• 著者: Thanyanan Reungwetwattana, Kazuhiko Nakagawa, Byoung Chul Cho, et al.
  • Corresponding author: Johan Vansteenkiste (University Hospital KU Leuven, Belgium)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-08-28
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30153097

背景

EGFR変異陽性非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、脳転移は高頻度で発生し、疾患の予後と患者のQOLに深刻な影響を及ぼすことが知られている。既報では、EGFR変異陽性NSCLC患者の約40%が生涯にわたりCNS転移を発症すると報告されている (Rangachari et al. 2015)。第一世代および第二世代のEGFR-TKIは、化学療法と比較してCNS病勢進行のリスクを低減するものの (Heon et al. ClinCancerRes 2012)、これらの薬剤の血液脳関門 (BBB) 透過性が低いことが課題であった。この低いBBB透過性により、脳は薬剤が到達しにくい「sanctuary site」となり、CNS転移が治療失敗の主要な原因となることが指摘されてきた (Baik et al. 2015)。例えば、Togashi et al. CancerChemotherPharmacol 2012は、ゲフィチニブやエルロチニブの脳脊髄液中濃度が血漿中濃度と比較して低いことを示している。このような課題から、CNS転移の予防および治療における効果的な薬剤の開発が不足していた。

Osimertinibは、EGFR-TKI感受性変異とT790M耐性変異の両方に対して選択的に作用する第三世代の不可逆的EGFR-TKIである (Cross et al. CancerDiscov 2014)。前臨床試験では、osimertinibが非ヒト霊長類の脳において、第一世代TKIであるゲフィチニブやエルロチニブよりも著明に高い脳内分布を示すことが報告されており (Ballard et al. ClinCancerRes 2016)、優れたCNS活性が期待されていた。実際に、T790M陽性NSCLCの二次治療を対象としたAURA3試験では、osimertinibのCNS客観的奏効割合 (ORR) が70%であり、プラチナ製剤とペメトレキセド併用化学療法群の31%を統計学的に有意に上回ることが示された (Wu et al. JClinOncol 2018)。

しかし、未治療のEGFR変異陽性進行NSCLC患者における一次治療としてのosimertinibのCNS有効性については、大規模な無作為化第III相試験からの詳細なデータが不足していた。特に、標準EGFR-TKIと比較したCNS病勢進行抑制効果やCNS奏効の程度に関するエビデンスが未確立であり、この知識ギャップが残されていた。本研究は、FLAURA試験の事前計画サブグループ解析として、この知識ギャップを埋めることを目的としている。FLAURA試験は、一次治療におけるosimertinibの全身療法としての優越性を既に確立しており (Soria et al. NEnglJMed 2018)、本解析はCNS疾患制御におけるosimertinibの標準EGFR-TKI (ゲフィチニブ/エルロチニブ) に対する優越性を評価する最初の第III相無作為化データを提供するものである。

目的

FLAURA第III相試験において、未治療のEGFR変異陽性進行NSCLC患者のうち、ベースラインでCNS転移を有する症例を対象に、osimertinibと標準EGFR-TKI (ゲフィチニブまたはエルロチニブ) のCNS有効性を評価することを目的とする。具体的には、主要評価項目としてneuroradiologic BICR (blinded independent central review) によるCNS無増悪生存期間 (CNS PFS) を、副次評価項目としてCNS客観的奏効割合 (CNS ORR)、CNS奏効期間 (CNS DoR)、CNS疾患制御割合 (CNS DCR)、CNS腫瘍縮小率、および競合リスク解析によるCNS病勢進行の累積発生率を、事前設定されたサブグループ解析として評価する。本解析は、osimertinibがCNS転移を有する患者において、標準治療と比較してCNS病勢進行のリスクを低減し、より高いCNS奏効をもたらすか否かを検証することを意図している。本研究は、特にCNS転移が治療上の課題となる患者集団において、osimertinibが新たな治療選択肢となり得るか否かを明らかにすることを目的とする。

結果

患者特性: 全体で556例が試験治療に無作為に割り付けられ、200例 (36%) がベースライン時にneuroradiologic BICRによる評価可能なCNSスキャンを有していた。このうち、128例がcFASに、41例がcEFRに含まれた (Figure 1)。ベースラインのCNS標的病変 (TLs) の合計サイズ中央値は、標準EGFR-TKI群で29mm、osimertinib群で16mmと、標準EGFR-TKI群で数値的に大きかった。これは、標準EGFR-TKI群の3例が80-119mmの大きなCNS TLsを有していたためである。CNS病変が1-3個の患者の割合は、osimertinib群で77%、標準EGFR-TKI群で73%と両群で類似していた。ベースライン時に髄膜転移 (LMs) が疑われる放射線学的所見を呈した患者は、osimertinib群に5例、標準EGFR-TKI群に2例であった。患者の人口統計学的特性は、両治療群間で概ねバランスが取れており、FLAURA試験全体の集団と一致していた (Table 1)。

CNS PFSと病勢進行リスク: cFAS (n=128) におけるCNS PFS中央値は、osimertinib群で未到達 (95% CI, 16.5ヶ月-NC) であったのに対し、標準EGFR-TKI群では13.9ヶ月 (95% CI, 8.3ヶ月-NC) であった (Table 2, Figure 2A)。この差は名目上有意であり、osimertinib群は標準EGFR-TKI群と比較してCNS病勢進行または死亡のリスクを52%低減した (HR 0.48, 95% CI, 0.26-0.86; P=0.014)。CNS病勢進行イベントは、osimertinib群で20% (12/61)、標準EGFR-TKI群で39% (26/67) の患者に報告された。CNS病勢進行の主な原因は、osimertinib群で12% (7/61)、標準EGFR-TKI群で30% (20/67) の患者における新規CNS病変の出現であった。競合リスク解析に基づくと、6ヶ月時点でのCNS病勢進行イベント発生確率は、osimertinib群で5% (95% CI, 1%-13%)、標準EGFR-TKI群で18% (95% CI, 10%-28%) であった。12ヶ月時点では、osimertinib群で8% (95% CI, 3%-16%)、標準EGFR-TKI群で24% (95% CI, 15%-35%) と推定された (Figure 2C)。これらの結果は、osimertinib群でCNS病勢進行イベントの発生確率が一貫して低いことを示している。

CNS ORRと奏効持続性: cFAS (n=128) におけるCNS ORRは、osimertinib群で66% (40/61, 95% CI, 52%-77%) であったのに対し、標準EGFR-TKI群では43% (29/67, 95% CI, 31%-56%) であり、osimertinib群で有意に高かった (OR 2.5, 95% CI, 1.2-5.2; P=0.011)。cEFR (n=41) におけるCNS ORRは、osimertinib群で91% (20/22, 95% CI, 71%-99%)、標準EGFR-TKI群で68% (13/19, 95% CI, 43%-87%) であった (OR 4.6, 95% CI, 0.9-34.9; P=0.066)。cEFRにおいて、完全奏効 (CR) を達成した患者はosimertinib群で23%であったのに対し、標準EGFR-TKI群では0%であった (Table 3)。感度分析でもこれらの結果は確認された。以前の脳放射線治療の有無にかかわらず、osimertinibによるCNS奏効が認められた (Figure 3)。疑われるLMsを有する5例のosimertinib群患者のうち、4例が完全な放射線学的奏効を示し、1例が非CR、非PDであった (Table 4)。

cEFRにおけるCNS DoR中央値は、osimertinib群で15.2ヶ月 (95% CI, 4.1ヶ月-NC) であったのに対し、標準EGFR-TKI群では18.7ヶ月 (95% CI, 4.2-18.7ヶ月) であった (Table 3, Figure 2B)。奏効が6ヶ月および12ヶ月時点で持続している患者の推定割合は、osimertinib群で標準EGFR-TKI群よりも高い傾向を示した。cEFRにおけるCNS DCRは、osimertinib群で95% (95% CI, 77%-100%)、標準EGFR-TKI群で89% (95% CI, 67%-99%) であった (OR 2.5, 95% CI, 0.2-55.8; P=0.462)。ベースラインからのCNS TLsサイズの最大変化率中央値は、osimertinib群で-64% (範囲, -100%から+20%)、標準EGFR-TKI群で-45% (範囲, -100%から+20%) であり、osimertinib群でより顕著な腫瘍縮小が認められた (Figure 3)。

CNS転移なし例での新規CNS転移発生: ベースライン時にCNS転移を有さない患者 (osimertinib群 n=178、標準EGFR-TKI群 n=178) において、新規CNS転移の発生を評価した。osimertinib群では、新規CNS転移の発生率が標準EGFR-TKI群よりも低い傾向を示し、osimertinibによるCNS転移予防効果が示唆された。FLAURA試験全体集団において、CNS病変を有する患者の割合は、osimertinib群ではDCO時点でベースライン時よりも減少していたが、標準EGFR-TKI群では増加していた。これは、osimertinibが微小CNS転移の根絶に寄与する可能性を示唆している。

FLAURA全体結果との整合性: FLAURA試験全体のPFS中央値は、osimertinib群で18.9ヶ月 vs 標準EGFR-TKI群で10.2ヶ月であり、osimertinib群で有意な延長が認められた (HR 0.46, 95% CI, 0.37-0.57; P<0.001)。本CNSサブグループ解析におけるCNS PFSのHR 0.48 (95% CI, 0.26-0.86; P=0.014) は、FLAURA試験全体のPFSのHR 0.46とほぼ一致しており、CNS転移の有無にかかわらずosimertinibの相対的治療効果が維持されることを示している。

考察/結論

本FLAURA CNSサブグループ解析は、未治療のEGFR変異陽性進行NSCLC患者のCNS転移に対し、osimertinibが標準EGFR-TKIと比較して優れたCNS有効性を示すことを、第III相無作為化試験のデータとして初めて実証した。CNS PFSにおいて、osimertinib群は標準EGFR-TKI群と比較してCNS病勢進行または死亡のリスクを52%低減し (HR 0.48, 95% CI, 0.26-0.86; P=0.014)、CNS ORRも有意に高かった (66% vs 43%, OR 2.5, 95% CI, 1.2-5.2; P=0.011)。

先行研究との違い: これまでの第一・第二世代EGFR-TKIでは、BBB透過性が低く、脳が「sanctuary site」となることが課題であった。本研究の結果は、Ballard et al. ClinCancerRes 2016による前臨床データで示されたosimertinibの高いBBB透過性が、臨床的なCNS疾患制御の改善に直接寄与することを明確に示した点で、従来のTKIとは対照的である。また、Wu et al. JClinOncol 2018によるT790M陽性二次治療 (AURA3試験) で示されたosimertinibのCNS優越性が、一次治療においても一貫して確認されたことは、本薬剤のCNS活性の汎用性を示すものである。

新規性: 本研究で初めて、未治療のEGFR変異陽性NSCLC患者において、一次治療としてのosimertinibが標準EGFR-TKIと比較してCNS PFSを統計学的に有意に改善し、より高いCNS ORRを達成することを無作為化第III相試験で実証した。これは、一次治療における脳転移の「sanctuary site化」を抑制する上でosimertinibが有効であることを示す新規の知見である。さらに、ベースライン時にCNS転移を持たない患者における新規CNS転移発生率の低減は、osimertinibがCNS転移の予防効果を持つ可能性を示唆しており、これまで報告されていない重要な発見である。

臨床応用: 本知見は、EGFR変異陽性NSCLC患者の脳転移管理におけるosimertinibの臨床的有用性を強く支持するものである。高いCNS活性を持つosimertinibを一次治療として選択することで、CNS病勢進行のリスクを低減し、患者のQOLを改善し、全脳照射 (WBRT) の必要性を遅延または回避できる可能性がある。WBRTは神経認知機能障害などの有害事象と関連しており (Monaco et al. 2013)、その回避は臨床現場において大きな意義を持つ。本結果は、EGFR変異陽性NSCLC患者の治療戦略において、osimertinibを第一選択薬として考慮すべきであることを明確に示唆している。

残された課題: 本解析にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、ベースラインでの脳スキャンが必須ではなかったため、無症候性のCNS転移を有する一部の患者が解析から除外された可能性があり、CNS評価に選択バイアスが存在する可能性がある。第二に、本解析は事前計画されたサブグループ解析であり、多重比較調整が正式には行われていないため、P値は名目上有意と解釈されるべきである。第三に、cEFRにおけるCNS DoR中央値は標準EGFR-TKI群で数値的に長かったものの、これは少数例であることとイベント数不足によるものであり、解釈には注意が必要である。今後の検討課題として、より大規模なコホートでの長期的なCNSアウトカムの評価や、髄膜転移に対するosimertinibの有効性をより詳細に評価する研究が挙げられる。

方法

本研究は、FLAURA第III相、二重盲検、無作為化試験 (NCT02296125) の事前計画された探索的CNSサブグループ解析である。FLAURA試験全体では、EGFR変異陽性 (Ex19delまたはL858R) の未治療進行NSCLC患者556例が、osimertinib群または標準EGFR-TKI群 (ゲフィチニブまたはエルロチニブ) に1:1で無作為に割り付けられた。

患者選択とCNS評価: ベースラインでの脳スキャン (MRIまたはCT) は、既知または疑われるCNS転移を有する患者にのみ義務付けられたが、それ以外の患者でも地域の医療慣行に従って実施された可能性がある。無症候性または安定したCNS転移を有する患者は組み入れられた。症候性CNS転移を有する患者は、確定治療およびコルチコステロイド投与完了後2週間以上神経学的状態が安定している場合にのみ組み入れられた。髄膜転移 (LMs) は特段除外されなかったが、その拡散性の放射線学的特徴から非標的病変 (NTLs) として評価された。すべてのベースライン脳スキャンは、独立した神経放射線医によるBICR (blinded independent central review) で評価された。

CNS解析対象集団: ベースライン時に利用可能な脳スキャンデータがあった200例のうち、測定可能および/または非測定可能CNS病変を有する128例 (osimertinib群 n=61、標準EGFR-TKI群 n=67) がCNSフル解析セット (cFAS) に含まれた。さらに、少なくとも1つの測定可能CNS病変を有する41例 (osimertinib群 n=22、標準EGFR-TKI群 n=19) がCNS奏効評価可能セット (cEFR) に含まれた。CNS病変の評価は、独立した神経放射線医による盲検下独立中央判定 (BICR) によって実施された。

評価項目: 主要評価項目は、neuroradiologic BICRによるCNS PFSであった。CNS PFSは、無作為化から客観的なCNS病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。副次評価項目には、CNS ORR、CNS DoR、CNS DCR (disease control rate)、CNS腫瘍縮小率、および競合リスク解析によるCNS病勢進行の累積発生率が含まれた。CNS有効性の評価はRECIST (version 1.1) に基づいて行われた。CNS病変は、最長径が10mm以上、またはスライス厚の2倍以上のものが測定可能病変として標的病変 (TLs) に選択され、最大5つまで設定可能であった。その他の病変、疑われるLMsを含む、はNTLsと見なされた。

統計解析: データカットオフ (DCO) は2017年6月12日であった。FLAURA試験全体の主要評価項目であるPFSおよびOS、ならびにcFASにおけるCNS PFSの多重性調整のため、階層的検定手順が用いられた。CNS PFSの統計的有意性検定は、OS解析がPFS解析時 (中間OS) または最終OS解析時に統計的有意性を示した場合にのみ実施されることとされた。OS解析がこの時点で統計的有意性を示さなかった場合、CNS PFSの正式な有意性検定は行われず、P値は「名目上有意」と分類された。CNS PFSの推定にはKaplan-Meier法が用いられ、群間比較にはハザード比 (HR) とその95%信頼区間 (CI) が算出された。CNS ORRの群間比較にはロジスティック回帰分析が用いられ、オッズ比 (OR) とその95% CIが算出された。競合リスク解析は、非CNS病勢進行および死亡を競合リスクイベントとして考慮し、Fine and Grayモデルを用いてCNS病勢進行の累積発生率を推定した。解析にはSAS統計ソフトウェア (version 9.4) が使用された。