• 著者: Yelena Y. Janjigian, Egbert F. Smit, Harry J.M. Groen, Leora Horn, Scott Gettinger, D. Ross Camidge, Gregory J. Riely, et al.
  • Corresponding author: Yelena Y. Janjigian (Memorial Sloan Kettering Cancer Center)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-07-29
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25074459

背景

EGFR変異陽性非小細胞肺がん (NSCLC) は、第1世代可逆性EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であるgefitinibやerlotinibに対して劇的な奏効を示すが、最終的に獲得耐性を獲得することが知られている (Mok et al. NEnglJMed 2009, Mitsudomi et al. LancetOncol 2010, Maemondo et al. NEnglJMed 2010, Zhou et al. LancetOncol 2011, Rosell et al. LancetOncol 2012)。この獲得耐性の主要なメカニズムは、EGFRキナーゼドメインにおけるT790M二次変異であり、全症例の50%以上で認められると報告されている (Kobayashi et al. NEnglJMed 2005, Pao et al. PLoSMed 2005, Sequist et al. SciTranslMed 2011)。T790M変異は、ATP結合親和性を増加させることで第1世代EGFR-TKIの結合を阻害し、耐性を引き起こすことが知られている。第2世代不可逆性EGFR-TKIであるafatinibは、EGFR (ErbB1)、HER2 (ErbB2)、HER4 (ErbB4) および関連するErbBファミリーダイマーを不可逆的に阻害する広範な作用機序を持つ。しかし、afatinib単独ではT790M変異による耐性を克服するのに十分な臨床濃度を達成できないことが示されていた。

T790M変異以外の耐性メカニズムも存在し、MET遺伝子増幅が5〜10%の患者で報告されており (Engelman et al. Science 2007)、HER2増幅もT790M陰性例で報告されている。これらの多様な耐性メカニズムに対し、効果的な治療戦略が未確立であることが課題であった。先行研究では、afatinib単独療法 (LUX-Lung 1試験ではORR 7%) やcetuximab単独療法 (ORR 4.5%以下) では、EGFR-TKI耐性患者に対する奏効が限定的であることが示されていた。また、erlotinib/gefitinibとcetuximabの併用試験でも奏効は認められなかった。これらの結果は、単剤療法や第1世代TKIとの併用では、獲得耐性メカニズムを十分に克服できないことを示唆している。

前臨床研究では、afatinibと抗EGFRモノクローナル抗体であるcetuximabの併用が、T790M媒介耐性モデルにおいて相乗的な抗腫瘍効果を示し、腫瘍のほぼ完全な退縮を誘導することが報告された。この併用療法は、リン酸化EGFRと全EGFRの両方を枯渇させることで、変異型EGFRからのシグナル伝達を細胞生存に必要な閾値以下に低下させると考えられた。この前臨床的知見に基づき、EGFR-TKI獲得耐性を示すEGFR変異陽性NSCLC患者において、afatinibとcetuximabの併用療法がT790M変異の有無にかかわらず有効であるか、またその安全性プロファイルが許容可能であるかを検証する必要があった。既存の治療選択肢が限られている状況において、新たな治療戦略の開発は喫緊の課題であり、特にT790M以外の耐性機序に対する治療法が不足していた。本研究は、EGFR-TKI獲得耐性を示す腫瘍の大部分が、依然としてEGFRシグナル伝達に依存して生存しているという前臨床仮説を臨床的に裏付けるものであり、この患者集団におけるデュアルEGFR阻害の意義を評価する上で重要な知識ギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の目的は、EGFR-TKI獲得耐性を示すEGFR変異陽性NSCLC患者を対象に、afatinibとcetuximabの併用療法の安全性、忍容性、および最大耐量 (MTD) を確立することであった。さらに、T790M変異の有無にかかわらず、この併用療法の抗腫瘍活性を評価し、その臨床的有効性を検証することを目的とした。特に、T790M陰性腫瘍における活性を評価することで、T790M以外の耐性メカニズムに対するデュアルEGFR阻害の可能性を探ることも重要な目的の一つであった。本研究は、先行するEGFR-TKI治療に耐性を示した患者群において、デュアルEGFR阻害がEGFRシグナル伝達への依存性を克服し、臨床的利益をもたらすかどうかの概念実証を確立することを意図した。

結果

患者背景と治療状況: 2010年3月から2013年4月にかけて、合計201例の患者が登録され、そのうち126例がMTDであるafatinib 40 mg/日とcetuximab 500 mg/m² 2週毎の併用療法を受けた (Figure 1)。患者の年齢中央値は59歳 (範囲 31-82歳) で、74%が女性であった。全患者が先行するerlotinibまたはgefitinib治療を受けており、79%が細胞傷害性化学療法も経験しており、52%は2ライン以上の化学療法を受けていた。先行EGFR-TKI治療期間の中央値は1年 (範囲 1ヶ月-7年) であった。T790M変異状態は124例で判明し、57% (n=71) がT790M陽性、43% (n=53) がT790M陰性であった (Table 1)。T790M陽性患者の先行TKI治療期間中央値は2年、T790M陰性患者では1年であり、T790M陽性例がより良好な先行TKI効果を示したことと一致する。

全体的有効性と病勢コントロール: 126例中37例 (29%) が客観的奏効 (OR) を示し、全例が部分奏効 (PR) であった (完全奏効 (CR) は認められなかった)。22例 (18%) はベースラインから50%以上の腫瘍縮小を達成した (Figure 2)。病勢コントロール率 (DCR) は、52例 (41%) が安定病変 (SD) を達成し、ORRとSDを合わせると約70%の患者で病勢コントロールが得られた。全体の中央値無増悪生存期間 (PFS) は4.7か月 (95% CI 4.3-6.4か月) であった (Figure 3)。中央値奏効持続期間は5.7か月 (範囲 1.8-24.4か月) であった。治療開始後4週目までに25例 (20%) で奏効が確認され、比較的早期の腫瘍縮小が示された。先行EGFR-TKI治療期間が長い患者 (33か月以上) ではORRが38%と高い傾向にあったが、統計的有意差は認められなかった。先行TKIでCRを達成した患者の80% (5例中4例) がafatinib+cetuximab併用療法で奏効を示し、EGFR依存性の高い腫瘍ではデュアルEGFR阻害への感受性が維持される可能性が示唆された。

T790M変異状態別の有効性: T790M陽性患者 (n=71) におけるORRは32% (95% CI 21.8-44.5%) であり、T790M陰性患者 (n=53) におけるORRは25% (95% CI 13.8-38.3%) であった (p=0.341)。T790M変異の有無によるORRに統計的に有意な差は認められなかった (Table 2)。T790M陽性患者の中央値奏効持続期間は5.6か月 (範囲 1.8-24.4か月) であったのに対し、T790M陰性患者では9.5か月 (範囲 2.9-14.8か月) と、T790M陰性患者でより長い傾向がみられた。T790M陽性患者とT790M陰性患者のPFS中央値はそれぞれ4.8か月 vs 4.6か月であり、類似していた (p=0.643) (Figure 4)。これらの結果は、afatinibとcetuximabの併用療法がT790M変異の有無にかかわらず抗腫瘍活性を示すことを示唆した。これは、T790M以外の耐性機序 (例: EGFR増幅、HER2増幅など) を持つ腫瘍に対しても、この併用療法が有効である可能性を示唆する。

安全性・忍容性プロファイル: 治療期間中央値は4.8か月 (範囲 <1-29.1か月) であった。治療関連有害事象は99%の患者で認められ、最も頻繁に報告されたのは皮疹 (90%)、下痢 (71%)、爪障害 (57%)、口内炎 (56%)、疲労 (47%)、悪心 (42%) であった (Table 3)。Grade 3の治療関連有害事象は44%の患者で、Grade 4は2%の患者で発生した。最も一般的なGrade 3有害事象は皮疹 (20%) と下痢 (6%) であった。Grade 4有害事象 (疲労、肺炎、肺浸潤) は2例で発生した。治療関連死亡が2例 (呼吸困難、肺炎) 報告された。治療関連有害事象による治療中止率は13%であった。患者の64%は用量減量を必要とせず、初回用量減量までの中央値は3.1か月であった。重篤な治療関連有害事象 (SAE) は14%の患者で報告され、主なものは薬物過敏症 (2%) と脱水 (2%) であった。これらの結果は、afatinibとcetuximabの併用療法が管理可能な安全性プロファイルを持つことを示している。

考察/結論

本試験は、EGFR-TKI獲得耐性を示すEGFR変異陽性NSCLC患者において、afatinibとcetuximabのデュアルEGFR阻害が、T790M変異の有無にかかわらず、堅牢かつ持続的な臨床活性を示すことを初めて実証した。全体ORR 29%、PFS中央値4.7か月 (95% CI 4.3-6.4か月) という結果は、先行治療を多数受けている患者群 (52%が2ライン以上の化学療法既往) であることを考慮すると、特に意義深い。本研究で初めて、gefitinib/erlotinib獲得耐性を示す腫瘍の大部分が、依然としてEGFRシグナル伝達に依存して生存しているという前臨床仮説を臨床的に裏付けた。

先行研究との違い: afatinib単独療法 (LUX-Lung 1試験ではORR 7%) やcetuximab単独療法 (ORR 4.5%以下) と比較して、本併用療法は有意に高いORR 29%を示した。これは、afatinibの不可逆的EGFR阻害とErbBファミリーメンバーのより完全な阻害、およびcetuximabによるリガンド結合阻害と受容体分解誘導という、両薬剤の異なる作用機序が相乗的に機能した結果であると考えられる。これまでのerlotinib/gefitinibとcetuximabの併用試験では奏効が認められなかったことと対照的に、本研究の知見は、afatinibの特性が併用療法において重要な要素であることを示唆している。

新規性: 本研究は、T790M陰性腫瘍においてもORR 25%という一定の抗腫瘍活性を示した点で新規性がある。これは、T790M以外の耐性メカニズム (例: EGFR増幅、HER2増幅) を持つ腫瘍が、依然としてErbBシグナル伝達軸に依存している可能性を初めて臨床的に示した。この知見は、T790M変異に特異的ではないデュアルEGFR阻害戦略の有用性を示唆するものであり、これまで報告されていない重要な概念実証である。

臨床応用: 本併用療法は、皮疹 (90%) や下痢 (71%) といった高頻度の有害事象を伴うものの、Grade 3/4の治療関連有害事象は44%/2%であり、用量減量や中断スキームによって管理可能であった。患者の64%が全用量で治療を継続できたことは、臨床現場での実用性を示唆する。しかし、同時期に開発が進んでいた第3世代EGFR-TKIであるosimertinib (AURA試験ではT790M陽性例でORR 61%、PFS 9.6か月) と比較すると、有効性で劣り、毒性が高かったため、afatinib+cetuximabは標準治療として確立されなかった。それでも、T790M陰性例に対する有効性は、将来の治療選択肢が限られる患者群に対する臨床的有用性を示唆する。

残された課題: 今後の検討課題として、本併用療法がT790M以外の特定の耐性機序 (例: EGFR増幅、HER2増幅) を持つ腫瘍に対してどの程度有効であるかを、分子相関研究を通じて詳細に解明する必要がある。また、第3世代TKIが承認された場合、EGFR変異陽性NSCLC患者における様々な抗EGFR薬の最適なシーケンシャル治療戦略を確立するための研究が残されている。本研究の知見は、次世代のbispecific抗体 (例: amivantamab) の開発など、さらなるデュアルEGFR阻害戦略の基礎となるものであり、今後の研究方向性を示唆する。

方法

本研究は、多施設共同の第Ib相非盲検非対照試験として実施された (ClinicalTrials.gov登録番号: NCT01090011)。米国4施設とオランダ2施設の計6施設が参加した。対象患者は18歳以上で、EGFR変異陽性の進行期IIIB/IV期NSCLCと診断され、erlotinibまたはgefitinibによる治療中に獲得耐性を示し、登録前30日以内に病勢進行が確認された患者であった。ECOG Performance Status (PS) は0〜2とされた。脳転移が症状を呈している場合や未治療の場合は除外された。先行EGFR標的抗体治療歴のある患者も除外された。患者は、病勢進行後もEGFR-TKI治療を継続することが許可されたが、本試験治療開始前には3日間のEGFR-TKIフリー期間が設けられた。

EGFR変異解析には、erlotinibまたはgefitinibによる病勢進行後の新鮮またはアーカイブ腫瘍組織が必要とされた。T790M変異状態は、次世代シーケンシング (NGS) を含む方法で評価された。本試験は、afatinibとcetuximabのMTDを特定する用量設定フェーズ、MTDで治療を継続する拡大フェーズ、およびafatinib単剤療法後に併用療法を行うシーケンシャル療法フェーズの3つのフェーズで構成された。本論文では、MTDでafatinib 40 mg/日経口とcetuximab 500 mg/m² IV 2週毎の併用療法を受けた126例の患者の有効性と安全性の結果が報告された。MTDは、afatinib 40 mg/日とcetuximab 500 mg/m² 2週毎の併用として迅速に特定された。

有効性評価は、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009に基づき、治験責任医師によって行われた。腫瘍評価は、治療開始後4週、8週、12週、その後8週ごとにCTスキャンを用いて実施された。主要評価項目は客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、奏効期間、病勢コントロール期間であった。有害事象は、NCI Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v3.0に従って評価された。統計解析は記述統計学的手法が用いられ、PFSはKaplan-Meier法で解析された。群間比較の正式な統計検定は実施されなかった。用量減量スキームがプロトコルに明記されており、Grade 3以上の有害事象 (低マグネシウム血症を除く) が初めて発生した場合、cetuximabを100 mg減量 (500 mgから400 mgへ)、2回目の発生でafatinibとcetuximabの両方を減量 (afatinib 40 mgから30 mgへ、cetuximab 400 mgから300 mgへ) するよう定められた。