• 著者: Sizhi P. Gao, Qing Chang, Ninghui Mao, et al.
  • Corresponding author: David Lyden (Weill Cornell Medical College, New York, NY, USA); Jacqueline F. Bromberg (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Science Signaling
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-03-29
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27025877

背景

肺がんは癌関連死の主要な原因であり、非小細胞肺癌 (NSCLC) はその最も一般的なサブタイプである。EGFR (epidermal growth factor receptor) 遺伝子に活性化変異を持つ肺腺癌患者の約26%は、第一世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であるゲフィチニブやエルロチニブに感受性を示すことが知られている Mok et al. NEnglJMed 2009。しかし、これらのTKIに対する後天性耐性はほぼ必発し、無増悪生存期間 (PFS) はわずか9〜12ヶ月、全生存期間 (OS) は20ヶ月未満である Rosell et al. LancetOncol 2012。後天性耐性の約60%は、EGFRのT790Mゲートキーパー変異の獲得に起因し、これによりキナーゼのATP親和性がTKIよりも高くなると考えられている Yu et al. ClinCancerRes 2013。しかし、残りの約40%の耐性機序は未解明であり、これらの患者に対する有効な治療選択肢は不足している。

EGFRはERBB/HER (human epidermal growth factor receptor) ファミリーに属する膜結合型受容体チロシンキナーゼ (RTK) である。EGFRの異常な制御、特に機能獲得型変異や過剰発現は、多くの上皮性悪性腫瘍に共通する特徴であり、EGFR TKIの開発につながった。先行研究では、STAT3 (signal transduction and activator of transcription 3) がNSCLC細胞株および原発腫瘍において、EGFR駆動のIL-6 (interleukin-6) 発現上昇を介したフィードフォワードIL-6/JAK (Janus kinase)/STAT3ループにより、恒常的にチロシンリン酸化され活性化 (pSTAT3) していることが報告されていた。また、JAK阻害単剤がTKI耐性NSCLC細胞株を含むNSCLC細胞の増殖を抑制することも示されていた。しかし、TKI耐性克服におけるJAK2阻害の具体的な分子機序、特にJAK2とEGFRの物理的・機能的クロストークについては未解明であった。本研究は、この知識ギャップを埋め、TKI耐性EGFR変異NSCLCにおけるJAK/STAT3経路の活性化メカニズムと、JAK2阻害がTKI耐性を克服する分子機序を解明することを目的とした。

目的

本研究の目的は、EGFR変異NSCLCにおけるTKI後天性耐性においてJAK/STAT3経路がどのように活性化されているかを詳細に解析することである。さらに、JAK2阻害がTKI耐性を克服する分子機序を解明し、特にJAK2とEGFRの間の物理的および機能的なクロストークを明らかにすることを目的とする。具体的には、JAK2阻害がEGFRの細胞表面発現量、その分解経路、および野生型 (WT) と変異型 (mutant) EGFRサブユニットのヘテロ二量体形成に与える影響を評価し、TKI感受性回復のメカニズムを解明することを目指した。最終的に、これらの基礎研究の知見に基づき、JAK阻害剤とEGFR阻害剤の併用療法がEGFR依存性NSCLCの治療において有効な戦略となり得るか、その科学的根拠を確立することを目的とした。

結果

TKI耐性患者腫瘍におけるpSTAT3高発現とJAK2阻害によるTKI再感受性: EGFR-TKI後天性耐性NSCLC患者10例の腫瘍組織を免疫組織化学 (IHC) で評価したところ、68% (6例中4例) の非マッチド検体でpSTAT3が高発現 (スコア2-3+) していた。また、治療前後のマッチド生検4例では、全例でpSTAT3発現が治療後に維持または増加しており、pSTAT3がTKI耐性腫瘍において恒常的に活性化されることが示唆された (Fig. S1A)。

JAK1/2阻害薬AZD1480は、TKI耐性NSCLC細胞株 (H1975、PC-9R、H1650) の増殖をIC50 0.25〜1.50 µMで抑制した (Fig. 1A, B)。AZD1480とエルロチニブの併用は、CI (Combination Index) <0.9の相乗効果を示した (H1975: CI 0.40; H1650: CI最小)。in vivo異種移植マウスモデルにおいても、併用群は単剤群と比較して有意に強力な腫瘍増殖抑制を示した (p<0.05) (Fig. 1C)。併用療法は、pSTAT3、pEGFR、pERKの発現減少およびKi67染色による増殖抑制を伴った (Fig. 1B, Fig. S1E)。

JAK2阻害によるEGFR表面発現増加とSOCS5解離機序の解明: JAKi (AZD1480) 投与により、H1975、PC-9R、H1650細胞株においてpSTAT3が減少するとともに、総EGFR、pEGFR、pERKが増加した (pAKT、pS6には影響なし) (Fig. 2A)。このpERK上昇はJAKi投与後10分以内に起こり、de novo転写ではなくシグナルレベルでの急速な制御であることが示唆された (Fig. S3B)。in vivoでも、JAKi単回投与後4〜6時間でpERKの急速な増加とpSTAT3の減少が観察された (Fig. S3C)。JAK2のsiRNAによるノックダウンでも、総EGFR、pEGFR、pERKの増加が認められた (Fig. 2C)。

細胞表面EGFR量は、Alexa Fluor-EGF染色 (Fig. 3A) およびビオチン化アッセイ (Fig. 3B) により、JAKi投与後に増加することが確認された。Duolink in situ PLAアッセイでは、JAK2とSOCS4/5がEGFRと恒常的に会合していることが示され、JAKi処置によりこれらの会合が解離することが確認された (Fig. 3C, Fig. S4B)。共免疫沈降 (co-IP) 実験でも、JAK2-EGFR相互作用のJAKi依存的な解消が確認された (Fig. 3D)。SOCS5のshRNAによるノックダウンでも、同様に表面EGFRおよびpEGFRが増加し、TKI感受性が回復した (H1975-SOCS5sh異種移植モデルでエルロチニブ単剤が有意な腫瘍抑制, p<0.01) (Fig. 3F, G)。これは、JAK2がSOCS5を介してEGFR分解を促進するという三者複合体によるEGFR負制御機序の存在を示唆する。

野生型/変異型EGFR異種二量体形成によるTKI感受性回復の実証: JAKi処置により、EGF刺激後のWT EGFRの内在化速度が増加し、EGFR全体の増加のうちWT EGFRの比率が増加している可能性が示唆された (Fig. 4A)。Myc-tagged WT-EGFRを強制発現させたH1975 (L858R/T790M) 細胞において、JAKi処置時にMyc-tagged WT-EGFRと変異型EGFRの異種二量体形成が増加することがDuolinkアッセイで確認された (Fig. 4B)。

T790M特異的TKI (WZ4002) で選択された「WT優位サブクローン」は、JAKi+エルロチニブで最大の相乗効果 (CI 0.26) を示した。一方、エルロチニブで選択された「変異型優位サブクローン」では、JAKi追加効果が乏しかった (CI 0.91) (Fig. 4C)。このサブクローン解析は、「JAKiによるWT EGFR増加 → WT/変異型EGFR異種二量体形成 → TKI感受性経路 (WT EGFR阻害) の賦活」という機序を強力に支持する。JAKi処理したTKI耐性PC-9R細胞では、エルロチニブ濃度の上昇に伴いpEGFRおよびpERKの発現が顕著に減弱した (Fig. 4D)。これは、JAK2阻害がSOCS4/5を介した分解の喪失によりEGFR発現量を増加させ、WT/変異型TKI感受性ヘテロ二量体の形成を誘導することを示唆する。

考察/結論

本研究は、EGFR変異NSCLCにおけるTKI耐性克服の新規メカニズムを解明した。本研究で初めて、JAK2がSOCS5とEGFRの三者複合体を形成し、EGFRのリガンド非依存的分解を促進するという新規機序を発見した。JAK2阻害によりこの複合体が解離し、WT EGFRの細胞表面発現量が増加する。その結果、WTと変異型EGFRの異種二量体形成が促進され、TKI感受性が回復するという精緻なシグナルネットワークが明らかになった。このメカニズムは、TKI耐性細胞株および異種移植モデルにおいて、JAK2阻害剤AZD1480とEGFR-TKIエルロチニブの併用が相乗効果を示すことを説明する。

先行研究と異なり、本研究はT790M変異の有無にかかわらずJAK2阻害がTKI耐性を克服し得ることを示した。特に、T790M以外の既知の耐性機序を持たないNSCLC (約30%) に対して、JAK2阻害薬とTKIの組み合わせが特に有効である可能性 (H1650細胞でCI最小値0.26) は、臨床的に重要な示唆を与える。患者腫瘍におけるpSTAT3の高発現 (60%) は、JAK2阻害薬の適応患者を選択するための潜在的なバイオマーカーとして利用できる可能性も示した。これは、AZD1480とEGFR-TKIの組み合わせ臨床試験設計の強力な科学的根拠を提供する。

残された課題として、患者腫瘍におけるWT対変異型EGFR比率の定量的評価法の開発が挙げられる。また、T790M非依存的耐性を示すin vivoモデルにおけるJAK2阻害の有効性のさらなる検証が必要である。さらに、AZD1480は臨床試験でQT延長や神経毒性を示し開発が中断されているため、今後の研究では、より選択的なJAK2阻害薬、SOCS5-EGFR相互作用阻害薬、または次世代JAK阻害薬 (例: itacitinib、fedratinib) とEGFR-TKIの組み合わせ試験設計が重要な今後の方向性となる。本研究の知見は、EGFR変異NSCLCにおけるTKI耐性克服のための新しい治療戦略開発に貢献するものである。

方法

本研究では、TKI耐性NSCLC細胞株としてH1975 (EGFR L858R/T790M変異)、PC-9R (EGFR exon 19欠失変異および後天性耐性)、およびH1650 (EGFR exon 19欠失変異/PTEN null) を主要なモデルとして使用した。これらの細胞株は、TKI耐性メカニズムの多様性を代表するものである。JAK1/2阻害薬であるAZD1480を単剤、またはEGFR阻害薬であるエルロチニブとの併用で、細胞増殖 (MTTアッセイ)、アポトーシス (フローサイトメトリーによるAnnexin V/PI染色)、および下流シグナル伝達経路 (pSTAT3, pEGFR, pERK, pAKT, pS6のウェスタンブロット解析) への影響を評価した。薬物相互作用は、Chou-Talalay法に基づくCombination Index (CI) を用いて解析し、CI < 0.9を相乗効果、0.9-1.1を相加効果、>1.1を拮抗効果と定義した。

in vivoでの有効性を検証するため、H1975、PC-9R、H1650細胞株を用いた異種移植マウスモデルを確立した。腫瘍を皮下移植した無胸腺ヌードマウスに、AZD1480 (H1975, H1650には30 mg/kg 1日2回; PC-9Rには20 mg/kg 1日1回) およびエルロチニブ (25 mg/kg 1日1回) を単剤または併用で経口投与し、腫瘍体積の変化を12〜25日間追跡した。腫瘍体積はL × W^2 × π/6の式で算出した。

JAK2-EGFRおよびSOCS5-EGFR相互作用を細胞内で可視化するため、Duolink (in situ PLA) 法を用いた。この手法は、タンパク質間の近接性を蛍光シグナルとして検出する。共免疫沈降 (co-IP) 法により、JAK2とEGFRの物理的複合体形成を検証した。細胞表面EGFR量の変化は、Alexa Fluor 488-EGFを用いた蛍光染色および細胞表面タンパク質のビオチン化アッセイにより定量的に評価した。

野生型/変異型EGFRの異種二量体形成を確認するため、Myc-tagged WT-EGFRを強制発現させたH1975細胞株を樹立し、DuolinkアッセイでMyc-tagged WT-EGFRと内因性L858R/T790M変異EGFRとの相互作用を評価した。さらに、T790M変異特異的TKIであるWZ4002またはエルロチニブでH1975細胞を長期処理することにより、WT EGFR優位サブクローンと変異型EGFR優位サブクローンを選択し、それぞれのサブクローンにおけるJAKiとTKI併用効果をCI値で比較した。

統計解析にはStudent’s t検定を用い、p < 0.05を有意差ありと判断した。