• 著者: Shinji Kohsaka, Liang Pan, Yoichiro Kobayashi, Koutarou Nishioka, Koichi Iida, Yukitatsu Deng, Kazuhide Iwase, Hidetoshi Hayashi, Toshio Tanaka, Hiroyuki Mano
  • Corresponding author: Shinji Kohsaka (Department of Medical Genomics, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, Tokyo, Japan / Department of Cellular Signaling, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, Tokyo, Japan), Hiroyuki Mano (Department of Cellular Signaling, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, Tokyo, Japan / National Cancer Center Research Institute, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: Science Translational Medicine
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29141884

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) における上皮成長因子受容体 (EGFR) 変異に対するチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) 療法は、標準治療として確立され、患者の予後を大幅に改善してきた。特に、エクソン19欠失やL858R点変異といった古典的な活性化変異はTKIへの高い感受性を示すことが知られている (Lynch et al. NEnglJMed 2004Paez et al. Science 2004Pao et al. ProcNatlAcadSciUSA 2004)。しかし、次世代シーケンシング技術の普及に伴い、これらの古典的変異や既知の耐性変異 (T790Mなど) とは異なる、臨床的意義不明 (VUS: Variants of Unknown Significance) のEGFR変異が多数検出されるようになった。これらのVUSは、多様な点変異や複合変異として存在し、その形質転換能やTKI感受性を個別に評価することは、時間的およびコスト的に大きな課題であった。この点において、VUSの機能的意義の解明は、個別化医療の実現に向けた重要なギャップとして残されている。

特に、L858R変異と同一アレル上に別の変異が共存する「L858R複合変異」の臨床的意義や頻度は未解明であり、TKI耐性への関与も十分に解明されていなかった。また、EGFRエクソン21におけるL858R以外の稀な変異 (L833V、A839Tなど) の機能的特性についても、体系的な評価は不足していた。これらのVUSは、患者の治療選択に影響を与える可能性がありながら、その機能的影響が未解明であるため、個別化医療の実現を妨げる要因となっていた。例えば、T790M変異は第一世代TKIに対する主要な耐性メカニズムとして知られ、第三世代TKIであるオシメルチニブによって克服されるが (Cross et al. CancerDiscov 2014Janne et al. NEnglJMed 2015)、さらにC797S複合変異によってオシメルチニブへの耐性が生じることも報告されている (Thress et al. NatMed 2015)。このような複雑な変異プロファイルに対応するためには、高スループットで網羅的な機能評価手法の開発が緊急の課題であり、従来の評価法では対応が手薄であった。

目的

本研究の目的は、多数のEGFR VUSを一括して機能評価できる高スループットスクリーニング法であるMANO (mixed-all-nominated-mutants-in-one) 法を開発することである。このMANO法を用いて、臨床的に報告された101種類のEGFR非同義変異の形質転換能、TKI感受性 (gefitinib、erlotinib、afatinib、osimertinib、rociletinib)、および抗EGFR抗体であるセツキシマブ (cetuximab) 感受性を系統的に評価する。これにより、新規のTKI耐性変異を同定し、特にL858R複合変異の臨床頻度とその機能的影響を詳細に解析することを目的とした。最終的には、EGFRの稀な変異や複合変異の臨床的関連性を明らかにし、個別化された治療戦略の選択に資する機能的データベースを構築することを目指す。

結果

MANO法の高スループット機能評価の確立: レトロウイルスバーコードライブラリを用いたMANO法により、101種類のEGFR変異の形質転換能と薬剤感受性を高スループットで評価するシステムが確立された。Ba/F3細胞を用いたIL-3非存在下での競争的プール培養において、既知の活性化変異 (例: exon 19欠失、L858R、G719S、L861Q) は選択的増殖を示し、IL-3非依存性増殖を確立した。既知のTKI感受性変異のIC50値とMANO法による評価結果との間には高い相関 (R²>0.89) が認められ、MANO法が高い感度と特異度を持つことが確認された (Fig. 2D, Fig. 3B)。特に、初期入力の0.1%程度の細胞を定量的に検出できる高い感度 (r=0.99) を示した。また、in vivoヌードマウスモデル (n=10 mice/group) においても、TKI感受性変異を持つ細胞はTKI投与により減少し、TKI耐性変異を持つ細胞は増加することが示され、MANO法がin vivoでの薬剤感受性評価にも適用可能であることが実証された (Fig. 3C)。これにより、MANO法は従来の個別細胞株アッセイと同等の精度を保ちつつ、100倍以上の高スループットを実現することが示された。

新規TKI耐性EGFR変異の同定: MANO法による101種類のEGFR変異の網羅的評価の結果、エクソン21に存在するL833V、A839T、V851I、A871T、G873Eが新規のTKI耐性変異として同定された (Fig. 4C)。これらの変異はIL-3非依存的増殖 (形質転換能陽性) を示しながら、gefitinib、erlotinib、afatinibのいずれに対してもIC50が高値 (耐性域) を示した。例えば、A839T変異は全ての世代のEGFR TKIに対して顕著な耐性を示した (Fig. 4B)。これらの変異はL858Rとは異なるキナーゼドメイン部位 (C-helix、activation loopなど) に分布しており、多様な構造的機序による活性化と耐性が示唆された。エクソン19のミスセンス変異も一般的にgefitinibおよびerlotinibに非感受性であることが示された。

L858R複合変異の臨床頻度とTKI耐性への影響: L858R陽性NSCLC臨床検体 (n=195) の高感度シーケンシング解析により、L858R陽性例の19.5% (39/195例) において、L858Rと同一アレルに別のEGFR変異を持つ「L858R複合変異」が存在することが判明した (Fig. 5A)。最も頻度の高い複合変異はE709G/A (E709とL858Rの複合) であった。これらの複合変異は、全てcisアレルに存在することが確認された。MANO法を用いた評価により、これらのL858R複合変異の多くは、単独L858R変異と比較してTKI感受性が著明に低下 (TKI耐性) することが示された (Fig. 5C)。特に、E709G/L858R複合変異を持つBa/F3細胞は、gefitinibに対するIC50が単独L858Rの10~50倍高値を示した (Fig. 5D)。これは、実際に同複合変異を持つ患者の一例が第一世代EGFR-TKIに不応答であった臨床データ (n=3例) と一致した (Table S5)。この結果は、L858Rと診断された患者でも複合変異の有無を確認せずに治療選択した場合、約20%の患者で不適切な治療が行われる可能性を示唆する。

TKI耐性変異のセツキシマブ感受性: TKI (小分子阻害薬) 耐性でありながら形質転換能を持つEGFR変異の一部 (例: exon 20挿入変異、L858R複合変異、L718Q) は、セツキシマブ (抗EGFR抗体、細胞外ドメイン結合) に対して感受性を維持することがMANO法および個別細胞株実験で確認された (Fig. 6A, Fig. 6B)。例えば、R108K変異やL718Q変異はセツキシマブに感受性を示した。in vivoヌードマウスモデル (n=5 mice/group) においても、R108KおよびL718Q変異を持つ細胞の腫瘍増殖はセツキシマブ治療により完全に抑制され、1ヶ月以上腫瘍増殖は観察されなかった (Fig. 6C)。これは、TKI耐性変異のキナーゼドメイン構造変化がセツキシマブの細胞外ドメイン結合部位 (domain III) を変化させないため、セツキシマブが依然として結合・内在化誘導・シグナル抑制が可能であるためと考えられる。この知見は、TKI感受性・耐性の分類だけでなく、「セツキシマブ感受性」を加えた3軸分類がEGFR変異の治療戦略選択に必要であることを示唆する。

考察/結論

本研究で開発されたMANO法は、バーコード化レトロウイルスライブラリと競争的プール培養を組み合わせることにより、従来は個別に時間をかけて評価していたEGFR VUS (Variants of Unknown Significance) の形質転換能および薬剤感受性を、高スループットかつ高精度で評価できる画期的な手法である。この手法は、数百種類のVUSを短期間で評価することを可能にし、がんゲノムアトラスにおけるVUSの機能的意義の解明を加速させるものである。

先行研究との違い: これまでの研究では、個別のEGFR変異の機能評価は時間とコストがかかるため、網羅的な解析は困難であった。本研究は、MANO法を用いることで、101種類のEGFR変異を一括して評価し、その形質転換能と薬剤感受性を系統的に分類した点で、これまでの個別評価とは対照的なアプローチを提示している。特に、L858R複合変異の臨床頻度とそのTKI耐性への影響を系統的に解析した点は、これまで十分に報告されていなかった重要な知見である。

新規性: 本研究で初めて、L833V、A839T、V851I、A871T、G873Eといった新規のTKI耐性変異を同定した。これらの変異は、L858Rとは異なるキナーゼドメイン部位に存在し、多様な耐性メカニズムを示唆する。また、L858R陽性NSCLC患者の約19.5%にL858R複合変異 (主にcisアレル) が存在し、これらの複合変異が単独L858R変異と比較してTKI感受性を著明に低下させることを本研究で初めて系統的に示した。この知見は、L858Rと診断された患者でも複合変異の有無を確認しなければ適切な治療法選択ができない可能性を示唆する。

臨床応用: 本研究の成果は、EGFR VUSを保有する患者への個別化治療選択に直接応用可能なデータベースを提供する。MANO法で評価された3軸 (形質転換能、TKI感受性、セツキシマブ感受性) 分類は、臨床現場で検出される稀なEGFR変異に対するコンパニオン診断支援ツールとしての応用が期待される。特に、TKI耐性変異の一部がセツキシマブに感受性を持つという知見は、抗体療法との組み合わせという新たな治療戦略の開発へとつながる臨床的有用性を持つ。これにより、EGFR変異陽性と報告されながら実際にはTKI耐性である患者 (約20%のL858R複合変異例を含む) への不要な治療暴露を防ぎ、精度医療の実現に寄与する。

残された課題: 今後の検討課題として、MANO法で同定されたTKI耐性変異を持つ患者を実際の臨床試験で確認すること、および各変異の構造的特性に基づく感受性予測モデルの確立が挙げられる。また、セツキシマブ感受性に関する知見は、ヒトにおけるEGFR稀少変異に対するセツキシマブの感受性を検証する臨床的エビデンスが不足しているため、さらなる検証が必要である。MANO法による予測結果の臨床応用は慎重に進める必要があり、例えば、稀なEGFR変異を持つ患者を対象としたバスケット型臨床試験への組み込みが考えられる。

方法

MANO (mixed-all-nominated-mutants-in-one) 法の開発と検証: MANO法は、各EGFR変異をレトロウイルスベクターに個別の6塩基対バーコードタグを付けて組み込み、全構築体を混合してIL-3依存性マウス前B細胞株Ba/F3細胞に感染させる原理に基づいている。IL-3非存在下での競争的プール培養 (competitive pooled culture) により、形質転換能を持つ変異のバーコードが増幅する。各時点でのバーコード存在量を次世代シーケンシング (Illumina MiSeqプラットフォーム) で定量し、TKI (gefitinib、erlotinib、afatinib、osimertinib、rociletinib) 存在下での相対増殖を評価することで、IC50相当の薬剤感受性を解析した。MANO法の妥当性は、既知の活性化変異 (例: EGFR(E746_A750del)、EGFR(L858R)) や既知のTKI耐性変異 (例: EGFR(T790M)) を用いたBa/F3細胞および3T3細胞でのin vitroおよびin vivoアッセイ (ヌードマウス皮下異種移植モデル) と、従来のフォーカス形成アッセイやアラマーブルー細胞生存率アッセイとの比較により検証された。Ba/F3細胞はRPMI 1640培地、3T3細胞はDMEM-F12培地で培養された。

対象EGFR変異の選定: COSMICデータベースに4回以上報告されたEGFR非同義変異の中から、エクソン18-21の点変異、欠失、挿入、および複合変異を含む101種類のEGFR変異が評価対象として選定された。これには、細胞外ドメイン (EC domain) の13変異、細胞内チロシンキナーゼ (TK) ドメインの86変異、C末端ドメインの2変異が含まれる。

L858R複合変異の臨床データ解析: L858R陽性NSCLC臨床検体 (n=195) の高感度シーケンシングデータを用いて、L858Rと同一アレルに別のEGFR変異を持つ「L858R複合変異」の頻度とアレル状態 (cis/trans) を解析した。再生検検体 (n=11) におけるT790M非獲得例での複合変異の有無も調査した。アレル状態の確認には、ゲノムDNA (gDNA) またはcDNAベースの増幅シーケンシング、およびDroplet Digital PCRが用いられた。本研究は、東京大学 (G3546) および順天堂大学 (2014176) の倫理委員会によって承認されたプロトコルに基づき実施された。

抗EGFR抗体感受性評価: TKI耐性を示すが形質転換能を持つEGFR変異の一部について、セツキシマブ (抗EGFR抗体) の感受性をMANO法および個別細胞株実験 (Ba/F3細胞、NIH3T3細胞) で評価した。in vivoでのセツキシマブ感受性もヌードマウス異種移植モデル (n=5 mice/group) で評価された。

統計解析: データは平均±標準偏差または平均値として示された。2つの実験群間の差は両側Studentのt検定により決定され、p<0.05が統計的に有意であると判断された。