• 著者: Mansfield AS, Aubry MC, Moser JC, Harrington SM, Dronca RS, Park SS, Dong H
  • Corresponding author: Aaron S. Mansfield (Division of Medical Oncology, Mayo Clinic, Rochester, MN, USA)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-08-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27502709

背景

PD-1/PD-L1阻害薬は非小細胞肺癌 (NSCLC) の二次治療においてドセタキセルを上回る有効性が確認されており (Borghaei et al. NEnglJMed 2015Brahmer et al. NEnglJMed 2015Herbst et al. Lancet 2016)、一次治療でも積極的に開発が進められている。この文脈で、PD-L1発現は主要な予測バイオマーカーとして位置付けられているが、その生物学的特性がバイオマーカーとしての信頼性に根本的な問題を提起している。

PD-L1 (B7-H1/CD274) はIFNγなどの刺激に対して適応的に発現するだけでなく、PTEN喪失やEGFR活性化変異などのオンコジェニックシグナルによっても構成的に発現し得る (Parsa et al. NatMed 2007Akbay et al. CancerDiscov 2013)。腫瘍内においても発現は均一ではなく (腫瘍間・腫瘍内の両方で不均一)、生検サンプルによる評価には限界が存在する。さらに、腫瘍の転移・再発により時間的にも発現が変動することが懸念されていた。

Teng・Taubeらが提唱した腫瘍微小環境の免疫学的4分類 (PD-L1発現と腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の組み合わせによる「適応的免疫抵抗」「寛容」「内因性誘導」「免疫学的無視」) は、PD-1阻害薬への反応予測の理論的枠組みとなっているが (Taube et al. SciTranslMed 2012Teng et al. CancerRes 2015)、同一患者の原発巣と転移巣でこの分類がどの程度一致するかは未解明であった。特に脳転移は免疫学的に特殊な環境 (血液脳関門 (blood-brain barrier) 存在、免疫寛容傾向) であり、原発巣と異なる免疫プロファイルを持つ可能性があった。

本研究以前の著者らの研究でも、多発性肺癌の独立した原発巣間ではPD-L1の一致率が低いが、ゲノム的に同一クローン由来の病変間では一致率が高いことが示されていた。この知見を踏まえ、転移巣 (特に脳転移巣) との時空間的不一致を系統的に評価することが本研究の動機となった。PD-L1発現の動態が組織ベースの予測バイオマーカーとしての利用を制限する可能性があり、その理解が不足していることが課題であった。

目的

肺癌患者における原発巣と脳転移巣のペア検体を用いて、PD-L1発現 (腫瘍細胞・免疫細胞) とTILの時空間的不一致を定量的に評価し、腫瘍微小環境の免疫学的分類の動的変化を明らかにすること。また、検体採取間隔がPD-L1の一致率に与える影響を評価すること。

結果

腫瘍細胞PD-L1発現の全体像と不一致: 解析対象の146検体のうち56病変 (39%、95%CI 32〜47%) で腫瘍細胞PD-L1発現が陽性であった。内訳は原発巣で32病変 (44%)、脳転移巣で24病変 (33%) であった。73ペアのうち63例 (86%、95%CI 76〜93%) で腫瘍細胞PD-L1発現が一致し、10例 (14%、95%CI 7〜24%) で不一致が認められた (κ=0.71、95%CI 0.55〜0.87) (Figure 2A)。両病変陽性23例、両病変陰性40例、不一致10例という内訳であった。Bland-Altman解析でのバイアスは3.4% (95%CI -24.5〜31.2%) と小さく、全体として体系的な偏りはなかった。

免疫細胞PD-L1発現の不一致: 免疫細胞PD-L1発現については、73ペアのうち54例 (74%、95%CI 63〜83%) で一致し、19例 (26%、95%CI 17〜37%) で不一致が認められた (κ=0.38、95%CI 0.17〜0.59) (Figure 2B)。腫瘍細胞PD-L1と比較して免疫細胞PD-L1の不一致率が高く、一致度は中等度にとどまった。両病変陽性11例、両病変陰性43例、不一致19例であった。

TIL浸潤の差異と免疫学的分類の変化: 原発巣のTIL中央値 (11、IQR 3〜30) は脳転移巣のTIL中央値 (5、IQR 1〜15) を有意に上回った (Wilcoxon符号順位検定 P<0.0001)。免疫学的4分類では、原発巣での「適応的免疫抵抗 (Type I)」分類が22例 (15%、95%CI 10〜22%) であったのに対し、脳転移巣では13例 (9%、95%CI 5〜15%) へと減少した。一方、「免疫学的無視 (Type II)」分類は原発巣の23例 (16%、95%CI 11〜23%) から脳転移巣の35例 (24%、95%CI 18〜32%) へと有意に増加した (P=0.009) (Figure 3)。これは、多くの脳転移巣が原発巣で存在したPD-L1発現またはTIL浸潤の一方または両方を失うという変化を示唆する。

時間的不一致の検討と生検検体の検証: 腫瘍細胞PD-L1発現について、採取間隔6ヶ月未満での不一致は2例 (3%)、6ヶ月以上での不一致は8例 (11%) であったが、統計的有意差はなかった (Fisher正確確率検定 P=0.48)。免疫細胞PD-L1についても採取間隔6ヶ月未満で8例 (11%)、6ヶ月以上で11例 (15%) であり、有意差は認められなかった (Fisher正確確率検定 P=0.40)。しかし、不一致例の多くは6ヶ月以上の間隔があった症例に集中する傾向が認められた。13例の生検検体のうち11例 (85%) で生検と全切除標本間でPD-L1発現が一致した (両陽性6例・両陰性5例)。この結果は、生検による評価も概ね信頼できることを示唆する。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、肺癌の原発巣と脳転移巣のペア検体における腫瘍微小環境の時空間的異質性を、免疫学的分類を用いて系統的に示した点で重要な先駆的研究である。これまでの研究では、肺癌の原発巣とリンパ節転移間でPD-L1発現の不一致が約20%で報告されており (Kim et al. Lung Cancer 2015)、本研究の原発巣と脳転移巣間の14%という腫瘍細胞PD-L1発現の不一致率はこれと概ね一致する。腎細胞癌では原発巣と転移巣間で20.8%の不一致率が報告されており (Callea et al. Cancer Immunol Res 2015)、転移巣でのPD-L1発現低下・TIL減少という傾向は複数の悪性腫瘍で共通しているようである。悪性黒色腫の脳転移巣でも少数TILという報告があり (Kluger et al. Clin Cancer Res 2015)、脳という特殊な免疫環境が関与している可能性が示唆される。

新規性: 本研究で初めて、肺癌の原発巣と脳転移巣間でPD-L1発現とTIL浸潤に有意な時空間的不一致が存在し、特に脳転移巣で「免疫学的無視」へのシフトが認められることを免疫学的4分類を用いて新規に同定した。Cohen’s κ係数による定量的一致度評価、免疫学的4分類を用いた腫瘍微小環境の動的変化の可視化、Bland-Altman解析による体系的バイアスの評価という方法論的厳密さが本研究の強みである。

臨床応用: PD-1/PD-L1阻害薬の有効性予測にPD-L1発現を使用する場合、原発巣 (特に古いアーカイブ検体) と現在の転移巣の間に有意な差異がある可能性を認識する必要がある。脳転移患者において脳内と頭蓋外病変でPD-1阻害薬への反応が異なる可能性 (脳転移巣ではPD-L1発現・TIL浸潤が低く、「免疫学的無視」型が多い) が示唆される。原発巣アーカイブ検体でPD-L1陰性だった患者でも転移巣では陽性となる (またはその逆) 可能性があり、治療選択の際には時点・部位を考慮した再生検の臨床的意義を示している。

残された課題: サンプルサイズの制限から時間的因子の統計的検証には不十分であった (採取間隔6ヶ月以上での不一致率増加傾向は確認されたが有意差なし)。本コホートの患者はPD-1/PD-L1阻害薬で治療されていないため、この不一致がアウトカムに与える予測的意義は評価できていないことがlimitationである。血液バイオマーカー (液体生検) の役割が今後の治療選択改善に期待される。また、脳転移の特殊な免疫環境 (blood-brain barrier・マクロファージ優位) がPD-L1発現低下やTIL減少の機序として重要な今後の研究対象となる。使用したE1L3N PD-L1クローンと承認薬の伴侶診断クローン (22C3、28-8、SP142等) との比較は未評価である。

方法

本研究は、Mayo Clinicの組織レジストリを1994年1月〜2015年12月の期間で検索し、原発性肺癌と脳転移巣の両方の組織検体が利用可能な73例 (146検体) を同定したレトロスペクティブコホート研究である。全切除組織 133例 (91%) と生検13例 (9%:肺10例・脳3例) を含む。検体採取間隔の中央値は11ヶ月 (四分位範囲2〜26ヶ月、全範囲0〜84ヶ月) であった。多重悪性腫瘍の既往がある患者は除外した。

組織型は腺癌 (ADC) 54例、扁平上皮癌 (SqCC) 17例、腺扁平上皮癌1例、複合小細胞肺癌 (SCLC) 1例であった。

免疫組織化学染色 (IHC) と評価: PD-L1はE1L3Nクローン (Cell Signaling #13684) を1/600希釈で使用し、Leica Bond RXスタイナー (Leica, Buffalo, IL) を用いて実施した。腫瘍細胞膜染色の強度2〜3+を陽性とし、陽性腫瘍細胞5%以上を発現陽性と定義した。免疫細胞 (腫瘍内および周囲) のPD-L1発現も評価し、5%以上で陽性とした。CD3はLN10クローン (Leica) を1/250希釈で使用し、Ventana Benchmark XT (Ventana Medical Systems, Tucson, AZ) を用いて実施した。CD3+ TILの数を3視野の平均で算出した。

腫瘍微小環境の免疫学的分類: Teng・Taubeらの提唱に基づき、各検体を以下の4分類に分類した:Type I (適応的免疫抵抗) はPD-L1(+)/TIL(+)、Type II (免疫学的無視) はPD-L1(-)/TIL(-)、Type III (内因性誘導) はPD-L1(+)/TIL(-)、Type IV (寛容) はPD-L1(-)/TIL(+) と定義した (Table 1)。TILの有無判断の閾値は原発肺癌のTIL数の中央値 (11個/高倍率視野) を使用した。

統計解析: Cohen’s κ係数でペア間一致度を評価した (κ>0.61:実質的な一致、κ>0.81:ほぼ完全な一致)。Bland-Altman解析で限界一致を評価した。Fisher正確確率検定またはχ二乗検定で分類比較を実施した。Wilcoxon符号順位検定でTIL数を比較した。すべての検定は両側検定であった。