- 著者: A. Lisberg, A. Cummings, J. W. Goldman, et al.
- Corresponding author: Edward B. Garon (David Geffen School of Medicine at UCLA, Los Angeles)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-06-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 29874546
背景
Pembrolizumabは非小細胞肺がん (NSCLC) において顕著な抗腫瘍活性を示すが、EGFR変異を有する腫瘍では、EGFR野生型患者と比較して臨床的効果が限定的であることが複数の研究で示唆されていた (Borghaei et al. NEnglJMed 2015, Garon et al. NEnglJMed 2015, Brahmer et al. NEnglJMed 2015).これは、EGFR変異腫瘍の腫瘍変異負荷 (TMB) が低いこと、EGFR-TKIによるPD-L1発現の制御、および免疫冷却微小環境などが要因として考えられる。しかし、PD-1軸阻害薬のEGFR変異NSCLCにおける限定的な効果に関する議論は依然として存在し、そのメカニズムは未解明な点が多い。
先行研究として、UCLA単施設で実施されたKEYNOTE-001試験の後ろ向き解析では、EGFR-TKI未治療のEGFR変異陽性患者 (n=4) におけるPembrolizumabの客観的奏効率 (ORR) は50%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値は157.5日、全生存期間 (OS) 中央値は559日であり、TKI治療歴のある群 (ORR 4%、PFS中央値56日、OS中央値120日) よりも良好な成績を示した。この少数例での観察結果は、TKI治療前のPembrolizumab投与がより効果的である可能性を示唆し、本前向き試験の設計の根拠となった。しかし、TKI未治療のEGFR変異陽性患者はこれまでPembrolizumabの臨床試験から除外されることが多く、この患者集団における治療方針を導くためのデータが不足していた。特に、PD-L1発現が50%以上の患者におけるデータは手薄であった。
目的
本第II相試験は、EGFR変異陽性、PD-L1陽性 (≧1%、22C3抗体による免疫組織化学染色)、かつEGFR-TKI未治療の進行NSCLC患者を対象に、Pembrolizumab単剤療法 (200mgを3週ごとに投与) の客観的奏効率 (ORR) を評価することを主要目的とした。副次目的には、Pembrolizumabの安全性プロファイル、PFS、OS、およびPembrolizumab治療後のEGFR-TKIの効果と安全性の評価が含まれた。
結果
患者登録と早期中止の経緯: 本試験では、計画された25例中11例が2016年10月から2017年9月にかけて登録され、全例が少なくとも1回のPembrolizumab投与を受けた。患者背景として、82%が一次治療未治療であり、64%が感作性EGFR変異を有していた。また、73% (8/11例) がPD-L1発現50%以上という高発現例であった(Table 1)。EGFR変異の内訳は、exon 19 deletionが3例、L858Rが4例、exon 20 insertionが3例、G719Xが1例であった。中間解析において、データ安全性監視委員会 (DSMB) が有効性不足と判断し、登録中止および試験の早期中止が決定された。
Pembrolizumabの有効性 (主要エンドポイント): 全11例における当初のORRは1/11 (9%) であった。しかし、唯一の奏効例 (67歳男性) の腫瘍検体を再解析した結果、当初報告されたEGFR変異 (exon 19 deletion) は検体交換エラーによる誤診断であることが判明した。当該患者の実際の原発腫瘍にはEGFR変異が存在しなかった。このため、真にEGFR変異が確認された10例におけるORRは0/10 (0%) であった。10例のベスト応答は、安定病変 (SD) が7例 (70%)、病勢進行 (PD) が3例 (30%) であり、完全奏効 (CR) も部分奏効 (PR) も認められなかった。SDの持続期間は短く、7例中6例が試験終了後速やかに増悪した。PFS中央値は119日 (約4ヶ月) であり、これはEGFR変異NSCLCに対する一次EGFR-TKIのPFS中央値 (9〜14ヶ月) と比較して著しく短く、臨床的に無効な水準と判断された (Figure 2)。OS中央値は、データカットオフ時点 (2017年11月) で未到達であった。
EGFR変異サブタイプ別の応答パターンとPD-L1発現との関連: 感作変異 (exon 19 deletion 3例、L858R 4例) を有する計7例のORRは0%であり、全例がSDまたはPDであった。非感作変異 (exon 20 insertion 3例) の3例もSD後に短期で増悪した。PD-L1発現が50%以上であった8例においても、全例がSDまたはPDであり、奏効は認められなかった (Figure 1)。この結果は、EGFR変異患者においてはPD-L1高発現がPembrolizumabの有効性予測バイオマーカーとして機能しないことを直接的に示唆する。この知見は、PD-L1発現50%以上のNSCLC全体におけるPembrolizumabの高い奏効率 (KEYNOTE-024試験でのORR 45%) が、EGFR変異患者には適用できないことを示す重要なエビデンスとなった。
安全性プロファイル: 治療関連有害事象 (trAE) は11例中5例 (46%) に発現した。主なGrade 1〜2のtrAEは、疲労、皮疹、甲状腺機能低下症などであり、管理可能な範囲であった。Grade 3のtrAEとして、トランスアミナーゼ上昇が1例に認められ、治療中止に至った。特筆すべきは、Pembrolizumab関連のGrade 5 (致死的) 肺臓炎が1例に発生し、試験登録から4ヶ月以内に死亡したことである。また、Pembrolizumab関連のGrade 2副腎不全が1例に認められ、ヒドロコルチゾン補充療法が継続されている。試験期間中に計2例が6ヶ月以内に死亡しており、1例はGrade 5肺臓炎、もう1例はexon 20 insertion変異患者における急速な病勢進行による呼吸不全であった。
後続EGFR-TKI治療の効果と安全性: 11例中9例が試験後に後続治療を受け、そのうち7例がerlotinibを投与された。データカットオフ時点で、erlotinib投与を受けた7例中5例がerlotinibを継続中であり、erlotinib投与期間中央値は109日であった。後続erlotinib治療における奏効は、7例中5例でPRまたはSDが達成された。この結果は、一次Pembrolizumabが無効であった後もEGFR-TKIへの感受性が保たれており、PembrolizumabがTKI感受性を損なわなかったことを示唆する。後続TKIの安全性に関しては、1例でGrade 3の肝毒性および下痢が報告されたが、Pembrolizumab治療歴との関連は不明である。特に、erlotinib投与後にGrade 5の肺臓炎が1例に発生し、死亡に至った。この肺臓炎はerlotinibに起因するとされたが、先行するPembrolizumabの関与も否定できない。全体として、後続のerlotinibへの移行は安全に実施可能であり、EGFR変異患者には初期からEGFR-TKIを投与すべきであるという臨床的指針を支持するデータを提供した。
考察/結論
本第II相試験は、EGFR変異陽性、PD-L1陽性、TKI未治療の進行NSCLC患者に対するPembrolizumab単剤療法の有効性を評価したが、真のEGFR変異患者10例におけるORRは0%と全く無効であり、有効性不足のため早期中止に至った重要なnegative試験である。この結果は、KEYNOTE-001試験における少数例でのTKI未治療EGFR変異患者のORR 50%という観察結果が、過大評価であった可能性を示唆する。
先行研究との違い: 本研究で初めて、EGFR変異陽性患者に対する一次治療としてのPembrolizumab単剤療法が、臨床的に意味のある効果を示さないことを明確に示した。これは、EGFR野生型NSCLCにおけるPD-L1発現の予測的価値と対照的である。PD-L1高発現 (73%が50%以上) の患者が多数を占めたにもかかわらず、EGFR変異患者ではPembrolizumabが無効であったことは、EGFR変異腫瘍においてPD-L1発現が免疫チェックポイント阻害薬の有効性予測バイオマーカーとして機能しないことを強く示唆する新規の知見である。
新規性: 本研究で初めて、EGFR変異陽性NSCLC患者への一次Pembrolizumabは不適切であるという明確なエビデンスを提供した点で、臨床現場に重要な含意をもたらす。また、1例の致死的肺臓炎の発生は、EGFR変異患者におけるPembrolizumabの安全性に関する懸念を提起する。特に、Pembrolizumab後にTKIを投与した患者で発生したGrade 5肺臓炎は、Pembrolizumabがその後のTKI治療の毒性に影響を与える可能性を示唆しており、これまで報告されていない重要な安全性情報である。
臨床応用: 後続のEGFR-TKI (erlotinib) への移行は安全に実施可能であり、多くの患者で奏効が認められたことから、PembrolizumabがTKI感受性を損なわないことが示唆された。この臨床的意義は大きく、EGFR変異陽性NSCLC患者には、一次治療としてEGFR-TKIが依然として推奨されるという現在の臨床的指針を支持するものである。
残された課題: 残された課題として、PembrolizumabとEGFR-TKIの併用療法における毒性の問題が挙げられる。過去の試験では、EGFR-TKIとPD-1軸阻害薬の併用療法で高頻度のGrade 3以上の有害事象、特に間質性肺疾患が報告されており、本試験で観察された致死的肺臓炎もこの懸念を裏付けるものである。今後の研究では、EGFR変異患者において免疫チェックポイント阻害薬が有効なサブグループを特定するためのバイオマーカーの探索や、より安全な併用療法の開発が求められる。
方法
本研究は、UCLA単施設で実施された非盲検単群第II相試験 (NCT02879994) である。患者登録は2016年10月から2017年9月にかけて行われた。主要な適格基準は、18歳以上の進行NSCLC患者で、ECOG PSが1以下であること、十分な臓器機能を有すること、および臨床検査室改善修正法 (CLIA) 認定施設で確認されたEGFR変異陽性 (感作変異または非感作変異) とPD-L1陽性 (22C3抗体を用いた免疫組織化学染色で腫瘍細胞の膜染色が1%以上) の腫瘍を有することであった。主要な除外基準は、過去のEGFR-TKI治療歴、PD-1軸阻害薬またはその他の免疫チェックポイント阻害薬の治療歴、活動性の自己免疫疾患、間質性肺疾患または肺炎の既往であった。
Pembrolizumabは200mgを3週ごとに静脈内投与され、最大35サイクルまで継続された。主要評価項目は、改訂RECISTガイドライン1.1版(Eisenhauer et al. EurJCancer 2009)に基づく治験責任医師評価によるORRであった。副次評価項目には、Pembrolizumabの安全性、PFS、OS、およびPembrolizumab中止後の後続EGFR-TKI治療の有効性と安全性が含まれた。画像評価は9週ごとに行われた。有害事象はNCI-CTCAE v4.0に基づき評価され、治験薬との関連性が判定された。
統計解析は、登録された11例のintention-to-treat集団においてORR、PFS、OSが算出された。データカットオフは2017年11月15日であった。本試験は、ORRが26%以上であることを示すように設計されたが、有効性不足のため、データ安全性監視委員会 (DSMB) の勧告により早期に登録が中止された。後続のEGFR-TKI治療に関するデータは、試験中止後の診療録レビューによって補完的に収集され、生存解析にはカプラン・マイヤー法が用いられた。