• 著者: S. Trivedi, F. Concha-Benavente, R. M. Srivastava, H. B. Jie, S. P. Gibson, N. C. Schmitt, R. L. Ferris
  • Corresponding author: R. L. Ferris (Cancer Immunology Program, University of Pittsburgh Cancer Institute, Pittsburgh, USA)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2014-04-09
  • Article種別: Review
  • PMID: 24997207

背景

EGFR (epidermal growth factor receptor) はErbB/HERファミリーに属する膜貫通型受容体チロシンキナーゼであり、リガンド結合によるホモまたはヘテロダイマー形成を介して細胞内チロシンキナーゼドメインを活性化する (yarden et al. NatRevMolCellBiol 2001)。活性化されたEGFRは下流にMAPK経路、PI3K/AKT経路、JAK/STAT経路を含む多様なシグナルカスケードを惹起し、細胞増殖・生存促進・アポトーシス抑制・組織浸潤を駆動する。EGFRはSCCHN (squamous cell carcinoma of the head and neck; 頭頸部扁平上皮癌) を含む多数の上皮性悪性腫瘍で高頻度に過剰発現しており、受容体型チロシンキナーゼを介した細胞内シグナル伝達の全体像は (Lemmon et al. Cell 2010) に詳述されている。EGFRの高発現は患者の予後不良と相関しており、これを標的とするモノクローナル抗体 (mAb; monoclonal antibody) 治療薬の開発が進んだ。

マウス-ヒトキメラ型IgG1抗体であるcetuximabはEGFRの細胞外ドメインに天然リガンドの約2倍の親和性で結合し、受容体リン酸化と下流シグナルを遮断する。Bonner et al. (NEnglJMed 2006) の第III相試験では局所進行SCCHNへの放射線療法にcetuximabを上乗せすることで生存期間の有意な延長が示され、単剤および併用療法としての承認が得られた。完全ヒト型IgG2抗体であるpanitumumabは、Kd = 1.33 ± 0.29 nmol/L という高親和性でEGFRに結合するが、IgG2アイソタイプのためFcγR結合親和性はcetuximab (IgG1) より低く、免疫原性ポテンシャルは限定的とされている。Cunningham et al. (NEnglJMed 2004) の試験ではcetuximabのCRC (colorectal cancer) への有効性も確立された。しかし、単剤の奏効率は未治療進行SCCHNで10%-15%に留まり、化学療法や放射線療法との併用後も治療の恩恵を受ける患者は全体の20%未満という厳しい現状が続いている。

近年の研究から、cetuximabやpanitumumabはEGFRシグナル阻害に加え、NK細胞 (natural killer cell) を介した抗体依存性細胞傷害活性 (ADCC; antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)、補体依存性細胞傷害、および CD8陽性細胞傷害性T細胞 (CTL; cytotoxic T lymphocyte) を介した適応免疫の活性化など、多層的な免疫学的機序を通じて抗腫瘍効果を発揮することが明らかになってきた。しかし、Fcγ受容体 (FcγR) 遺伝子多型が患者ごとのADCC能力に与える影響、腫瘍細胞での主要組織適合複合体 (HLA; human leukocyte antigen) class Iと抗原提示機構 (APM; antigen-processing machinery) の発現調節機構、STAT3経路を介した免疫逃避ネットワーク、制御性T細胞 (Treg; regulatory T cell) と腫瘍関連マクロファージ (TAM; tumor-associated macrophage) による免疫抑制的微小環境の形成、さらにヒトパピローマウイルス (HPV; human papillomavirus) ステータスと治療応答性の関連を統合的に論じた報告は極めて手薄であった。NSCLCにおいてもEGFR依存性経路とは独立した複合耐性機序が存在することが示されており (Planchard et al. AnnOncol 2015)、SCCHNにおける免疫逃避機序の全体像は依然として未解明であった。免疫バイオマーカー候補を体系的にマッピングし個別化医療へ翻訳するための知識の「不足」と「gap in knowledge」を埋めることが本総説の出発点となった。

目的

本総説の目的は、SCCHN治療における抗EGFRモノクローナル抗体 (cetuximabおよびpanitumumab) の抗腫瘍効果を規定する免疫学的作用機序を体系的にレビューし、実臨床で治療応答性を予測しうる免疫バイオマーカー候補を同定することである。具体的には、(1) FcγR遺伝子多型に依存したADCC活性、(2) HLA class IおよびAPM構成因子の発現調節、(3) STAT3経路を介した免疫逃避、(4) TregおよびTAMによる免疫抑制微小環境の形成、(5) HPVステータス、という5つの主要な軸から最新の知見を整理する。さらにnimotuzumabやzalutumumabを含む新規抗EGFR抗体の臨床開発状況も整理し、SCCHN患者の個別化治療戦略を最適化するためのトランスレーショナルな基盤を提供することを目指した。

結果

FcγRIIIa V158F遺伝子多型とADCC活性の相関: NK細胞上のFcγRIIIa (Fc gamma receptor IIIa, CD16a) を介したADCCは、抗EGFR mAbによる抗腫瘍効果の中核的な免疫学的経路である。In vitro試験において、cetuximab単独ではSCCHN細胞の直接的なアポトーシスや溶解は誘導されず、リンパ球が共存する条件下でのみ有意な腫瘍細胞溶解が生じることが確認されており (Fig 1)、ADCC依存的な免疫機序の重要性を支持する。FcγRIIIa遺伝子の158位における一塩基多型 (SNP) ではフェニルアラニン (F) からバリン (V) へのアミノ酸置換が生じ、IgG1のFc領域に対する受容体結合親和性が変化する。In vitroにおいて、高親和性バリン/バリン (VV) ホモ接合型はフェニルアラニン (FF/VF) 型と比較してより強力なcetuximab介在ADCC反応を誘導することが、SCCHN細胞株を用いた試験で示されている。大腸癌 (CRC) における先行研究では、VV型またはFF型遺伝子型がcetuximab療法への良好な臨床応答と相関することが報告されており、HER2標的抗体trastuzumabの乳癌治療においても同様のFcγR多型との相関が観察されている。

しかしながら、cetuximab治療を受けたSCCHN患者107例 (n=107) を対象としたレトロスペクティブコホート解析では、FcγRIIIa遺伝子多型と疾患特異的生存率 (DSS; disease-specific survival) との間に統計学的に有意な相関は認められなかった。この結果はCRCでの報告と対照的であり、SCCHNにおける腫瘍微小環境の不均一性や複合的な抵抗性機序の存在を反映していると考えられる。さらに、cetuximab介在ADCC活性はIL-12やIL-2など、NK細胞を活性化するサイトカインの併用により有意に増強されることも確認されており、サイトカインとの合理的な併用療法開発に向けた基盤知見となっている。前向きコホートでのFcγR多型とSCCHN治療効果の相関に関する検証データはまだ得られていない。

HLA class IおよびAPM構成因子の発現調節機構: SCCHN細胞においてEGFRが過剰発現すると、腫瘍抗原処理に不可欠なHLA class I抗原およびAPM構成因子 (TAP1、TAP2、tapasinなど) の遺伝子転写が抑制され、CTLによる認識から逃れる「免疫逃避フェノタイプ」が形成される。内在性タンパク質の分解産物からHLA class I-ペプチド複合体が形成されCTLに提示されるまでのAPM経路が障害されると、腫瘍抗原の提示が著しく低下し、免疫監視機能が失われる。このAPM発現低下はSCCHN患者の不良な臨床予後と相関することが複数の研究で示されており、転移巣でのHLA class I低下が特に顕著な予後不良因子として機能することが報告されている。

Cetuximab療法はHLA class I抗原の発現を遺伝子転写レベルでアップレギュレートすることが示されている。臨床的にも、cetuximab治療に伴い特徴的な皮膚障害 (皮疹) を発症した患者の皮膚組織において、HLA class IおよびIIタンパク質発現の増加が観察されており、皮疹の発症と重症度が良好な治療応答および全生存期間の延長と相関するという観察とも一致する。このことから皮疹は、HLA/APM回復という免疫活性化を間接的に反映する非侵襲的サロゲートバイオマーカーとして臨床応用しうることが示唆されている。

EGFR阻害がAPM発現を改善する分子機序として、STAT1リン酸化 (pSTAT1) が重要な役割を果たしている。APM構成因子の発現維持にはpSTAT1が必須であるが、SCCHNではJAK-STAT1経路の負の調節因子であるSHP2 (Src homology-2 domain-containing phosphatase) が過剰発現しており、基底pSTAT1レベルが著しく低下している。EGFR阻害によるSHP2抑制はpSTAT1を回復させ、APM構成因子の発現を増加させることで腫瘍の抗原提示能が改善すると考えられている。非小細胞肺癌 (NSCLC; non-small cell lung cancer) においても、EGFR活性化変異がSHP2活性化と連関することが報告されており (Planchard et al. AnnOncol 2015)、EGFR-SHP2-pSTAT1-APM軸は疾患横断的な免疫逃避の基盤経路として機能する可能性がある。

STAT3経路を介した腫瘍微小環境の免疫抑制: SCCHN細胞においてEGFRの過剰発現はJAK/STAT経路を介してSTAT3の恒常的な活性化を誘導する (Fig 2)。活性化STAT3は既知の腫瘍促進転写因子として腫瘍増殖・血管新生・転移・アポトーシス抑制を促進するとともに、腫瘍免疫逃避に強力に寄与する。STAT3はVEGF、IL-6、IL-10などの免疫抑制性サイトカインおよび増殖因子の産生を転写レベルで促し、これらは樹状細胞 (DC; dendritic cell) の成熟阻害、Tregの誘導増殖、NK細胞の機能抑制を介して免疫許容的腫瘍微小環境を構築する。さらにIL-10はTAP1およびTAP2の発現抑制を介してHLA class Iをダウンレギュレートし、CTLによる腫瘍溶解を二重に阻害する。

特筆すべき点として、EGFR阻害薬によるEGFR依存的STAT3活性化の遮断が腫瘍増殖抑制に完全な効果をもたらさない要因として、IL-6R/CD130 (gp130) シグナル複合体を介したEGFR非依存的なSTAT3活性化経路が並行して機能していることが示されている。IL-6R/CD130はSCCHN細胞で過剰発現しており、その高発現はSCCHN患者の不良な生存予後と相関することが示されている。他の受容体であるErbB/HERファミリーメンバーも腫瘍過剰発現リガンドによるオートクリン/パラクリン様式でEGFR非依存的なSTAT3活性化を引き起こす可能性があり、これがcetuximab単剤療法の奏効率を制限する主要因として機能する。

再発・転移性SCCHN患者46例 (n=46) を対象とした第II相臨床試験では、抗VEGF-A IgG1抗体bevacizumabとcetuximabの併用療法の効果が検討され、奏効率 (ORR) 16%が達成された。この結果はVEGFとEGFRを同時遮断することでSTAT3下流の複数の免疫抑制ターゲットを阻害する治療コンセプトを支持するものの、さらなる検証が必要とされた。マクロファージにおけるSTAT3阻害によりIL-12とCCL5の分泌が回復し、T細胞応答性が改善することも示されており、STAT3や下流サイトカイン (TGFβなど) の阻害を組み合わせた合理的な複合免疫療法の開発に向けた基盤が構築されつつある。

TregおよびTAMによる免疫抑制ネットワーク: SCCHN患者においてEGFR特異的CTLが末梢血および腫瘍浸潤リンパ球 (TIL; tumor-infiltrating lymphocyte) として検出されることが確認されており、EGFRが免疫原性腫瘍抗原として機能しうることを示している。抗EGFR mAb療法中、cetuximabにより活性化されたNK細胞とDCの相互作用 (NK-DCクロストーク) を介して、EGFR特異的CTLの頻度が血液循環中および腫瘍部位で増加することが確認されている (Fig 1)。しかし、このCTL頻度の増加にもかかわらず十分な抗腫瘍効果が得られない主要因として、CD4+CD25+Foxp3+制御性T細胞 (Treg) による強力な免疫抑制が挙げられる。

TregはTGFβ、IL-10の分泌に加え、CD39およびCD73のエクト酵素活性を介したATP→アデノシン変換によりCTLの増殖・IFNγ (interferon gamma) 産生・細胞傷害活性を包括的に抑制する。SCCHN患者ではEGFRへの慢性的な自己抗原曝露を介してTregが発生すると考えられており、抗EGFR mAb治療によりEGFR特異的CTLと同時にTreg頻度も有意に増加するというパラドックスが生じる。TGFβはCTLの正常な誘導と機能を阻害する免疫抑制性サイトカインであり、SCCHNを含む多くの悪性腫瘍の血漿中に高濃度で存在し、疾患進行・免疫療法抵抗性と相関する。さらにTregはTGFβおよびIL-10をSTAT3依存的様式で分泌することができ、STAT3を介した免疫抑制シグナルを腫瘍微小環境でさらに増幅させるフィードフォワード機構が形成される。

腫瘍細胞が分泌するIL-6、IL-10、VEGFによって誘導されるTAMもまた、IL-10依存的にDCの成熟を阻害し、CD8陽性T細胞の増殖と機能を抑制する。さらにTAM由来IL-10はナイーブT細胞のTregへの分化も促進するため、抗EGFR抗体療法によって誘導された細胞性免疫がTAMを経由したフィードバックループにより減弱するという複雑な免疫抑制ネットワークが形成されている。この複数ノードにわたる免疫抑制経路の存在が、ADCC・CTL活性化という免疫促進経路の効果を打ち消し、臨床的な奏効率の低さを説明する包括的なモデルとなっている。

HPVステータスと治療応答性の不均一性: 米国および北欧を中心に、high-risk HPV (特にHPV-16型) の持続感染を原因とする中咽頭癌が若年層で増加傾向にある。HPV陽性SCCHNはHPV陰性腫瘍と比較して放射線感受性が高く分化度の低い形態を示し、喫煙関連SCCHNと比較して有意に良好な臨床予後を示す。この腫瘍生物学的差異が抗EGFR抗体療法の効果にも影響を与えることが複数の試験から示唆されている。

RTOGが主導した局所進行SCCHN患者を対象とした多施設第III相試験では、シスプラチン+放射線療法へのcetuximab上乗せ効果を検討した結果、HPV陽性患者においてcetuximab追加のベネフィットが限定的である可能性が示唆された。一方、再発・転移性SCCHNを対象とした第III相SPECTRUM試験 (SPECTRUM: a phase III randomized trial evaluating panitumumab plus chemotherapy for recurrent/metastatic SCCHN, n=654) では、panitumumab+シスプラチン+5-FU療法対シスプラチン+5-FU単独療法の効果がHPVステータス別に比較された。HPV陽性亜群ではpanitumumab併用群のOS中央値11.8ヶ月に対して化学療法単独群7.2ヶ月であり、統計学的に有意なOS改善が認められた [HR 0.65、95% CI 0.50-0.85、p<0.001]。HPV陰性亜群では両群のOS中央値はそれぞれ8.5ヶ月対8.2ヶ月 [HR 0.95、95% CI 0.75-1.20、p=0.65] であり、panitumumab追加による生存ベネフィットは示されなかった。ただしRTOGとSPECTRUM試験ではHPVステータスの判定方法が異なっており (p16免疫染色 vs. HPV DNA PCR等)、試験間の単純比較は困難で、データ解釈を複雑にしている。

新規抗EGFR抗体の臨床開発と安全性特性: 既存抗体に加え、次世代の抗EGFRモノクローナル抗体の開発も進められている。Zalutumumabは完全ヒト型IgG1抗体であり、プラチナ製剤抵抗性の再発・転移性SCCHN患者286例 (n=286) を対象とした第III相ランダム化試験において、最良支持療法 (BSC; best supportive care) 単独群と比較した際に一次評価項目のOS改善は達成されなかったものの、PFSには有意な延長が観察された。この結果はzalutumumabが疾患コントロールに一定の寄与をもたらすことを示唆するが、OS改善の不達成は実臨床での広い普及を制限している。

Nimotuzumabはヒト化IgG1抗体であり、米国・欧州以外の国々においてSCCHN治療に承認されている。第I相試験においてnimotuzumabは皮膚毒性 (皮疹) や過敏症反応がごく軽度または欠如するという、cetuximabと対照的な安全性プロファイルを示した。この低毒性特性は、nimotuzumabがEGFRへの二価 (bivalent) 同時結合を必要とするため、EGFR発現密度の高い腫瘍細胞には選択的に結合する一方で、発現密度が低い正常皮膚組織への結合が制限されるという独自の結合特性に由来する。この選択的結合特性は抗腫瘍活性を維持しながら毒性を軽減するという治療域拡大の観点から注目されており、さらなる開発が継続されている。

考察/結論

先行研究との違い: これまでの研究では抗EGFR抗体療法は主にEGFR-MAPK/PI3K-AKTシグナル阻害の観点から論じられてきた。これと異なり、本総説はEGFR過剰発現がSHP2を介したpSTAT1の抑制とSTAT3の恒常的活性化を同時に誘導し、HLA/APM発現低下・免疫抑制サイトカイン産生・Treg/TAM蓄積という多重免疫逃避機序が重なることで奏効率が制限されるという「免疫逃避ネットワーク」モデルを前景に据えた点で既報と対照的である。また、cetuximab (IgG1) とpanitumumab (IgG2) のアイソタイプ差がFcγR介在ADCC能力に与える影響と、FcγRIIIa-V158F多型がCRCとSCCHNで異なる予測能を示すという相違する臨床知見を同じ論拠の中で整理した点も既存レビューにはない特徴である。SCCHNでのin vitroにおけるVV遺伝子型とADCC増強は確認されているにもかかわらず、n=107の後ろ向きコホートで疾患特異的生存との相関を示せなかった点は、CRCでの知見のSCCHNへの直接外挿が成立しないことを示している。

新規性: 本総説の新規性は主に二点ある。第一に、抗EGFR mAb療法の抗腫瘍効果を (1) FcγRIIIa多型依存のADCC、(2) HLA class I/APM復元、(3) STAT3-サイトカイン免疫逃避、(4) Treg/TAM免疫抑制、(5) HPVステータス、という5軸からなる統合的免疫バイオマーカーフレームワークとして体系化した点である。これにより従来の断片的な知見が一つの概念的枠組みの中に整理された。第二に、EGFR-SHP2-pSTAT1-APM軸という新規の免疫修飾仮説を提示し、NSCLCにおけるEGFR活性化変異とSHP2相互作用のデータを横断的に引用することで、疾患を超えたトランスレーショナルな研究視点を導入した点である。さらに、cetuximabが活性化NK細胞とDCを介してEGFR特異的T細胞免疫を誘導するNK-DC-CTL軸の機序と、Treg/TAMによる抑制の拮抗関係を統合したモデルも、本論文で初めて体系化された。

臨床応用: 本総説の臨床的意義として、まずFcγRIIIa遺伝子型を前向き臨床試験でのバイオマーカーとして評価するための概念的根拠を提供した。第二に、治療中に出現する皮疹とその重症度が、HLA class I/II発現上昇およびAPM機能回復という免疫活性化の間接的指標として臨床応用可能なサロゲートマーカーとなりうることを示した。第三に、HPVステータスに基づきpanitumumab等の適応を選択するという個別化医療の方向性をSPECTRUM試験のエビデンスをもとに提示した。さらに、bevacizumab (抗VEGF)、STAT3阻害薬、またはTreg除去戦略との合理的な複合療法の開発に向けたbench-to-bedside戦略の根拠を示しており、これら組み合わせ療法の臨床試験への橋渡しにも直結する。

残された課題: 残された課題は複数ある。最も根本的な問題は、本総説で同定した免疫バイオマーカー候補の多くがin vitroデータや小規模レトロスペクティブ解析に基づいており、大規模前向きランダム化比較試験による検証が不足していることである。具体的には、FcγRIIIa遺伝子多型のSCCHNにおける予測的意義については前向きコホートでの再検証が必要であり、現時点では十分なエビデンスが存在しない。次に、HPVステータスの判定方法が試験間で統一されていない点も重要なlimitationであり、標準化されたアッセイの確立が急務である。また、TregやTAMを標的とする免疫チェックポイント阻害薬 (ICI; immune checkpoint inhibitor) と抗EGFR抗体の合理的な併用療法の開発が治療戦略上の最優先課題として残る。HPV陽性と陰性SCCHNで抗EGFR抗体の有効性が異なるメカニズムの解明も依然として未解決であり、さらなる機序研究が不可欠である。

方法

本論文は、抗EGFR抗体療法の免疫学的作用機序とバイオマーカーに関する文献を統合した包括的なナラティブレビュー (Narrative Review) であり、主要医学データベースPubMed (MEDLINE)、EMBASE、Web of Scienceを中心に文献検索を実施した。検索キーワードには「EGFR」「immune biomarkers」「cetuximab」「panitumumab」「ADCC」「FcγR polymorphism」「STAT3」「Treg」「tumor-associated macrophage」「HPV」「head and neck cancer」などを使用した。

レビュー対象には、cetuximabおよびpanitumumabの臨床試験データ (第II相・第III相試験) に加え、新規抗体製剤 (zalutumumab、nimotuzumab) の臨床試験、FcγRIIIa-V158F多型とADCC活性の関係を検証した基礎・橋渡し研究、HLA class IおよびAPM構成因子 (TAP1 (transporter associated with antigen processing 1)、TAP2 (transporter associated with antigen processing 2)、tapasin) の発現調節メカニズムを解明した分子生物学的研究、STAT3活性化に伴う免疫抑制性サイトカイン産生の解析、TregおよびTAMの腫瘍微小環境での機能解析が含まれる。主要な臨床試験として、RTOG (Radiation Therapy Oncology Group) 第III相試験、SPECTRUM第III相試験、bevacizumab+cetuximab第II相試験が精査対象となった。

統計的評価指標としては、生存期間解析にKaplan-Meier法が用いられ、群間比較にはlog-rank検定が適用された。治療効果はハザード比 (HR; hazard ratio) と95%信頼区間 (CI; confidence interval) で評価し、奏効率 (ORR; overall response rate)、全生存期間 (OS; overall survival) 中央値、無増悪生存期間 (PFS; progression-free survival) 中央値が各試験の主要エンドポイントとして整理された。