• 著者: K. Haratani, H. Hayashi, T. Tanaka, H. Kaneda, Y. Togashi, K. Sakai, K. Hayashi, S. Tomida, Y. Chiba, K. Yonesaka, Y. Nonagase, T. Takahama, J. Tanizaki, K. Tanaka, T. Yoshida, K. Tanimura, M. Takeda, H. Yoshioka, T. Ishida, T. Mitsudomi, K. Nishio, K. Nakagawa
  • Corresponding author: H. Hayashi (Department of Medical Oncology, Kindai University Faculty of Medicine, Osaka-Sayama, Japan)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28407039

背景

EGFR変異陽性の非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) は劇的な初期治療効果をもたらすが、ほぼ全ての症例で最終的に薬剤耐性を獲得する。耐性機序の約50-60%を占めるのがEGFR T790M二次変異であり、この陽性例に対しては第三世代EGFR-TKIであるosimertinibが、プラチナ併用化学療法と比較して有意な生存ベネフィットを示すことが Mok et al. NEnglJMed 2017 により報告されている。しかし、T790M陰性の耐性症例は、MET遺伝子増幅やPIK3CA変異、上皮間葉転換など極めて多様な分子機序が関与しており、最適な治療戦略が未確立のままであった。このようなT790M陰性患者は、T790M陽性患者と比較して予後が著しく不良であることが Oxnard et al. ClinCancerRes 2011 によって示されており、新たな治療アプローチの開発が急務であった。

近年、免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体 (nivolumabやpembrolizumab) が既治療NSCLCの標準治療として確立された。しかし、大規模臨床試験のサブグループ解析では、EGFR変異陽性患者におけるPD-1阻害薬の治療効果は、EGFR野生型患者と比較して限定的であることが Borghaei et al. NEnglJMed 2015Herbst et al. Lancet 2016、さらに Lee et al. JThoracOncol 2017 のメタアナリシスで示されていた。また、Gainor et al. ClinCancerRes 2016 の後ろ向き解析では、EGFR変異陽性腫瘍におけるPD-1阻害薬の低い奏効率の背景として、PD-L1発現率の低さやCD8陽性腫瘍浸潤リンパ球であるTIL (tumor-infiltrating lymphocyte) 密度の低さが関与している可能性が指摘されていた。

しかしながら、EGFR-TKIに対する獲得耐性機序の違い、特にT790M変異の有無が、PD-1阻害薬の治療効果や腫瘍免疫微小環境であるTIME (tumor immune microenvironment) にどのような影響を与えるかについては未解明であった。これまでの研究では、耐性獲得後の分子的多様性と免疫応答の関連性を詳細に評価したデータが不足しており、T790M陰性という予後不良な集団におけるPD-1阻害薬の有効性を予測するバイオマーカーも確立されていなかった。この知識ギャップ (knowledge gap) を埋めることが、個別化医療の推進において極めて重要である。

目的

本研究の目的は、EGFR変異陽性NSCLC患者において、EGFR-TKI治療による病勢進行後のT790M変異ステータス (陽性 vs 陰性) に基づき、抗PD-1抗体ニボルマブ (nivolumab) の臨床的有効性を後ろ向きに比較評価することである。さらに、EGFR-TKI耐性獲得後の腫瘍組織におけるPD-L1発現レベル、各種腫瘍浸潤リンパ球であるTILの密度 (CD8陽性、CD4陽性、FOXP3陽性細胞)、および全エクソーム解析による非同義遺伝子変異量であるNMB (nonsynonymous mutation burden) などのTIME因子を包括的に解析し、これらとニボルマブの治療効果との相関関係を明らかにすることを目的とした。特に、治療選択肢が限られ予後不良とされるT790M陰性患者におけるニボルマブの有効性に関する仮説を検証し、免疫微小環境の特徴に基づいた新たな治療予測バイオマーカーを同定することを目指した。

結果

T790M陰性群におけるニボルマブの良好な無増悪生存期間: コホートA全体 (n=25) におけるニボルマブ治療のORRは 20% (5/25例)、DCRは 36% (9/25例) であり、PFSの中央値は 1.5 months (95% CI 1.3-2.8) であった (Figure 1A)。これをEGFR-TKI耐性獲得後のT790M変異ステータス別で比較すると、T790M陰性群 (n=17) のPFS中央値は 2.1 months であったのに対し、T790M陽性群 (n=8) では 1.3 months であった。T790M陰性群 vs T790M陽性群のPFS比較において、統計学的有意差には至らなかったものの、T790M陰性群で良好な生存傾向が示され、ハザード比は HR 0.48 (95% CI 0.20-1.24, p=0.099) であった (Figure 1B)。また、ORRはT790M陰性群で 24% (4/17例) vs T790M陽性群で 13% (1/8例) (p=1.000)、DCRは 47% (8/17例) vs 13% (1/8例) (p=0.182) と、いずれもT790M陰性群で高い値を示した (Table 1)。全生存期間 (OS) においても、観察期間中央値 7.3 months の時点で中央値には未到達であったが、T790M陰性群 vs T790M陽性群のOS比較において良好な生存ベネフィットの傾向が認められた (HR 0.38, 95% CI 0.09-1.65, p=0.200)。

PD-L1発現レベルとニボルマブ治療効果の相関およびT790M陰性腫瘍における高発現傾向: コホートAにおいてPD-L1発現が評価可能であった15例の解析では、PD-L1発現率が 1%以上の群 (n=8) のPFS中央値は 2.1 months であったのに対し、1%未満の群 (n=7) では 1.3 months であった。PD-L1発現 1%以上群 vs 1%未満群のPFSは 2.1 vs 1.3 months であり、ハザード比は HR 0.37 (95% CI 0.10-1.21, p=0.084) と良好な傾向を示した (Figure 2A)。ニボルマブのORRはPD-L1発現レベルの上昇に伴って顕著に増加し、PD-L1発現率が 1%以上で 38% (3/8例)、10%以上で 75% (3/4例)、50%以上では 100% (2/2例) に達した (Table 2)。さらに、PD-L1高発現 (10%以上および50%以上) を示す腫瘍の割合は、T790M陽性例と比較してT790M陰性例で高い傾向が認められた。このPD-L1発現の分布傾向は、独立した検証コホートB (n=60) においても同様に確認され、PD-L1発現率 10%以上の割合はT790M陰性群で 27% (7/26例) vs T790M陽性群で 11% (3/28例) (p=0.167)、50%以上では 12% (3/26例) vs 4% (1/28例) (p=0.340) と、T790M陰性群で高い割合を占めていた (Table 2)。

CD8陽性TIL密度および非同義遺伝子変異量とニボルマブ奏効の有意な関連: コホートAにおける腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 密度の解析において、CD8陽性TIL密度の中央値は、ニボルマブ奏効例 (n=3) で 2292/mm² であったのに対し、非奏効例 (n=11) では 381/mm² と、奏効例において有意に高値であった (p=0.024) (Figure 2B)。一方、CD4陽性TILおよびFOXP3陽性TILの密度と治療効果との間には直接的な有意差は認められなかった (Figure 2C, 2D)。しかし、注目すべき例外として、PD-L1発現率が 10%以上かつCD8陽性TIL密度が高値 (1727/mm²) であったにもかかわらずニボルマブに奏効しなかったT790M陰性例が1例存在し、この症例ではFOXP3陽性TIL密度が全症例中で最高値の 373/mm² を示していた (Figure 2F)。全エクソームシーケンス (WES) を用いたゲノム解析 (n=9) においては、非同義遺伝子変異量 (NMB) の中央値が 101 であった。NMBはニボルマブ奏効例 (中央値 167) で非奏効例 (中央値 101) よりも有意に高かった (p=0.038) (Table 3)。なお、NMBとT790Mステータスとの間には有意な相関は認められなかった (p=0.71)。また、T790M陰性の奏効例2例において、MET遺伝子増幅とPD-L1高発現 (50%以上) の共存が確認された (Table 3)。

検証コホートBにおけるFOXP3陽性TIL密度の有意な低下と免疫微小環境の特徴: 独立した検証コホートB (n=60) における免疫組織化学的解析の結果、FOXP3陽性TIL密度の中央値は、T790M陰性群 (n=29) で 21/mm² (範囲 0-226) であったのに対し、T790M陽性群 (n=23) では 58/mm² (範囲 0-250) であり、T790M陰性群において有意に低いことが示された (p=0.013) (Table 2)。また、CD8陽性TIL密度の中央値自体は両群間で同等であったが (T790M陰性群 250/mm² (範囲 32-968) vs T790M陽性群 307/mm² (範囲 40-1162), p=0.145)、PD-L1高発現 (10%以上) かつCD8陽性TIL高値 (中央値以上) を同時に満たす「免疫活性化状態」の腫瘍の割合は、T790M陰性群で 20% (5/25例) であったのに対し、T790M陽性群では 4% (1/24例) と、T790M陰性群において高頻度に認められた。さらに、PD-L1高発現 (50%以上) かつCD8陽性TIL高値を満たす割合も、T790M陰性群で 12% (3/25例) vs T790M陽性群で 4% (1/24例) と、T790M陰性群で高い傾向が維持されていた。

考察/結論

先行研究との違い: これまでの大規模臨床試験のサブグループ解析や、Gainor et al. ClinCancerRes 2016 などの後ろ向き研究においては、EGFR変異陽性NSCLC全体としてPD-1阻害薬の治療効果が乏しいと報告されていた。これに対し、本研究はEGFR変異陽性という集団を一括りにせず、EGFR-TKIに対する獲得耐性機序、特にT790M変異ステータスによって分類して解析を行った点で従来の知見と異なり、耐性獲得後の分子的多様性と免疫応答の関連性を詳細に評価した。先行研究では見落とされていた、T790M陰性という特定の耐性サブセットにおいて、PD-1阻害薬が一定の有効性を示す可能性を明らかにした。

新規性: 本研究は、EGFR変異陽性NSCLCのEGFR-TKI耐性後におけるニボルマブの治療効果を、T790M変異の有無別に評価し、腫瘍免疫微小環境の特徴と結びつけて解析した世界で初めての報告である。特に、T790M陰性腫瘍においてPD-L1高発現 (10%以上、50%以上) の割合が高く、CD8陽性TILの浸潤を伴う免疫活性化状態の症例が多いことを本研究で初めて新規に見出した。また、WES解析により、MET遺伝子増幅を伴うT790M陰性例でPD-L1が高発現し、ニボルマブが奏効したことを示した点も極めて新規性が高い。

臨床応用: 本研究の知見は、EGFR-TKI耐性後のEGFR変異陽性NSCLC患者における治療シークエンスの最適化という臨床応用に直結する。臨床的意義として、T790M陽性患者にはosimertinibなどの標的治療薬を優先すべきである一方、治療選択肢が乏しく予後不良であったT790M陰性患者に対しては、PD-L1発現率やCD8陽性TIL密度、NMBを事前に評価した上で、ニボルマブなどのPD-1阻害薬を治療選択肢として積極的に考慮することが合理的な戦略となる。また、FOXP3陽性調節性T細胞であるTreg (regulatory T cell) の浸潤がPD-1阻害薬の耐性に関与している可能性が示唆されたことから、Hellmann et al. LancetOncol 2017 で示されたような抗CTLA-4抗体との併用療法によるTreg抑制が、EGFR変異陽性例における免疫療法の効果をさらに増強する臨床的アプローチとなり得る。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究が後ろ向き解析であり、コホートAの症例数が25例と小規模であるため、多変量解析による独立した予後因子の同定が困難であった点が挙げられる。また、T790M変異の判定に一部cfDNAを用いた症例が含まれており、組織生検と比較して感度の問題が残されている。さらに、観察期間中央値が 7.3 months と比較的短いことも limitation である。これらの課題を解決し、T790M陰性のEGFR変異陽性NSCLCに対するPD-1阻害薬の有効性を検証するためには、当時進行中であったWJOG8515L試験などの前向きランダム化比較試験によるさらなる検証が必要である。

方法

試験デザインと患者コホート: 本研究は、日本の3施設 (近畿大学医学部附属病院、岸和田市民病院、倉敷中央病院) において実施された多施設共同後ろ向き研究である。対象患者は、EGFR-TKI治療中に病勢進行を来した後にT790M変異ステータスが評価され、その後ニボルマブ単剤療法 (3 mg/kg、2週間間隔投与) を受けたEGFR変異陽性NSCLC患者25例 (コホートA) である。EGFR遺伝子変異は、Cobas EGFR Mutation Test (Roche Molecular Diagnostics) などの承認された商業用アッセイを用いて検出された。T790M変異ステータスは、EGFR-TKI耐性獲得後の再生検腫瘍組織、または組織採取が困難な場合は血漿遊離DNAであるcfDNA (cell-free DNA) を用いて判定された。さらに、独立した検証コホートとして、EGFR-TKI耐性獲得後に十分なホルマリン固定パラフィン包埋であるFFPE (formalin-fixed paraffin-embedded) 腫瘍組織が採取されたEGFR変異陽性NSCLC患者60例 (コホートB) を登録した。

免疫組織化学染色 (IHC) 解析: EGFR-TKI耐性獲得後に採取されたFFPE組織を用いて、PD-L1 (clone 28-8, Abcam)、CD8 (clone C8/144B, Agilent Technologies)、CD4 (clone 1F6, Leica Biosystems)、およびFOXP3 (clone 236A/E7, Abcam) の免疫組織化学染色であるIHC (immunohistochemistry) を、自動染色機であるBond-III (fully automated IHC and ISH stainer) を用いて実施した。ここで、CD8の検出にはC8 (clone C8/144B antibody) を用いた。病理組織の分類は Travis et al. JThoracOncol 2015 の世界保健機関であるWHO (World Health Organization) 分類基準に従った。染色スライドはデジタルスキャナー (Aperio Scan Scope) でスキャンされ、臨床情報に対して盲検化された専門病理医によって評価された。

全エクソームシーケンス (WES) 解析: コホートAのうち、十分なDNAが回収できた9例 (奏効例3例、非奏効例6例) のFFPE腫瘍組織からDNAを抽出し、Agilent Sure-Select Human All Exon v5.0を用いてライブラリを調製後、Illumina HiSeq 4000シーケンサーを用いて全エクソームシーケンスであるWES (whole-exome sequencing) を実施した。これにより、腫瘍1サンプルあたりの非同義遺伝子変異量であるNMBを算出し、MET遺伝子増幅などの他の遺伝子異常も評価した。

評価項目と統計解析: 主要な評価項目は、ニボルマブ治療開始から病勢進行または死亡までの期間と定義される無増悪生存期間 (PFS) である。副次評価項目として、客観的奏効率であるORR (objective response rate)、疾病制御率であるDCR (disease control rate)、および全生存期間 (OS) を設定した。治療効果判定は Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 のRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1基準に準拠した。生存曲線の推定にはKaplan-Meier法を用い、群間比較にはlog-rankテストを適用した。ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) はCox比例ハザードモデル (Cox regression) を用いて算出した。連続変数の比較にはWilcoxon rank-sumテスト、カテゴリ変数の比較にはFisher’s exactテストを用いた。本研究は各施設の倫理委員会の承認を得て実施され、臨床試験登録IDとして UMIN000021133 (西日本がん研究機構による臨床試験であるWJOG8515L (West Japan Oncology Group 8515L) 試験に関連) との整合性も考慮された。