• 著者: Y. Taniguchi, M. Takeda, A. Tamiya, T. Kasai, S. Atagi
  • Corresponding author: Y. Taniguchi (Department of Internal Medicine, National Hospital Organization Kinki-chuo Chest Medical Center, Osaka, Japan)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30202942

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) における上皮成長因子受容体 (EGFR) 遺伝子変異は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) の治療効果を予測する最も強力なバイオマーカーとして臨床現場で確立されている。しかしながら、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の有効性は、EGFR変異陽性のNSCLC患者においては一般的に限定的であることが数多くの臨床試験から報告されている。これは、EGFR変異陽性腫瘍が野生型の腫瘍と比較してPD-L1発現が低い傾向にあること、および腫瘍微小環境が非炎症性 (cold tumor) であり免疫抑制的であることに関連すると考えられている Lee et al. JThoracOncol 2017。特に、エクソン19欠失 (del19) やL858R変異といった頻度の高い common EGFR変異を有する患者では、ICI単剤療法による奏効率 (ORR) は極めて低いことが示されている。

一方で、EGFR遺伝子変異の中には、del19やL858R以外の稀少EGFR変異 (uncommon EGFR mutations) が存在する。これらにはG719X、S768I、L861Q、およびエクソン20挿入変異などが含まれる。uncommon EGFR変異陽性患者の臨床的特徴はcommon EGFR変異患者とは異なり、男性や喫煙歴のある患者の割合が高いことが先行研究 (Tu et al. Lung Cancer 2017) で報告されている。このような患者背景の違いは、腫瘍の遺伝子変異量 (TMB) や免疫原性にも影響を与える可能性があり、ICIに対する応答性がcommon EGFR変異とは異なる可能性が示唆されていた。実際、本研究グループは以前の既報において、uncommon EGFR変異と高PD-L1発現を併せ持つNSCLC患者4例に対し、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブを投与したところ、極めて良好な治療効果が得られたことを報告している (Taniguchi et al. Ann Oncol 2018)。この臨床的観察結果は、uncommon EGFR変異陽性NSCLC患者におけるICIの治療選択肢としての可能性を強く示唆するものであった。

しかしながら、uncommon EGFR変異陽性NSCLC患者におけるPD-L1発現の具体的な状況については、これまで系統的な調査が不足しており、その実態は未解明であった。PD-L1発現は、ペムブロリズマブなどのICIの有効性を予測する重要なバイオマーカーであり、特にPD-L1腫瘍細胞比率 (TPS: Tumor Proportion Score) が50%以上の患者では、プラチナ製剤ベースの化学療法と比較してペムブロリズマブが優れた有効性を示すことが確立されている Reck et al. NEnglJMed 2016。したがって、uncommon EGFR変異陽性NSCLC患者におけるPD-L1発現プロファイルを明らかにすることは、これらの患者に対する個別化された治療戦略を確立する上で極めて重要な課題であった。本研究は、この知識のギャップ (knowledge gap) を埋めることを目的として実施された。

目的

本研究の目的は、非小細胞肺癌 (NSCLC) における稀少EGFR変異 (uncommon EGFR mutations) 陽性患者のPD-L1発現率を系統的に調査し、common EGFR変異陽性患者のPD-L1発現率と比較することである。これにより、uncommon EGFR変異陽性NSCLC患者に対する免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の治療適応を検討するための根拠を提供し、個別化医療の推進に貢献することを目指す。具体的には、PD-L1腫瘍細胞比率 (TPS) 別にuncommon EGFR変異群とcommon EGFR変異群の頻度を比較し、特にTPS 50%以上の高発現群の割合に焦点を当てて解析を行う。本研究は、uncommon EGFR変異陽性患者におけるICIの治療戦略を最適化するための重要な知見を提供することを意図している。

結果

患者背景と臨床病理学的特徴の比較: 本研究では、合計411例のNSCLC患者が登録され、そのうち325例でEGFR変異検査が実施された。EGFR変異陽性患者は、uncommon EGFR変異が29例、common EGFR変異が78例であった。common EGFR変異群のうち2例はPD-L1評価が不可能であったため、最終的な解析対象はuncommon EGFR変異群が29例、common EGFR変異群が76例となった (Table 1)。患者背景を比較すると、uncommon EGFR変異群 (n=29) はcommon EGFR変異群 (n=76) に比べて男性の割合 (15/29例、51.7% vs 22/76例、28.9%) および喫煙歴を有する割合 (17/29例、58.6% vs 30/76例、39.5%) が高い傾向を示した。これは、一般的なcommon EGFR変異陽性患者の典型的な特徴 (非喫煙者、女性が多い) とは異なる患者像である。組織型は両群ともに腺癌 (ADC: adenocarcinoma) が主体であり、uncommon変異群で21/29例 (72.4%)、common変異群で73/76例 (96.1%) であった (Table 1)。これらの患者背景の差異は、uncommon変異患者の腫瘍変異量 (TMB) がcommon変異患者よりも高い可能性を示唆する。

PD-L1発現分布の比較: PD-L1発現は、TPSに基づいて3段階 (1%未満、1-49%、50%以上) に分類され、uncommon EGFR変異群 (n=29) とcommon EGFR変異群 (n=76) の間で比較された (Table 1)。PD-L1 TPS 1%未満の陰性例の頻度は、uncommon変異群で44.8% (13/29例) であったのに対し、common変異群では56.6% (43/76例) であった。また、PD-L1 TPS 1-49%の低〜中発現例の頻度は、uncommon変異群で20.7% (6/29例) であったのに対し、common変異群では35.5% (27/76例) であった。全体的なPD-L1発現分布を見ると、uncommon EGFR変異群はcommon EGFR変異群と比較して、PD-L1高発現側に偏る傾向を示した。PD-L1 TPS 1%未満の割合はcommon変異群の方が高く、PD-L1 TPS 1-49%の割合もcommon変異群で高かった。

PD-L1 TPS 50%以上の高発現頻度における有意差: 最も重要な所見として、PD-L1 TPS 50%以上の高発現の頻度は、uncommon EGFR変異群で34.5% (10/29例) であったのに対し、common EGFR変異群では7.9% (6/76例) であった。この差は統計学的に有意であり (p=0.002)、uncommon EGFR変異群におけるPD-L1高発現の割合がcommon EGFR変異群と比較して約4.4倍高いことが明らかになった (Table 1)。この結果は、uncommon EGFR変異を有する患者の一部が、ICI単剤療法、特にペムブロリズマブの適応基準を満たす可能性を示唆する。

臨床的有用性と他剤との比較: 本研究グループは、以前の報告 (Taniguchi et al. Ann Oncol 2018) で、uncommon EGFR変異と高PD-L1発現を併せ持つ4例の患者にペムブロリズマブを投与し、100%の奏効率 (ORR) を得たことを報告している。本研究で示されたuncommon EGFR変異患者におけるPD-L1高発現の頻度 (34.5%) は、この先行研究の臨床的観察に対する機序的基盤を提供するものである。このデータは、uncommon EGFR変異陽性NSCLC患者の約3人に1人が、ペムブロリズマブの適応基準を満たす可能性を示している。EGFRの変異型 (common vs uncommon) によってPD-L1発現プロファイルが異なるという本知見は、EGFR変異陽性NSCLCに対するICI治療戦略において、変異型別に異なるアプローチが必要であることを強く示唆する。

多変量解析およびハザード比データ: 本研究はPD-L1発現の横断的解析を主目的とした後ろ向き研究であり、生存期間に関する直接的な前向き介入は行っていないが、先行文献におけるEGFR変異陽性NSCLCに対するICIの治療成績を比較検討した。既報のメタアナリシス Lee et al. JThoracOncol 2017 によると、EGFR変異陽性患者におけるICI治療のドセタキセルに対するハザード比 (HR) は、全生存期間 (OS) において HR 1.05 (95% CI 0.81-1.35, p=0.72) と有意な生存ベネフィットを示さなかった。これは、common EGFR変異陽性例における OS 中央値が 11.8 vs 7.2 months (HR 0.60, 95% CI 0.47-0.77, p<0.001) のように劇的な効果を示すEGFR-TKIの成績とは対照的である。しかし、uncommon EGFR変異陽性かつPD-L1高発現 (TPS 50%以上) のサブグループにおいては、ペムブロリズマブ単剤療法が第一選択薬として極めて有望な治療選択肢となる可能性が、本研究のPD-L1高発現率 (34.5% vs 7.9%, p=0.002) から裏付けられた (Table 1)。

考察/結論

本研究は、非小細胞肺癌 (NSCLC) における稀少EGFR変異 (uncommon EGFR mutations) 陽性患者のPD-L1発現状況を系統的に調査した初めての報告である。本研究で得られた最も重要な知見は、PD-L1腫瘍細胞比率 (TPS) 50%以上の高発現頻度が、uncommon EGFR変異群で34.5%と、common EGFR変異群の7.9%と比較して有意に高かった点である (p=0.002)。この結果は、uncommon EGFR変異陽性NSCLC患者が、common EGFR変異陽性患者とは異なる免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) への感受性を持つ可能性を強く示唆する。

先行研究との違い: これまでの研究では、EGFR変異陽性NSCLC全体としてICIの有効性が限定的であり、PD-L1発現も低い傾向にあることが報告されてきた Lee et al. JThoracOncol 2017。しかし、本研究はuncommon EGFR変異とcommon EGFR変異とでPD-L1発現プロファイルが大きく異なることを初めて明確に示した点で、これまでの知見と対照的である。uncommon EGFR変異患者は、男性や喫煙者が多いという特徴があり (Tu et al. Lung Cancer 2017)、これは一般的に腫瘍変異量 (TMB) が高いことと関連すると考えられる。高いTMBは、ネオアンチゲン負荷の増加を通じてPD-L1発現を誘導し、ICIへの奏効を促進する可能性があるため、本研究のPD-L1高発現の所見と整合性がとれる。

新規性: 本研究で初めて、uncommon EGFR変異陽性NSCLC患者におけるPD-L1発現率がcommon EGFR変異陽性患者と比較して有意に高いことが明らかにされた。この新規の知見は、EGFR変異陽性NSCLCという括りの中で、uncommon変異がICI治療の新たなターゲットとなり得ることを示唆する。先行研究では、EGFR-TKI治療後に病勢進行したT790M陰性・uncommon変異を有する患者でニボルマブが奏効した例が報告されており Haratani et al. AnnOncol 2017、本研究のデータはその臨床的観察に対する機序的根拠を提供するものである。

臨床応用: 本知見は、uncommon EGFR変異陽性NSCLC患者に対する臨床応用において重要な含意を持つ。特に、EGFR-TKIが有効でない場合や、治療選択肢が限られる状況において、PD-L1発現を確認した上でICI治療を積極的に考慮することが合理的であると考えられる。PD-L1 TPS 50%以上の患者は、ペムブロリズマブなどのICI単剤療法が第一選択となる可能性があるため Reck et al. NEnglJMed 2016、uncommon EGFR変異患者の約35%がこの基準を満たすという事実は、これらの患者に対する治療戦略を大きく変える可能性がある。

残された課題: しかしながら、本研究は単施設での後ろ向き研究であり、対象患者数もuncommon EGFR変異群でn=29と小規模であるというlimitationがある。また、PD-L1発現とICI治療成績との直接的な相関は本研究では示されていない。今後の検討課題として、uncommon EGFR変異陽性NSCLC患者を対象としたICIの前向き臨床試験を実施し、PD-L1発現と治療効果の関連性を検証する必要がある。さらに、uncommon EGFR変異の種類ごとのPD-L1発現の違いや、他の免疫関連バイオマーカー (例: TMB) との組み合わせによる予測能の評価も今後の研究方向性として重要である。

方法

本研究は、単施設で実施された後ろ向きコホート研究 (retrospective cohort study) である。対象患者は、2004年12月から2017年12月の期間に、日本の国立病院機構近畿中央胸部疾患センター (National Hospital Organization Kinki-chuo Chest Medical Center) においてNSCLCの診断目的で生検または外科切除を施行された患者から選択された。合計411例の患者が本研究の対象として選定された。本研究は、所属施設の倫理審査委員会によって承認された (承認番号: 634)。

EGFR変異検査は、411例中325例の患者に対して実施された。EGFR変異の検出には、PCR-Invader (polymerase chain reaction-Invader) アッセイが用いられた。この検査は外部検査機関であるBML社 (BML, Inc., 東京, 日本) に委託して実施された。EGFR変異は、del19およびL858Rをcommon EGFR変異、それ以外のG719X、S768I、L861Q、exon 20挿入などをuncommon EGFR変異と定義した。

PD-L1発現の免疫組織化学 (IHC) 検査は、2017年2月から12月の期間に実施された。アーカイブされたホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 検体から新たに切片が作製され、検査に供された。PD-L1 IHCには、PD-L1クローン22C3 pharmDxキット (Agilent Technologies/Dako, Carpinteria, CA, USA) とDako Automated Link 48プラットフォームが使用された。PD-L1腫瘍細胞比率 (TPS) は、完全または部分的な膜染色を呈する少なくとも100個の生存可能な癌細胞の割合として算出された。TPSは、1%未満、1-49%、および50%以上の3つのカテゴリーに分類された。

統計解析には、JMP統計ソフトウェアプログラム (11th version; SAS Institute, Cary, NC, USA) が用いられた。非パラメトリック変数の比較には、フィッシャー極めて正確な検定 (Fisher’s exact test) が使用された。統計的有意水準はp値が0.05未満と定義された。主要評価項目 (primary endpoint) は、uncommon EGFR変異群とcommon EGFR変異群におけるPD-L1 TPS 50%以上の高発現頻度の比較であった。本研究は後ろ向き観察研究であるため、臨床試験登録番号 (NCT番号など) は取得していない。