳群16例はサンプルサイズが小さく検出力に限界があるため、より大規模な多施設前向きコホートでの確認が必要、(2) ECOG PSのみで包括的高齢者評価 (geriatric assessment) を実施していないため frailty・併存症・認知機能等の影響は未評価、(3) 後方視的設計のため毒性 (特に低グレード) の過少報告と選択バイアスが残る、(4) 免疫老化マーカー (CD28 loss・CMV serostatus・炎症マーカー等) との関連は未解析、(5) 1次治療単剤・併用療法・2次治療以降の今後の検討課題は多く、KEYNOTE-024や ≥75歳サブグループ前向き試験のlong-term followが期待される、(6) limitation として施設間の患者選択基準の異質性も指摘される。総じて本研究は高齢NSCLC患者への免疫療法の妥当性を支持する重要な実臨床エビデンスを提供し、年齢ベースではなくPSベースのICI適応判断を支持する。本知見は Wolchok et al. NEnglJMed 2017 のメラノーマICI併用療法でも示された「年齢層別解析」と整合的で、Rauer et al. NEnglJMed 2019Lee et al. NatImmunol 2022 でも示唆される高齢免疫機能の特異性とあわせ、今後の高齢者ICI戦略の最適化への礎となる。

方法

研究デザイン:単施設後方視的観察コホート研究 (Istituto Nazionale dei Tumori, Milan, Italy)。2013年4月から2019年3月までに進行/転移NSCLCに対しICIを少なくとも1回投与された全連続症例を機関データベースから抽出。

患者層別化:ICI開始時年齢で <70歳・70-79歳・≥80歳の3カテゴリに層別。

評価項目:(i) Response Rate (RR) はResponse Evaluation Criteria for Solid Tumors (RECIST) 1.1で評価、(ii) 毒性はCommon Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) 5.0でグレード判定、(iii) Performance Status (PS) はECOG基準、(iv) PD-L1陽性は機関評価 (DAKO22C3 = Dako社製抗PD-L1免疫染色キット、clone 22C3、cell membrane staining ≥1%を陽性閾値とする) または治験中央評価陽性と定義。本研究はpatient-derived cohort design (n=290) で、cell line / mouse モデルは使用せず、ヒト臨床検体 (PD-L1免疫組織染色、cell membrane評価) のみで判定した。

生存解析:PFSはICI初回投与から進行または死亡 (いずれか先行) まで、OSはICI初回投与から全死因死亡まで、生存者は最終接触日でright-censor。Kaplan-Meier法で推定、log-rank testで群間比較、Cox比例ハザードモデルで多変量解析。

統計:群間比例の比較にChi-square検定またはFisher正確検定。SAS 9.4 (SAS Institute, Cary, NC, USA) で実施。

コホート構成:本研究の解析対象は290例で、<70歳 180例 (62.1%) ・70-79歳 94例 (32.4%) ・≥80歳 16例 (5.5%) の3群に分けた。