• 著者: D. Planchard, Y. Loriot, F. André, A. Gobert, N. Auger, L. Lacroix, J. C. Soria
  • Corresponding author: D. Planchard (Gustave Roussy, Department of Medical Oncology, Villejuif, France)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-08-12
  • Article種別: Original Article (case series)
  • PMID: 26269204

背景

EGFR (epidermal growth factor receptor) 変異陽性 NSCLC (non-small-cell lung cancer) は非アジア人患者の 10-15% を占め、EGFR exon 19 欠失 (delE746-A750) や exon 21 p.Leu858Arg (L858R) 変異が主要な oncogenic driver として機能する。これらの変異を持つ患者は第一・二世代 EGFR-TKI (tyrosine kinase inhibitor)—erlotinib・gefitinib・afatinib—に著明な初期奏効を示すが、中央値 9-14 か月で獲得耐性が出現する (Mok et al. NEnglJMed 2009)。獲得耐性の約 60% は EGFR exon 20 の second-site 変異 p.Thr790Met (T790M) によるものであり、MET 増幅・HER2 増幅・PIK3CA 変異・SCLC (small-cell lung cancer) 転換が少数機序として報告されてきた (Sequist et al. SciTranslMed 2011Yu et al. ClinCancerRes 2013)。

第三世代 EGFR-TKI である AZD9291 (osimertinib) は不可逆的・変異選択的な化合物で、感受性変異 (L858R / exon 19 del) と耐性 T790M 変異の双方を選択的に阻害し、AURA 第 I 相試験で T790M 陽性患者に ORR 61% という顕著な奏効率を示した (Janne et al. NEnglJMed 2015)。しかし median duration of response 約 10 か月で獲得耐性が生じ、本研究当時に臨床患者検体で報告されていた耐性機序は EGFR p.Cys797Ser (C797S) 変異という on-target 機序のみであった (Thress et al. NatMed 2015)。MET 増幅は第一世代 TKI 耐性での既報機序であり (Engelman et al. Science 2007)、HER2 増幅も T790M 陰性 EGFR 変異肺癌での獲得耐性として知られていたが、第三世代 EGFR-TKI 下における EGFR-independent バイパス耐性機序に関するデータは手薄であり、AZD9291 耐性の landscape を理解するうえで gap in knowledge として残されていた。この領域での臨床患者データは当時不足しており、第三世代 TKI 耐性に対する新規治療戦略の立案に必要な分子的根拠が欠如していた。

目的

AURA 試験 (AZD9291) で治療後に acquired resistance を呈した EGFR T790M 陽性 NSCLC 患者の腫瘍検体を多次元的に解析し、EGFR C797S 以外の EGFR-independent 新規耐性機序を同定すること。

結果

症例 1 — HER2 増幅と T790M 消失による空間的不均一耐性: 54 歳の former smoker (20 pack-year) が 2009 年に右上葉腺癌 (T2N2M1b、脳転移) と診断された。白金双剤化学療法 4 サイクル + 胸部照射 42 Gy 後、初回腫瘍検体での EGFR del19 (p.Glu746_Ala750delins) 同定を受け 2010 年 12 月から gefitinib を開始し約 2 年間 clinical benefit を得た。2013 年 10 月に肺・scapula 同時増悪となり MOSCATO 試験での CT ガイド下生検を施行した結果、肺では EGFR del19 + T790M を検出した一方 scapula では del19 のみで T790M 陰性という空間的不均一性が確認された (Fig 1A)。分子腫瘍ボード討議を経て 2013 年 11 月に AZD9291 80 mg/日 (AURA 試験) を開始した。T790M 陽性肺病変では partial response、T790M 陰性 scapula 病変では stable disease というdivergent response が観察され、RECIST 進行まで 12 か月超の奏効を示した (Fig 1C)。MATCH-R 試験での再生検にて肺 post-AZD9291 biopsy の array CGH で 17q HER2 locus に新規 chromosomal amplification を検出し (Fig 2C)、FISH (n=50 核 解析) で HER2/CEP17=6.65 (平均 CEP17 3.16 コピー/細胞) と確認した (Fig 2D)。NGS では T790M が 1% 検出感度以下まで完全消失し C797S も陰性であった (Fig 2B)。scapula 再生検では HER2 増幅・T790M ともに陰性でdel19 のみが残存し、両部位で全く異なる耐性プロファイルが示された。この分子所見を受け paclitaxel + trastuzumab を開始し 6 週・12 週時点で stable disease を達成した。

症例 2 — MET 増幅による EGFR 非依存性耐性: 60 歳の never smoker が Stage IV 肺腺癌 (肺・胸膜転移) と診断された。cisplatin-pemetrexed 6 サイクルで partial response 後、EGFR L858R 変異の確認を受け erlotinib を開始したが Grade 3 皮膚毒性のため gefitinib に切替え 12 か月 stable disease を維持した。2012 年 1 月の脳転移出現後に神経外科的切除 + 全脳照射を施行し、脳腫瘍 NGS で T790M + L858R の共存を確認した。その後 carboplatin-pemetrexed-bevacizumab 6 サイクル → bevacizumab 維持 → cetuximab + mTOR 阻害薬第 I 相 (17 か月の disease stabilization、この時点での MET FISH は陰性) を経て、2014 年 3 月の肺 biopsy で T790M を再確認した上で AURA 試験の AZD9291 80 mg/日を 2014 年 4 月から開始した。confirmed partial response 45% (RECIST 1.1) を達成したが 10 か月後に肺進行となり MATCH-R 試験で resistant biopsy を施行した (Fig 3C)。FISH (n=40 核 解析) では MET/CEP7=5.32 (平均 MET 陽性細胞 21 コピー) を示し (Fig 4C)、CGH でも 7q MET locus の増幅 (log ratio 0.85) を確認し (Fig 4B)、IHC では腫瘍細胞 100% の MET 高発現陽性が認められた。NGS では EGFR L858R が持続し T790M・C797S はいずれも消失、他の acquired mutation も検出されなかった (Fig 4A)。この結果を受け患者は cMET 阻害薬第 I 相試験に登録された。

両症例に共通する分子的特徴 — T790M 消失と EGFR バイパス経路の選択: n=2 例のいずれにおいても AZD9291 acquired resistance 時に (a) T790M 変異の完全消失と (b) 前治療検体では検出されなかった EGFR-independent バイパス経路 (症例 1=HER2 増幅、症例 2=MET 増幅) の新規出現という共通パターンが認められた (Table 1)。AURA 第 I 相のデータ (T790M 陽性 ORR=61% vs T790M 陰性 ORR=21%) に呼応して、症例 1 では T790M 陽性肺病変のみが partial response を達成し T790M 陰性 scapula 病変は stable disease に留まる divergent response を呈した。症例 1 の AZD9291 開始前 scapula biopsy が既に T790M 陰性であったことは、T790M 陽性・陰性クローンが治療開始時点から空間的に共存していた可能性を直接示している。AZD9291 が T790M 陽性 clone を効率よく排除する一方で、ベースラインに潜在した T790M 陰性かつ HER2 増幅または MET 増幅を有する subclone が selective pressure 下で増殖し耐性を媒介したというクローン進化モデルと整合する所見である。

考察/結論

先行研究との相違と位置づけ: AZD9291 の acquired resistance 機序として本研究以前に臨床患者検体で唯一報告されていたのは EGFR C797S 変異という on-target 機序であった (Thress et al. NatMed 2015)。C797S とは対照的に、本研究では HER2 増幅と MET 増幅が T790M の完全消失と組み合わさって出現することを示した。MET 増幅は第一世代 TKI (gefitinib) 耐性での既報機序であり (Engelman et al. Science 2007)、HER2 増幅も T790M 陰性 EGFR 変異肺癌における既報 (Takezawa et al. CancerDiscov 2012) であるが、これまでの研究では第三世代 EGFR-TKI 下での T790M 消失を伴うバイパス増幅という組み合わせ機序は相違として記録されておらず、本報告が初めてこの現象を臨床で実証した。さらに症例 1 での同一患者内 2 部位の空間的不均一性 (肺=T790M+ 且つ HER2 増幅 vs scapula=T790M 陰性 且つ HER2/MET 陰性) は、既報の腫瘍内不均一性のデータとも異なる新たな側面を示している。

新規性: 本研究で初めて第三世代 EGFR-TKI の臨床患者腫瘍検体において EGFR-independent 耐性機序として HER2 増幅 (FISH HER2/CEP17=6.65) と MET 増幅 (FISH MET/CEP7=5.32、CGH log ratio 0.85) を新規に同定した。これまで報告されていない知見として、AZD9291 暴露後に T790M 陽性 clone が排除されると同時に EGFR-independent subclone が台頭するというダイナミクスを in vivo 患者データで直接示した点が novel である。また同一患者内 n=2 部位でのリアルタイム空間的不均一性の記録も本研究で初めて示された。Piotrowska et al. が独立に示した第三世代 TKI 暴露後の T790M wild-type 転換の報告と一致し、本症例シリーズはそのメカニズム解明に貢献する臨床的証拠を新規に提供した。

臨床応用: 本症例は osimertinib 進行時に sequential rebiopsy と包括的分子解析 (NGS + array CGH + FISH + IHC の多次元組み合わせ) を行うことの臨床的有用性を具体的に示した。症例 1 では HER2 増幅の同定に基づき paclitaxel + trastuzumab への切り替えで stable disease を達成し、症例 2 では MET 増幅の同定を受けて cMET 阻害薬第 I 相試験に登録するという bench-to-bedside の橋渡しが実現した。臨床現場において osimertinib 進行時のルーチン rebiopsy に HER2・MET 増幅スクリーニングを組み込む根拠として本症例シリーズの臨床的意義は大きく、さらに症例 1 での divergent molecular profile は可能な場合には複数部位生検による空間的不均一性評価が治療選択に直結し得ることを示唆している。

残された課題: 本研究最大の limitation は n=2 という症例数の少なさであり、HER2 / MET 増幅が AZD9291 耐性全体に占める頻度・他のバイパス経路 (BRAF・KRAS・FGFR・RAS 経路) との比較・C797S 変異との clonal 共存の可否については解明されていない。今後の研究課題として、AURA3・FLAURA などの大規模試験における systematic biomarker analysis による各耐性機序の頻度定量化、ベースラインと進行時の paired biopsy および ctDNA (循環腫瘍 DNA) による T790M loss と bypass amplification の経時的ダイナミクスの解明、さらに osimertinib + HER2 阻害薬または MET 阻害薬の combination 戦略の前向き検証が挙げられる。更なる検討により、空間的腫瘍内不均一性を考慮した多部位 rebiopsy 戦略の標準化と、各バイパス耐性経路に対応した個別化後治療の確立が期待される。

結論: AZD9291 治療後に獲得耐性を呈した EGFR T790M 陽性 NSCLC n=2 例において、HER2 増幅 (FISH HER2/CEP17=6.65、n=50 核 解析) と MET 増幅 (FISH MET/CEP7=5.32、CGH log ratio 0.85、n=40 核 解析) をそれぞれ EGFR 非依存性バイパス耐性機序として同定し、両症例で T790M 変異の完全消失を伴うことを示した。本知見は第三世代 EGFR-TKI 耐性の landscape が C797S のみならず EGFR-independent 増幅経路を含むことを初めて臨床患者データで実証し、osimertinib 進行時の包括的分子解析 rebiopsy が次治療選択に直結する臨床的有用性を持つことを示した。

方法

Gustave Roussy (フランス・ヴィルジュイフ) において AURA 第 I 相試験 (AZD9291 80 mg/日、経口投与) で治療後に acquired resistance を呈した n=2 例を対象とした。ベースライン腫瘍検体は MOSCATO 試験 (Molecular Screening for Cancer Treatment Optimization、institutional biospecimen protocol) のプロトコール、acquired resistance 時の検体は MATCH-R 試験プロトコールに基づき CT ガイド下 core needle biopsy で採取した。分子解析は以下の多角的手法を組み合わせた: (a) NGS (next-generation sequencing、Ion Torrent PGM) による hotspot 変異解析—T790M / C797S / L858R / exon 19 del、検出感度 1% 以下; (b) whole-exome sequencing (Illumina technology) による網羅的変異プロファイリング; (c) RNA-seq (Illumina technology); (d) array CGH (comparative genomic hybridization、Agilent technology) による copy number alteration 解析; (e) FISH (fluorescence in situ hybridization)—HER2 は Dako probe kit (HER2/CEP17 比、n=50 核 解析)、MET は Zytovision probe kit (MET/CEP7 比、n=40 核 解析); (f) IHC (免疫組織化学) による蛋白発現確認。臨床効果は RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 1.1 基準で評価し、症例 1 では AZD9291 進行時に肺と right scapula (右肩甲骨) のn=2 部位で同時生検を施行して空間的 intratumor heterogeneity を評価した。