- 著者: Helena A. Yu, Maria E. Arcila, Natasha Rekhtman, Camelia S. Sima, Maureen F. Zakowski, William Pao, Mark G. Kris, Vincent A. Miller, Marc Ladanyi, Gregory J. Riely
- Corresponding author: Gregory J. Riely (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2013
- Epub日: 2013-03-07
- Article種別: Original Article
- PMID: 23470965
背景
EGFR活性化変異陽性非小細胞肺癌 (non-small cell lung cancer, NSCLC) はerlotinibやgefitinibなどのEGFR-TKI (tyrosine kinase inhibitor) に対して高い奏効率を示すが、中央値8〜16ヶ月で全例が獲得耐性を来すことが複数の第III相試験から示されている (Mok et al. NEnglJMed 2009)。獲得耐性機構として、EGFR exon 20のT790M点変異が最頻であることが初期報告から知られており (Kobayashi et al. NEnglJMed 2005)、他にも小細胞癌への組織転換、MET増幅、HER2増幅、まれなBRAF変異などが個別症例報告や少数例シリーズとして記載されてきた (Sequist et al. SciTranslMed 2011)。しかし、これらはすべて少数例の報告に偏っており、各耐性機構の正確な頻度・相互重複・臨床転帰への影響を単一の大規模コホートで系統的に明らかにした研究は手薄であった。「何が足りなかったか」という点では、複数耐性機構間のoverlap頻度が不明であること、MET増幅の報告頻度が小規模シリーズ間で5〜22%と大きくばらつくこと、標準化された前向きプロトコルによる大規模解析という gap in knowledge が存在した。さらに、獲得耐性時の組織rebiopsyは予後予測ならびに治療方針変更 (小細胞癌化判明時のプラチナ+エトポシド導入など) の根拠となりうるが、大規模でのrebiopsy安全性・実行可能性の実証も不足していた。
目的
EGFR変異陽性NSCLCでEGFR-TKI獲得耐性を呈した155例の前向きrebiopsy試料を包括的に分子解析し、各耐性機構 (EGFR T790M、小細胞癌化、MET増幅、HER2増幅、その他の癌遺伝子変異) の頻度・重複パターン・臨床転帰との関連を確立する。
結果
患者背景と登録特性:155例の患者背景 (Table 2) は中央値年齢57歳 (範囲 33-81)、女性100例 (66%)、非喫煙者107例 (69%)、元喫煙者48例 (31%)、現喫煙者0例。人種はWhite 73%、Asian 19%、Black 7%。ベースラインEGFR変異はexon 19 deletion 103例 (66%)、L858R 46例 (30%)、L861Q 1例、複合変異 (exon 19 del+T790M、exon 19 del+PIK3CA、L861Q+R776H等) が各1例。EGFR-TKI使用歴は1次治療70% (n=110)、2次治療15% (n=24)、3〜4次治療6% (n=9)、術後補助/維持療法8% (n=12)。単剤78% (n=121)、TKI+化学療法併用22% (n=34)。TKI開始から臨床進行までの期間の中央値は13ヶ月 (2-73ヶ月) で、EGFR exon 19 deletion例 (15ヶ月) とL858R例 (17ヶ月) で有意差なし (P=0.99)。T790M獲得例とその他でも進行期間に差はなく (16ヶ月 vs 17ヶ月、P=0.37)。同時期の当院全EGFR変異例と比較し、登録患者は有意に若年・非喫煙者比率高・exon 19 deletion比率高であり、良好予後因子を有する選択バイアスの存在が示唆された。
生検手技の安全性と実行可能性:162例の全手技で重篤有害事象はpigtail catheter留置を要した気胸1件のみで、rebiopsy protocolの安全性が実証された (Fig 1)。手技の内訳は肺/胸壁生検82件 (core 64件/FNA 18件)、肝生検13件、脳切除10件、リンパ節生検9件、骨生検9件 (core 7件/FNA 2件)、胸水採取14件、その他9件など多様な部位に及んだ。162例中155例 (96%) で分子解析可能な組織を得た。分子解析不能の7例の内訳は腫瘍量不足5例、再生検でsensitizing変異が確認できなかった2例であった。
獲得耐性機構の頻度:最頻の耐性機構はEGFR T790M点変異で98/155例 (63%、95% CI 55-70%)。EGFR T854A変異が1例 (<1%、95% CI <1-4%)。PIK3CA、AKT1、BRAF、ERBB2、MEK1、NRAS、KRASの後天性変異は88例で評価し0/88例 (0%、95% CI 0-4%) と検出されなかった。小細胞癌化 (histologic transformation) は4/155例 (3%、95% CI 0-6%) に認められ、全例でCD56・synaptophysin・chromogranin陽性を免疫染色で確認し (Fig 2)、初回生検標本には小細胞成分は認められなかった。EGFR変異型別 (exon 19 del vs L858R) で耐性機構の頻度に差はなく、各機構の相対的頻度はFig 3に図示した。MET増幅はFISH評価可能な75例中4例 (5%、95% CI 1-13%)。HER2増幅はFISH評価可能な24例中3例 (13%、95% CI 3-32%)。EMT (epithelial-mesenchymal transition) に一致する紡錘形間葉系形態変化はH&E形態学的には確認されなかった (vimentin/E-cadherin免疫染色は未施行)。
耐性機構の重複と腫瘍内不均一性:全体の4%で複数の耐性機構が同一症例内で同定された。具体的には小細胞癌化+T790M 2例、小細胞癌化+MET増幅1例、T790M+MET増幅 (同一標本内で共存) 2例。さらに1例では異なる転移巣の2標本 (剖検標本はT790M陽性/HER2陰性、副腎切除標本はHER2増幅/T790M陰性) で異なる耐性機構が検出され、腫瘍内クローン多様性を裏付けた (Gerlinger et al. NEnglJMed 2012)。MET増幅4例のうち3例では他の耐性機構との重複を認め、MET増幅単独で耐性を誘導するかどうかは不明であることが示唆された。複数耐性機構を持つ症例のTKI進行までの期間は7〜24ヶ月と幅広かった。
臨床転帰:2012年2月時点で64% (99/155) が死亡。Stage IV診断からのOS中央値は3.8年 (95% CI 3.1-5.1年、Fig 4A)。獲得耐性確認からのPPS中央値は1.7年 (95% CI 1.6-2.0年、Fig 4B)。T790M陽性例のPPS中央値1.9年 (95% CI 1.6-2.6年) はT790M陰性例1.6年 (95% CI 1.2-1.8年) より有意に延長しており (P=0.015、Fig 5)、T790M保有例では獲得耐性後もより緩徐な疾患経過が示唆された。進行確認後も91% (141/155) がEGFR-TKIを継続 (一部は化学療法との併用)。小細胞癌化4例はすべて比較的aggressive な臨床経過を示し、うち2例はプラチナ系doublet化学療法で部分奏効を達成した。
考察/結論
本研究はEGFR-TKI獲得耐性機構の頻度を単一の前向きコホートで系統的に明らかにした最大規模報告であり、いくつかの点でこれまでの研究と異なる。最大の違いはMET増幅の頻度評価であり、既報の小規模シリーズでは10%超と推定されていたのに対し、本研究の前向き大規模データは5%と有意に低い頻度を示した。また、HER2増幅は既報では断片的な記述に留まっていたが、本研究では13% (3/24) という頻度が得られ、T790M非保有症例において無視できない耐性機構であることが対照的に浮かび上がった。Sequist 2011らが記述したEMT (epithelial-mesenchymal transition) は本研究では形態学的に確認されず (vimentin/E-cadherin染色未施行の限界はあるが)、小細胞癌化3%は明確に確認された点も相違点である。
本研究で初めて確立されたのは、155例という規模での包括的耐性機構マッピングによる各機構の信頼できる频度推計という新規の知見基盤である。特に新規に示された点は、(1) MET増幅の4例中3例で他の耐性機構との重複を認め、MET増幅単独の耐性誘導能が限定的である可能性、(2) 同一患者の異なる転移巣で異なる耐性機構が共存するクローン多様性の大規模コホートでの実証、(3) T790M陽性例がPPS有意延長 (P=0.015) を示し、T790Mが予後良好因子と関連するという初の大規模データである。これらの知見は後に開発された第三世代EGFR-TKI (osimertinibなど) のT790M選択的治療という戦略的方向性と整合する。
臨床応用の観点では、本研究は標準化されたrebiopsy protocolが多様な部位・手技において安全かつ実行可能であることを大規模に実証した (重篤有害事象は気胸1件のみ)。臨床的意義は多岐にわたる:小細胞癌化の同定は治療方針を根本的に変更させ (プラチナ+エトポシドへの切替)、T790Mの同定は第三世代EGFR-TKI選択に直結し、HER2/MET増幅の同定はそれぞれ対応する分子標的治療の候補選択に有用である。また、進行後もEGFR-TKI継続が91%で実施されたことは、腫瘍内不均一集団における継続的EGFR阻害の生物学的合理性 (TKI中断によるflare現象回避) と一致し、臨床現場における進行後TKI継続戦略を支持するエビデンスとなる。bench-to-bedside の観点では、耐性機構ごとに異なる治療戦略が必要であることが明示的に示され、rebiopsy義務化を含む後継ガイドライン策定の実証的根拠となった。
残された課題として複数の限界が存在する。FISHおよびSequenomが全155例で施行できなかったため (MET FISH n=75、HER2 FISH n=24)、各機構頻度推計の精度と重複頻度の過小評価の可能性は否定できない。AXL、HGF発現亢進やMAPK1 (mitogen-activated protein kinase 1)増幅など当時未評価であった耐性機構が未測定であり、同定できなかった耐性機構の相当部分をこれらが占める可能性がある。また、前治療検体でのHER2/MET FISH比較が大部分で不可能であり、これらの増幅が後天的変化か先天的存在かの確証を得られなかった。EMTはvimentin/E-cadherin染色を実施しなかったため評価不完全であり、今後の検討が必要である。登録患者は同時期の全EGFR変異例より若年・非喫煙・exon 19 deletion比率が高く、選択バイアスの存在が本コホートの一般化可能性を制限する。さらなる研究として、次世代シーケンシング (NGS) による網羅的変異解析とタンパク/遺伝子発現解析を耐性機構未同定例に適用し、新規耐性機構を探索するとともに、各耐性機構に対応した個別化治療アルゴリズムの prospective validation が求められる。
方法
Memorial Sloan-Kettering Cancer Center (MSKCC) で実施されたProtocol 04-103 (IRB承認済み、全患者書面同意取得) に基づく前向き生検試験。登録期間は2004年8月〜2012年1月。適格基準は肺腺癌でEGFR活性化変異が confirmed、erlotinibまたはgefitinib単剤歴あり、3ヶ月超の病勢安定または部分奏効を示したのち画像上進行した症例。175例が登録され、162例でrebiopsy施行。生検はFNA (fine needle aspiration)、image-guided core biopsy、外科切除、悪性胸水のcell blockを組み合わせ、最低侵襲な方法を優先した (Table 1)。最終的に155例で分子解析に十分な組織量を確保した。全標本を胸部専門病理医がレビューし小細胞形質転換を評価。EGFR sensitizing変異の再確認後、EGFR T790Mは2009年7月以降locked nucleic acid-based PCR sequencingによる高感度検出法を適用。Sequenom mass spectrometry-based assayでEGFR、BRAF、PIK3CA、AKT1、ERBB2、MEK1、NRAS、KRASの92点変異を網羅的にスクリーニング。MET増幅はFISHによるdual-color MET/CEP7 probeでMET/CEP7比>2を陽性基準 (低増幅:比3以下、高増幅:比>3) とし、少なくとも200細胞を計測。HER2増幅はVysis PathVysion HER2 DNA Probe Kitを用い、HER2/CEP17 (centromere enumeration probe 17)比>2またはHSR (homogeneously staining region) >15 copies in >10%の細胞を陽性とし、少なくとも40細胞を計測。overall survival (OS、stage IV診断から) およびpost-progression survival (PPS、獲得耐性確認から) はKaplan-Meier法で算出し、群間比較はlog-rank検定。臨床背景の群間比較はchi-square検定。同時期に当院で診断された全EGFR変異例と登録患者の背景を比較し、選択バイアスを評価した。