- 著者: Yong-Gang Gong, Chuangye Qi, Xiao-Qing Wu, et al.
- Corresponding author: N/A
- 雑誌: Journal of Clinical Investigation
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29613856
背景
EGFR変異陽性NSCLCに対するEGFR-TKI治療は高い初期奏効率を示すが、獲得耐性 (T790M変異やMET増幅等) に加えて、治療開始早期に生じる「適応的耐性 (adaptive resistance)」も臨床的課題である。適応的耐性はEGFR阻害に対する腫瘍細胞の急性フィードバック応答であり、TKI開始直後から耐性誘導が始まるため、T790Mなどの遺伝的変異より早期に生じる。これを遮断することで奏効深度と持続性を向上できる可能性がある。先行研究では、EGFR阻害がSTAT3やNF-κBの活性化を誘導することが報告されているが (Lee et al. Cancer Cell 2014、Blakely et al. Cell Rep 2015)、その詳細な分子機序や適応的耐性への関与は未解明な点が多かった。特に、TNF (腫瘍壊死因子) はNF-κB経路の主要活性化因子として細胞生存シグナルを誘導するが、EGFR阻害とTNF-NF-κBシグナルの相互作用による適応的耐性への関与はこれまで十分に検討されていなかった。また、EGFR野生型NSCLCはEGFR-TKIに反応しないことが多く、その耐性機序の解明は新たな治療戦略開発に不可欠である。これらの知識ギャップを埋め、前臨床スクリーニングを通じてEGFR阻害に拮抗する分子経路を同定し、新たな組み合わせ戦略の根拠を見出す必要があった。
目的
EGFR阻害薬 (erlotinib・gefitinib等) に対する適応的耐性の分子機序を包括的にスクリーニングし、TNF-NF-κB経路の役割を解明する。さらに、TNFシグナル阻害との組み合わせによる耐性克服戦略を、EGFR変異型および野生型NSCLCにおいて検証することを目的とした。
結果
EGFR阻害によるTNF-NF-κBフィードフォワードループの普遍的誘導: 18種のNSCLC細胞株 (EGFR変異型および野生型) において、EGFR阻害薬 (erlotinibまたはafatinib) を投与すると、24時間以内にTNF (腫瘍壊死因子) mRNAおよびタンパク質発現が急速に増加することが確認された (Figure 1A-H)。このTNFの増加は、EGFR野生型および変異型細胞株の両方で観察され、EGFR阻害に対する普遍的な適応応答であることが示唆された。産生されたTNFは自己分泌/傍分泌的にNF-κBを活性化し、さらにNF-κBがTNFおよびリンフォトキシン-β (LTβ) などのNF-κB標的遺伝子の転写を促進する自己強化型フィードフォワードループが確認された (Figure 4)。このループは、EGFRシグナルがmiR-21を介してTNF mRNA安定性を抑制し、EGFR阻害によりmiR-21が減少することでTNF mRNA安定性が増加するというメカニズムによって媒介されることが示された (Figure 2)。in vivoマウス異種移植モデル (HCC827、A549、PDX HCC4087) でも、erlotinib投与により腫瘍組織中のTNF発現が増加することが確認された (Figure 1I-N)。
リンフォトキシン-β (LTβ) の中心的役割とNIK経路の関与: サイトカインアレイおよびRNA-seqを用いた網羅的誘導分子スクリーニングにおいて、EGFR阻害下で最も顕著な発現変動を示した分子の一つがリンフォトキシン-β (LTβ) であり、対照 (DMSO処理) 比25.51倍の誘導が確認された (Figure 7H)。LTβはTNFスーパーファミリーメンバーとして非古典的NF-κB経路 (NIK (NF-κB-inducing kinase) →IKKα→p52/RelB活性化) を介して細胞生存・増殖シグナルを維持することが確認された。LTβに対するsiRNAノックダウンまたはNIKの薬理学的阻害により、EGFR-TKI感受性が有意に回復し (コロニー形成アッセイで50〜70%減少)、LTβ-NIK軸がEGFR-TKI適応的耐性の主要下流経路であることが示された (Figure 7M-P)。
TNFシグナル阻害によるEGFR-TKI感受性回復: TNF産生を抑制するthalidomide (5 µg/mL) またはTNFを中和するetanercept/enbrel (100 µg/mL) とEGFR-TKI (erlotinib・afatinib) の組み合わせにより、EGFR野生型NSCLC細胞株 (A549、H441) のEGFR-TKI IC50が約3〜5倍低下し、EGFR-TKI感受性の有意な回復が確認された (Figure 5D-G)。EGFR変異型細胞株 (HCC827、H3255) でも、低濃度のEGFR-TKIに対する感受性がTNF阻害により増強された (Figure 6D-G)。アポトーシス解析では、TKI単剤では誘導されなかったカスパーゼ活性化が、TNF阻害+TKI組み合わせにより著明に増加した (アネキシンV陽性率:TKI単剤20% vs 組み合わせ55〜65%)。in vivoマウス異種移植モデル (n=8 mice for A549, n=12 mice for HCC4087 PDX) および免疫担当トランスジェニックマウスモデルにおいて、組み合わせ治療群でTKI単剤群と比較して有意な腫瘍縮小が認められた (腫瘍体積:組み合わせ群が単剤群の約40%、p<0.05) (Figure 8A-C, E-F)。
獲得耐性NSCLCにおける有効性: EGFR-TKI獲得耐性細胞株 (HCC827/ER3、HCC827/ER4A、H1975 [EGFR T790M変異]) においても、thalidomideまたはetanerceptとの併用によりEGFR-TKI感受性が回復することが示された (Figure 9D-F)。H1975細胞を用いたマウス異種移植モデル (n=6 mice) でも、afatinibとthalidomideの併用が腫瘍増殖を有意に抑制した (Figure 9G)。さらに、HCC827細胞のin vitroおよびin vivoモデルにおいて、erlotinibとthalidomideの併用が獲得耐性の出現を抑制することが示された (Figure 9H-I)。
臨床検体での分子的検証と予後予測の可能性: EGFR-TKI治療を受けたNSCLC患者の腫瘍生検組織 (治療前・TKI治療早期・耐性時の連続サンプル) において、免疫組織化学染色によりTNFおよびNF-κBシグナル活性化マーカー (リン酸化IκBα、核内p65) の発現増加が確認された (Figure 10B-C)。治療前サンプルと比較してTKI治療後 (1〜4週) の早期サンプルでTNF/NF-κBシグナルが有意に上昇しており (p<0.05)、前臨床モデルで観察されたフィードフォワードループの早期活性化が臨床的に再現された (Figure 10A, D-E)。BATTLE試験のデータ解析では、治療前のベースラインでTNFおよび複数のNF-κB誘導遺伝子 (IL2RA、LTβ、PDGFB、TNFRSF1B、IL12B、CCL22、TRAF2) の発現が高い患者群では、erlotinib治療後のPFSが短い傾向が観察された (ログランク検定、p<0.05) (Figure 10F)。例えば、TNF高発現群のPFS中央値は3.2ヶ月 vs 低発現群の6.8ヶ月 (p=0.032) であった。
考察/結論
本研究は、EGFR阻害がEGFR変異型および野生型NSCLC細胞株、PDXモデル、および患者検体において普遍的にTNFレベルを急速に上昇させる適応応答を誘導することを包括的に明らかにした。この応答は、EGFRシグナルがmiR-21を介してTNF mRNA安定性を抑制し、TNF誘導性のNF-κB活性化がTNF転写を促進するフィードフォワードループによって媒介されるという新規のメカニズムを同定した。特に、リンフォトキシン-β (LTβ) がNF-κBの下流で重要なメディエーターとして同定され、その誘導がEGFR阻害耐性に関与することを示唆した。
先行研究との違い: これまでの研究では、EGFR-TKI耐性機序としてT790M変異やMET増幅などの遺伝的変化が主に報告されてきたが (Engelman et al. Science 2007、Yu et al. ClinCancerRes 2013)、本研究は、EGFR阻害に対する適応的応答としてTNF-NF-κB経路がEGFR変異型・野生型NSCLCに共通して生じることを初めて体系的に示した点で、これまでの報告と異なる。また、治療早期に生じる適応的耐性に焦点を当てた点が特徴である。
新規性: 本研究で初めて、EGFRシグナルがmiR-21を介してTNF mRNA安定性を制御し、EGFR阻害がmiR-21の減少を介してTNF mRNA安定性を増加させるというメカニズムを新規に同定した。さらに、TNF-NF-κB-LTβというフィードフォワードループがEGFR阻害に対する適応的耐性の主要な駆動因子であることを明らかにした点は、これまで報告されていない新規の知見である。
臨床応用: 本知見は、TNFシグナルを阻害することで、EGFR野生型NSCLC細胞株およびPDXモデルがEGFR阻害に高感受性となり、EGFR変異型細胞におけるEGFR阻害効果も増強されることを示した点で、臨床的意義は大きい。特に、thalidomideやetanerceptといった既存薬との併用が腫瘍増殖を抑制したことは、EGFR-TKI治療の奏効深度と持続性を向上させ、獲得耐性の出現を遅延させる可能性を示唆する。thalidomideは安価で経口投与可能なため、EGFR-TKIとの組み合わせ臨床試験の設計が比較的容易である。これにより、EGFR野生型NSCLC患者や、EGFR-TKI獲得耐性患者に対する新たな治療選択肢を提供する可能性があり、EGFR-TKI治療の適用範囲を大幅に拡大できる可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究は主に前臨床段階であり、臨床での大規模な検証が残されている。特に、thalidomideやetanerceptとEGFR-TKIの併用療法が、NSCLC患者において安全性と有効性を有するかを評価する臨床試験が必要である。また、TNF-NF-κB経路がEGFR-TKI耐性における唯一の適応的応答ではない可能性も考慮する必要がある。Hata et al. NatMed 2016が示すように、腫瘍細胞は多様な耐性経路を辿るため、他の適応的耐性機序とのクロストークや、患者の個々の分子プロファイルに応じた最適な併用療法の特定も今後の課題である。
方法
In vitro実験として、18種のNSCLC細胞株 (EGFR変異型および野生型) を用いて、EGFR-TKI曝露下での遺伝子発現およびサイトカインパネル解析を実施した。RNA-seqおよびタンパク質アレイにより、誘導される分子を網羅的に同定した。特に、TNF自己増幅ループ (TNF→NF-κB→TNF/LTβ産生) の存在を検証した。機能解析では、TNF阻害薬 (thalidomide、etanercept/enbrel) とEGFR-TKIの組み合わせが細胞生存率およびIC50値に与える影響を評価した。アポトーシス誘導はカスパーゼ活性化およびアネキシンV染色により評価した。In vivo実験では、マウス異種移植モデル (EGFR変異型HCC827、EGFR野生型A549細胞株、およびEGFR野生型PDXモデルHCC4087) を用いて、組み合わせ治療の腫瘍増殖抑制効果を評価した。さらに、ドキシサイクリン誘導性EGFR L858R変異を有する免疫担当トランスジェニックマウスモデルも使用した。患者サンプル解析では、EGFR-TKI治療前後のNSCLC患者腫瘍生検組織において、免疫組織化学染色によりTNFおよびNF-κB (nuclear factor-kappa B) シグナル活性化マーカー (リン酸化IκBα、核内p65) の発現を評価した。また、BATTLE (Biomarker-integrated Approaches of Targeted Therapy for Lung Cancer Elimination) 試験のデータを用いて、治療前のTNF/NF-κB関連遺伝子発現とEGFR-TKI治療後のPFSとの関連をログランク検定により探索的に解析した。統計解析にはGraphPad Prism 7.0ソフトウェアを使用し、P値が0.05未満を有意とした。