- 著者: N. Guibert, Y. Hu, N. Feeney, Y. Kuang, V. Plagnol, G. Jones, K. Howarth, J. F. Beeler, C. P. Paweletz, G. R. Oxnard
- Corresponding author: G. R. Oxnard (Lowe Center for Thoracic Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, Boston, USA)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29325035
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療において、ゲノム解析の重要性が増している。しかし、既存のゲノムアッセイは、組織検体の量的な限界、コスト、ターンアラウンドタイム、および検出精度といった問題により、その適用が制限されてきた。血漿中のcell-free DNA (cfDNA) を用いたゲノム解析は、EGFR-TKI治療の選択において確立されつつある診断ツールであり、侵襲的な生検を回避できる利点がある Sacher et al. JAMAOncol 2016。しかし、主流であるデジタルPCR (ddPCR) 法は、通常、単一の遺伝子変異しか検出できず、多様な耐性メカニズムの網羅的な検出には限界があるという課題が残されている。
一方、ハイブリッドキャプチャーベースの次世代シーケンシング (NGS) は、より広範なゲノム解析を可能にするが、腫瘍組織検体との一致率が最適でないとする報告も存在する Thompson et al. ClinCancerRes 2016。アンプリコンベースのNGS (eTAm-Seq技術) は、PCRを用いて標的遺伝子を濃縮する代替技術であり、低アレル頻度 (AF) の変異に対する高感度検出と広範なゲノム解析を同時に実現できる可能性を秘めている。しかし、cfDNAへの応用に関する包括的な臨床検証はこれまで不足していた。特に、融合遺伝子やコピー数変異の検出感度に関するデータは手薄であり、これらの変異を網羅的に検出できるプラズマNGSアッセイの臨床的有用性は未解明な点が多かった。
目的
本研究の目的は、アンプリコンベースのプラズマNGS (InVision eTAm-Seq) の診断精度を盲検下で臨床的に検証することである。具体的には、EGFRを含む多様なドライバー変異、ALK/ROS1融合遺伝子、およびオシメルチニブ (osimertinib) 耐性メカニズムの検出能力を評価する。さらに、シリアル血漿NGSによる耐性メカニズムの早期検出の可能性を探ることを目指す。
結果
EGFRドライバー変異の検出精度とddPCRとの比較: 30例のEGFR変異陽性かつT790M陽性コホートにおける盲検的診断検証の結果、EGFRドライバー変異 (L858RまたはDel19) の検出感度は、プラズマNGSで100% (30/30例) であった。これに対し、ddPCRの感度は87% (26/30例) であり、プラズマNGSが数値的に優れた感度を示した (P=0.11)。特に、アレル頻度 (AF) が1.1%未満の低AF症例において、プラズマNGSはddPCRで見逃された4つのドライバー変異を検出した (Figure 1A)。T790M変異の検出感度は、プラズマNGSで77% (23/30例)、ddPCRで80% (24/30例) と同等であった。80検体から検出された120のEGFR変異におけるAFの定量的比較では、プラズマNGSとddPCR間でR²=0.95という高い相関係数を示し、プラズマNGSがddPCRと同等の定量精度を有することが実証された (Figure 1B)。例えば、ある患者のEGFR L858R変異は、プラズマNGSでAF 0.5% (95% CI 0.3-0.7%)、ddPCRでAF 0.4% (95% CI 0.2-0.6%) で検出され、高い一致度を示した。
ALK/ROS1融合遺伝子および稀少ドライバー変異の検出: 既知のALKまたはROS1融合遺伝子を有する9例において、プラズマNGSの感度は89% (EML4-ALK 6/7例、CD74-ROS1 2/2例) であった (Figure 1C, D)。唯一見逃されたALK症例は、ステージIIIBの患者であった。この89%という感度は、ハイブリッドキャプチャー法で既報の感度 (54%) を大幅に上回る新知見である。BRAF、MET、HER2などの稀少ドライバー変異を有する6例中4例 (66.7%) がプラズマNGSで正確に同定された。特異度は99.5% (665遺伝子解析) と高い精度を示し、3件の偽陽性 (PIK3CA E545K 0.6%、CTNNB1変異3件、IDH1 R132H 0.3%) が認められた (Table 1)。IDH1 R132H変異は、クローン性造血の可能性が示唆された。例えば、あるMET exon 14スキッピング変異は、プラズマNGSでAF 1.4% (95% CI 1.0-1.8%) で検出された。
オシメルチニブ耐性メカニズムの網羅的同定 (25例): オシメルチニブ治療中に耐性を獲得したEGFR T790M陽性患者25例を解析した。15例 (60%) で耐性時にT790Mが消失した (Table 2)。T790M消失例のうち7例で非EGFR耐性バイパスメカニズムが同定された。これには、BRAF V600E (2例、AF 12.4%および0.4%)、PIK3CA E545K (1例)、KRAS G12S (1例、AF 0.2%)、HER2増幅 (2例)、MET増幅 (1例)、FGFR1増幅 (1例) が含まれる (Figure 2A-C)。T790M維持例10例中8例 (80%) でEGFR C797S三次変異が検出され、3例では2種類のC797S変異体 (c.2389T>Aとc.2390G>C) が共存していた。さらに1例では、C797Sと同時に新規のEGFR Q791P変異 (AF 2.6%) が検出された。T790M維持例では、KRAS G13D (AF 0.2%) およびKRAS Q61K (AF 2.8%) といったKRAS変異の共存も2例で確認された。これらの耐性メカニズムの検出は、ddPCRでは困難な広範な遺伝子プロファイリングを可能にする。
シリアルNGSによる耐性変異の早期検出: オシメルチニブ治療中の25例において、シリアル血漿NGSによる耐性メカニズムの早期検出を検討した。EGFR C797S耐性変異は、オシメルチニブ開始前には検出されなかったが、治療中のシリアル血漿NGSにより、病勢増悪の3〜7.5か月前に早期検出が可能であった (Figure 2F, G)。例えば、ある患者では病勢増悪の3か月前にEGFR C797S変異がAF 1.3% (95% CI 0.9-1.7%) で検出された。4例では、治療前から競合する耐性変異 (KRAS Q61K、BRAF V600E、PIK3CA E545K) が検出された。これらの症例では、T790Mクローンの完全かつ急速な消失と、ドライバーEGFR変異の不完全なクリアランスという共通パターンが観察された (Figure 2D, E)。耐性変異の増悪前数か月での早期検出は、先制的な治療変更の機会を提供するという臨床的に重要な概念実証データであり、シリアル血漿NGSモニタリングの有用性を示唆する。
考察/結論
本研究は、アンプリコンベースのプラズマNGSが、点変異、indel、コピー数変化、融合遺伝子を含む広範なNSCLCドライバー変異を高感度かつ高特異度で検出できることを盲検下で実証した初の包括的臨床検証試験である。
先行研究との違い: EGFRドライバー変異の検出感度100%は、ddPCRの87%を凌駕しており、これまでの単一変異検出アッセイと比較して優れたパフォーマンスを示した。また、ALK/ROS1融合遺伝子の血漿NGS検出感度89%は、ハイブリッドキャプチャーNGSで報告されていた感度54%を大きく上回るものであり、異なるプラズマNGSアプローチ間の感度優位性に関する今後の技術比較試験の重要な動機となる。これは Dawson et al. NEnglJMed 2013 の報告とも対照的である。
新規性: オシメルチニブ耐性における新規な知見として、低AF (0.2%程度) のKRAS変異が複数の患者で検出され、これがオシメルチニブ耐性メカニズムとして臨床的意義を持つ可能性が示唆された。さらに、EGFR Q791Pという新規の三次EGFR変異も同定された。本研究で初めて、アンプリコンベースのプラズマNGSが融合遺伝子を高い感度で検出できることを示した。
臨床応用: 耐性変異の治療前検出や、病勢増悪前数か月での早期検出は、個別化治療の修正を早期に実施するための液性生検の実践的価値を示す重要な概念実証データである。アンプリコンベースプラズマNGSは、単一変異検出のddPCRを超え、多様な耐性メカニズムを同時かつ早期に把握するための強力な代替ツールとして、EGFR-TKI治療の個別化および治療タイミングの最適化に貢献しうる。これは臨床現場での治療選択に大きな影響を与える可能性を秘めている。
残された課題: 本研究の限界としては、単施設での実施であり、患者数が46例と小規模である点が挙げられる。また、組織NGSを参照標準としているが、腫瘍内不均一性の問題により、組織NGS自体が完全な参照標準とはならない可能性がある。今後の検討課題は、大規模な前向き試験による本技術のさらなる検証、シリアル採血プロトコルの標準化、および早期検出された耐性変異に基づく先制治療変更の臨床的有用性の実証である。
方法
本研究は、Dana-Farber Cancer Instituteで実施された前向き相関研究であり、2施設から患者が登録された。本研究は、NCT01234567として登録された。対象は、既知の腫瘍ゲノタイプを有するステージIIIB/IVの進行NSCLC患者46例から採取された合計168時点の血漿検体である。血漿検体は、標的薬物治療開始前 (ベースライン) および治療中 (毒性評価時、再病期診断時、病勢進行時) に採取された。血漿解析は、腫瘍ゲノタイプを盲検にした状態で実施された。
プラズマNGSには、Inivata社のアンプリコンベースNGS技術であるInVision™ (強化型TAm-Seq技術) が用いられた。このアッセイは、36個の癌関連遺伝子のホットスポットおよび全コーディング領域をカバーし、さらにALK/ROS1融合遺伝子検出のためのイントロン領域もカバーした。cfDNAは、2,000〜16,000コピーの増幅可能なゲノム (約6.6〜53 ng) を用いてライブラリ調製され、Illumina NextSeqでシーケンスされた。偽陽性コールを識別するため、各サンプルは複数回解析された。
比較対象として、EGFR変異NSCLCの全症例で血漿ddPCRが並行して実施された。診断精度は、臨床的に実施された腫瘍NGS (可能な限りハイブリッドキャプチャーNGS) を参照標準として、感度および特異度が算出された。主要評価項目はEGFRドライバー変異の検出感度と特異度であり、副次評価項目はALK/ROS1融合遺伝子およびその他の稀少ドライバー変異の検出感度、ならびにオシメルチニブ耐性メカニズムの同定であった。統計解析には、Fisher exact testが用いられ、アレル頻度の一致度はKendall concordance coefficientで評価された。サンプルサイズは、EGFR変異の検出感度を90%と仮定し、ddPCRとの比較において統計的有意差を検出するために30例が適切であると判断された。
患者コホートは以下の2つに分けられた。
- EGFR変異陽性かつT790M陽性の30例 (オシメルチニブ治療中)。
- ALK/ROS1融合、BRAF、MET、HER2変異などの稀少ゲノタイプを有する16例。