- 著者: Toni M. Brand, Mari Iida, Kelsey L. Corrigan, Cara M. Braverman, John P. Coan, Bailey G. Flanigan, Andrew P. Stein, Ravi Salgia, Jana Rolff, Randall J. Kimple, Deric L. Wheeler
- Corresponding author: Deric L. Wheeler (University of Wisconsin School of Medicine and Public Health, Madison, WI, USA)
- 雑誌: Science Signaling
- 発行年: 2017
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Basic science / Translational) ※掲載後に撤回 (RETRACTED)
- PMID: 28049763
背景
EGFR (epidermal growth factor receptor) は受容体型チロシンキナーゼ (receptor tyrosine kinase; RTK) として細胞表面で増殖シグナルを開始し、NSCLC (non-small cell lung cancer) や頭頸部癌など多くの固形腫瘍で重要な治療標的となっている。抗EGFR抗体セツキシマブ (cetuximab) は有効な治療薬であるが、耐性発現が大きな臨床課題である。
核内EGFR (nEGFR) は、細胞表面の抗体療法をバイパスする薬剤耐性機構として注目されている。Lin et al. の先行研究はnEGFRがサイクリンD1やiNOS (inducible nitric oxide synthase)、c-Mycなどの発癌性遺伝子の転写共因子として機能することを示した。また、増殖細胞核抗原のリン酸化やDNA-PK (DNA-dependent protein kinase) との相互作用によるDNA修復促進も報告されており、nEGFRはNSCLCおよび頭頸部癌において患者予後悪化と相関する。EGFRの核内移行経路はゴルジ体→小胞体→インポーチンβ1を介した段階的な経路として部分的に解明されているが、この経路を上流で制御する分子については大きなgap in knowledgeが残存していた。
別のRTKであるAXLは、セツキシマブ耐性機構として同定されており、AXLがEGFRと相互作用してEGFRのリン酸化を維持しセツキシマブ耐性を促進することが報告されていた (Zhang et al. NatGenet 2012、Byers et al. ClinCancerRes 2013)。また、SRCファミリーキナーゼ (Src family kinase; SFK) がEGFRのTyr1101をリン酸化してEGFR核移行を誘発することも先行研究で示されていた (Meyer et al. SciSignal 2013)。しかし、AXLとnEGFRがセツキシマブ耐性において連関するかどうか、またAXLがEGFR核移行経路の上流調節因子として機能するかどうかは不明であり、この点に関する知見が不足していた。
目的
セツキシマブ耐性NSCLC (cetuximab-resistant; CtxR) モデルにおいてAXLとnEGFRの発現増加が相関するかを確認し、AXLがEGFR核内移行を媒介する具体的な分子機序を解明すること。特に、SFKおよびHERファミリーリガンドであるNRG1 (neuregulin-1) が下流メディエーターとして機能するかを検証することを目的とした。
結果
セツキシマブ耐性クローンおよびin vivoモデルにおけるAXLとnEGFRの共増加: CtxR細胞クローン (HC1、HC4、HC8) では感受性親株HP細胞と比較してnEGFR量がウェスタンブロットで顕著に増加した (Fig 1A)。核分画の純度はα-チューブリンおよびカルネキシンが検出されないことで確認された。SIM超解像顕微鏡によりCtxR核内でEGFRが高解像度で可視化され、TEM免疫金標識でも核内・核膜・核孔周囲にEGFR金粒子の集積が確認された。in vivoモデルでは、NCI-H226異種移植片のIHC解析において、CtxR腫瘍 (n=5) でnEGFR陽性核が約79%に達したのに対し、IgG対照腫瘍 (n=4) では約8%にとどまった (Fig 1C)。CtxR腫瘍ではAXL発現量が2.6-fold増加していた (p<0.05)。NSCLC PDX 12例の解析では、CtxR PDXでnEGFR陽性核が約83%、CtxS PDXで約33%であり (p<0.05)、CtxR PDXのAXL発現量はCtxS PDXと比較して2.06-3.36-fold高値であった (Fig 1D)。これらのデータは、in vitro・in vivo両モデルでAXLとnEGFRが共増加することを示した。
AXLノックダウンによるnEGFRの選択的かつ著明な減少: siAXLトランスフェクション (50 nM) 後、全CtxRクローンで核分画EGFRが65-80%減少し、同時に非核EGFR量が増加した (Fig 2A)。一方、HP細胞ではAXLノックダウンによるnEGFR変化は軽微であり、nEGFR制御がCtxR特異的であることが示された。confocal顕微鏡では蛍光強度が42-58%減少し、超解像顕微鏡でも核内EGFRシグナルの著明な低下が視覚化された。TEM解析ではsiNT細胞で核内・核膜・核孔にEGFR金粒子が分布したのに対し、siAXL細胞では核内金粒子が著減し核膜・核孔周囲への蓄積にとどまった (Fig 2B、n=100 cells/条件×3実験)。EGFR-GFP強制発現実験ではsiAXL細胞で核EGFR-GFPが約69%減少し、EGFR-Y1101F変異体 (SFKリン酸化部位破壊) と同様の核局在不全が再現された (Fig 2C)。AXL安定過剰発現細胞 (HP-AXL) ではnEGFRが4.2-fold増加し、HN4-AXL細胞では2.5-fold増加した (p<0.01) (Fig 2E)。AXLのnEGFR促進機能が双方向に確認された。
AXL→SFK (YES/LYN) →EGFR Tyr1101リン酸化→核移行経路の同定: siAXLトランスフェクション後、全CtxRクローンでSFKのTyr419リン酸化とEGFRのTyr1101リン酸化が低下したが、HP細胞では変化がなかった (Fig 3A)。qPCR解析ではAXLノックダウンによりYES mRNA発現が40-65%、LYN mRNA発現が38-54%減少した (p<0.01、Mann-Whitney U検定) (Fig 3B)。AXL安定過剰発現細胞ではYES・LYN総量と活性化SFKが増加し、pEGFR-Tyr1101も増加した (Fig 3C)。AXLのリガンドGas6 (300 ng/ml、30分) を感受性細胞株 (HP、HN4) に投与すると、AXL-Tyr702・SFK-Tyr419・EGFR-Tyr1101のリン酸化が誘導され、nEGFR量が増加した (Fig 3D)。siAXL細胞へのLYN単独過剰発現ではnEGFR量が部分的にのみ回復し、SFKが必要条件ではあるが十分条件ではないことが示された (Fig 3E)。
EGFRのAXL非依存的な核内移行: EGF (50 ng/ml、30分) 刺激はnEGFR量を顕著に増加させたが、核内AXL量は変化しなかった (Fig 4A)。非核分画ではAXL-EGFR複合体が共免疫沈降で検出されたが、核分画ではこれら2受容体の結合は観察されなかった (Fig 4B)。以上から、AXLはEGFR核移行の上流調節因子であるが、AXLとEGFRは核内で複合体を形成せず、EGFRはAXLとは独立して核へ移行することが示された。
AXL→NRG1→HER3活性化→EGFR核移行の第2経路: CtxRクローンではHP細胞と比較してNRG1 mRNA発現が20-27-fold高く、タンパク質レベルでも増加していた (Fig 5A)。AXLノックダウンによりNRG1 mRNA発現が80-95%減少し (p<0.01)、タンパク質量も低下した (Fig 5B)。AXL安定過剰発現細胞ではNRG1 mRNA発現が1.5-2.0-fold増加した (p<0.01) (Fig 5C)。外因性NRG1 (50 ng/ml) の投与はnEGFR量とHER3のTyr1197リン酸化および核内HER3移行を増加させ、siNRG1はEGFRとHER3の核移行をともに抑制した (Fig 5D)。siAXL細胞へのNRG1単独投与ではnEGFR量の部分的回復にとどまり、NRG1もまた必要条件ではあるが十分条件ではないことが確認された (Fig 5E)。
AXLによるEGFR-HER3複合体形成と核内共移行の促進: siAXLトランスフェクション後、全CtxRクローンでHER3のTyr1197・Tyr1328リン酸化が低下し、核内HER3 (nHER3) 量が80-90%減少した (p<0.01) (Fig 6A)。TEM解析でもsiAXL細胞でnHER3が著減し核膜周囲への蓄積にとどまることが確認された (Fig 6B、n=100 cells/条件)。AXL安定過剰発現ではHER3リン酸化とnHER3が増加した (Fig 6C)。co-IP解析により、CtxRクローンの核分画でEGFR-HER3複合体が検出されたが、HP細胞では検出されなかった (Fig 6D)。PLA解析では、CtxRクローンでHP細胞より多くのEGFR-HER3核内相互作用 (約119-200赤点/50核) が検出され (Fig 6E)、AXLノックダウンにより約132赤点/50核から約18赤点/50核へと有意に減少した (p<0.01) (Fig 6F)。
SFKとNRG1がEGFR核内移行の必要十分条件: HC4クローンにsiAXL導入後、LYN過剰発現単独ではnEGFR量が部分的にしか回復しなかったが (約86%減少から部分回復)、LYN過剰発現とNRG1 (50 ng/ml) の同時投与ではnEGFR量が完全に回復した (p<0.01) (Fig 7A)。同様にnHER3量もLYN+NRG1同時条件で完全回復した。pEGFR-Tyr1101もLYN+NRG1条件で増加した。これらのデータは、SFKとNRG1が協調してEGFR核内移行の必要十分条件を構成することを示す (Fig 7B; 提唱モデル)。
考察/結論
本研究(後に撤回)は、AXLがセツキシマブ耐性NSCLCにおいてEGFR核内移行を制御するという新規の役割を提唱した。これまでの研究では、EGFRの核移行経路は細胞膜からゴルジ体・小胞体を経由し、Sec61βトランスロコンおよびインポーチンβ1を介して核に到達するという輸送タンパク質に焦点が当てられており、この核移行経路を上流から統御するRTKについては報告されていなかった。本研究で初めて、RTKであるAXLが核移行の上流調節因子として機能し、SFKおよびNRG1という2つの独立した転写制御経路を介してEGFR核局在を促進することが提示された。
既報のEGFR核移行研究と異なり、本研究はAXLが上流からSFKとHERファミリーリガンドの転写を同時制御することで核移行を駆動するという新規の機構モデルを構築した。LYN・NRG1の同時過剰発現がsiAXL細胞でnEGFRを完全回復させたことは、AXLが少なくとも2段階のプロセスを制御することを示唆する。第1にNRG1によるEGFR-HER3二量体形成と受容体媒介エンドサイトーシスの活性化、第2にSFKによるEGFR-Tyr1101リン酸化を通じた核孔通過の促進である。TEM観察でsiAXL細胞のEGFRが核膜・核孔周囲に蓄積したことは、AXLが核孔への進入段階を制御する可能性を示しており、これまでの研究で明らかにされていなかった経路制御の新規な側面である。さらに、AXLとEGFRが核内で複合体を形成しない (AXLはEGFRに同伴しない) という知見は、AXLが膜上でのシグナリング分子として機能し核移行それ自体には直接関与しないというモデルと一致する。
本研究の知見がもし正確であれば、セツキシマブ耐性NSCLCに対する新たな臨床応用として、AXL阻害とセツキシマブの併用戦略が理論的根拠を持つ。AXL-SFK-NRG1-nEGFR経路の遮断により、セツキシマブによるEGFR細胞表面阻害と核内バイパスの抑制を同時に達成できる可能性があり、臨床的意義は高い。PDX解析でAXL高発現とnEGFR高発現がCtxR表現型と相関していたことは、両者を臨床現場でのバイオマーカーとして活用できる可能性を示唆する。nEGFR IHC定量がFFPE組織で実施可能であれば、セツキシマブ耐性予測のコンパニオン診断として応用できる根拠となりうる。
残された課題として、AXLがどのようにYES・LYN・NRG1の転写を制御するか (転写因子を介するか、シグナルカスケードを介するか) という詳細な分子機序が未解明である。TEM観察からAXLノックダウン細胞でEGFRが核膜・核孔に蓄積することが示されたが、AXLが核孔複合体との相互作用をどう調節するかについても今後の検討が必要である。本研究がin vitro細胞株モデルと限られた数のPDXに焦点を当てたという点はlimitationとして重要であり、大規模な臨床検体コホートでの検証が求められる。また、本論文が後に撤回されたことを踏まえると、本研究で提示された知見の再現性と解釈の妥当性についても更なる検討と独立した再現実験が必要である。
方法
細胞株とセツキシマブ耐性モデルの樹立: セツキシマブ感受性 (cetuximab-sensitive; CtxS) NSCLC細胞株NCI-H226親株 (HP) を出発点とし、セツキシマブの漸増処置を6ヶ月間行い耐性クローン (HC1、HC4、HC8) を樹立した。頭頸部扁平上皮癌 (head and neck squamous cell carcinoma; HNSCC) 細胞株UM-SCC1、UM-SCC6、HN4も使用した。全CtxR細胞株は野生型EGFRを保有することをシークエンスで確認した。
nEGFRの定量・可視化: 細胞分画法により非核・核タンパク質を分離し、ウェスタンブロットでnEGFR量を定量した。純度管理にα-チューブリン (非核マーカー)、カルネキシン (非核/ERマーカー)、ヒストンH3 (核マーカー) を使用した。超解像顕微鏡 (structured illumination microscopy; SIM、最大115 nm解像度) および免疫金標識透過型電子顕微鏡 (transmission electron microscopy; TEM) により核内EGFR局在を高精度で可視化した。
AXLノックダウン・過剰発現実験: siRNA (small interfering RNA; siAXL、50 nM) によるAXL一過性ノックダウン、またはAXL安定過剰発現細胞株 (HP-AXL、HN4-AXL) を構築してnEGFRへの影響を評価した。レスキュー実験ではsiAXL細胞にLYNまたはNRG1を過剰発現させnEGFR回復を検証した。
mRNA発現解析: AXLノックダウン後のYES、LYN、NRG1 mRNA発現をマイクロアレイおよびqPCR (quantitative polymerase chain reaction; 定量的PCR) で測定した。β-アクチンを内因性コントロールとしΔΔCt法で正規化した。全反応はtriplicateで3回実施した。
共免疫沈降と近接ライゲーションアッセイ: 非核・核分画 (各500 μg) を用いてAXL-EGFR複合体およびEGFR-HER3複合体を共免疫沈降 (co-immunoprecipitation; co-IP) で解析し、核内複合体形成を評価した。EGFR-HER3相互作用は近接ライゲーションアッセイ (proximity ligation assay; PLA; Duolink In Situ Fluorescence、赤色検出) により共焦点顕微鏡 (×60倍) で可視化し、核内赤点を50核あたりで定量した (n=5-6視野/細胞株)。
PDXモデル解析: セツキシマブ耐性NSCLC患者由来異種移植片 (patient-derived xenograft; PDX) 12例 (CtxR 7例、CtxS 5例) の組織切片で免疫組織化学 (immunohistochemistry; IHC) 染色を実施し、ImageJで定量した。
統計解析: mRNA発現差はMann-Whitney U検定 (p<0.05)、タンパク質発現・蛍光強度・IHC強度差は両側Student’s t検定 (p<0.05) で評価した。