- 著者: Pallis AG, Voutsina A, Kalikaki A, Souglakos J, Briasoulis E, Murray S, Koutsopoulos A, Tripaki M, Stathopoulos E, Mavroudis D, Georgoulias V
- Corresponding author: Georgoulias V (University General Hospital of Heraklion, Crete, Greece)
- 雑誌: British Journal of Cancer
- 発行年: 2007
- Epub日: 2007-11-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 18000506
背景
NSCLC (non-small cell lung cancer) に対する白金製剤ベースの化学療法は新規薬剤の追加にもかかわらず生存期間の改善が頭打ちとなっており、EGFR (epidermal growth factor receptor) などの分子標的に対する治療統合が急務であった。EGFR-TKI (tyrosine kinase inhibitor) の第一世代薬gefitinibおよびerlotinibの臨床開発において、erlotinibはBR.21プラセボ対照試験で既治療NSCLC患者に統計的に有意なOS改善を示した (Shepherd et al. NEnglJMed 2005)。これに対しgefitinibはISEL (Iressa Survival Evaluation in Lung Cancer) 試験で全体的な生存延長を示せなかった (Thatcher et al. Lancet 2005)。こうした中、Lynch et al. 2004 (Lynch et al. NEnglJMed 2004) およびPaez et al. 2004 (Paez et al. Science 2004) がEGFR kinase domain (exon 18: G719X、exon 19: DEL19 (exon 19 deletion) in-frame欠失、exon 21: L858R) のsomatic変異とgefitinib感受性の強い相関を同時期に発見し、これらは「classical」変異として定義された。その後、複数の検証試験でclassical変異を有する患者の客観的奏効率は75-95%に達することが示され、Shigematsu et al. 2005はコーカサス人集団での変異頻度が3-13%、アジア人集団では30-40%と人種差が大きいことを報告した。
しかし、全gefitinib奏効患者の約10-20%はclassical変異を持たないことが知られており、EGFR kinase domainにはG719X/DEL19/L858R以外にも「other」バリアントと呼ばれる多様な変異が存在することが報告され始めていた。Marchetti et al. 2005やTsao et al. 2005はFFPE (formalin-fixed paraffin-embedded) 組織マイクロダイセクションで比較的高頻度のother変異を検出していたが、これらのバリアントがgefitinib感受性を予測するかどうかという点でknowledge gapが存在し、先行研究は手薄な状況であった。ギリシャ人コーカサス人集団でのother変異の臨床的役割を系統的に評価した後向き解析はそれまで報告されていなかった。
目的
gefitinib EAP (expanded access program) に登録されたNSCLC患者において、EGFR kinase domainのclassical変異と「other」変異の存在がgefitinib治療の臨床転帰 (DCR、TTP (time to tumor progression)、OS (overall survival)) に与える影響を後向きに比較検討すること。
結果
EGFR変異の分布と患者背景との関連:86例の変異解析の結果、野生型が61例 (71%; 95% CI: 60-80%)、classical変異群が11例 (13%; 95% CI: 7-22%)、other変異群が14例 (16%; 95% CI: 9-26%) であった (Table 2)。Classical変異の内訳はDEL19が6例、G719D 1例、E746V 1例、L858R 3例であった。Other変異群14例では14種のバリアントが同定され、うち8例 (57%) は既報の変異 (Y727H、V843I、L747S、G863S、G857E等) であり、6例は新規変異 (P691S、K860E、V726M、E711K等) であった。また4例がclassical変異とother変異の両方を保有しており、3例 (患者番号9、11、18) はL858RとL861P、V843I、E709Kをそれぞれ共保有していた (Table 3)。Classical変異群では非喫煙者の割合が有意に高く (32 vs 2.1%、p=0.001)、女性でも多い傾向 (22.7 vs 9.4%) を示したが、組織型 (腺癌vs非腺癌:11.8 vs 14.3%、p=0.752) では差を認めなかった。Other変異群では喫煙状態・性別・組織型による有意差はなく (各p>0.2)、EGFR IHC陰性腫瘍にother変異の検出頻度が有意に高かった (28.9 vs 8.3%、p=0.036)。Classical変異とEGFR IHC発現の間には相関を認めなかった (p=0.732)。
Disease Control Rate (DCR) の3群比較:全体のORR (objective response rate) は7.0% (95% CI: 1.6-12.4%) でPR 6例のみ、完全奏効はなかった。DCR (PR+SD) は全体で53.5% (95% CI: 43.0-64.0%) であった (Table 4)。Classical変異群のDCRは90.9% (95% CI: 58.7-99.7%; PR 3例・SD 7例) と最も高く、野生型群43.3% (95% CI: 30.8-55.8%; PR 3例・SD 25例) と比較して統計的に有意な差を示した (p=0.006)。特にDEL19変異を有する全6例が病勢コントロールを達成した (PR 2例・SD 4例)。一方、other変異群のDCRは57.1%であったが、SDのみ10例に達成でありPRは1例も得られなかった。Other変異群と野生型群のDCR差は有意ではなく (p=0.386)、classical変異群とother変異群の差も境界域にとどまった (90.9 vs 57.1%、p=0.090)。治療継続期間の中央値はclassical変異群67週と野生型群17週で有意差を認め (p=0.018)、other変異群21週と野生型群17週では差がなかった (p=0.141)。
Time to Tumor Progression (TTP) の群間比較:中央値観察期間109週において、全体のTTP中央値は20週 (範囲4-140週) であった (Figure 1)。Classical変異群のTTP中央値は64週で、野生型群16週と比較して統計的に有意に長かった (p=0.002)。Other変異群のTTP中央値は21週で、野生型群との差は有意でなく (p=0.363)、classical変異群との差もtrend levelにとどまった (21 vs 64週、p=0.069)。DEL19変異患者 (6例) のTTPは数値的にL858R患者 (3例) より長い傾向を示したが (80 vs 64週)、有意差は認めなかった (p=0.786)。TTP≥24週の患者23例の変異内訳は野生型48%・DEL19 22%・L858R 4%・other variant 26%であり (Table 5)、TTP≥52週の7例ではother variant 43%・DEL19 29%・L858R 14%・野生型14%と、長期奏効例の一部にother変異が含まれた。性別・組織型・EGFR IHC陽性・PS (performance status) はTTPに有意な影響を示さず、非喫煙歴 (p=0.003) と皮膚発疹の出現 (p=0.006) がTTP延長と有意に関連した。
Overall Survival (OS) の3群比較:全体OS中央値は48週 (範囲4-140週) であった。Classical変異群のOS中央値は78週、other変異群は67週、野生型群は36週であった (Table 6)。Classical変異群と野生型群のOS差はborderline有意 (p=0.052) にとどまり統計的有意差には達しなかったが (Figure 2)、DEL19変異単独での解析ではOS中央値未達 vs 野生型36週で有意に良好であった (p=0.043、Figure 3)。L858RとDEL19のOS比較では有意差を認めなかった (未達 vs 78週、p=0.896)。Other変異群のOS (67週) は野生型群 (p=0.094) およびclassical変異群 (p=0.491) とも有意差なく、other変異によるOS延長効果は統計的に示されなかった。PS・組織型・喫煙状態・性別・皮膚発疹・EGFR IHC発現はいずれもOSに有意な影響を与えなかった。
考察/結論
本研究はEGFR classical変異 (DEL19/L858R/G719X) のみが、gefitinib治療NSCLCにおけるTTP延長および臨床転帰改善の予測因子であることを示した。Classical変異群でのDCR 90.9%・TTP 64週という結果は、Han et al. 2005・Taron et al. 2005・Mitsudomi et al. 2005等の検証試験と一致しており、EGFR classical変異の予測価値を支持する。これは既報の単施設試験とも一致しており、ギリシャ人コーカサス人集団でも普遍的に成立することを示している。これまでの研究では「other」変異の臨床的意義が不明であったが、本研究では対照的に、other変異群が野生型と同等のTTP (21 vs 16週、p=0.363) およびOS (67 vs 36週、p=0.094) を示し、gefitinib感受性を予測しないことが示唆された。Other変異群でDCR (57.1%) やOS (67週) が数値的に野生型より高い傾向は認めたが、統計的有意差に達しなかった。これはサンプルサイズの制限 (other変異群n=14) が大きく寄与しており、慎重な解釈が必要である。
本研究で新規な知見として、ギリシャ人コーカサス人NSCLC患者においてother変異の出現率が16%と高く、FFPEマイクロダイセクションという感度の高い手法で14種のバリアント (うち6種が新規同定) を系統的に同定した点が挙げられる。特にother変異がEGFR IHC陰性腫瘍に有意に多かった (28.9 vs 8.3%、p=0.036) という所見は、EGFRタンパク発現と変異状態の乖離を示すこれまで報告されていない観察であり、IHC陽性をgefitinib適応の前提条件とする当時の診療アルゴリズムへの疑問を提起した。また、4例で認められたclassical変異とother変異の共保有 (compound mutation) のうち3例が病勢コントロールを達成したことも興味深い所見であり、今後の探索的研究の端緒となりうる。
臨床的意義として、本研究の結果はclassical EGFR変異を有する患者へのgefitinib選択の根拠を支持する一方、other変異のみが検出される患者に対して臨床現場でgefitinibを優先投与する根拠はないことを示している。DEL19変異のOS中央値が未達 (6例) であったのに対し、L858R (3例) ではOS 78週と数値的に短かった点は、後のリアルワールドデータや第三世代TKI試験での知見と整合し、変異型別の予後差の重要性を早期に指摘した意義がある。
残された課題として、最大の限界は後向きデザインと少数例 (classical変異群11例、other変異群14例) であり、多変量解析でいずれの変異群も独立予測因子として抽出されなかったことも検出力不足を示唆する。Other変異の個別の機能的意義 (活性化変異か中立変異か) を明らかにするためには、各変異のin vitro機能解析と大規模前向き研究での評価が不足しており、今後の研究として著者らは国際的なother EGFR変異データベースの構築を提唱した。また、マイクロダイセクションの高感度はother変異の高い検出率に寄与した一方で、低DNA鋳型量による偽変異 (artifact) の可能性もlimitationとして指摘されており、正常組織の対照解析でこの可能性を排除した点は方法論的強みである。本研究の知見は後の第三世代EGFR-TKI時代におけるuncommon EGFR変異の臨床的評価研究、例えばLUX-Lung 2 (afatinib phase II trial for uncommon EGFR mutations) やKCSG-LU15-09 (Korean Cancer Study Group phase II afatinib trial) 等の礎石となった。
方法
ギリシャの複数施設においてgefitinib EAPに参加したNSCLC 86例 (病理学的確診済み) を後向きに解析した。EAPは非無作為化・非盲検の人道的使用プログラムであり、プロトコールは参加施設の倫理委員会で承認された。登録期間は2001年7月から2006年4月。適格基準はgefitinib投与≥4週間、測定可能病変 (開始3週間前以内の画像評価と1回以上の後続評価)、腫瘍組織の入手可能性。患者背景:中央値年齢61歳 (範囲35-82)、男性64例 (75%)、腺癌47例 (55%)、Stage IV 61例 (79%)、never-smoker 28例 (33%)、3次治療以降66例 (76%)。EGFR IHC (immunohistochemistry) による膜発現評価を全例で実施し、2+/3+を陽性と定義した (陽性率49%)。
Gefitinib 250 mg/日を経口1日1回投与し、疾患進行または忍容不能な毒性まで継続した。治療効果はWHO基準で評価した (PR: partial response、SD: stable disease、PD: progressive disease)。
EGFR変異解析はFFPE腫瘍組織からDNAを抽出して実施した。代表的腫瘍切片をH&E染色後、マクロダイセクションまたはマイクロダイセクション (ピエゾ式Eppendorfマイクロダイセクター) により腫瘍細胞含有率≥80%を確保した。MasterPure Complete DNA/RNA Purification kit (Epicentre Biotechnologies, Madison, WI, USA) でDNA抽出後、exon 18、19、21をPCR増幅し、ABI (Applied Biosystems) BigDye Terminator kit (v3.1) とABI3100 genetic analyzerを用いたSanger法による直接シーケンシングを実施した。Seqscapeソフトウェアで配列変異を判定し、すべての変異を独立したPCR増幅と双方向シーケンシングで確認した。22例の正常組織および3例の血液を対照として解析し体細胞起源を確認した。
患者を変異ステータス別に3群に分類した:(1) 野生型群 (n=61、71%)、(2) classical変異群 (n=11、13%)、(3) other変異群 (n=14、16%)。統計解析にはPearson chi-square検定またはFisher直接確率検定を群間比率の比較に使用し、生存分析はKaplan-Meier法を用いlog-rank検定で群間比較を実施した。中央値と範囲による記述統計を用いた。