• 著者: Aaron N Hata, Matthew J Niederst, Hannah L Archibald, Maria Gomez-Caraballo, Faria M Siddiqui, Hillary E Mulvey, Yosef E Maruvka, Fei Ji, Hyo-eun C Bhang, Viveksagar Krishnamurthy Radhakrishna, Giulia Siravegna, Haichuan Hu, Sana Raoof, Elizabeth Lockerman, Anuj Kalsy, Dana Lee, Celina L Keating, David A Ruddy, Leah J Damon, Adam S Crystal, Carlotta Costa, Zofia Piotrowska, Alberto Bardelli, Anthony J Iafrate, Ruslan I Sadreyev, Frank Stegmeier, Gad Getz, Lecia V Sequist, Anthony C Faber, Jeffrey A Engelman
  • Corresponding author: Jeffrey A Engelman (Massachusetts General Hospital Cancer Center)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-02-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26828195

背景

EGFR変異陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) において、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) は劇的な初期治療効果を示すものの、獲得耐性の出現が不可避であり臨床上の大きな課題である。獲得耐性機序の中で最も頻度が高いのは、EGFR活性化ドメインのゲートキーパー変異であるEGFR T790M変異であり、耐性症例の約50-60%を占めることが Sequist et al. SciTranslMed 2011Pao et al. PLoSMed 2005 により報告されている。しかし、このT790M変異陽性の耐性クローンが治療過程においてどのように進化・出現するのか、その詳細な進化的経路は未解明であった。

従来、薬剤耐性の起源については2つの仮説が存在していた。1つは、治療前の腫瘍組織中に極めて稀な割合で存在する既存の耐性クローンが、薬剤選択圧によって選択的に増殖するという経路であり、MET遺伝子増幅などをモデルに Turke et al. CancerCell 2010 がこれを実証してきた。もう1つは、初期治療においてアポトーシスを免れて生き残った一時的な薬物耐性状態の細胞であるDTC (drug-tolerant cells: 薬剤耐性残存細胞) が、持続的な薬剤曝露下でエピジェネティックな適応を維持しつつ、その後に新規 (de novo) に遺伝子変異を獲得して永続的な遺伝学的耐性クローンへと進化するという経路である。このdrug-tolerant細胞の存在とエピジェネティックな制御機構については Sharma et al. Cell 2010 により提唱されていた。

しかしながら、実際の治療環境においてdrug-tolerant細胞からde novoでT790M変異を獲得して耐性クローンが進化するという直接的な実験的証拠はこれまで不足しており、学術的なギャップとして残されていた。また、これら2つの異なる進化経路 (既存クローンの選択 vs. drug-tolerant細胞からのde novo進化) を経て生じた耐性クローンが、生物学的に同等であるのか、あるいは異なる転写プロファイルや治療感受性を有しているのかについても不明であった。特に、T790M変異を標的とする第三世代EGFR阻害薬に対する感受性やアポトーシス応答に進化経路の違いが与える影響については、これまで検証するための実験系が確立されておらず、治療戦略を最適化する上での知見が決定的に不足していた。

目的

本研究の目的は、EGFR変異NSCLCにおけるEGFR阻害薬に対するT790M獲得耐性クローンの発生機構において、治療前から存在する稀少クローンの選択経路と、初期T790M陰性のdrug-tolerant細胞からのde novo進化経路の2つの進化的経路を実験的および数理モデルを用いて直接的に証明することである。さらに、それぞれの進化経路から生じた耐性クローンが示す生物学的特性 (転写プロファイル、シグナル伝達、アポトーシス応答) の差異を解明し、特にdrug-tolerant細胞由来の後期耐性クローンにおける第三世代EGFR阻害薬への感受性低下メカニズムを特定する。最終的に、このアポトーシス抵抗性を克服するための新規併用治療戦略として、BCL-xL (B-cell lymphoma-extra large) およびBCL-2 (B-cell lymphoma 2) を標的とする阻害薬の併用効果を前臨床モデルにおいて検証し、臨床応用に向けた基盤を確立することを目的とする。

結果

早期耐性クローンにおける既存T790M細胞の選択: 親株PC9細胞を5,000 cells/ウェルの密度でgefitinib (300 nM) 処理したところ、2週間後に約7%のウェル (90/1,260ウェル) で急速に増殖する早期耐性コロニーが出現した (Fig. 2a)。これら早期耐性クローン (n=50) は全例がEGFR T790M変異陽性であり、第一世代gefitinibには耐性を示すものの、第三世代EGFR阻害薬WZ4002に対しては極めて高い感受性を示した (Fig. 2b)。ClonTracerバーコードシステムを用いた3つの独立した実験 (CT-A, CT-B, CT-C) において、gefitinib処理後に回収された耐性クローンのバーコードを解析した結果、複数レプリカット間で約90%のバーコードが共有されており、さらに50%以上のバーコードが全5レプリカットすべてで共通して検出された (Fig. 2e)。この高度なバーコードの共有は、治療前から親株中に極めて稀な頻度 (約1/25,000〜1/50,000 cells) で存在していたT790M陽性クローンが、薬剤選択圧によって選択的に増殖したことを直接的に証明している。

Drug-tolerant細胞からのde novo T790M変異獲得と進化: 既存のT790M陽性細胞を排除するために樹立したPC9単細胞由来サブクローン (サブクローンA〜D) では、gefitinib処理2週間後において早期耐性コロニーは一切出現せず、すべてのウェルが一時的な生存状態であるdrug-tolerant細胞のみで構成されていた (Fig. 3a)。しかし、これらのdrug-tolerant細胞プールをgefitinib存在下で12〜40週間継続培養したところ、14プール中8プール (57%) において後期耐性クローンが出現し、これらがT790M変異を獲得していることが確認された (Fig. 3b)。蛍光標識 (RFP) を用いたスパイクイン実験および累積密度関数 (CDF) 解析により、これらの後期耐性クローンが既存の未検出クローンに由来する確率を算出したところ、p=0.006と極めて低く、de novoでの進化であることが統計的に実証された。また、数理モデルを用いたシミュレーションにおいても、drug-tolerant細胞の分裂率 (b=0.0162/日) と突然変異率 (µ=7×10⁻¹⁰) を用いることで、実験的に観察された1.5%のT790M獲得頻度 (16週間時点) が正確に再現された (Fig. 3d)。

進化経路の違いを反映する転写プロファイルとアポトーシス抵抗性: RNA-seqを用いた主成分分析 (PCA) において、早期耐性クローン (PC9-GR2) は親株PC9と近接してクラスタリングされたのに対し、後期耐性クローン (PC9-GR3) はT790M変異陽性であるにもかかわらず、drug-tolerant細胞 (gefitinibまたはWZ4002処理2週間) と極めて類似した転写プロファイルを示し、PC2軸上で明確に区別された (Fig. 3e)。GSEA解析では、PC9-GR3およびdrug-tolerant細胞において上皮間葉転換 (EMT) 関連遺伝子群の有意な濃縮が認められた。さらに、生物学的特性の評価において、後期耐性クローン (PC9-GR3) は早期耐性クローン (PC9-GR2) と比較して、WZ4002処理後のアポトーシス誘導能 (Annexin V陽性率) が有意に低下していた (p<0.05) (Fig. 1b)。これは、WZ4002処理によるBIMタンパク質の誘導低下およびミトコンドリア脱分極の減弱に起因していた。

患者由来細胞株における臨床的相関とNavitoclaxによる感受性回復: T790M陽性の患者由来細胞株 (PDC) 7株を評価したところ、3株 (MGH121, MGH141, MGH164) はWZ4002に対して高いアポトーシス感受性を示したが、4株 (MGH134, MGH157, MGH125, MGH138) はアポトーシス応答が著しく低下していた (Fig. 4c)。臨床情報の解析から、アポトーシス抵抗性を示すPDCの元患者は、第一世代EGFR阻害薬に対する治療期間 (Time-to-progression) が有意に長い (long-responder) ことが明らかとなった (p<0.05) (Fig. 4f)。これは、臨床現場においても長期の治療曝露中にdrug-tolerant細胞からT790M耐性クローンが進化している可能性を支持する。76剤のコンビネーションスクリーニングから、これらアポトーシス抵抗性細胞においてWZ4002のEmaxを有意に向上させる共通の薬剤として、BCL-xL/BCL-2二重阻害薬であるnavitoclax (ABT-263) が同定された (Fig. 5a)。WZ4002とnavitoclaxの併用治療は、in vitroにおいてPDCおよびPC9-GR3のアポトーシスを有意に増強した (p<0.05) (Fig. 5b, c)。さらに in vivo マウス異種移植モデルにおいて、MGH134およびPC9-GR3移植腫瘍に対し、WZ4002単剤群 (n=10 mice) では腫瘍増殖抑制にとどまったのに対し、WZ4002+navitoclax併用群 (n=7 mice) では極めて有意な腫瘍退縮効果が認められた (p<0.01) (Fig. 5d)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、EGFR変異NSCLCにおけるT790M獲得耐性の出現プロセスが、単一の進化的経路によるものではないことを示した。この知見は、治療前から存在する耐性遺伝子変異やバイパス経路の増幅が治療選択的に拡大するモデルのみを強調していた、これまでの先行研究の報告 Turke et al. CancerCell 2010 とは明確に異なり、対照的な進化プロセスを提示している。本研究は、初期治療を生き延びたdrug-tolerant細胞が耐性遺伝子変異の「貯水池 (reservoir)」として機能し、そこからde novoに変異を獲得して進化するという第2の経路を実験的・数理的に直接証明した。

新規性: 本研究で初めて、同一の遺伝学的耐性変異 (EGFR T790M) を有する耐性クローンであっても、その進化経路 (既存クローンの選択 vs. drug-tolerant細胞からのde novo進化) によって、耐性獲得後の生物学的特性や転写プロファイルが決定的に異なることを新規に同定した。特に、drug-tolerant細胞から進化した後期耐性クローンは、drug-tolerant状態のエピジェネティックな記憶を継承しており、これがBCL-xL依存的なアポトーシス抵抗性をもたらすという分子機構を新規に解明した。

臨床応用: 本研究の成果は、第三世代EGFR阻害薬 (osimertinibなど) に対する臨床現場での治療応答性の不均一性を説明する極めて重要な知見である。第一世代EGFR阻害薬に長期間奏効した患者から樹立されたT790M陽性細胞株が、第三世代阻害薬に対して低いアポトーシス応答しか示さなかった事実は、臨床現場における個別化医療の設計に直結する。本研究で示された、BCL-xL/BCL-2阻害薬navitoclaxと第三世代EGFR阻害薬の併用療法は、この後期耐性クローンにおけるアポトーシス抵抗性を劇的に克服し、in vivoモデルにおいて有意な腫瘍退縮 (p<0.01) を誘導した。この有望な前臨床データに基づき、臨床試験 (NCT02520778) が計画・立案されたことは、本研究の translational な価値を証明している。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究における患者由来細胞株の解析規模 (n=7) は限定的であり、より大規模な臨床コホートにおいて、第一世代EGFR阻害薬の奏効期間と第三世代阻害薬の治療効果、および腫瘍のアポトーシス感受性との相関を検証する必要がある。また、drug-tolerant細胞からde novoに変異が導入される際のエピジェネティックなゲノム不安定性の制御機構や、T790M以外の耐性変異における進化経路の影響についてもさらなる解明が求められる。さらに、臨床現場においてosimertinib等の治療後にT790M変異が消失し、再びT790M陰性のdrug-tolerant状態へと回帰するクローン動態の多層的な制御機構を解明することが、耐性克服に向けた次世代の課題である。

方法

細胞株および耐性株の樹立: EGFR変異 (exon 19 del) およびEGFR遺伝子増幅を有するNSCLC細胞株PC9、および治療未介入の患者から樹立されたMGH119細胞株を使用した。PC9親株をgefitinibの漸増濃度 (10 nMから1 µM) で長期培養し、早期に耐性を獲得したPC9-GR2 (PC9 gefitinib-resistant clone 2: 6週間で樹立) と、後期に耐性を獲得したPC9-GR3 (PC9 gefitinib-resistant clone 3: 24週間で樹立) を樹立した。細胞株の同一性はSTR (short tandem repeat) 解析により検証した。

ClonTracerバーコードシステム: 高複雑性DNAバーコードライブラリー (ClonTracer) を用いて、約1×10⁶〜2×10⁶個のPC9細胞にレンチウイルス感染 (MOI 0.1-0.2) によりバーコードを導入した。プーロマイシン選択後、細胞を5つの生物学的レプリカット (各20×10⁶細胞) に分割し、300 nMのgefitinibで処理した。2-3週間後に出現した早期耐性コロニーからゲノムDNAを抽出し、PCR増幅後にIllumina HiSeq2500を用いて次世代シーケンシング (NGS) を行い、レプリカット間でのバーコード共有率を解析した。

単細胞サブクローン実験: 親株PC9細胞を96ウェルプレートに0.5細胞/ウェルの密度で播種し、単細胞由来のサブクローンを樹立することで、治療前から存在するT790M変異細胞を完全に排除した。得られたサブクローンA、B、C、Dをgefitinib存在下で最長40週間継続培養し、de novoでのT790M変異獲得を評価した。また、蛍光標識 (RFP: red fluorescent protein) を導入したT790M陽性細胞をサブクローン細胞に1細胞単位でスパイクインし、耐性クローン出現のキネティクスを測定した。

数理モデルの構築: drug-tolerant細胞からのde novo変異獲得頻度を予測するため、分岐過程 (branching process) に基づく数理モデルを構築した。モデルパラメータ (分裂率 b=0.0162/日、死亡率 d=0.015/日、突然変異率 µ=7×10⁻¹⁰) は、先行文献の単細胞データおよび実際のPC9 drug-tolerant細胞プールの増殖曲線から推定し、累積密度関数 (CDF: cumulative density function) を用いて統計的検証を行った。

RNA-seqおよびバイオインフォマティクス解析: parental PC9、drug-tolerant細胞 (gefitinibまたはWZ4002で2週間処理)、PC9-GR2、PC9-GR3からRNAを抽出し、NEBNext (New England Biolabs RNA library preparation kit) 方向性RNAライブラリー調製キットを用いてライブラリーを調製した。シーケンシングデータ (GSE75602) のマッピングには Dobin et al. Bioinformatics 2013 を、リードカウントには Anders et al. Bioinformatics 2015 を、発現解析には Robinson et al. Bioinformatics 2010 を使用した。遺伝子セット濃縮解析 (GSEA) は Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005 パッケージを用いて実施した。

患者由来細胞株 (PDC) の評価: EGFR阻害薬耐性進行後の患者生検組織または胸水から樹立されたT790M陽性NSCLC患者由来細胞株 (PDC: patient-derived cell line) 7株 (MGH121、MGH134、MGH141、MGH157、MGH125、MGH138、MGH164) を使用した。これらPDCの臨床情報 (第一世代EGFR阻害薬の治療期間) とWZ4002に対するアポトーシス応答の相関を評価した。

薬剤スクリーニングおよびin vivo実験: 76種類の標的治療薬ライブラリーを用いて、WZ4002との併用により最大増殖阻害効果 (Emax) を向上させる薬剤のスクリーニングを実施した。in vivo検証では、雌性ヌードマウス (Nu/Nu、6-8週齢) の側腹部にMGH134またはPC9-GR3細胞 (5×10⁶ cells) を皮下移植し、腫瘍形成後にランダム化を行い、WZ4002 (50 mg/kg/日)、navitoclax (100 mg/kg/日)、または両剤併用群に分けて経口投与を行った (各群 n=7〜10 mice)。統計解析にはGraphPad Prismを使用し、多重比較にはSidak-Bonferroni補正付きt検定を用いた。