- 著者: Riccardo Lobefaro, Giuseppe Viscardi, Raimondo Di Liello, Giuseppina Massa, Maria Lucia Iacovino, Francesca Sparano, Carminia Maria Della Corte, Vincenza Ciaramella, Teresa Troiani, Stefania Napolitano, Sabrina Ventrone, Sara Corvigno, Domenico Galetta, Vincenzo Pergola, Cesare Gridelli, Erika Martinelli, Fortunato Ciardiello, Floriana Morgillo
- Corresponding author: Floriana Morgillo (Medical Oncology, Department of Precision Medicine, University of Campania “Luigi Vanvitelli”, Naples, Italy)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2021
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 33421923
背景
進行非小細胞肺がん (NSCLC) における免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 治療の有効性は、主にECOG Performance Status (PS) 0-1の患者を対象とした大規模ランダム化比較試験によって確立されてきた。しかし、実臨床ではPS ≥ 2の患者がNSCLC患者全体の20-30%を占めるにもかかわらず、これらの患者におけるICIの適応を判断するためのエビデンスは依然として不足している。PS不良は単なる機能状態の低下だけでなく、腫瘍由来の炎症性悪液質、全身性炎症、サルコペニア、免疫老化など、多面的な生物学的背景を反映している。例えば、好中球/リンパ球比 (NLR) や血小板/リンパ球比 (PLR) などの全身炎症バイオマーカーは、ICIの効果予測因子として注目されており、PS不良患者においてこれらのバイオマーカーがどのように作用するかは重要な課題である。先行研究では、ICIが進行NSCLC患者の予後を改善することが示されているが、PS不良患者における安全性と有効性に関するデータは乏しい。例えば、Reck et al. NEnglJMed 2016 や Borghaei et al. NEnglJMed 2015 などの主要な試験では、PS 0-1の患者が中心であった。また、Garon et al. NEnglJMed 2015 は、ICIがNSCLC患者の予後を改善することを示したが、PS不良患者に特化したデータは提供されていない。本多施設実臨床研究は、PS別のICIアウトカムと炎症バイオマーカーの予測価値を評価することを目的とした。
目的
進行NSCLCに対しICI治療を受けた実臨床患者において、ベースラインのECOG PS (0-1 vs 2) 別に全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効割合 (ORR) を比較すること。また、NLRなどの全身炎症バイオマーカーがPS不良患者におけるICI治療の予測因子としてどの程度の価値を持つかを評価することを目的とした。
結果
患者背景: 合計404例の患者が解析対象となり、年齢中央値は65歳 (範囲 27-88歳) であった。男性が64.6% (n=262)、非扁平上皮癌が77.7% (n=314) を占めた。ECOG PSは、0が137例 (33.9%)、1が208例 (51.5%)、2が59例 (14.6%) であった。PS 0-1群 (n=345) とPS 2群 (n=59) の間で、肝転移の割合 (PS 0-1: 17.1% vs PS 2: 30.5%, p=0.025)、抗PD-1抗体使用の割合 (PS 0-1: 71.3% vs PS 2: 86.4%, p=0.05)、およびICI開始後28日以内のコルチコステロイド曝露の割合 (PS 0-1: 22.0% vs PS 2: 49.2%, p<0.001) に有意な差が認められた (Table 1)。
ICI治療の有効性 (PS別): PS 2患者は、PS 0-1患者と比較してICI治療の有効性が有意に低いことが示された。病勢コントロール率 (DCR) はPS 0-1群で50.3% (95% CI 44.9-55.7) であったのに対し、PS 2群では21.8% (95% CI 10.9-32.7) と有意に低かった (Odds Ratio 3.63, 95% CI 1.85-7.12, p=0.0002)。同様に、客観的奏効割合 (ORR) もPS 0-1群で23.1% (95% CI 18.6-27.6) に対し、PS 2群では10.9% (95% CI 2.7-19.1) と有意に低かった (Odds Ratio 2.45, 95% CI 1.01-5.93, p=0.048)。
無増悪生存期間 (PFS) と全生存期間 (OS) のPS別比較: PFS中央値はPS 0-1群で3.00ヶ月 (95% CI 2.73-4.00)、PS 2群で2.00ヶ月 (95% CI 1.61-3.00) であり、PS 2群で有意に短縮していた (HR 1.90, 95% CI 1.42-2.55, p<0.0001) (Fig. 1A)。OS中央値はPS 0-1群で13.2ヶ月 (95% CI 10.98-15.78)、PS 2群で4.0ヶ月 (95% CI 2.83-5.69) であり、PS 2群で著明なOS短縮が認められた (HR 2.84, 95% CI 2.07-3.92, p<0.0001) (Fig. 1B)。
独立した予後予測因子: 多変量Cox解析により、OSの独立した予後不良因子として、PS 2 (HR 2.4)、ベースラインNLR ≥ 3.4 (HR 1.63, 95% CI 1.06-2.51, p=0.026)、ベースラインLDH > 400 U/L (HR 1.71, 95% CI 1.20-2.43, p=0.003)、早期コルチコステロイド曝露 (HR 1.60, 95% CI 1.08-2.38, p=0.019)、扁平上皮組織型 (HR 1.73, 95% CI 1.13-2.63, p=0.011)、PD-L1陰性発現 (HR 0.59, 95% CI 0.42-0.82, p=0.002) が同定された (Fig. 2D)。PFSについても同様の因子が独立した予後不良因子として確認された (Fig. 2B)。
PS 2患者におけるサブグループ解析: PS 2患者のサブグループ解析では、ベースラインLDH > 400 U/Lの患者は有意に短いPFS (HR 3.30, 95% CI 1.45-7.53, p=0.005) およびOS (HR 3.21, 95% CI 1.43-7.24, p=0.005) を示した (Fig. 3A, B)。また、早期コルチコステロイド曝露もPS 2患者においてPFS (HR 2.32, 95% CI 1.29-4.14, p=0.005) およびOS (HR 2.35, 95% CI 1.29-4.29, p=0.005) の有意な短縮と関連していた (Fig. 3C, D)。
安全性: グレード3/4の有害事象発生率は、PS 0-1群で11.3% (39/345例)、PS 2群で10.2% (6/59例) であり、両群間で有意差は認められなかった (p=0.81)。最も一般的なグレード3以上の有害事象は肺炎 (3.5%)、AST/ALT上昇 (2.2%)、発疹、下痢であった。ICI治療期間中央値7.66ヶ月時点でのロジスティック回帰分析では、70歳以上の高齢がグレード3/4の免疫関連有害事象発生の独立したリスク因子であることが示された (Odds Ratio 2.02, 95% CI 1.03-4.02, p=0.042) (Table 2)。
考察/結論
本多施設実臨床研究は、進行NSCLCに対しICI治療を受けたECOG PS 2患者が、PS 0-1患者と比較して有意に不良な予後を示すことを明らかにした。具体的には、PFS中央値が2.0ヶ月 vs 3.0ヶ月 (HR 1.90)、OS中央値が4.0ヶ月 vs 13.2ヶ月 (HR 2.84) と、PS 2患者で生存期間が著明に短縮していた。この結果は、DallOlioらのメタ解析で報告されたOSのHR 2.72と一致しており、PS 2患者におけるICI治療の限定的な効果を強力に再確認するものである。一方で、グレード3/4の有害事象発生率は両群間で同程度であり、PS不良患者におけるICIの安全性は良好であることが示された。
先行研究との違い: 過去のランダム化比較試験ではPS 0-1患者が中心であり、PS 2患者に関するデータは乏しかった。本研究は、実臨床における大規模な後方視的解析により、PS 2患者におけるICIの有効性がPS 0-1患者と比較して著しく低いことを明確に示した点で、これまでの報告と異なり、PSがICIの有効性に与える影響の大きさを強調している。特に、ベースラインLDH高値と早期のコルチコステロイド使用がPS 2患者の予後をさらに悪化させる独立した因子であることを同定した点は、これまで報告されていない重要な知見である。
新規性: 本研究で初めて、PS 2患者においてベースラインのLDH高値 (> 400 U/L) とICI開始後28日以内の早期コルチコステロイド曝露が、PFSおよびOSの独立した予後不良因子であることを示した。これらのバイオマーカーは、PS 2患者の中でもICIのベネフィットが極めて限定的である患者群を特定するための新規な指標となる可能性を秘めている。NLR ≥ 3.4の併存はさらに予後を悪化させ、PS 2とNLR高値の組み合わせは「ICI治療の無益性 (futility)」を示す患者群の同定に有用である。
臨床応用: 本研究の知見は、進行NSCLCの臨床現場におけるPS 2患者へのICI適応判断に重要な臨床的意義を持つ。PS 2患者へのICI一律適応の再考が必要であり、NLR、LDH、早期コルチコステロイド曝露などの炎症・栄養バイオマーカーとPSを統合的に評価することで、より個別化された治療戦略を構築できる可能性がある。特に、PS 2かつLDH高値または早期コルチコステロイド使用の患者では、ICI治療のベネフィットが限定的であるため、緩和ケアを含む治療目標の再設定が妥当な場合がある。
残された課題: 本研究のlimitationとして、後方視的観察研究であることによる選択バイアスや、PS評価者間のばらつきが挙げられる。また、PS 2の原因 (腫瘍負荷、併存症、加齢など) による層別解析の深化が必要である。今後の検討課題として、CheckMate-171やElderly-IPSOS (NCT03191786) などの前向き試験による本データの検証が待たれる。さらに、サルコペニアや免疫老化マーカー (T細胞分化マーカーなど) との統合的な評価、および化学療法併用ICIや二重ICIにおけるPS 2患者のデータ収集も今後の研究方向性として重要である。
方法
本研究は、イタリアの2つの多施設 (University of Campania, Naples; Fondazione IRCCS Istituto Nazionale dei Tumori (IRCCS), Milan) で2013年4月から2020年2月の間にICI (ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ) を投与された進行NSCLC患者404例を対象とした後方視的観察研究である。本研究はretrospective cohort designを採用した。適格基準は、病理学的/細胞学的に確認されたステージIVまたは再発ステージIIIB NSCLC、18歳以上、ECOG PS 0-1 (コホートA) または2 (コホートB)、ICIを少なくとも1回投与、治療歴およびアウトカムデータ (ORR、PFS、OS、有害事象) が利用可能であることであった。主要評価項目はPFSとOSであり、PFSは治療開始から病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間、OSは治療開始からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。副次評価項目はORRと病勢コントロール率 (DCR) であり、RECIST 1.1基準で評価された。ベースライン因子として、年齢、性別、喫煙歴、組織型、ECOG PS、治療ライン、PD-L1 TPS (tumor proportion score)、好中球数、リンパ球数、NLR (カットオフ値 3.4)、PLR (カットオフ値 255)、乳酸脱水素酵素 (LDH) (カットオフ値 400 U/L)、C反応性タンパク質 (CRP)、アルブミン、肝転移、脳転移、早期コルチコステロイド曝露 (ICI開始後28日以内、プレドニゾン換算 > 10 mg) などが評価された。PS 0-1群とPS 2群で主要な層別比較を行った。生存曲線はKaplan-Meier法を用いて推定し、ログランク検定で比較した。ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) はCox比例ハザードモデルを用いて算出した。多変量解析では、PS、NLR、PD-L1発現、治療ライン、早期コルチコステロイド曝露などを同時投入し、独立した予後予測因子を同定した。有害事象はCTCAE v4.03に基づき評価した。