- 著者: Aaron S. Meyer, Miles A. Miller, Frank B. Gertler, Douglas A. Lauffenburger
- Corresponding author: Douglas A. Lauffenburger (Department of Biological Engineering, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA, USA)
- 雑誌: Science Signaling
- 発行年: 2013
- Epub日: 2013-08-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 23921085
背景
ErbBファミリー受容体型チロシンキナーゼ (RTK) を標的とする治療薬に対する耐性は、代替RTKの活性化を通じて生じることが多く、その分子基盤の理解が求められている。特に、上皮間葉転換 (EMT) は、RTK阻害薬耐性に関与する重要なプログラムとして認識されており、細胞に移動・浸潤能力を付与する。EMTの誘導は、特定のRTKの発現増加を引き起こすことが知られている (Thiery et al. 2009, Taube et al. 2010)。TAMファミリーRTKのAXLは、様々な癌種で過剰発現が認められ、患者の予後不良と関連していることが報告されてきた (Craven et al. 1995, Nemoto et al. 1997, Shieh et al. 2005)。また、AXLの発現はEMTプログラムによって誘導されることが示されており (Gjerdrum et al. 2010, Vuoriluoto et al. 2011)、EGFR-TKI耐性との関連も複数の研究で報告されていた (Zhang et al. NatGenet 2012, Byers et al. ClinCancerRes 2013)。
しかし、ErbB阻害薬耐性を予測する受容体発現の組み合わせを系統的に解析した研究はこれまで不足しており、AXLがEGFRシグナルを修飾する分子機序も未解明な点が多かった。特に、三重陰性乳がん (TNBC) はEGFRを高発現するにもかかわらず、EGFR阻害薬が単独では効果を示さないことが多く、その耐性機序の解明は臨床的課題として残されていた。AXLはリガンドであるGas6の結合によって活性化されるが、リガンド非依存的な活性化も頻繁に観察されており、そのメカニズムの解明は重要である。本研究では、大規模な癌細胞株データセットを用いた機械学習アプローチと詳細なシグナル解析を組み合わせることで、AXLがErbB阻害薬耐性の強力な予測因子であることを同定し、その耐性メカニズムとしてのEGFR-AXL間のシグナルクロストークを分子レベルで解明することを目的とした。これにより、RTK阻害薬に対する耐性克服のための新たな治療戦略開発に繋がる知見を提供することが期待された。
目的
本研究の目的は、Cancer Cell Line Encyclopedia (CCLE) データベースを用いた機械学習解析により、ErbBファミリー受容体標的阻害薬に対する耐性を予測する新たなバイオマーカーを同定することである。特に、三重陰性乳がん (TNBC) 細胞におけるAXLとEGFRのシグナルクロストークの分子機序を詳細に解明し、AXLがEGFRシグナルをどのように多様化させ、細胞の移動能や薬剤耐性に寄与しているかを明らかにすることを目指した。また、AXLと他のRTKとの物理的相互作用を解析し、そのトランス活性化の構造的基盤を確立することも目的とした。最終的に、これらの知見に基づき、EGFR阻害薬耐性を克服するためのAXL標的治療の臨床的意義と、その治療戦略におけるAXL阻害薬の役割を考察する。
結果
CCLE機械学習解析によるAXLのErbB阻害薬耐性予測因子同定: CCLEデータベースの全RTK遺伝子発現データと薬剤感受性データを用いて、erlotinibおよびlapatinibに対する感受性予測モデルを構築した。SVM分類器を用いた解析の結果、AXL遺伝子発現は単変量EGFR発現モデルと比較して、erlotinibおよびlapatinib耐性の予測精度を有意に改善することが示された (AUC上昇)。AXLは全RTKの中で最も強力なErbB阻害薬耐性予測因子として同定された。一方、IGF1R阻害薬であるAEW541の耐性予測にはAXL発現は寄与せず、この効果がErbBファミリー特異的であることが示唆された (Fig. 1B)。TNBC細胞株(MDA-MB-231、MDA-MB-157、BT549など、n=3細胞株)はEGFRとAXL双方を高発現し、erlotinibよりも選択的AXL阻害薬R428に対して高い感受性を示した (Fig. 1E)。さらに、EGFR阻害とAXL阻害の組み合わせは、Loeweモデルでsubadditive相互作用(拮抗作用)を示し、BT549細胞ではp<10⁻⁶、MDA-MB-231細胞ではp<0.01であった (Fig. 1E)。これは、これらのTNBC細胞がEGFRよりもAXLシグナルに高度に依存している可能性が示唆された。
EGFRによるAXLのリガンド非依存的トランス活性化メカニズム: MDA-MB-231細胞において、EGF刺激後にpan-phosphotyrosine免疫沈降法でAXLおよびMETがリン酸化されることが確認された (Fig. 2A, p<0.05)。これは、EGFR活性化がAXLをリガンド非依存的にトランス活性化することを示す。逆に、AXL活性化によるEGFRリン酸化は観察されなかった (Fig. S3A)。siRNAによるAXLノックダウン (siAXL) により、EGFまたはTGFα刺激後の下流シグナル(pAkt、pGSK3、pERK、pSTAT3など11種)が包括的に低下した (Fig. 2D, Table S2)。これは、AXLが複数の下流経路を同時に増幅するシグナルハブとして機能することを示唆する。PCA解析では、第一主成分 (PC1) がEGF・TGFα誘発シグナルと相関し、AXLノックダウンがPC1に沿って細胞を負の方向にシフトさせた (Fig. 3B)。特にpAktとpGSK3がAXL依存性シグナルの主要なアウトプットであることが示された (Fig. 3C)。PLSR解析では、AXLノックダウン後のEGF誘発シグナルプロファイルがIGF1Rノックダウン後とは質的に異なり、AXLがEGFRシグナルに固有の多様性を付与することが確立された。
AXLはEGFRシグナルを増幅し、EGF依存的細胞移動に必須である: EGF濃度応答曲線解析の結果、AXLノックダウンはEGFRのリン酸化レベルには影響を与えなかったが、下流のAktリン酸化レベルを全てのEGF濃度で一様に低下させた (Fig. 4A, B, p<0.05)。Aktリン酸化とEGFRリン酸化の関係をプロットすると、AXL非存在下では一貫したシグナル伝達の「垂直シフト」(マグニチュードの低下)が観察された (Fig. 4C)。Hill関数モデルによるフィッティングでは、Kd値は同程度であったが、最大活性化レベルが有意に異なった (Fig. 4D)。これは、AXLがEGFRの感受性を変化させるのではなく、シグナル伝達の効率を増幅していることを示唆する。多経路シグナルを考慮したPLSRモデルにより、EGF誘発膜突起形成(細胞移動指標)はpAkt、pSTAT3、pGSK3の3つのシグナルで予測可能であることが示された (Fig. 5A)。siAXLまたはR428処置により、AXL高発現TNBC細胞(MDA-MB-231、MDA-MB-157)におけるEGF誘発膜突起形成が有意に低下した (30-60%減少; p<0.001) (Fig. 5C, D, n=13-35)。一方、AXL陰性細胞(MCF7、T47D)では影響がなく、HGF誘発膜突起にもAXL阻害は影響しなかった。この選択性は、AXLがEGFRシグナル特異的な多様化因子として機能し、細胞移動に必須であることを示している。
AXLはErbB・MET・PDGFRと物理的に近接しIGF1R/INSRとは非結合: クロスリンク共免疫沈降 (XLIP) 解析により、AXLはErbBファミリー(EGFR、HER2、HER3)、MET、PDGFRと細胞膜上で有意に物理的近接(コロカライゼーション)していることが示された (Fig. 6B, p<0.05)。しかし、IGF1RおよびINSRとは近接が検出されなかった (Fig. 6B, D)。この物理的近接は、AXLトランス活性化の構造的基盤となっていると考えられる。HER2/HER3を高発現するMDA-MB-453細胞において、HRGリガンド刺激がAXL過剰発現と相乗的にシグナルを活性化することが確認され、機械学習予測の妥当性が検証された (Fig. 7A)。このErbB選択的な物理的近接は、AXL-ErbBが同一シグナル複合体として機能し、広範なErbB-TKI耐性の生物学的根拠となることを示唆する。
考察/結論
本研究は、CCLEデータベースを用いた機械学習解析という大規模データ駆動型アプローチにより、AXLがErbB阻害薬耐性の横断的予測因子であることを同定した。これは、従来の単変量解析では見過ごされがちな遺伝子間の複雑な相関関係を考慮した新規の発見である。特に、AXLとEGFRが高発現するTNBC細胞において、EGFRによるリガンド非依存的なAXLトランス活性化が、下流シグナルを多様化・増幅し、細胞の移動能と薬剤耐性を維持するという新規パラダイムを提示した。
先行研究との違い: これまでの研究では、AXLがEGFR-TKI耐性に関与することは示唆されていたが (Zhang et al. NatGenet 2012, Byers et al. ClinCancerRes 2013)、本研究は、AXLがEGFRシグナルを質的に多様化させ、EGFR単独では誘発されない追加の下流経路を活性化するというメカニズムを初めて詳細に解明した点で、これまでの知見と異なる。また、EGFRとAXL阻害薬がsubadditive相互作用を示すという意外な発見は、これらのTNBC細胞がEGFRよりもAXLシグナルに実質的に依存しており、EGFRの高発現がAXLへのシグナル転換媒体として機能する可能性を示唆する。
新規性: 本研究で初めて、AXL発現がerlotinibおよびlapatinib耐性の強力な予測因子であることを機械学習アプローチにより同定した。さらに、EGFRがAXLをリガンド非依存的にトランス活性化し、このAXL活性がEGFR誘発シグナルを多様化させるという新規のシグナルクロストークメカニズムを確立した。このシグナル多様化が、AXL陽性TNBC細胞におけるEGF誘発性運動応答に必須であることも新規に示した。また、AXLがErbBファミリー、MET、PDGFRとは物理的に近接するが、IGF1R/INSRとは近接しないという選択的な相互作用も新規の発見である。
臨床応用: 本研究で同定されたAXLのEGFR/ErbB阻害薬耐性予測因子としての役割は、TNBC以外の癌種にも広範な臨床的意義を持つ。AXL高発現は、非小細胞肺癌 (NSCLC)、膵癌、卵巣癌など多くの腫瘍型でEGFR-TKI耐性や予後不良と関連することが後続研究で示されている。本研究が実証した「AXLがEGFRシグナルを多様化することで複数の下流シグナルを増幅し、ErbB阻害薬単独の遮断では不十分な代替経路を維持する」という機序は、EGFR-TKI耐性克服においてAXL阻害薬の追加が論理的に正当化されることを示した。R428 (bemcentinib) などのAXL選択的阻害薬は、すでに臨床開発が進んでおり、本研究の知見はこれらの薬剤の併用療法の開発を加速させる可能性を秘めている。PLSRモデルによる膜突起形成(転移能)の定量的予測は、AXLシグナル特異的な細胞移動・浸潤プロセスが転移促進に寄与することを示し、AXL阻害が転移抑制にも有望であるという根拠となった。
残された課題: 今後の検討課題として、AXLと他のRTKとの物理的近接がどのようにしてトランス活性化を引き起こすのか、その詳細な分子メカニズムを解明する必要がある。また、細胞膜上でのRTKのクラスター形成が、シグナル多様化や薬剤耐性にどの程度必須であるかを、特異的な摂動実験によって検証することも重要である。リガンドブロッキング療法(抗AXL抗体など)はトランス活性化による耐性には対応できない可能性があり、キナーゼ活性阻害または受容体量低下を標的とするアプローチが重要であることも示されたが、これらの治療戦略の最適な組み合わせや投与タイミングを決定するためには、さらなるin vivo研究や臨床試験が必要である。
方法
CCLE機械学習解析: Cancer Cell Line Encyclopedia (CCLE) データベース (Barretina et al. Nature 2012) から、91から396の細胞株における全RTK遺伝子の発現量と、erlotinib、lapatinib、AEW541 (IGF1R阻害薬) のIC50値を取得した。これらのデータを基に、RTK遺伝子の発現量を2変量入力としたSVM (サポートベクターマシン) 分類器を構築し、各薬剤に対する細胞株の感受性(IC50 > 8 μMを耐性と定義)を予測する精度を評価した。予測精度はAUC (Area Under the Curve) で評価し、ランダムデータや単一RTK発現モデルと比較した。
シグナル解析: MDA-MB-231 (TNBC) 細胞をsiRNA (AXLノックダウン) またはコントロールsiRNAで処理した後、EGF、TGFα (transforming growth factor alpha)、HGFで5分間刺激し、11種類の下流リン酸化シグナル(pAkt、pERK、pSTAT3、pGSK3など)をELISAで定量した。これらのシグナルデータに対して、PCA (主成分分析) および偏最小二乗回帰 (PLSR) を用いた多変量解析を実施し、シグナルネットワークの変化を包括的に評価した。また、EGF濃度応答曲線を用いて、AXLノックダウンがEGFRリン酸化および下流のAktリン酸化に与える影響を解析し、Hill関数モデルを用いてKd値と最大活性化レベルを比較した。
受容体局在解析: 複数の細胞株(MDA-MB-231、MCF7、SKBR3、T47D、MDA-MB-453)において、化学的クロスリンク剤EGS (ethyleneglycol bis(succinimidylsuccinate)) を用いて細胞膜上のRTKを架橋した。その後、AXL抗体を用いたクロスリンク共免疫沈降 (XLIP) 法により、AXLとEGFR、HER2、HER3、MET、PDGFR、IGF1R、INSRなどの他RTKとの物理的近接(コロカライゼーション)を定量評価した。このXLIP法では、バーコード化された蛍光ビーズに非AXL RTKを捕捉し、その後AXL抗体で共免疫沈降することで、複合体形成の度合いを測定した。得られたデータは、RTK発現量とクロスリンク効率を考慮した定量的フレームワークを用いて解析された。
表現型解析: EGF刺激下での細胞の膜突起形成 (protrusion) を、3次元的な細胞移動能の surrogate marker として評価した。MDA-MB-231細胞および他の乳がん細胞株(MDA-MB-157、MCF7、T47D)において、AXL siRNAによるノックダウンまたは選択的AXL阻害薬R428 (0.3 μM) 処置が、EGFまたはHGF誘発性の膜突起形成に与える影響を評価した。膜突起形成は、刺激前後の細胞面積変化をImageJで測定することで定量化した。また、EGFR阻害薬erlotinibとAXL阻害薬R428の併用効果をLoeweモデルを用いて評価し、相乗効果または拮抗効果を判定した。統計解析にはMann-Whitney検定およびStudent’s t検定を用いた。