• 著者: A. Drilon, D.R. Camidge, J.J. Lin, S.-W. Kim, B.J. Solomon, R. Dziadziuszko, B. Besse, K. Goto, A.J. de Langen, J. Wolf, K.H. Lee, S. Popat, C. Springfeld, M. Nagasaka, E. Felip, N. Yang, V. Velcheti, S. Lu, S. Kao, C. Dooms, M.G. Krebs, W. Yao, M.S. Beg, X. Hu, D. Moro-Sibilot, P. Cheema, S. Stopatschinskaja, M. Mehta, D. Trone, A. Graber, G. Sims, Y. Yuan, B.C. Cho
  • Corresponding author: A. Drilon (Memorial Sloan Kettering Cancer Center and Weill Cornell Medical College), B.C. Cho (Yonsei University College of Medicine)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-01-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 38197815

背景

ROS1融合遺伝子は非小細胞肺がん (NSCLC) 患者の最大2%に認められる発がん性ドライバー遺伝子である Drilon et al. NatRevClinOncol 2021。ROS1融合陽性NSCLCに対する治療薬として、初期世代のROS1チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であるクリゾチニブとエントレクチニブが承認されているが、これらの薬剤にはいくつかの主要な課題が存在する。第一に、少なくとも50%の患者で獲得耐性変異が出現し、奏効の持続性が制限されることが報告されている Gainor et al. JCOPrecisOncol 2017。特に、ROS1 G2032R変異はキナーゼドメインの溶媒前縁 (solvent front) に位置し、他のROS1 TKI(ロルラチニブを含む)による治療中に頻繁に獲得されるが、クリゾチニブやエントレクチニブはこの変異に対して活性を示さないことが知られている Lin et al. ClinCancerRes 2021。このG2032R変異に対する効果的な治療選択肢が不足していることが、ROS1融合陽性NSCLC治療における喫緊の課題として認識されている。

第二に、頭蓋内活性が不十分であることが挙げられる。ROS1融合陽性NSCLC患者では脳転移が頻繁に発生し、クリゾチニブは脳脊髄液中濃度が低く Costa et al. JClinOncol 2011、クリゾチニブ治療患者の約半数で中枢神経系 (CNS) が最初の病勢進行部位となることが報告されている Patil et al. JThoracOncol 2018。エントレクチニブはクリゾチニブよりも良好なCNS浸透性を示すものの、クリゾチニブ治療後にCNS限定の病勢進行を来した患者におけるエントレクチニブの奏効率は11%に留まる。これらの課題を克服し、耐性変異や脳転移に対してより効果的なTKIの開発が未解明な領域として残されており、新たな治療選択肢が強く求められている。

レポトレクチニブは次世代のROS1/TRK TKIであり、そのコンパクトなマクロ環状構造により、ROS1耐性変異(特にG2032R)による立体障害を回避し、野生型およびG2032R変異型ROS1融合の両方を強力に阻害するよう設計されている Yun et al. ClinCancerRes 2020。前臨床モデルでは、エントレクチニブを上回る脳腫瘍縮小効果と生存期間延長効果が示されており、これらの課題に対する新たな治療選択肢となる可能性が示唆されている。

目的

本研究の目的は、ROS1融合陽性を含む進行固形がん患者を対象とした国際共同registrational Phase 1-2試験 (TRIDENT-1試験、ClinicalTrials.gov識別子: NCT03093116) において、次世代ROS1/TRK TKIであるレポトレクチニブの有効性および安全性を評価することである。特に、ROS1 TKI未治療のNSCLC患者、ROS1 TKI既治療のNSCLC患者、およびROS1 G2032R耐性変異を有する患者におけるレポトレクチニブの臨床活性、奏効期間 (DOR)、無増悪生存期間 (PFS)、ならびに頭蓋内活性を詳細に検討することを目的とした。また、レポトレクチニブの安全性プロファイルと、治療関連有害事象の管理可能性についても評価する。本試験は、既存のROS1 TKIで治療困難な患者群に対する新たな治療戦略を確立することを意図している。

結果

ROS1 TKI未治療コホートにおける持続的な有効性: ROS1 TKI未治療の患者71名 (n=71) において、確定奏効率 (ORR) は79% (95% CI, 68–88) であった。内訳は完全奏効 (CR) が10%、部分奏効 (PR) が69%であった。奏効までの期間中央値は1.8ヶ月 (範囲, 0.9~5.6) であった。追跡期間中央値24.0ヶ月 (範囲, 14.2~66.6) において、奏効期間中央値は34.1ヶ月 (95% CI, 25.6–推定不能) であり、18ヶ月以上奏効が持続した患者の推定割合は79% (95% CI, 68–90) であった。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は35.7ヶ月 (95% CI, 27.4–推定不能) であり、18ヶ月PFS率は70% (95% CI, 59–81) であった (Figure 1A, 1B)。18ヶ月全生存期間 (OS) 率は88% (95% CI, 80–96) と推定された。Phase 2用量で治療された63名 (n=63) では、ORRは78% (95% CI, 66–87) であり、18ヶ月PFS率は70% (95% CI, 58–82) であった。

ROS1 TKI 1剤後・化学療法未治療コホートにおける有効性: ROS1 TKI 1剤治療後で化学療法未治療の患者56名 (n=56) において、確定奏効率は38% (95% CI, 25–52) であった。内訳はCRが5%、PRが32%であった。奏効までの期間中央値は1.8ヶ月 (範囲, 1.6~3.6) であった。追跡期間中央値21.5ヶ月 (範囲, 14.2~58.6) において、奏効期間中央値は14.8ヶ月 (95% CI, 7.6–推定不能) であり、12ヶ月以上奏効が持続した患者の推定割合は56% (95% CI, 34–77) であった。PFS中央値は9.0ヶ月 (95% CI, 6.8–19.6) であり、12ヶ月PFS率は41% (95% CI, 27–56) であった (Figure 1C, 1D)。OS中央値は25.1ヶ月 (95% CI, 17.8–推定不能) であり、12ヶ月OS率は69% (95% CI, 56–82) と推定された。前治療としてクリゾチニブを投与された患者46名 (n=46) の39%が奏効し、エントレクチニブを投与された患者9名 (n=9) の22%が奏効した。

ROS1 G2032R耐性変異陽性例における高い活性: ROS1 TKIを1剤以上前治療後にROS1 G2032R変異を有する患者17名 (n=17) 中、10名 (59%; 95% CI, 33–82) が確定奏効を達成した。これは、レポトレクチニブがこの特定の耐性変異に対して強力な活性を持つことを示している。

追加コホートにおける有効性: ROS1 TKI 1剤および化学療法後に治療された患者26名 (n=26) では、ORRは42%であった。ROS1 TKI 2剤治療後で化学療法未治療の患者18名 (n=18) では、ORRは28%であった。これらのコホートでもレポトレクチニブの臨床活性が確認された。

優れた頭蓋内活性: TKI未治療で測定可能脳転移を有する患者9名 (n=9) 中8名 (89%; 95% CI, 52–100) が頭蓋内奏効を達成し、推定83% (95% CI, 54–100) が12ヶ月以上持続した (Figure 2A)。TKI 1剤後の患者13名 (n=13) 中5名 (38%; 95% CI, 14–68) が頭蓋内奏効を達成した (Figure 2B)。ベースライン時に脳転移がなかった患者において、12ヶ月intracranial PFS率はTKI未治療コホートで91% (95% CI, 83–100; n=54)、TKI 1剤後コホートで82% (95% CI, 65–98; n=30) と高く、新規脳転移の予防効果が示唆された (Figure 2C, 2D)。

耐性解析: TKI未治療コホートで病勢進行した14名 (n=14) の患者では、治療期間中にROS1耐性変異は出現しなかった。一方、TKI既治療コホートで病勢進行した43名 (n=43) の患者中6名でROS1 G2032R (5名) またはL2086F (1名) 変異が出現した。このうち2名ではベースライン時にROS1変異 (F2004IまたはL2026M) が認められた。

安全性プロファイル (Phase 2用量投与の全患者426名): 最も頻繁に報告された治療関連有害事象 (TRAE) は、いずれかのグレードのめまい (58%)、味覚異常 (50%)、錯感覚 (30%) であった。グレード3以上の有害事象は122名 (29%) に発生し、主なものは貧血 (4%) および血中クレアチンキナーゼ増加 (4%) であった。有害事象の67%はグレード1または2であった。治療関連有害事象による投与中止は31名 (7%) であり、最も多かったのは肺炎 (1%) であった。めまいによる投与中止は報告されなかった。致死的な有害事象は19名 (4%) に発生したが、いずれも治験薬との関連はないと判断された。心電図検査では、QTc間隔の延長など、心臓再分極に対する臨床的に有意な影響は認められなかった。

考察/結論

TRIDENT-1試験の結果は、レポトレクチニブがROS1融合陽性NSCLCの全治療ラインにおいて持続的な臨床活性を示すことを明確に実証した。特に、ROS1 TKI未治療コホートにおけるPFS中央値35.7ヶ月 (95% CI, 27.4–推定不能) は、先行研究で報告されているエントレクチニブの15.7ヶ月やクリゾチニブの19.3ヶ月と比較して大幅に長く Shaw et al. AnnOncol 2019、現時点でROS1 TKI未治療患者における最長のPFSデータである。この結果は、レポトレクチニブがROS1融合陽性NSCLCのファーストライン治療において優れた有効性を持つことを示唆している。この点は、これまでのROS1 TKIと比較して非常に新規な知見である。

本研究で初めて、ROS1 G2032R耐性変異を有する患者において59% (95% CI, 33–82) という高い奏効率が達成されたことは、レポトレクチニブの新規な薬理学的特性(コンパクトなマクロ環状構造による立体障害の回避)を臨床的に裏付けるものである。これは、クリゾチニブ、エントレクチニブ、ロルラチニブといった他のROS1 TKIでは達成困難な治療成績であり Lin et al. ClinCancerRes 2021、耐性変異が出現した患者に対する新たな治療選択肢を提供する点で臨床的意義は大きい。

頭蓋内活性も優れており、TKI未治療の脳転移患者の89% (95% CI, 52–100) が頭蓋内奏効を達成し、脳転移のない患者でも12ヶ月intracranial PFS率が91% (95% CI, 83–100) と高い予防効果を示した。これは、レポトレクチニブがCNSへの良好な浸透性を持つことを示唆しており、ROS1融合陽性NSCLC患者で頻繁に発生する脳転移の治療および予防において重要な役割を果たす可能性がある。この頭蓋内活性は、他のROS1 TKIと比較して優れており、特に既存のTKIの不足していた点である。

安全性プロファイルは良好であり、めまい (58%) や味覚異常 (50%) などの神経系有害事象が主体であったが、大部分がグレード1-2であり、用量減量や中断によって管理可能であった(投与中止は3%)。これらの神経系有害事象は、TRK阻害に関連する既知のクラスエフェクトであり Cocco et al. NatRevClinOncol 2018、エントレクチニブでも同様の報告がある。

残された課題としては、本試験が単群試験であるため、既存のROS1 TKIとの直接比較を行うランダム化比較試験が今後の検討課題として望まれる。また、TKI未治療コホートでROS1耐性変異が出現しなかった点は注目に値するが、液体生検の感度限界を考慮する必要がある。さらに、バイパスシグナル経路の活性化や組織学的形質転換などの非ROS1依存的耐性機構の解明が今後の研究課題として残されている。

方法

TRIDENT-1試験は、ROS1融合陽性を含む進行固形がん患者を対象とした国際共同registrational Phase 1-2試験である (NCT03093116)。Phase 1試験は3ヵ国8施設で実施され、ROS1/NTRK/ALK融合陽性固形がん患者においてレポトレクチニブの用量漸増が行われた。その結果、Phase 2推奨用量 (RP2D) は、160 mgを1日1回14日間投与後、160 mgを1日2回投与と決定された。Phase 2試験は19ヵ国152施設で実施され、ROS1融合陽性NSCLC患者は治療歴に基づき以下の4つのコホートに登録された: (1) ROS1 TKI未治療、(2) ROS1 TKI 1剤後・化学療法未治療、(3) ROS1 TKI 1剤後・化学療法後、(4) ROS1 TKI 2剤後・化学療法未治療。

主要評価項目は、盲検下独立中央判定 (BICR) によるRECIST v1.1に基づく確定奏効率 (ORR) であった。有効性解析には、Phase 1試験の該当患者もプールして実施された。副次評価項目には、奏効期間 (DOR)、臨床的有用性、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、ベースライン時に測定可能脳転移を有する患者におけるBICRによる修正RECIST v1.1に基づく頭蓋内奏効、Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.03に基づく安全性、およびEORTC QLQ-C30を用いた患者報告アウトカム (PRO) が含まれた Aaronson et al. JNatlCancerInst 1993。EORTC QLQ-C30は、機能、症状、グローバルヘルスステータス/QOLの各ドメインで構成され、スコアは0から100の範囲で線形変換される。ベースラインからの10ポイント以上の変化が臨床的に意義のある変化と定義された。

探索的評価項目として、年齢、性別、人種、地域、ECOGパフォーマンスステータススコアなどのサブグループ別の確定奏効率、および治療期間中のレポトレクチニブ耐性変異の出現が評価された。腫瘍評価は病勢進行まで所定の間隔で実施され、Phase 2ではベースライン時の脳転移の有無にかかわらず、全ての腫瘍評価時に脳画像診断が行われた。データカットオフは2022年12月19日であり、最低約14ヶ月の追跡期間が確保された。安全性解析は、Phase 2用量でレポトレクチニブを投与された全患者 (n=426) を対象に実施された。統計解析には、Kaplan-Meier法による時間-イベントエンドポイントの推定、Clopper-Pearson法による95%信頼区間 (CI) の算出が用いられた。