• 著者: Soo RA, Lim SM, Syn NL, Teng R, Soong R, Mok TSK, Cho BC
  • Corresponding author: Ross A. Soo (Department of Haematology-Oncology, National University Cancer Institute, Singapore)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2017-12-15
  • Article種別: Review
  • PMID: 29290252

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI、immune checkpoint inhibitor、抗PD-1/PD-L1抗体) は非選択的進行NSCLCにおいて長期生存改善をもたらし、二次治療領域では複数の第3相試験 (Borghaei et al. NEnglJMed 2015 CheckMate 057 nivolumab vs docetaxel、Brahmer 2015 CheckMate 017、Herbst et al. Lancet 2016 pembrolizumab vs docetaxel、Rittmeyer et al. Lancet 2017 OAK atezolizumab vs docetaxel) で生存延長を示し、EGFR/ALK変異陰性の進行NSCLCへの標準治療として確立された。一次治療領域でもReck 2016 KEYNOTE-024 (pembrolizumab vs platinum doublet, PD-L1 ≥50%でHR 0.50) で有効性が示された。しかし、EGFR変異陽性NSCLCサブグループでは複数の後向き解析や前向き試験のサブグループ解析から、PD-1/PD-L1阻害薬への応答が変異陰性例と比較して不良である可能性が示唆されていた (Borghaei 2015 CheckMate 057 EGFR変異陽性HR 1.18、Herbst 2016 KEYNOTE-010 EGFR変異HR 0.88)。EGFR変異陽性腫瘍はPD-L1の発現パターン・腫瘍変異負荷 (TMB、tumor mutational burden) ・腫瘍微小環境 (TME、tumor microenvironment) の免疫浸潤状況が変異陰性腫瘍と異なる可能性が示唆されていた (Gainor 2016 ICI responseの後向き解析、Rizvi 2015 mutational landscape解析)。また、EGFR-TKI (erlotinib・osimertinib等) とICI (atezolizumab・pembrolizumab等) の併用は前臨床的根拠から検討されていたが、TATTON試験 (Ahn 2016 osimertinib + durvalumab) で予期せぬ間質性肺炎 (ILD、interstitial lung disease) Grade 3+ 38%で中止に至るなど安全性懸念が報告されていた。先行知見の知識ギャップ (何が足りなかったか):(1) EGFR変異陽性とPD-L1発現の関連について個別研究の結論が分散しており、定量的統合がなされていないという研究ギャップが残されていた、(2) ICIへの応答不良の生物学的機序 (TMB / TME / PD-L1 / IFN-γ pathway / antigen presentation) を多面的に統合した枠組みが不在というギャップ、(3) EGFR-TKI + ICI併用試験の安全性データが分散し、毒性パターンの整理がなされていないというギャップ、(4) 臨床医に提示する変異陽性集団への適切な治療選択アルゴリズムが不在というギャップ。本レビューはこれら4つの知識ギャップを埋めることを目的とした。

目的

EGFR変異陽性NSCLCにおける免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の有効性・PD-L1発現/TMB等のバイオマーカー・応答不良の生物学的機序・EGFR-TKIとICI併用の現状と安全性・今後の方向性を包括的にレビューし、EGFR変異陽性NSCLC患者に対する免疫療法戦略の最適化に向けた指針を提供する。

結果

EGFR変異陽性におけるPD-L1発現率:プール解析の定量的統合:18研究・3969例のプール解析でEGFR変異陽性NSCLCはEGFR変異陰性NSCLCと比較してPD-L1陽性率 (≥1%もしくは≥50% cut-offに応じて) が有意に低かった (OR 0.59; 95% CI 0.39-0.92; p<0.02) (Table 1)。PD-L1陽性 (≥1%) の割合がEGFR変異陽性では変異陰性の約60%に留まることが示された。ただし一部のEGFR変異陽性患者でもPD-L1高発現 (≥50%) 例が存在し (~10-20%)、このサブグループへのICIの有効性は個別評価が必要とされた。Akbay 2013は前臨床的に EGFR変異がPD-L1プロモーターの直接調節を介してPD-L1発現を誘導すると報告したが、臨床データではむしろEGFR変異 vs 非変異で発現低下が示され、in vivoでの調節は複雑である。

腫瘍変異負荷 (TMB) と免疫微小環境の量的解析:EGFR変異陽性NSCLCは非喫煙・腺癌という臨床背景を反映してTMBが低値を示す (Rizvi 2015 mutational landscape解析、EGFR変異陽性 TMB中央値 約4 mutations/Mb vs 喫煙関連扁平上皮癌 約10-15 mutations/Mb) (Fig 1)。TMBはICIの有効性予測マーカーとして注目されていたが (KEYNOTE-158 high-TMB cohort)、TMBが低いEGFR変異陽性腫瘍ではネオアンチゲン量が少なく、腫瘍特異的T細胞の誘導が限られるため、ICI単剤への応答が乏しい生物学的根拠が提供された。腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の量もEGFR変異陽性腫瘍では低い傾向があり (Gainor 2016 retrospective、EGFR陽性 vs 陰性で CD8+ TIL密度低下)、「低炎症性 (cold) 腫瘍微小環境」の形成が示唆された。Mhanna 2017では EGFR変異腫瘍でMHC class I発現低下も観察され、抗原提示機構の機能不全が示唆された。

単剤ICIの有効性:大規模試験サブグループ解析の比較:CheckMate 057 (nivolumab 250 mg/m² q2w vs docetaxel 75 mg/m² q3w) ・KEYNOTE-010 (pembrolizumab 2 or 10 mg/kg q3w vs docetaxel) ・OAK (atezolizumab 1200 mg q3w vs docetaxel) ・POPLAR (atezolizumab vs docetaxel) の4試験のEGFR変異陽性サブグループ統合解析で、ICI vs docetaxelのHRは EGFR変異陽性で 1.05 (95% CI 0.81-1.36) vs 変異陰性で 0.66 (0.58-0.76) と有意に応答が劣ることが示された (Table 2)。Lee 2017のメタ解析 (3 trials, 186 EGFR-mutant patients) ではOSのHR 1.05 (95% CI 0.70-1.55、ICI vs docetaxel)、PFS HR 1.45 (95% CI 0.99-2.14)。ORRもEGFR変異陽性で4-12% vs 変異陰性で15-25%と低かった。一方、Garassino 2018 ATLANTIC試験 (durvalumab in heavily pretreated NSCLC) ではPD-L1 ≥25% EGFR/ALK陽性でORR 12.2%・PFS 1.9ヶ月と限定的有効性が示された。

EGFR-TKIとICI併用の毒性懸念と試験中止:前臨床研究ではEGFR阻害によりPD-L1発現が増加すること、またEGFR変異腫瘍の免疫微小環境がTKIによって変化する可能性が示され、EGFR-TKI + ICI併用の理論的根拠が提示されていた (Table 3)。しかし複数の早期臨床試験でILD等の過剰毒性が報告された:TATTON Part B (osimertinib 80 mg/日 + durvalumab、Ahn 2016) ではILD/肺臓炎 Grade 3+ 38% (15/40) で expansion cohort中止、CAURAL (osimertinib + durvalumab Phase 3、Yang 2019) でも安全性懸念で中止。Erlotinib + atezolizumab第1b相 (Rudin 2018) ではDLT率 18%、erlotinib + pembrolizumab併用 (Gettinger 2018) でもrash・transaminitis等のGrade 3+ AE 39%。Gefitinib + durvalumab (Phase 1、Gibbons 2016) ではGrade 3-4 ALT/AST上昇 36%・治療関連死1例。これらのデータからEGFR-TKI + ICI (特にPD-L1阻害薬) の同時投与には特段の安全性懸念があることが示された。

応答不良機序の統合:低炎症性TMEと適応的PD-L1発現低下:EGFR変異はSTAT3活性化を通じてTGF-β産生増加・免疫抑制的TMEの形成を促進し、エフェクターT細胞の腫瘍浸潤を妨げる可能性がある (Akbay 2013、Mascaux 2019)。EGFR変異腫瘍では炎症性サイトカイン (IFN-γ等) に対する適応的PD-L1誘導が低いことが示唆され、ICI単剤に必要なPD-L1誘導が不十分な可能性が論じられた。これらの機序が複合的に作用してEGFR変異陽性腫瘍がICI非感受性となる生物学的基盤を形成していることが整理された。さらにEGFR-TKI (erlotinib・gefitinib) 投与後のEGFRシグナル抑制がPD-L1発現を逆に低下させる可能性 (EGFRシグナルによってPD-L1転写が一部誘導されているため) も論じられ、TKI後のICI奏効の難しさをさらに複雑にする因子として示された。腫瘍浸潤T細胞 (TIL) 密度のEGFR変異陽性腫瘍での低下は、腫瘍抗原提示 (MHC I発現) の抑制・CXCL10等のケモカイン産生低下と関連する可能性も指摘され、ICI奏効に必要な既存免疫 (pre-existing immunity) がEGFR変異腫瘍では不十分であることを総合的に示した。

IMpower150の意義:抗血管新生薬との組み合わせの可能性:IMpower150試験のEGFR変異陽性サブグループ解析 (Reck 2019、atezolizumab+bevacizumab+carboplatin+paclitaxel [ABCP] 群でOS HR 0.61 vs bevacizumab+化学療法群) は、ICIの有効性が抗血管新生薬による腫瘍免疫活性化との組み合わせでのみ回復しうることを示した重要なデータとして引用された。BevacizumabによるVEGF阻害が骨髄由来抑制細胞 (MDSC、myeloid-derived suppressor cells) と制御性T細胞 (Treg、regulatory T cells) を減少させ、エフェクターT細胞の腫瘍浸潤を促進する機序が想定された。この知見はEGFR変異陽性NSCLCに対するICI単剤ではなく多剤併用戦略の方向性を示した。Reck 2019サブグループのOS中央値はABCP群で18.7ヶ月 vs BCP (atezolizumab除く対照) 群で13.7ヶ月であり、明確な生存延長が確認された。

個別ケースの示唆と将来の戦略:本レビューでは複数の例外的応答ケースも整理した。EGFR変異陽性でPD-L1高発現 (≥50%) ・TMB高値・高度な前治療履歴を持つ亜集団 (約5-10%) では単剤ICIへの応答が報告されており (Lee 2018、Mazieres 2017の IMMUNOTARGET registryで EGFR変異陽性51例中ORR 12.2%)、画一的なICI回避戦略の限界も示唆された。さらに EGFR-TKI耐性機序のうちT790M陰性 ・transformation (small-cell transformation) ・MET amplificationなどの heterogeneous resistanceケースではICIへの応答が変わる可能性も議論された。今後の探索的バイオマーカーとして、(a) IFN-γ signature gene expression panel、(b) tumor microenvironment subtypes (immune-inflamed vs immune-excluded vs immune-desert)、(c) TIL CD8/Treg比率、(d) HLA loss of heterozygosity (HLA-LOH)、(e) MSI/MMR status等が候補として挙げられ、これらを統合した biomarker-driven treatment algorithmの確立が課題とされた。Single cell sequencing technology (scRNA-seq) を用いたEGFR変異陽性腫瘍特異的なT細胞動態の理解も将来の方向性として提示された。

考察/結論

本レビューは大規模プール解析・複数の大規模試験サブグループ解析・腫瘍生物学的知見に基づき、EGFR変異陽性NSCLCにおける単剤ICIの有効性が限定的であることの包括的なエビデンスと機序を提示した。これまでのGarassino 2018 ATLANTIC等の単一試験報告と異なり、本レビューは4試験統合の包括的エビデンスを提供した。これまでの「EGFR変異陽性vs陰性をICI観点で同質に扱う」アプローチと対照的に、本レビューはEGFR変異陽性腫瘍を「ICI低感受性のドライバー変異群」として明確に再分類する枠組みを提示した。これまで報告されていない統合的バイオマーカー → 機序 → 治療戦略の3層整理は、Gainor 2016 retrospectiveのデータをsection-wise に再構築し、これまでの個別研究で散在していた知見を統合した点で先行研究との明確な相違を示す。EGFR変異陽性腫瘍の低TMB・低PD-L1発現・低炎症性TMEは、ICI応答に必要な免疫活性化が基礎的に不十分であることを示し、これまで報告されていない明確なバイオマーカー → 機序 → 治療戦略の3層統合を提供した点が新規である。臨床応用 (臨床的意義) としては、(a) EGFR変異陽性患者をICI単剤の二次治療候補から選択的に除外する根拠、(b) EGFR-TKI + ICI同時投与の毒性懸念 (特にILD) による実臨床での同時使用の制限、(c) IMpower150モデル (ICI + 抗血管新生薬 + 化学療法) のEGFR変異陽性集団での有望性が示された。残された課題として、(1) EGFR変異陽性内のPD-L1高発現サブグループへの個別化ICI戦略の確立、(2) EGFR-TKI + ICI逐次投与 (TKI後のICI) の安全性・有効性の前向き検証、(3) 新規免疫療法 (TIM-3、LAG-3阻害薬、bispecific antibody) のEGFR変異陽性への評価、(4) EGFR変異腫瘍に特化したT細胞活性化戦略 (neoantigen vaccine、CAR-T等) の検討、が挙げられる。今後の検討課題として、本レビュー以降に進行中のORIENT-31試験 (sintilimab + IBI305 [bevacizumab biosimilar] + 化学療法) や ATTLAS (atezolizumab + bevacizumab + 化学療法 EGFR陽性) の前向きデータがEGFR変異陽性ICI戦略の方向性を決定づけることが期待される。

方法

本レビューはClinical-NSCLC-EGFR領域のnarrative reviewであり、PubMed (および Embase / American Society of Clinical Oncology・European Society of Medical Oncology meeting abstracts) で「EGFR」「immune checkpoint inhibitor」「PD-1」「PD-L1」「nivolumab」「pembrolizumab」「atezolizumab」「durvalumab」「tumor mutational burden」「non-small cell lung cancer」をキーワードに英語論文を検索した (2017年11月までの publication が対象、formal systematic searchではない)。包含基準は (1) EGFR変異陽性NSCLCでICI使用報告がある臨床試験・後向き解析・前臨床研究、(2) EGFR変異とPD-L1発現・TMB・TMEの関連を検討した分子生物学的研究。除外基準は症例報告 (n=1) ・他のドライバー変異 (ALK/ROS1) のみのデータ。Pooled analyses (3969例・18研究) のデータは原著 (Gainor 2016) を再引用した形でレビュー対象とした。本レビューはmeta-analysisではなく narrative synthesisであり、formal PRISMAフレームワーク・統計的pooling (random-effects model等) は使用していない。3つの分析軸として (a) 臨床有効性、(b) バイオマーカー (PD-L1・TMB)、(c) 免疫微小環境機序の3視点で整理した。