• 著者: Katsutoshi Sekine, Shintaro Kanda, Yasushi Goto, Hidehito Horinouchi, Yutaka Fujiwara, Noboru Yamamoto, Noriko Motoi, Yuichiro Ohe
  • Corresponding author: Shintaro Kanda (National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30268458

背景

抗PD-1抗体nivolumabは既治療進行NSCLCにおいてCheckMate 017試験 (扁平上皮癌) および CheckMate 057試験 (非扁平上皮癌) でdocetaxelと比較したOS延長を実証し、標準的な2次治療として確立された (Brahmer et al. NEnglJMed 2015Borghaei et al. NEnglJMed 2015)。pembrolizumabもKEYNOTE-010試験においてPD-L1陽性 (TPS≥1%) 既治療NSCLCで生存延長を示し、さらに1次治療においてもPD-L1高発現 (TPS≥50%) 例でdocetaxelを上回るPFS・OSを達成した (Reck et al. NEnglJMed 2016)。しかしPD-1阻害剤が奏効するのは患者全体の約20-40%に限られ、治療効果を前方視的に予測するバイオマーカーは確立されていなかった。PD-L1の免疫組織化学 (IHC) 発現はpembrolizumabのコンパニオン診断として承認されているが、nivolumabでは扁平上皮癌 (CheckMate 017) において予測的価値が示されず、一方で非扁平上皮癌 (CheckMate 057) では一部相関が認められるなど役割が議論の余地あり。腫瘍変異量 (TMB: tumor mutational burden)、ネオアンチゲン、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) など複数のバイオマーカーが報告されていたが、いずれも実臨床における確立には至っていなかった。

末梢血の全血球計算から算出できるリンパ球/単球比 LMR (lymphocyte-to-monocyte ratio) および好中球/リンパ球比 NLR (neutrophil-to-lymphocyte ratio) は、肺癌を含む複数の悪性腫瘍の予後予測因子として報告されていた。抗PD-1療法はT細胞を全身的に活性化させるため、投与後に末梢血リンパ球や単球の分画変化が生じる可能性があり、これが治療効果の早期代替指標 (サロゲートマーカー) となりうると仮説された。しかし、治療後の動的変化 (治療前後のLMR変化) がnivolumab効果の早期サロゲートマーカーとなりうるかという知見は不足しており、発見コホートと独立した検証コホートで同時に示した研究はなかった。この gap in knowledge を埋めることが本研究の動機であった。

目的

Nivolumab単剤療法後早期 (2週・4週時点) における末梢血LMRおよびNLRの変化が、進行NSCLC患者における治療効果 (ORR、PFS、OS) の早期代替指標となりうるかを発見コホートで特定し、独立した検証コホートで再現性を確認する。さらにdocetaxel投与群での同様解析を対照として行い、LMR変化がnivolumab特異的な免疫活性化の反映であることを検証する。

結果

LMRカットオフ値の決定と発見コホートでの奏効予測

発見コホート (n=87) のORRは22.6% (19/84例、95% CI 14.2-33.0) であり、mPFSは3.0ヶ月 (95% CI 2.6-4.4)、中央生存期間は12.5ヶ月 (95% CI 8.8-13.7) であった。患者背景はTable 1に示す通り、中央年齢62歳、男性54例 (62.1%)、腺癌64例 (73.6%)、EGFR変異陽性21例 (24.1%) であった。ROC曲線解析では、治療前ベースラインLMR-0およびNLR-0は客観的奏効との有意な関連を示さなかった (Fig 1A、1B)。一方4週後の変化率ではLMR-2/LMR-0のAUCは0.74、NLR-2/NLR-0のAUCは0.72であり (Fig 1E、1F)、2週後変化率 (LMR-1/LMR-0、NLR-1/NLR-0) よりも高い予測能を示した (Fig 1C、1D)。この解析に基づきLMR-2/LMR-0のカットオフ値を1.1 (4週後のLMRがベースライン比で10%以上上昇)、NLR-2/NLR-0のカットオフ値を0.9 (10%以上低下) と設定した。

このカットオフを用いると、LMR上昇群 (LMR-2/LMR-0≥1.1) でのORRは39.4%であり、非上昇群 (LMR-2/LMR-0<1.1) の11.8%と比較して有意に高かった (p=0.0065)。NLR低下群 (NLR-2/NLR-0≤0.9) でのORRも37.1% vs 12.2% (p=0.0091) と有意差を示した。すなわち、LMR上昇・NLR低下のいずれも4週後の早期時点で奏効と関連することが確認された。

発見コホートでの生存アウトカム (PFSおよびOS)

PFS解析では、LMR上昇群のmPFSは7.3ヶ月 (95% CI 3.7-10.0) であり、非上昇群の2.5ヶ月 (95% CI 1.8-2.9) と比較して有意に延長した (p=0.0049) (Fig 2A)。NLR低下群のmPFSは6.8ヶ月 (95% CI 2.8-10.5) であり、非低下群の2.6ヶ月 (95% CI 1.9-7.0) と比較して有意差あり (p=0.0088) (Fig 2B)。OS解析では、LMR上昇群の中央生存期間は15.6ヶ月 (95% CI 12.6-N.R.) であり、非上昇群の8.9ヶ月 (95% CI 6.1-11.5) と比較して有意に延長した (p=0.014) (Fig 2C)。一方NLR低下群の中央生存期間は13.7ヶ月 (95% CI 10.5-N.R.) で非低下群の9.5ヶ月 (95% CI 6.6-13.1) に対してp=0.065であり有意差に達しなかった (Fig 2D)。LMR上昇はPFSとOS双方と関連したのに対し、NLR低下はPFSとのみ有意な関連を示した。

一変量解析 (Table 2) では男性、重喫煙歴 (BI≥400)、targetable driver変異なし (EGFR変異・ALK転座陰性) がPFS延長と有意に関連した。喫煙歴 (BI≥400 vs <400) の一変量HR 0.53 (95% CI 0.41-0.70)、driver変異有り vs なしの一変量HR 3.41 (95% CI 1.94-6.02) と算出された。喫煙歴とdriver変異の有無で調整した多変量Cox解析においても、LMR-2/LMR-0≥1.1はPFS延長の独立予測因子として維持された (調整HR 0.54、95% CI 0.33-0.87、p=0.012)。OS解析でも同様に、LMR-2/LMR-0≥1.1の調整後HR 0.46 (95% CI 0.25-0.83、p=0.0097) であり独立した予後良好因子として確認された。

検証コホートでの再現性確認 (n=75)

検証コホート (n=75) の中央年齢65歳、男性50例 (66.7%)、腺癌51例 (68.0%)、EGFR変異陽性8例 (10.7%) であった (Table 1)。全体のORRは31.0% (22/71例、95% CI 20.5-43.1)、mPFSは4.7ヶ月 (95% CI 2.6-7.3) であり、発見コホートとORR (p=0.275)・PFS (p=0.0812) いずれも有意差なく両コホートの均質性を確認した。LMR-2/LMR-0≥1.1群でのORRは50.0% vs 非上昇群20.0% (p=0.015) と有意差があり、mPFSは未到達 (N.R.) (95% CI 2.6-N.R.) vs 3.1ヶ月 (95% CI 2.0-5.1) (p=0.0092) と有意な延長を示した (Fig 3A)。発見コホートと一致する結果が検証コホートでも独立して再現され、LMR変化の時間的安定性と外的妥当性を支持した。一方NLR-2/NLR-0≤0.9については検証コホートでORR (34.4% vs 28.2%、p=0.614) もPFS (mPFS 6.6ヶ月 vs 3.1ヶ月、p=0.31) も有意差なく (Fig 3B)、NLRはLMRと異なり検証コホートで再現性を示さなかった。検証コホートのOS解析はデータカットオフ時点 (2017年3月) で成熟度が不十分であった (Fig 3C、3D)。

ドセタキセル対照群での解析 (n=65)

2015年にdocetaxel 60 mg/m2を受けた65例 (83例中18例除外後) の対照群ORRは20.6% (13/63例)、mPFSは3.3ヶ月、中央生存期間は12.9ヶ月であった。この対照群では6週後のLMR変化 (LMR-2/LMR-0≥1.1) はPFS (mPFS 4.7ヶ月 vs 2.8ヶ月、p=0.139) にもOS (13.7ヶ月 vs 12.7ヶ月、p=0.887) にも有意な関連を示さなかった (Fig 4A、4C)。NLR変化 (NLR-2/NLR-0≤0.9) についてもPFS (mPFS 4.2ヶ月 vs 3.0ヶ月、p=0.121)、OS (12.9ヶ月 vs 13.7ヶ月、p=0.699) 共に有意差なし (Fig 4B、4D)。細胞傷害性化学療法による骨髄抑制で末梢血白血球分画は変動しうるにもかかわらずLMR変化が効果と無相関であるという結果は、LMR変化がnivolumab特異的な免疫活性化を反映するバイオマーカーであることを強く裏付ける。

免疫関連有害事象 (irAE) とLMR変化の関係

irAEは発見コホートで40例 (46.0%)、検証コホートで44例 (58.7%) に治療期間中に発生した (Table 3)。治療開始後4週以内の早期irAEは発見コホートで18例 (20.7%)、検証コホートで24例 (32.0%) に認められた。早期irAEの内訳は発見コホートで皮疹12例 (13.8%)、間質性肺疾患4例 (4.6%)、大腸炎/下痢3例 (3.4%)、甲状腺機能障害1例 (1.1%) であった。早期irAEの発生とLMR-2/LMR-0≥1.1の間に有意な相関は認められなかった (Cohort 1: p=0.179、Cohort 2: p=0.443)。この結果はLMR上昇が全身的な自己免疫反応ではなく、腫瘍免疫活性化に特異的な変化を反映する可能性を示す。また感染の可能性がある患者を除外しても (Cohort 1で6例、Cohort 2で8例の感染徴候例) LMR上昇とPFS延長の関連は維持された。

考察/結論

本研究では、進行NSCLCに対するnivolumab単剤療法において投与4週後 (3サイクル完了直後) のLMR上昇 (LMR-2/LMR-0≥1.1、10%以上の上昇) が治療効果 — ORR、PFS、OS — の有意な早期代替指標となることを、発見コホート (n=87) と時間的に独立した検証コホート (n=75) の2コホートで一貫して示した。多変量解析でも交絡因子 (喫煙歴、driver変異) 調整後にLMR上昇がPFS (調整HR 0.54) およびOS (調整HR 0.46) と独立して関連することが確認された。

既存研究との相違と本研究の位置づけ

これまでの報告では、LMR・NLRの治療前ベースライン値が複数の悪性腫瘍の予後と関連することが示されており、高いベースラインNLRがnivolumab投与NSCLC患者の予後不良と関連するとの既報もある (Haratani et al. JAMAOncol 2018)。しかし、これらの既報と異なり、本研究ではベースラインLMR-0・NLR-0は治療効果との有意な相関を示さなかった。本研究が治療後の動的変化 (LMR-2/LMR-0) を評価したことが従来研究との根本的な相違であり、静的バイオマーカーから動的変化指標への視点の転換を提示している。また対照的に、ドセタキセルではLMR変化が治療効果と無相関であった。この結果はLMR変化がnivolumab特異的な免疫活性化 — CTL (cytotoxic T lymphocyte) の末梢血への動員やMDSC (myeloid-derived suppressor cell) 系単球の減少 — を反映するバイオマーカーであることを示唆し、化学療法では同様の関連が見られないことで特異性が裏付けられた。

新規性と臨床的意義

本研究で初めて検証されたのは、「末梢血LMRの治療後動態 (4週後変化率) が発見・検証の2コホートでnivolumab特異的な早期サロゲートマーカーとなりうる」という命題であり、これまで報告されていない知見である。臨床的意義として、(1) LMRは通常の血球計算 (complete blood count) から算出でき、腫瘍組織を必要とするPD-L1 IHCやTMBと比較して実装障壁が大幅に低い、(2) 4週という早期時点 — 標準的な画像評価 (8-12週) よりも前 — に治療効果を予測できる、(3) 動的評価であるため静的バイオマーカーより頑健な可能性がある、(4) LMR非上昇かつ病勢進行が確認された患者でのnivolumab早期中止判断に資する — などが挙げられる。臨床現場における治療継続判断の補助ツールとしての bench-to-bedside への橋渡し可能性を本研究は初めて示した。

残された課題と今後の方向性

本研究にはいくつかの残された課題がある。第一に単一施設の後方視的研究であり、発見・検証コホートは時間的分割に基づくため完全に独立した外部検証とは言えない。今後の検討として、多施設前向き試験でのLMR予測仮説の検証が必須である。第二に、nivolumab単剤の結果がpembrolizumab単剤、ICI+化学療法、ICI+ICI併用 (nivolumab+ipilimumab) など他のレジメンにも適用可能かは未検証であり、更なる検討が求められる。第三に、LMR変化の生物学的メカニズム — CD8+CTLの増殖、制御性T細胞 (Treg) の変動、MDSCの減少のいずれが主体か — の解明がfuture researchの重要課題である。第四に、LMRをPD-L1・TMB・irAE・ECOG PSなどと組み合わせた複合バイオマーカーアルゴリズムの開発により予測精度向上が期待される。また、LMR評価が4週後にのみ有意であり2週後では無効であった理由 — 免疫細胞の末梢血への真の動員には最低4週が必要な可能性 — の検証も今後の研究課題として残される。

方法

国立がん研究センター中央病院においてnivolumab 3 mg/kg 2週間毎静注の単剤療法を受けた進行NSCLC連続患者を対象とした単施設後方視的研究。2016年1月~7月受診患者を発見コホート (Cohort 1)、2016年8月~2017年3月受診患者を検証コホート (Cohort 2) として時間的分割で設定した。対照として2015年1月~12月にdocetaxel 60 mg/m2 3週毎静注を受けた患者を別コホートとして解析した。組織学的または細胞学的に確認された切除不能・術後再発 III-IV期NSCLCを適格とし、以前の免疫チェックポイント阻害薬投与歴がある例や第1サイクルで中止した例は除外した。

測定変数として、ベースライン (nivolumab投与前) のLMR-0 (baseline lymphocyte-to-monocyte ratio)・NLR-0 (baseline neutrophil-to-lymphocyte ratio)、2週後 (2サイクル後) のLMR-1 (lymphocyte-to-monocyte ratio at 2 weeks)・NLR-1 (neutrophil-to-lymphocyte ratio at 2 weeks)、4週後 (3サイクル後) のLMR-2 (lymphocyte-to-monocyte ratio at 4 weeks)・NLR-2 (neutrophil-to-lymphocyte ratio at 4 weeks) を末梢血全血球分画から算出した。腫瘍奏効はRECIST version 1.1で評価した。irAE (immune-related adverse event、免疫関連有害事象) の発生も記録した。PD-L1発現はアーカイブ腫瘍検体でPD-L1 IHC 28-8 pharmDx (Dako) を用いて評価し、2名の観察者が独立してスコア判定した。

統計解析には統計ソフトEZR version 1.30を使用した。LMR・NLR変化率 (LMR-2/LMR-0、NLR-2/NLR-0) を検定変数、客観的奏効を状態変数とした receiver operating characteristic (ROC) 曲線を構築し、曲線下面積 (AUC: area under the curve) および最適カットオフ値を算出した (発見コホートのみで設定)。PFSおよびOSはKaplan-Meier法で推定し、群間差はlog-rank検定で評価した。ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) はCox比例ハザードモデルを用いた一変量・多変量解析で推定した。多変量解析では喫煙歴 [Brinkman Index (BI)≥400または<400] とtargetable driver oncogene変異の有無を共変量として調整した。カテゴリ変数の比較にはFisher’s exact testを使用した。本研究に事前登録の臨床試験番号 (NCT) は付与されていない (後方視的観察研究)。