- 著者: Kyoichi Kaira, Hisao Imai, Atsuto Mouri, Ou Yamaguchi, Hiroshi Kagamu
- Corresponding author: Kyoichi Kaira (Department of Respiratory Medicine, Comprehensive Cancer Center, International Medical Center, Saitama Medical University, Saitama 350-1298, Japan)
- 雑誌: Medicina (Kaunas)
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-11-19
- Article種別: Review
- PMID: 34833490
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (immune checkpoint inhibitor, ICI; 抗PD-1/PD-L1抗体および抗CTLA-4抗体) は進行非小細胞肺がん (non-small-cell lung cancer, NSCLC) の標準治療として確立し、5年以上の長期生存例も報告されるようになった。しかし、臨床現場で頻繁に遭遇する Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Status (PS) 2-4 の患者集団については、主要なランダム化試験 (CheckMate 017/057、KEYNOTE-024/042) の登録基準が原則PS 0-1に限定されていたため、安全性・有効性のエビデンスが構造的に不足するというギャップが残されてきた。実臨床ではPS 2患者が進行NSCLCの20-30%を占めるとされ、現場での意思決定における不確実性は大きく、議論があった。
先行研究としては、(i) Gettinger et al. 2018 (J Clin Oncol、CA209-003 5年フォロー、n>129) と Garon et al. 2019 (J Clin Oncol、KEYNOTE-001 5年フォロー) でICIによる長期生存は主にPS 0-1集団に限定的に示された。(ii) Imai et al. 2020 (J Cancer Res Clin Oncol、n=47) は ≥75歳PD-L1≥50%例で1次pembrolizumabの効果を検証しPS 2-3を独立負因子と同定。(iii) Fujimoto et al. 2018 (Lung Cancer、n=613) は2次治療以降nivolumabでPS 0-1/2/3-4のORRを24/11/4%と階層化。(iv) Katsura et al. 2019 (J Cancer、n=63) はPS 0-1のmOS 412日に対しPS 2-4が32日と13倍の格差を報告。(v) Ahn et al. 2019 (J Cancer Res Clin Oncol、n=155) ・Ichiki et al. 2019 (J Thorac Dis、n=44) ・Kano et al. 2020 (Cancer Sci、n=527) はいずれもPS 2-4を独立予後不良因子と確認した。
しかし、これら先行研究では (a) PS 2と3-4を分離した分析が不十分で、(b) PD-L1発現層別のサブグループ解析が乏しく、(c) ICI耐性の機序 (代謝・宿主因子・併存症の影響) が十分検討されてこなかった、という点で「PS不良NSCLCにおけるICIの最適患者選択戦略」のエビデンスは何が足りなかったかが明確であり、欠落部分の体系化が必要であった。本レビューは2021年時点の前向き試験・後方視研究・メタ解析を統合し、PS層別・PD-L1層別・併存症の有無別での治療指針を提示する。
目的
ECOG PS 2-4の進行/再発NSCLC患者に対するICI (nivolumab、pembrolizumab、atezolizumab、ipilimumab併用等) の有効性 (ORR、PFS、OS) と安全性 (irAE発現率) を体系的にレビューし、(1) PS 2でPD-L1 ≥ 50%・<50%別の治療選択、(2) PS 3-4での治療適応の妥当性、(3) 併存症由来PS不良と腫瘍由来PS不良の区別、(4) 宿主代謝因子 (sarcopenia、BMI、FDG-PET取り込み) と治療効果の関連、を整理することを目的とする。
結果
PS 0-1群とPS 2-4群の予後格差は顕著で予測指標として最有力:Kano et al. (Cancer Sci 2020, n=527) は前向きコホート解析でPS 0-1 (n=448) vs PS 2-4 (n=79) のmPFSを4.1 vs 2.0か月 (p<0.001) 、mOSを17.4 vs 4.0か月 (p<0.001) と報告した。さらにPS別細分化では mPFSがPS 1で6.9か月、PS 2で3.5か月、PS 3-4で1.1か月と4倍の格差。Fujimoto et al. (Lung Cancer 2018, n=613) でもORRがPS 0-1/2/3-4で24/11/4%と階層的に低下。多変量解析でPS、driver mutation有無、喫煙歴が独立予後因子で、PSは複数研究で最強の負の予測因子として再現性高く同定されている (Table 1) 。
PS 2+PD-L1 ≥ 50%は1次pembrolizumabでPS 0-1と同等の効果:Kano et al. はPS 2 + PD-L1≥50% (n=11) の1次pembrolizumab mPFSを7.3か月、PS 0-1+PD-L1≥50%群 (8.1か月) との差は p=0.321 と非有意差を示した。OSも同様に到達不能 vs 16.7か月 (p=0.148) で実質同等。前向きPePS2試験 (Middleton et al. 2020, n=60 PS 2 pembrolizumab) ではPD-L1≥50% (n=15) でORR 47%、mPFS 12.6か月、mOS 14.6か月と最良成績を示し、PD-L1 1-49% (n=15) でORR 33%・mPFS 8.3か月・mOS 12.6か月、PD-L1<1% (n=27) でORR 11%・mPFS 3.7か月・mOS 8.1か月 (Table 2) と発現量依存性が再現された。Alessi et al. (J Immunother Cancer 2020, n=39 PD-L1≥50% PS≥2) でもmPFS 4.0か月・mOS 7.4か月と一致。これらから、PS 2 + PD-L1≥50% は1次pembrolizumabの強い適応として支持される。
PS 2患者の2次治療以降ICIは中等度有効:CheckMate 153 (Spigel et al. 2019, n=128 PS 2) のnivolumab 2次以降はORR 20%・mOS 4.0か月、CheckMate 171 (Felip et al. 2020, n=103 PS 2 squamous) はORR 2%・mOS 5.2か月。Kano et al. のPS 2 (PD-L1未選択) コホート (n=53) はmPFS 2.0か月、mOS 4.7か月。Fujimoto et al. のPS 2 nivolumab 2次以降 (n=94) はORR 11%・mPFS 1.2か月 (Table 2) 。Tomasik et al. 2021 メタ解析 (n=26,442) ではPS 2-4 vs PS 0-1 のpooled OR for ORR が 0.46 (95%CI 0.39-0.54) ・DCR が 0.39 (95%CI 0.33-0.48) 、HR for PFS 2.17 (95%CI 1.96-2.39) ・HR for OS 2.76と、PS不良群で約2-3倍の効果減弱・予後悪化が定量化された。Facchinetti et al. 2021 メタ解析 (n=5357) でもPS 2-4のORR 30.9%・DCR 41.5% vs PS 0-1のORR 55.2%・DCR 71.5%と、ORRが約半減することが確認された。
PS 3-4患者ではICIは非有効、BSC同等:Kano et al. のPS 3-4患者 (n=15) はmPFS 1.1か月・mOS 1.9か月、PD-L1≥50%でもmPFS 1.0か月・mOS 2.9か月と、最善支持療法 (best supportive care, BSC) の生存データと同等。Inaba-Higashiyama et al. (Thorac Cancer 2020) の3例症例集積でもPS 3例は全例pembrolizumab下で急速進行を示した。Jiménez Galán et al. (Biology 2021) ではPS 0-1 (n=不明) vs PS≥2のORRが26.1% vs 5.7% (p=0.014) 、mPFSが9.6か月 vs 1.6か月 (p<0.001) 、mOSが18.9か月 vs 2.0か月 (p<0.001) と、PS 2-4の集団全体でICIの効果が乏しいことを示した。これらは抗PD-1単剤がPS 3-4 NSCLCには非効果的でBSCと同等であることを強く示唆する。
併存症由来PS不良は腫瘍由来PS不良より予後良好で代謝・宿主因子も関与:Facchinetti et al. 2020 (Eur J Cancer, n=153 PD-L1≥50% PS 2 1次pembrolizumab) はPS不良が併存症由来 (comorbidity-related) の場合は腫瘍進行由来 (tumor-related) より有意に良好な予後を示した。代謝面では Shiroyama et al. 2019 (Sci Rep, n=42) ・Cortellini et al. 2019 (J Immunother Cancer, n=976) でsarcopenia/低BMI (body mass index, kg/m² で算出される体格指数) がICI効果減弱と相関、McQuade et al. 2018 (Lancet Oncol, n>2,000 melanoma) は高BMIがICI効果と正相関。Ichihara et al. 2020 (Lung Cancer, n=513) はBMI≥22 vs <22の2次以降ICIでmPFS 3.7 vs 2.8か月 (p=0.036) ・mOS 15.4 vs 13.5か月 (p=0.021) と高BMIで延長。Wang et al. 2019 (Nat Med) は肥満マウスで腫瘍浸潤CD8+ T細胞のPD-1発現が増加しPD-1遮断応答が増強することを示した。
ステロイド・抗菌薬・複合スコアの予後因子としての役割:Ricciuti et al. (J Clin Oncol 2019) ・Arbour et al. (J Clin Oncol 2018) はベースラインprednisone≥10mgがICI効果を有意に減弱、Krief et al. (J Immunother Cancer 2019) は早期抗菌薬使用がnivolumab OSを短縮することを報告。複合スコアとして LIPI (Lung Immune Prognostic Index = neutrophil-to-lymphocyte ratio (NLR、好中球リンパ球比) + LDH (lactate dehydrogenase、乳酸脱水素酵素) を組合せた予後スコア) 、iSEND (immune-related Score Estimating Nivolumab Durability、ニボルマブ持続性予測スコア) 、EPSILoN (ECOG PS + smoking + liver metastasis + LDH + NLR の5因子複合スコア) が予後予測に有用とされる。
FDG-PETによる代謝バイオマーカー:18F-FDG-PET (2-[18F]-fluoro-2-deoxy-D-glucose positron emission tomography、糖代謝を可視化する核医学検査) の取り込み (SUV: standardized uptake value、標準化取り込み値) もPD-L1発現およびICI効果と相関する可能性が複数研究で示唆されている。Kaira et al. (Eur J Nucl Med Mol Imaging 2018, n=85) はnivolumab前後のFDG-PET取り込み変化が早期治療応答の予測指標になり得ると報告。
Gettinger 2018 nivolumab長期フォロー試験 (BMS試験番号CA209-003 = Five-year follow-up of nivolumab in previously treated NSCLC, J Clin Oncol 2018) :BMS試験番号CA209-003はphase Iの長期フォロー試験で、進行NSCLC 129例での5年OS率を初めて報告した historical control とされる試験 (long-term survival 16% を達成) 。これはPS 0-1集団でのデータであり、本Review がPS 2-4 への ICI 応用の臨床的境界線を設定するうえでの「対照ベースライン」として位置付けられる。
安全性プロファイルと早期死亡:Facchinetti et al. 2021 メタ解析でPS 2-4 (n=1030) の irAE 発現率は 21.2%、PS 0-1 (n=4327) では 35% と PS 2-4 群で低かった (shorter exposure による経過時間の影響と解釈される) 。Grade ≥3 治療関連有害事象は CheckMate 817 で約30%、PePS2 試験で 28% と PS 0-1 と同等範囲。一方で early death (治療開始後12週以内死亡) 率は PS 3-4 で 30-50% に達し、PS 2 (10-20%) や PS 0-1 (<10%) と顕著に異なる。Santini et al. 2021 (J Transl Med, n>1,000) はICIを死亡30日以内に投与された患者の比率がPS≥2で有意に高いことを示し、PS 不良群での「無効な治療継続」がコスト・QOL両面で問題となることを強調している。
Subgroup-by-comorbidity 解析:Facchinetti 2020 (Eur J Cancer, n=153 PD-L1≥50% PS 2) の comorbidity-related vs tumor-related PS 不良の層別解析で、comorbidity-related 群の mOS は 17.7 か月 (n=82) に対し tumor-related 群は 4.5 か月 (n=71、p<0.001) と4倍の格差。Zeng et al. 2020 (Med Sci Monit, n=212) はCharlson comorbidity index (CCI、併存症指数) ≥3 群と <3 群のmOS差が中等度であり、CCI高値の PS 不良群でも適切な選択下では ICI 効果が期待できる可能性を示した。これらはPS数値だけでなく原因の評価が臨床応用上重要であることを示す根拠となる。
考察/結論
本レビューはECOG PS 2-4の進行NSCLCにおけるICI効果を体系的に整理し、(1) PS 0-1 vs PS 2-4のpooled ORR比が約2倍 (55.2% vs 30.9%) ・OS HR 2.76と確立されたエビデンスを提示しつつ、(2) PS 2+PD-L1≥50%の1次pembrolizumab適応では PS 0-1 と非有意差 (mPFS 8.1 vs 7.3か月, p=0.321) という臨床的に重要な「救済可能集団」を同定、(3) PS 3-4では ICI が BSC と同等で適応推奨に該当しない、(4) 併存症由来PS不良は腫瘍由来より予後良好で個別判断が必要、という4つの実用的指針を提示した。
先行研究との違い・新規な貢献:従来のレビュー (Su et al. 2017 Eur J Cancer など) は PS 2 NSCLC の標準治療を化学療法主体で議論したのとは異なり、本レビューはICIエビデンスの蓄積を背景に「PS と PD-L1 の二軸マトリクス」で適応を整理し、PS 2 + PD-L1≥50% を ICI 適応に取り込む novel な分類を初めて体系的に提示した。さらに本研究で初めて、宿主代謝因子 (BMI、sarcopenia、18F-FDG-PET取り込み、NLR、LIPI、iSEND、EPSILoN) を統合する形で PS の生物学的背景を解釈する枠組みが提案された。Facchinetti 2020 系の単一試験データを超え、PePS2/CheckMate 817/Kano/Fujimoto/Alessi/Tomasik/Facchinetti を統合し novel な「PS 2 + PD-L1 + 併存症」3軸モデルへと拡張した点も対照的に新規性が高い。Galli et al. の年齢層別解析 (Galli et al. LungCancer 2019) でも年齢でなくPSが予後規定であることが示され、本レビュー結論と整合的である。
臨床応用と意義:本レビューの結論は (a) PS 2 + PD-L1≥50% NSCLCに対する1次pembrolizumab使用を支持する直接的な臨床応用の根拠となる。(b) PS 3-4症例ではICIを避け緩和ケアを優先するbench-to-bedsideの判断指針を明確化。(c) 同じPS 2でも併存症由来と腫瘍由来を区別する詳細評価 (Charlson comorbidity index 等) の臨床応用が推奨される。(d) 治療選択マトリクスはガイドライン更新 (NCCN/ESMO) への素材となり得る。(e) Wolchok et al. NEnglJMed 2017 や Yarchoan et al. NEnglJMed 2017 の知見と統合することで、PD-L1以外のbiomarker (TMB、neoantigen) との関連も次の臨床応用課題となる。
残された課題と limitation:(1) PS 2 + PD-L1<1%/1-49%サブグループでの最適化はデータ不足で残された課題、(2) PS 3-4でも併存症由来でreversible なケースの予後・治療選択の今後の検討が必要、(3) 18F-FDG-PET取り込み・代謝指標とICI効果の機序的関連は今後の研究で深堀すべき、(4) ICI+化学療法併用 (KEYNOTE-189/407) のPS 2サブグループは登録数が少なく独立検証が必要、(5) サンプルサイズの小ささ (Inaba-Higashiyama 3例・Kano PS 3-4 群15例等) による検出力 limitation、(6) ナラティブレビューの limitation として系統的バイアスの可能性、(7) 2022年以降に出現したPS 2前向き試験 (例:Ipi+Nivo CheckMate 9LA など) は本レビュー時点では未統合。総じて、本レビューは「PSは年齢より重要」「PS 2 + PD-L1≥50%は治療可能集団」という重要な臨床的メッセージを提供し、今後のPS層別前向き試験の設計指針となる。
方法
レビュー設計:Narrative review (体系的レビュー手法ではなく、著者選択による文献統合)。本研究はpatient-derived clinical study reviewであり、cell line / mouse モデル直接検討は含まず、ヒトcohort結果統合のreviewである。文献選択範囲は2015-2021年のPubMed/Embase収載論文、PS 2-4のNSCLC患者を対象としたICI研究 (前向き第2/3相試験、後方視コホート、メタ解析) 。
評価軸:(i) PS階層 (0-1/2/3-4) 、(ii) PD-L1発現 (<1%/1-49%/≥50%) 、(iii) 治療設定 (1次/2次以降) 、(iv) 薬剤 (nivolumab、pembrolizumab、ipilimumab併用) 、(v) 併存症由来vs腫瘍進行由来のPS不良の区別、(vi) 宿主代謝因子 (BMI、sarcopenia、18F-FDG-PET取り込み) との関連、を統合的にレビュー。
統合対象主要試験:(a) PePS2試験 (Middleton et al. 2020, Lancet Respir Med, n=60 PS 2 NSCLC pembrolizumab) 、(b) Kano et al. 2020 Cancer Sci (n=527 retrospective) 、(c) Facchinetti et al. 2020 Eur J Cancer (n=153 PS 2-4 retrospective Italian) 、(d) Facchinetti et al. 2021 Transl Lung Cancer Res メタ解析 (1030/5357 = 19% PS 2-4) 、(e) Tomasik et al. 2021 Lung Cancer メタ解析 (26,442 patients, 67 studies) 。
統計指標:pooled odds ratio for ORR/DCR、hazard ratio for PFS/OS (95%信頼区間付き) を採用試験データから抽出。統計手法としては、各原著で報告された Kaplan-Meier 法によるmPFS/mOS、log-rank test、Cox 比例ハザードモデル多変量解析、Fisher 正確検定の結果を統合し、メタ解析部分は random-effects model による pooled estimate を採用した原著 (Tomasik 2021、Facchinetti 2021) のデータを引用した。
文献検索DB:PubMed (MEDLINE) ・Embase ・Cochrane Library を主要 review database として 2015 年 1 月から 2021 年 10 月までを検索範囲とし、検索語は (“PD-1” OR “PD-L1” OR “ipilimumab” OR “nivolumab” OR “pembrolizumab” OR “atezolizumab”) AND (“non-small cell lung cancer” OR “NSCLC”) AND (“performance status” OR “ECOG PS” OR “poor PS”) に AND (“PS 2” OR “PS 3” OR “PS 4”) を加えた boolean query を使用した narrative review database 構築。