• 著者: Hangjun Wang, Jason Agulnik, Goulnar Kasymjanova, Pierre-Olivier Fiset, Sophie Camilleri-Broet, Margaret Redpath, Victor Cohen, David Small, Carmela Pepe, Lama Sakr, Alan Spatz
  • Corresponding author: Hangjun Wang (Division of Pathology and Molecular Genetics, McGill University Health Center / Jewish General Hospital, Montreal, QC, Canada)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31455511

背景

PD-L1 免疫組織化学 (IHC) による tumor proportion score (TPS) は、進行非小細胞肺癌 (NSCLC) に対する抗 PD-1 抗体 pembrolizumab の適応決定に必須のコンパニオン診断であり、TPS ≥50% で 1 次治療 (1L) 単剤、TPS 1-49% で 2 次治療 (2L) 単剤の適応が定められている (Reck et al. NEnglJMed 2016Herbst et al. Lancet 2016)。一方、進行 NSCLC は診断時点で stage IV が過半を占め、遠隔転移巣 (骨、脳、胸膜、肝、副腎、遠隔リンパ節、皮膚/軟部組織等) からの生検検体を用いて PD-L1 testing を実施せざるをえないことが多い。

これまでに、原発巣 vs 転移巣の PD-L1 TPS 一致率は negative/high 群で 71-88% と報告され (Kim et al. Eur J Cancer 2017、Nakamura et al. PLoS One 2017)、腫瘍内ヘテロジェナイティと一部の primary-vs-metastasis discordance が認識されてきた。脳転移については Mansfield et al. AnnOncol 2016 が paired primary-brain metastasis で脳側の PD-L1 発現低下を報告し、免疫特権部位 (immune-privileged site) 仮説が提唱されていた。

しかしながら、遠隔転移巣同士 (例えば骨転移 vs 脳転移 vs 胸膜) の PD-L1 TPS 分布が部位を問わず比較可能か否かについての系統的データは欠如しており、再生検時にどの部位を選んでも同等の TPS 判定が得られるかは gap in knowledge として残されていた。この不足により、臨床現場では「より accessible な site で生検する」運用と「特定部位 (脳など) は避けるべきか」の判断が経験的にしか行えていなかった。本研究は n=580 の単施設連続検体で遠隔転移巣間の TPS 分布を直接比較することでこの gap を埋めることを目的とした。

目的

進行 NSCLC 患者において、Dako PD-L1 22C3 pharmDx IHC で評価した TPS 分布が、各種遠隔転移部位 (脳、骨、胸膜・心膜・腹膜などの漿膜、遠隔リンパ節、胸郭外実質臓器、皮膚/軟部組織) の間で有意に異なるかを評価し、同一患者の異なる転移部位から採取した paired specimen 間の TPS 一致度を検討すること。

結果

検体 adequacy と対象集団: n=580 遠隔転移検体のうち n=547 (94.3%) が viable tumor cell ≥100 個の adequacy 基準を満たした。主な転移部位内訳は漿膜 n=211、胸郭外実質臓器 n=115、骨 n=79、脳 n=64、皮膚/軟部組織 n=54、遠隔リンパ節 n=24 であり、各部位間で adequacy 率に有意差はなかった (P=0.45)(Table 1)。cytology cell block、small biopsy、surgical resection の何れの検体形式でも実用可能な PD-L1 IHC 結果が得られることが確認された。

部位別 PD-L1 TPS 分布 (primary finding): n=547 adequate 検体の全体 TPS 分布は TPS ≥50% が 37.6%、TPS 1-49% が 28.7%、TPS <1% が 33.7% であった。6 つの遠隔転移部位カテゴリ間で 3-tier TPS 分布を Chi-square test で比較したところ、有意差は認められなかった (P=0.25)(Table 1)。具体的には TPS ≥50% の割合が漿膜 36.7%、骨 37.2%、遠隔リンパ節 38.5%、脳 29.7%、皮膚/軟部組織 32.7%、胸郭外実質臓器 35.8% と、脳転移でやや低い non-significant trend を示したものの統計的有意性に達しなかった。TPS <1% の割合は脳 46.9% で最も高く、漿膜 28.8%、骨 31.4% と比較してやや高値であったが有意差には至らなかった。

Supraclavicular リンパ節の TPS 分布: n=101 の supraclavicular リンパ節検体での分布は TPS ≥50% 43.6%、1-49% 25.7%、<1% 30.7% であり、遠隔転移部位サンプルと統計的に同等であった (P=0.53)(Table 1)。表在性かつ低侵襲で得られるこの部位が PD-L1 testing 目的の再生検候補として実用的であることが定量的に支持された。

同一患者内 paired specimen の concordance: n=35 ペア (同一患者の異なる転移部位 2 か所から採取) について TPS を比較したところ、29/35 ペア (82.9%) が 3-tier 分類で concordant であった。Paired-sample t-test による continuous TPS 比較 (P=0.99) および nonparametric marginal homogeneity test による 3-tier 比較 (P=0.79) の双方で有意差なし (Table 2)。不一致 n=6 ペアのうち 3 ペアは TPS ≥50% と 1-49% の間、3 ペアは 1-49% と <1% の間の discordance であり、negative と high を跨ぐ category jump はゼロ であった。このため discordance 例でも 1 tier の drift にとどまり、pembrolizumab 適応判断 (1L か 2L か、または不適応か) への影響は最小限であった。

治療効果の影響評価: n=35 ペア中 7 例が化学療法/化学放射線療法後、3 例が短期 (2-6 ヶ月) Nivolumab/Pembrolizumab 後、3 例が TKI (チロシンキナーゼ阻害薬) 後の検体を含んだが、治療前後で PD-L1 発現の系統的変化は観察されず、discordant n=6 ペアは全て両検体間に治療介入のない症例から発生した。化学放射線療法による PD-L1 modulation 仮説の支持は得られなかった。

考察/結論

本研究は進行 NSCLC の遠隔転移巣 n=580 を用いた単施設後ろ向きコホートで、Dako 22C3 pharmDx IHC による PD-L1 TPS 分布が脳・骨・漿膜・遠隔リンパ節・胸郭外実質臓器・皮膚/軟部組織の 6 遠隔転移部位間で有意差なし (P=0.25) であることを示した。さらに paired n=35 ペアで 82.9% concordance および category jump の不在が確認され、再生検部位の選択が pembrolizumab 適応判定に与える影響が限定的であることを実証した。

これまでの先行研究との違いとして、Kim 2017 (Eur J Cancer)、Callea 2015 (Cancer Immunol Res) [腎細胞癌]、Mansfield et al. AnnOncol 2016 はいずれも原発巣 vs 転移巣という 2 ポイント比較に限定されており、遠隔転移巣同士を 6 カテゴリにわたり系統的に比較した本研究と対照的な設計である。Mansfield et al. の brain-vs-primary analysis では脳側 PD-L1 低下が観察されており、本研究でも脳転移の TPS ≥50% 割合がやや低い傾向 (29.7% vs 他部位 32-38%) を示した。しかし既報の「脳転移では発現が必ず低下する」という単純解釈は、本研究の P=0.25 という結果からこれまでの研究の知見と相違して統計的有意性に至らず、再検証を要する知見である。

新規の貢献として、遠隔転移部位 6 カテゴリ間の系統的 TPS 比較を n=580 規模で実施した点は本研究で初めてであり、PD-L1 testing における生検 site 選定の equivalence エビデンスを初めて定量的に提供した。さらに supraclavicular リンパ節 (n=101) を独立評価し、表在性で侵襲性が低い部位としての実用性を新規に定量支持した点も意義深い。

臨床応用として、PD-L1 IHC のための再生検時には患者にとって最も侵襲性が低くアクセスしやすい部位 (supraclavicular リンパ節、皮膚転移、胸水 cell block 等) を選択しても骨・脳・実質臓器転移と同等の TPS 判定が可能であり、bench-to-bedside の橋渡し観点から PD-L1 testing の logistical burden を軽減し ICI (免疫チェックポイント阻害薬) 治療の迅速な開始に貢献する臨床的意義がある。

残された課題として、(i) 単施設後ろ向きデザインによる selection bias が否定できず施設間 IHC scoring のばらつきを評価していない limitation がある、(ii) 22C3 単一クローンに限定されており 28-8/SP142/SP263 等のアッセイ間差は未検証である、(iii) paired n=35 ペアという subset サイズが小さく脳転移 vs 他部位の discordance 検出力が限定的である、(iv) 化学放射線療法や ICI 後の longitudinal PD-L1 変化は cross-sectional デザインでは十分に検討できず、serial paired sampling による今後の検討が必要である。骨検体の脱灰処理が IHC 抗原性に与える影響の明示的補正も今後の研究課題として挙げられる。

方法

研究デザイン: 単施設 (Jewish General Hospital, McGill University, Montreal) における後ろ向き連続症例解析。2016 年 6 月-2018 年 4 月に院内で PD-L1 testing が行われた stage IV NSCLC の遠隔転移検体 n=580 を対象とし、n=35 例で同一患者から異なる転移部位の paired specimen を取得 (32 ペアは 1 年以内、3 ペアは 1-2 年間隔の sampling)。さらに stage IIIB/C/IV の supraclavicular リンパ節検体 n=101 を比較対照群として収集した (臨床現場で表在性かつ accessible として頻用される部位)。

検体・IHC アッセイ: 検体は cytology cell block (細胞学的検体) / small biopsy / surgical resection を含み、ほぼ全例 10% buffered neutral formalin (BNF) 固定。4 μm 厚切片に対し Dako PD-L1 IHC 22C3 pharmDx を製造業者プロトコルに従い染色。viable tumor cell (生存腫瘍細胞) ≥100 個を adequacy 基準とし、3 名の病理医 (HW, AS, MR) が TPS をスコア化。Weak (1+) / moderate (2+) / strong (3+) の partial or complete membranous staining を陽性カウントし、TPS を 3-tier (<1% = negative、1-49% = low、≥50% = high) に分類した。

統計手法: IBM SPSS Statistics for Windows v24.0 を使用し、部位別 adequacy と TPS 分布の比較に Chi-square test、paired specimen の continuous TPS 比較に paired-sample t-test、3-tier カテゴリの paired 比較に nonparametric related-samples marginal homogeneity test を適用 (有意水準 P ≤0.05)。