- 著者: Jeng-Sen Tseng, Tsung-Ying Yang, Chi-Ren Tsai, et al.
- Corresponding author: Gee-Chen Chang; Jeremy J.W. Chen (Taichung Veterans General Hospital / National Chung Hsing University)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2014
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 25514801
背景
EGFR変異は、EGFR-TKI感受性の強力な予測因子であり、組織生検によるEGFR変異検出が治療選択の標準となっていた。しかし、組織生検は侵襲的処置であり、繰り返し生検の困難さという課題があった。血漿cfDNA (cell-free DNA) を用いた液体生検によるEGFR変異検出は非侵襲的な代替手段として注目され始めたが、その検出感度は当時の報告で36〜79%と不均一であり、標準化が未確立であった。例えば、Rosell et al. NEnglJMed 2009やMurtaza et al. Nature 2013らの先行研究では、cfDNAの有用性が示唆されていたものの、その臨床的意義についてはまだ未解明な点が多かった。さらに、EGFR-TKI治療後の血漿EGFR変異の動的変化(クリアランス)が臨床アウトカム予測に使用できるかについては、前向き研究データが不足しており、その臨床的意義は未解明であった。本研究は、台中榮民総病院での単施設前向き観察研究として、PNA-ZNA PCR clamp法という高感度手法(検出感度1/1000まで)を開発し、ベースラインおよびEGFR-TKI後の動的変化とアウトカムの関連を評価した。これにより、治療後の血漿EGFR変異モニタリングの臨床的有用性を明らかにすることを目的とした。
目的
EGFR変異肺腺癌患者において、血漿cfDNA EGFR変異検出のベースライン感度および特異度を評価する。さらに、EGFR-TKI治療後の血漿変異クリアランスの動的変化が、疾患制御率(DCR)、無増悪生存期間(PFS)、および全生存期間(OS)とどのように関連するかを前向きに評価することを目的とした。
結果
コホート概要と患者背景: 2012年5月から2013年10月までに、合計72例の肺腺癌患者が本研究に登録された。そのうち62例(86.1%)がEGFR変異陽性腫瘍を有し(エクソン19欠失34例、L858R変異28例)、一次EGFR-TKI治療(ゲフィチニブ58例、エルロチニブ4例)を受けた。患者の年齢中央値は64.5歳(範囲21-89歳)で、女性が40例(55.6%)、非喫煙者が49例(68.1%)であった。ECOG PS 0-1の患者は55例(76.4%)であり、68例(94.4%)がIV期疾患(M1a 20例、M1b 48例)であった (Supplementary Table 1)。
ベースライン血漿EGFR変異検出精度: PNA-ZNA PCR clamp法によるベースライン血漿cfDNA中のEGFR変異検出感度は、EGFR変異陽性腫瘍患者62例中37例(59.7%)で変異が検出された (Table 1)。検出された変異タイプは、血漿と腫瘍組織の間で全て一致した。EGFR野生型腫瘍患者10例の血漿cfDNA検体では、EGFR変異は検出されず、特異度は100%であった。検出感度は病期によって有意に異なり、IV-M1b期患者(遠隔臓器転移あり)では78.0%(32/41)と、IIIb期およびIV-M1a期患者(対側肺・胸水のみ)の23.8%(5/21)と比較して有意に高かった(p < 0.001)。これは、腫瘍量と液体生検の検出感度との間に強い相関があることを示唆する。EGFR変異タイプ(エクソン19欠失 vs L858R変異)と検出感度との間には有意な相関は認められなかった (Table 2)。
EGFR-TKI治療効果の全体像: EGFR変異陽性患者62例におけるEGFR-TKI治療のORRは74.2%(46/62、CR 0例、PR 46例)であり、DCRは82.3%(51/62、CR+PR+SD≥6週)であった。エクソン19欠失を有する患者は、L858R変異を有する患者と比較して有意に高いORRを示した(85.3% vs 60.7%, p = 0.041)。PFS中央値は8.8ヶ月(95% CI 6.4-11.2ヶ月)、OS中央値は20.5ヶ月(95% CI 15.1-26.0ヶ月)であった。比較的若年(<65歳)および良好なECOG PS(0-1)の患者は、より長いOSと関連していた(それぞれp = 0.016およびp = 0.002) (Table 3)。
EGFR-TKI治療後の血漿EGFR変異の動的変化とアウトカム: EGFR-TKI治療後の血漿EGFR変異ステータスの動的変化に基づき、患者を3つのグループに分類した。グループAはベースラインで血漿EGFR変異が検出されなかった患者(n=25)、グループBはベースラインで変異が検出されたが治療後にクリアランスした患者(n=28)、グループCは治療後も血漿EGFR変異が持続して検出された患者(n=9)である。グループCの患者は、グループAおよびBと比較して、有意に低いORR(44.4% vs 72.0%および85.7%, p = 0.042)およびDCR(55.6% vs 84.0%および89.3%, p = 0.044)を示した (Table 4)。PFS中央値は、グループAが10.6ヶ月(95% CI 5.3-15.9ヶ月)、グループBが10.9ヶ月(95% CI 7.5-14.2ヶ月)、グループCが4.8ヶ月(95% CI 0.0-12.8ヶ月)であり、グループCは有意に短いPFSを示した(p < 0.001) (Figure 1A)。OS中央値は、グループAが未到達、グループBが20.5ヶ月、グループCが10.8ヶ月であり、グループCは有意に短いOSを示した(p = 0.002) (Figure 1B)。
血漿変異クリアランス失敗の独立予測因子としての意義: 多変量解析の結果、EGFR-TKI治療後の血漿EGFR変異消失失敗(グループC)は、DCR低下(オッズ比 5.26, 95% CI 1.13-24.44, p=0.034)、PFS短縮(ハザード比 1.97, 95% CI 1.33-2.91, p=0.001)、およびOS短縮(ハザード比 1.82, 95% CI 1.04-3.18, p=0.036)の独立した予測因子であることが示された (Supplementary Table 2)。ECOG PS 0-1の患者は、より長いOSと関連していた(ハザード比 1.84, 95% CI 1.09-3.11, p=0.022)。ベースラインでの血漿EGFR変異の有無は、ORR、DCR、PFS、OSのいずれとも有意な関連は認められなかった (Supplementary Figure 3)。
考察/結論
本研究は、EGFR変異肺腺癌患者において、EGFR-TKI治療後10週での血漿EGFR変異クリアランスが治療応答の早期分子指標として機能し、DCR、PFS、OSの独立した予測因子であることを初めて前向きに示した重要な研究である。
先行研究との違い: 従来の研究では、ベースラインでの血漿EGFR変異検出感度の不均一性が課題とされていたが、本研究ではPNA-ZNA PCR clamp法という高感度手法を用いることで、ベースライン感度59.7%を達成した。特に、Stage IV-M1b患者では78.0%まで上昇し、進行した遠隔転移を有する患者で液体生検の有用性が特に高いことを示した点で、これまでの報告と対照的である。この結果は、腫瘍量とcfDNA検出感度の相関を示唆するものであり、Rosell et al. NEnglJMed 2009やMurtaza et al. Nature 2013の先行研究の知見を補強する。
新規性: 本研究で初めて、EGFR-TKI治療後早期(10週)における血漿EGFR変異の動的変化が、その後の臨床アウトカムを独立して予測する強力なバイオマーカーとなることを新規に同定した。これは、画像的評価よりも早期に奏効・不奏効を予測できる可能性を示しており、治療戦略の早期調整に繋がる新規の知見である。この知見は、Reck et al. Lancet 2013が提唱する個別化医療の重要性とも合致する。
臨床応用: この知見は、EGFR-TKI治療を受けている患者の早期治療効果評価と、それに基づく治療方針の個別化という臨床応用において極めて重要な意義を持つ。血漿EGFR変異の持続は、原発性抵抗性または早期の病勢進行リスクが高い患者を特定し、治療変更の機会を提供する。これは、現代の液体生検による早期治療効果評価の概念と一致し、将来的な個別化医療の推進に貢献する臨床的有用性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究で評価されなかったT790Mなどの耐性変異を含む、より広範なEGFR変異スペクトルの検出と、その動的変化の臨床的意義を評価する必要がある。また、血漿EGFR変異の動的変化に基づいて治療を調整する最適な戦略を確立するためのさらなる研究が残されている。本研究のlimitationとして、デジタルPCRや次世代シーケンシングと比較して、検出感度や絶対定量性において劣る可能性がある点が挙げられるが、リアルタイムPCRベースの手法は臨床現場での適用が容易で費用対効果が高いという利点がある。
方法
本研究は、台湾の台中榮民総病院で2012年5月から2013年10月にかけて実施された単施設前向き観察研究である。対象患者は、病理学的に確認された肺腺癌で、未治療の切除不能なIIIb期またはIV期(AJCC第7版)であり、腫瘍組織および連続血漿検体が入手可能で、臨床的に測定可能な病変を有する患者であった。EGFR野生型腫瘍患者10例を血漿EGFR変異解析の特異度評価のために組み入れた。EGFR変異陽性腫瘍患者62例(エクソン19欠失34例、L858R変異28例)がEGFR-TKI(ゲフィチニブまたはエルロチニブ)を一次治療として受けた。
EGFR変異検出には、PNA-ZNA PCR (Peptide Nucleic Acid-Zip Nucleic Acid Polymerase Chain Reaction) clamp法が用いられた。この方法は、Nagai et al. (2005) が開発したPNA-LNA PCR (Peptide Nucleic Acid-Locked Nucleic Acid Polymerase Chain Reaction) clamp法を改良したもので、ZNA (Zip Nucleic Acid) プローブを使用することで標的への親和性を高め、検出感度を向上させている。エクソン19欠失およびエクソン21 L858R変異の検出感度は最大1:1000であった。腫瘍組織DNAはDNeasy Blood & Tissue Kit (Qiagen) を用いて抽出され、血漿cfDNAは1mlのEDTA血漿から同キットを用いて精製された。血漿検体は、ベースライン、EGFR-TKI治療開始10週後、および病勢進行時に採取された。
治療効果の評価は、RECIST 1.1ガイドラインに基づき、客観的奏効率(ORR)、DCR、PFS、およびOSを算出した。統計解析には、ORR、DCR、および検出感度の単変量解析にFisherの正確検定を用いた。PFSおよびOSの推定にはKaplan-Meier法を用い、生存期間の差はログランク検定で解析した。血漿EGFR変異ステータスがEGFR-TKI治療アウトカムに与える影響を評価するため、ロジスティック回帰モデルおよびCox比例ハザードモデルを用いた多変量解析を実施した。統計解析はSPSS 15.0 (SPSS Inc.) を使用し、p値 < 0.05を有意とした。本研究は、NCT登録はされていないが、単施設前向き観察研究として実施された。