• 著者: Yi-Long Wu, Myung-Ju Ahn, Marina Chiara Garassino, Ji-Youn Han, et al.
  • Corresponding author: Yi-Long Wu (Guangdong Lung Cancer Institute, Guangzhou)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-07-30
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30059262

背景

EGFR変異陽性非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、T790M耐性変異獲得後も長期生存が期待される一方で、長期生存に伴い脳転移の累積発症率が高まることが知られている。診断時に約24%の患者に脳転移が存在し、疾患経過中に約40%が脳転移を発症すると報告されている Rangachari et al. Lung Cancer 2015。第一世代および第二世代のEGFR-TKIは、血液脳関門 (BBB) 透過性が低く、脳が薬剤の「sanctuary site」となり、CNS転移が標準的な治療において難治性の問題であった Pardridge et al. JCerebBloodFlowMetab 2012。先行研究では、ゲフィチニブやエルロチニブといった第一世代TKIの脳脊髄液 (CSF) 濃度が比較的低いことが示されている Togashi et al. CancerChemotherPharmacol 2012。また、アファチニブなどの第二世代TKIも、CNS転移に対する有効性は限定的であると報告されている Hoffknecht et al. JThoracOncol 2015。これらの薬剤では、CNS転移に対する効果的な治療選択肢が不足しているという課題が残されていた。

オシメルチニブは、第三世代のCNS活性型EGFR-TKIであり、EGFR-TKI感受性変異とT790M耐性変異の両方に対して選択的に作用する。前臨床データでは、オシメルチニブが高いBBB透過性を示すことが報告されており Ballard et al. ClinCancerRes 2016、マウスおよび非ヒト霊長類の脳において高い分布を示すことが確認されている。Phase II試験のプール解析では、T790M陽性NSCLC患者で測定可能CNS病変を有する50例において、オシメルチニブのCNS客観的奏効率 (ORR) が54% (95% CI, 39-68%) と報告され、CNS疾患制御率 (DCR) は92% (95% CI, 81-98%) であった Goss et al. LancetOncol 2016。しかし、これらのデータは単群試験からのものであり、標準的な二次治療であるプラチナ-ペメトレキセド併用化学療法と比較した無作為化比較試験におけるCNS有効性のデータはこれまで存在せず、その優越性は未解明であった。

CNS転移は、患者のQOLを著しく低下させ、予後不良因子となるため、効果的なCNS治療薬の開発は喫緊の課題である。従来の治療法である手術、定位放射線治療、全脳照射 (WBRT) は、それぞれ限界があり、特にWBRTは生存期間やQOLの改善に寄与しない可能性が示唆されている Mulvenna et al. Lancet 2016。EGFR変異陽性NSCLC患者において、EGFR-TKI治療は化学療法やWBRTと比較してCNS病変の進行リスクを低減する可能性が報告されているが Heon et al. ClinCancerRes 2012、BBB透過性の低い第一・二世代TKIではCNSが依然として治療のギャップとなっていた。

本研究は、T790M陽性進行NSCLC患者を対象とした無作為化Phase III試験であるAURA3試験の事前設定サブグループ解析として、オシメルチニブとプラチナ-ペメトレキセド併用化学療法のCNS有効性を比較した初の比較エビデンスを提供するものである。これにより、T790M陽性かつCNS転移を有する患者に対する治療選択肢の確立に貢献することが期待される。

目的

本研究の目的は、EGFR-TKI治療後に病勢進行したEGFR T790M陽性進行NSCLC患者を対象とした無作為化Phase III試験であるAURA3試験 (NCT02151981) のCNS転移サブグループ解析として、オシメルチニブのCNS有効性をプラチナ-ペメトレキセド併用化学療法と比較評価することである。具体的には、測定可能CNS病変を有する患者におけるCNS客観的奏効率 (ORR) を主要評価項目とし、測定可能および非測定可能CNS病変を有する患者全体におけるCNS ORR、CNS無増悪生存期間 (PFS)、CNS奏効持続期間 (DoR) を副次評価項目として比較検討する。これにより、オシメルチニブのCNS浸透性と活性が、実際の臨床におけるCNS転移の制御にどの程度寄与するかを明らかにすることを目指す。

結果

AURA3試験に無作為に割り付けられた419例の患者のうち、116例が測定可能および/または非測定可能CNS病変を有しており、そのうち46例が測定可能CNS病変を有していた。データカットオフ (2016年4月15日) 時点での解析結果は以下の通りである。

測定可能CNS病変例におけるCNS ORR: 測定可能CNS病変を有する患者 (cEFR、n=46、オシメルチニブ群 n=30、プラチナ-ペメトレキセド群 n=16) におけるCNS ORRは、オシメルチニブ群で70% (21/30、95% CI 51-85%) であったのに対し、プラチナ-ペメトレキセド群では31% (5/16、95% CI 11-59%) であった。オッズ比 (OR) は5.13 (95% CI 1.44-20.64, p=0.015) であり、オシメルチニブ群が統計的に有意かつ臨床的に意義のある高いCNS ORRを示した (Table 2)。オシメルチニブ群では完全奏効 (CR) が2例 (7%)、部分奏効 (PR) が19例 (63%) 認められたのに対し、プラチナ-ペメトレキセド群ではCRが1例 (6%)、PRが4例 (25%) であった。この結果は、プラチナ-ペメトレキセドがBBBをほとんど透過しない薬理学的特性と、オシメルチニブの高いBBB透過性との臨床的差異を明確に反映している。

全CNS病変例におけるCNS ORR: 測定可能および非測定可能CNS病変を含む全CNS病変例 (cFAS、n=116、オシメルチニブ群 n=75、プラチナ-ペメトレキセド群 n=41) におけるCNS ORRは、オシメルチニブ群で40% (30/75、95% CI 29-52%) であったのに対し、プラチナ-ペメトレキセド群では17% (7/41、95% CI 7-32%) であった。オッズ比は3.24 (95% CI 1.33-8.81, p=0.014) であり、この集団においてもオシメルチニブ群が有意な優越性を示した。この集団には脳軟膜転移や微小病変などの非測定可能病変が含まれるため、全体的なORRは低下するが、それでも2倍以上の奏効率の差が確認された。

CNS無増悪生存期間 (PFS): CNS病変を有する患者 (cFAS、n=116) におけるCNS PFS中央値は、オシメルチニブ群で11.7ヶ月 (95% CI 10ヶ月-NC) であったのに対し、プラチナ-ペメトレキセド群では5.6ヶ月 (95% CI 4.2-9.7ヶ月) であった。ハザード比 (HR) は0.32 (95% CI 0.15-0.69, p=0.004) であり、オシメルチニブ群が統計的に有意かつ臨床的に意義のあるCNS PFSの延長 (約2倍) を示した (Figure 3A)。このHR 0.32という効果量は、AURA3試験全体のPFS HR 0.30 (95% CI 0.23-0.41) とほぼ同等であり、CNS転移を有する患者においても全身効果と同程度の相対的恩恵が得られることを示唆している。Kaplan-Meier曲線は治療開始初期から明確な分離を示した。

CNS奏効持続期間 (DoR): CNS奏効を示した患者におけるCNS DoR中央値は、オシメルチニブ群で8.9ヶ月 (95% CI 4.3ヶ月-NC) であったのに対し、プラチナ-ペメトレキセド群では5.7ヶ月 (95% CI 4.4-5.7ヶ月) であった (Table 2)。プラチナ-ペメトレキセド群での短いDoRは、化学療法のCNS応答が限定的かつ一過性であることを示唆している。オシメルチニブ群でのDoR 8.9ヶ月は、全身応答のDoR (AURA3全体では約11.4ヶ月) よりやや短いものの、CNS病変においても長期間の奏効持続が可能であることを示した。

CNS腫瘍縮小率: 測定可能CNS病変を有する患者 (cEFR) におけるCNS標的病変サイズのベースラインからの最大変化率中央値は、オシメルチニブ群で-43% (範囲 -100%〜+20%) であったのに対し、プラチナ-ペメトレキセド群では-16% (範囲 -100%〜+20%) であった (Figure 2)。オシメルチニブ群ではより深い腫瘍縮小が観察された。

先行脳放射線治療の影響: 先行脳放射線治療の有無によるCNS ORRのサブグループ解析では、無作為化から6ヶ月以内に脳放射線治療を受けた患者において、オシメルチニブ群のCNS ORRは64% (9/14、95% CI 35-87%) であったのに対し、プラチナ-ペメトレキセド群では22% (2/9、95% CI 3-60%) であった (Table 3)。先行脳放射線治療を受けていない、または6ヶ月以上前に受けた患者では、オシメルチニブ群のCNS ORRは34% (21/61、95% CI 23-48%) であったのに対し、プラチナ-ペメトレキセド群では16% (5/32、95% CI 5-33%) であった。いずれのサブグループにおいても、オシメルチニブ群で数値的に高いCNS ORRが認められたが、統計的有意差は認められなかった。

競合リスク解析によるCNS進行イベントの累積発生率: 競合リスク解析に基づくと、CNS進行イベントの累積発生率 (非CNS進行または死亡の競合リスクを考慮した場合) は、3ヶ月時点でオシメルチニブ群で2.7% (95% CI 0.8-9.6%)、プラチナ-ペメトレキセド群で8.2% (95% CI 2.3-28.7%) であった。6ヶ月時点では、オシメルチニブ群で11.5% (95% CI 5.9-22.4%)、プラチナ-ペメトレキセド群で28.2% (95% CI 16.6-48.0%) であり、オシメルチニブ群で一貫して低いCNS進行イベント発生率が示された (Figure 3B)。オシメルチニブ群では新規CNS病変の発生も少なかった (11% vs 22%)。

髄膜癌腫症 (LM) の評価: cFASに含まれる7例のLM疑い患者のうち、2例で完全な放射線学的LM奏効、2例で部分的な放射線学的LM奏効がRANO-LM基準に従って認められた。全身病勢進行時においても、LM疑い患者でCNS病変の進行は報告されず、CNS疾患が制御されていることが示唆された。

考察/結論

本AURA3 CNSサブグループ解析は、EGFR T790M陽性進行NSCLCの二次治療において、オシメルチニブがプラチナ-ペメトレキセド併用化学療法と比較してCNS有効性を大幅に改善することを示した最初の無作為化Phase III比較エビデンスである。測定可能CNS病変を有する患者におけるCNS ORRは、オシメルチニブ群で70% (95% CI 51-85%)、化学療法群で31% (95% CI 11-59%) であり、オッズ比は5.13 (95% CI 1.44-20.64, p=0.015) と、オシメルチニブが有意な優越性を示した。また、CNS PFS中央値はオシメルチニブ群で11.7ヶ月、化学療法群で5.6ヶ月であり、ハザード比は0.32 (95% CI 0.15-0.69, p=0.004) と、臨床的に意義のあるCNS PFSの延長が認められた。

先行研究との違い: これまでのEGFR-TKIに関するCNS有効性の報告は、主にPhase II試験や単群解析に限られていた。本研究は、無作為化Phase III試験において、オシメルチニブが標準化学療法と比較してCNS ORRおよびCNS PFSの両方で優越性を示すことを明確に実証した点で、先行研究とは対照的である。特に、第一・二世代EGFR-TKIがBBB透過性の低さからCNS転移に苦慮していたのに対し、オシメルチニブは高いBBB透過性を示すことが前臨床で示されており Ballard et al. ClinCancerRes 2016、本臨床データはその薬理学的特性が実際のCNS制御に寄与することを確立した。

新規性: 本研究で初めて、T790M陽性NSCLC患者におけるCNS転移に対して、オシメルチニブが化学療法と比較して優れたCNS有効性を示すことを、無作為化Phase III試験のデータとして報告した。この知見は、T790M陽性かつCNS転移を有するNSCLC患者に対するオシメルチニブの優先選択を強力に支持する新規エビデンスを提供する。化学療法では白金系薬剤がBBBを通過しにくいという生物学的制約が、OR 5倍以上という大きなCNS制御差に反映されていると解釈される。

臨床応用: 本データは、T790M陽性進行NSCLC患者、特にCNS転移を有する患者にとって、オシメルチニブが極めて重要な治療選択肢であることを示唆する。CNS転移は患者のQOLを著しく損ない、予後不良因子であるため、効果的なCNS制御は臨床的意義が非常に大きい。オシメルチニブのCNS PFS HR 0.32は、AURA3試験全体のPFS HR 0.30とほぼ一致しており Mok et al. NEnglJMed 2017、CNS転移の有無がオシメルチニブの相対的有効性に影響しないことを示唆している。また、一次治療におけるFLAURA試験のCNSデータ (HR 0.48) と組み合わせることで、治療ライン全般におけるオシメルチニブのCNS優越性という一貫したエビデンスが構築される。これは、T790M陽性二次治療患者におけるCNS制御において、オシメルチニブの優越性が特に顕著であることを示唆している。

残された課題: 本サブグループ解析は、CNS転移を有する患者数が限定的であるというlimitationがある。AURA3試験では、ベースライン時に既知または疑われるCNS転移を有する患者にのみ脳スキャンが義務付けられていたため、無症候性CNS転移を有する一部の患者が除外された可能性がある。また、ベースライン時にCNS転移のない患者におけるオシメルチニブのCNS有効性を評価することはできなかった。髄膜癌腫症 (LM) 患者の数は限られていたが、オシメルチニブの活性は有望であった。LM患者に対するオシメルチニブの役割は、BLOOM試験 (NCT02228369) で現在も検討中であり、高用量オシメルチニブ160mg 1日1回投与での活性と忍容性が示唆されている Yang et al. JClinOncol 2017。今後の検討課題として、より大規模なLM患者コホートでの有効性評価や、一次治療におけるCNS転移予防効果のさらなる検証が挙げられる。

方法

AURA3試験は、EGFR-TKI治療後に病勢進行したEGFR T790M陽性進行NSCLC患者を対象とした、Phase III、非盲検、無作為化比較試験である (NCT02151981)。患者はオシメルチニブ80mg 1日1回経口投与群と、プラチナ-ペメトレキセド併用化学療法群 (ペメトレキセド500mg/m² + シスプラチン75mg/m² またはカルボプラチンAUC 5、3週間に1回、最大6サイクル) に2:1の割合で無作為に割り付けられた。本解析は、AURA3試験の事前設定サブグループ解析として実施された。

患者選択基準: 無症候性で安定したCNS転移を有する患者は登録可能であった。ステロイドを4週間以上必要としない患者、および髄膜癌腫症 (LM) 患者も含まれた。ベースライン時に既知または疑われるCNS転移を有する患者には、MRIまたはCTによる脳スキャンが必須であった。

CNS評価: ベースライン脳スキャンは、神経放射線科医による盲検下独立中央判定 (BICR) によりCNS転移の有無が評価された。CNS転移が確認された患者では、客観的な全身病勢進行が確認されるまで6週間ごとに追跡脳スキャンが実施された。 CNS評価可能集合 (cEFR) は、1つ以上の測定可能CNS病変 (長径10mm以上) を有する患者のみを含んだ。CNS全解析集合 (cFAS) は、測定可能および/または非測定可能CNS病変を有する患者を含んだ。LMは非標的病変 (NTL) として評価された。LMの放射線学的奏効は、RANO-LM (Response Assessment in Neuro-Oncology Leptomeningeal Metastases) ワーキンググループが提案する基準に従って評価された。

エンドポイント: 本事前設定CNS解析の主要評価項目は、神経放射線学的BICRによるCNS ORRであった。副次評価項目には、CNS疾患制御率 (DCR)、CNS奏効持続期間 (DoR)、CNS無増悪生存期間 (PFS)、およびCNS腫瘍縮小率が含まれた。追加解析として、先行脳放射線治療がCNS奏効に与える影響、およびCNS進行の競合リスク解析が実施された。CNS有効性はRECIST 1.1基準に従って評価された。

統計解析: データカットオフは2016年4月15日であった。CNS ORRは、各治療群における奏効患者の割合として算出され、オッズ比 (OR) と95%信頼区間 (CI) が報告された。CNS PFSおよびCNS DoRは、Kaplan-Meier法を用いて推定され、ハザード比 (HR) と95% CIが算出された。競合リスク解析では、CNS進行をイベント、非CNS進行またはあらゆる原因による死亡を競合リスクとして定義し、Fine and Grayモデルを用いて累積発生率が算出された。