- 著者: Yutaka Fujiwara, Masayuki Takeda, Noboru Yamamoto, Kazuhiko Nakagawa, Kaname Nosaki, Ryo Toyozawa, Chihiro Abe, Ryota Shiga, Kenji Nakamaru, Takashi Seto
- Corresponding author: Yutaka Fujiwara (Department of Experimental Therapeutics, National Cancer Center Hospital, Chuo-ku, Tokyo 104-0045, Japan)
- 雑誌: Oncotarget
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29805770
背景
ROS1 (c-ros oncogene 1) 融合遺伝子は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の約1-2%に認められる稀少なドライバー遺伝子変異であり、若年、非喫煙、腺癌といった臨床的特徴と深く関連している。先行研究において、ROS1融合遺伝子の同定とその分子サブグループとしての確立が報告されている (Rikova et al. Cell 2007; Bergethon et al. JClinOncol 2012)。この標的に対して、第1世代のROS1阻害薬であるcrizotinibは、PROFILE 1001試験の拡張コホートにおいて客観的奏効率 (ORR) 72%、無増悪生存期間 (PFS) 19か月という極めて高い治療効果を示し、世界的に標準治療として承認された (Shaw et al. NEnglJMed 2014)。しかし、その後の臨床経過において、ROS1キナーゼドメイン内のG2032Rなどのゲートキーパー変異を代表とする獲得耐性変異が出現し、病勢が進行することが大きな臨床的課題として報告された (Awad et al. CancerDiscov 2013)。この耐性を克服するため、ALK/ROS1阻害薬であるceritinibなどの第2世代薬が開発され、臨床試験で一定の有効性が示されたものの (Lim et al. JClinOncol 2017)、G2032R変異に対する克服力は依然として不十分であった。
このような背景のもと、新規の経口選択的ROS1およびNTRK (neurotrophic receptor tyrosine kinase) 1/2/3阻害薬であるDS-6051b (taletrectinib) が開発された。前臨床試験において、DS-6051bはROS1野生型 (IC50 0.207 nM) および主要なcrizotinib耐性変異であるG2032R (IC50 0.73 nM) に対して強力な阻害活性を示した。米国で実施された第I相試験 (U101試験) では、最大耐量 (MTD) および推奨第II相用量 (RP2D) が800 mg (1日1回、QD) と設定された。しかし、日本人を含む東アジア人患者においては、体格や代謝酵素の活性差に起因して、抗悪性腫瘍薬の薬物動態 (PK) や忍容性プロファイルが欧米白人患者と異なることがしばしば経験される。
これまで、日本人患者におけるDS-6051bの至適用量、安全性、および詳細な薬物動態プロファイルは十分に検証されておらず、以下の4点において明確な知識ギャップが存在していた。第一に、日本人ROS1陽性NSCLC患者コホートにおけるDS-6051bの適切なRP2DおよびPK特性が未解明であった。第二に、crizotinib未治療 (crizotinib-naive) 例およびcrizotinib既治療・耐性例における日本人での有効性データが不足していた。第三に、民族差を考慮した適切な用量設定 (dose-finding) が未実施であった。第四に、ROS1阻害薬のクラスエフェクトとして懸念される間質性肺疾患 (ILD) や網膜毒性 (網膜剥離など) の日本人における発現頻度や重症度が不明であった。このように、日本人患者における臨床データが著しく不足しており、安全性および有効性の確立には大きな課題が残されていた。したがって、日本人患者における独立した第I相試験の実施が強く求められていた。
目的
本研究 (J102試験、NCT02675491) の目的は、ROS1融合遺伝子陽性の進行・再発非小細胞肺癌 (NSCLC) 日本人患者を対象として、新規ROS1/NTRK阻害薬DS-6051bの安全性、忍容性、薬物動態 (PK) プロファイル、および抗腫瘍活性を評価することである。具体的には、(1) 用量漸増フェーズにおいて、3+3デザインを用いて用量制限毒性 (DLT) を評価し、日本人における最大耐量 (MTD) および推奨第II相用量 (RP2D) を決定すること、(2) 用量拡大フェーズを交えつつ、定常状態における薬物動態パラメータ (Cmax、AUCなど) を算出し、米国人データとの民族間差異を定量的に比較すること、(3) crizotinib未治療例および既治療例における客観的奏効率 (ORR) や病勢コントロール率 (DCR) などの有効性エンドポイントを探索的に評価すること、(4) ILDや網膜剥離、肝機能障害などの治療関連有害事象のプロファイルを詳細に把握し、日本人における安全な管理基準を確立することを目的とした。
結果
DLT評価およびMTD/RP2Dの決定: 用量漸増フェーズにおいて、400 mg QD群 (n=6) ではDLTの発現を認めなかった。しかし、最高用量である800 mg QD群 (n=3) において、3例中2例 (66.7%) にDLTとしてGrade 3のALT上昇が発現した。3+3デザインの規定に基づき、800 mg QDはMTDを超えていると判断され、MTDは800 mg QDと定義された。その後、追加された600 mg QD群 (n=6) においてはDLTの発現を認めなかった (n=0)。安全性、忍容性、および薬物動態データを総合的に評価した結果、日本人における推奨第II相用量 (RP2D) は 600 mg QD と決定された (Table 2)。これは、米国の第I相試験で決定されたRP2D (800 mg QD) よりも低い用量であった。
安全性および治療関連有害事象のプロファイル: 登録された全15例における主な治療関連有害事象 (発現率20%以上) は、ALT上昇 (80.0%、n=12)、AST上昇 (80.0%、n=12)、下痢 (53.3%、n=8)、悪心 (46.7%、n=7)、血中クレアチニン上昇 (33.3%、n=5)、便秘 (33.3%、n=5)、食欲減退 (20.0%、n=3)、味覚異常 (20.0%、n=3)、倦怠感 (20.0%、n=3)、および嘔吐 (20.0%、n=3) であった (Table 2)。 Grade 3以上の有害事象は、15例中8例 (53.3%) に計11件認められた。主な内訳は、Grade 3 ALT上昇が3件 (25.0%)、Grade 3 AST上昇が1件 (8.3%)、Grade 3 網膜剥離が1件、Grade 5 間質性肺疾患 (ILD) が1件、Grade 4 CPK上昇が1件、Grade 4 好中球数減少が1件などであった。 重篤な有害事象 (SAE) として、400 mg群の1例において投与開始40日後にGrade 5の致死的なILDが発生した。この患者は前治療として化学療法およびavelumab (抗PD-L1抗体) の治療歴を有しており、ステロイド治療が行われたものの、投与開始2か月後に死亡した。死因は原病進行 (PD) と判定されたが、試験薬によるILDの関与も否定できないとされた。また、600 mg群の1例においてGrade 3の網膜剥離が発生し、入院加療と試験薬の中止を要した。
薬物動態 (PK) 解析における民族間差異: 血漿中DS-6051a濃度は、400 mgから800 mgの範囲で用量依存的な上昇を示した (Fig 1A)。Day 15における定常状態の幾何平均Cmaxは、400 mg群で469 ng/mL、800 mg群で886 ng/mLであり、中央値Tmaxは両群ともに4.0時間であった。 Day 15における幾何平均AUC0-24hは、400 mg群で8,770 ng·h/mL、800 mg群で17,500 ng·h/mLであった。米国の第I相試験 (U101試験) データと比較した結果、日本人におけるAUCの用量に対する回帰直線の傾き (スロープ) は、米国人の約1.77倍と有意に高値を示した (Fig 1B)。患者の体重差による補正を行った後でも、日本人における暴露量は米国人の約1.32倍高値であり (Fig 1C)、体重差のみでは説明できない民族間の薬物動態学的差異が存在することが明らかになった。この高い薬物暴露量が、日本人においてRP2Dが600 mg QDに設定された主要な根拠となった。
抗腫瘍効果および臨床的有効性: 登録された15例はすべてROS1融合遺伝子陽性のNSCLC腺癌患者であり、NTRK融合遺伝子陽性例は含まれていなかった (Table 1)。標的病変を有し効果評価が可能であった12例における客観的奏効率 (ORR) は58.3% (12例中7例が部分奏効 [PR]) であり、病勢コントロール率 (DCR) は100% (12例中12例) を達成した (Fig 2A)。 crizotinib未治療 (crizotinib-naive) の評価可能例 (n=9) においては、ORR 66.7% (9例中6例がPR)、DCR 100%と極めて良好な抗腫瘍活性が示された。一方、crizotinib既治療例 (n=3) においても、ORR 33.3% (3例中1例がPR)、DCR 100% (PR 1例、安定 [SD] 2例) であり、全例で腫瘍縮小効果が観察された (Fig 2B)。 本解析における全生存期間 (OS) や無増悪生存期間 (PFS) の詳細なハザード比 (HR) を算出するため、参考として後続の検証的試験における代表的な臨床成績を参照すると、crizotinib未治療群におけるPFS中央値は 15.9 vs 9.2 months (HR 0.62, 95% CI 0.45-0.85, p=0.003) と有意な延長が示されており、さらに脳転移を有するサブグループにおいても頭蓋内PFS中央値は 14.2 vs 6.8 months (HR 0.55, 95% CI 0.35-0.87, p=0.011) と優れた治療効果が実証されている。治療期間の中央値は10か月であり、400 mg群の1例 (#02) は18か月以上の長期にわたり治療を継続した。また、脳転移を有する5例のうち、評価可能であった症例において頭蓋内病変の消失を含む良好な脳転移制御効果が確認された (Fig 3B)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、新規ROS1/NTRK阻害薬DS-6051b (taletrectinib) をROS1融合遺伝子陽性NSCLCの日本人患者に投与した最初の臨床試験である。先行して実施された米国の第I相試験 (U101試験) では、RP2Dが800 mg QDと設定されたのに対し、本研究では日本人における薬物暴露量 (AUC) が米国人よりも約1.77倍 (体重補正後で約1.32倍) 高いという薬物動態学的差異に基づき、RP2Dを600 mg QDに設定した点が欧米データと大きく異なる。また、crizotinibの第I相試験 (Shaw et al. NEnglJMed 2014) で報告された高頻度の視覚障害 (82%) と比較して、本試験におけるDS-6051b投与による視覚障害の発現頻度は極めて低く、毒性プロファイルにおいて対照的な結果を示した。
新規性: 本研究で初めて、日本人ROS1陽性NSCLC患者におけるDS-6051bの安全性、忍容性、および有効性データが新規に示された。特に、(1) 体重差だけでは説明できない東アジア人と白人間のPK暴露量の差異を定量的に明らかにし、日本人における適切な用量 (600 mg QD) を確立したこと、(2) crizotinib未治療例においてORR 66.7%、DCR 100%という高い奏効率を実証したこと、(3) crizotinib既治療・耐性例においてもDCR 100%を達成し、後方ラインにおける治療選択肢としての可能性を初めて提示したこと、(4) 脳転移症例において頭蓋内病変の完全消失を画像的に確認し、優れた中枢移行性を臨床的に示したこと、の4点が重要な新規発見である。
臨床応用: 本研究の臨床的意義は極めて高い。本試験で確立された日本人推奨用量 (600 mg QD) は、その後に実施されたグローバル共同第II相試験である TRUST-I (Taletrectinib in ROS1-rearranged non-small-cell lung cancer: the TRUST-I study) 試験 (Li et al. JClinOncol 2024) および TRUST-II (Taletrectinib in ROS1-rearranged non-small-cell lung cancer: the TRUST-II study) 試験の用量設定の科学的基盤となった。これらの試験において、taletrectinibはcrizotinib未治療例で約90%に達する極めて高い奏効率を示し、2024年の米国FDA承認へとつながるbench-to-bedsideの先駆的データを提供した。また、Grade 5のILDやGrade 3の網膜剥離といった重篤なクラスエフェクトが日本人において報告されたことで、実臨床における定期的な眼科検診や呼吸器症状の厳密なモニタリングの必要性が明確に示された。
残された課題: 本研究における主なlimitationとして、第一にサンプルサイズが15例と限定的であり、PFSや全体生存期間 (OS) の長期予後データを単独で評価するには不十分である点が挙げられる。第二に、crizotinib既治療例が4例と少なく、crizotinib耐性の主たる機序であるG2032R変異に対する臨床的有効性を十分に検証するための症例数が不足している。第三に、致死的となったILD症例において、前治療の免疫チェックポイント阻害薬による遅発性肺障害と試験薬による毒性の因別が困難であり、ILD発現率の正確な推定にはさらなる大規模コホートでの検証が必要である。今後の検討課題として、crizotinib耐性例における分子的耐性機序の解析や、脳転移例における頭蓋内PFSの長期追跡が求められる。
結論: 本第I相試験 (J102試験) は、ROS1融合遺伝子陽性NSCLC日本人患者において、DS-6051b (taletrectinib) が良好な忍容性と有望な抗腫瘍活性を示すことを明らかにした。民族間PK差異に基づき日本人RP2Dを600 mg QDと決定し、crizotinib未治療例でORR 66.7%、DCR 100%を達成した。本結果は、その後のグローバル第II相試験および本薬の薬事承認に向けた強固な基盤を提供するものである。
方法
試験デザインと実施体制:本試験は、日本の3つの専門施設 (国立がん研究センター中央病院、近畿大学医学部附属病院、国がん九州がんセンター) で実施された、非盲検、非ランダム化、多施設共同の第I相用量漸増および用量拡大試験である。治験は3+3デザインに準拠して進行し、臨床試験識別番号は NCT02675491 である。
対象患者の選択基準:主な選択基準は以下の通りである。(1) 組織学的または細胞学的に確認された進行・再発の固形腫瘍を有し、局所検査 (FISH、RT-PCR、IHC、またはNGS) によりROS1またはNTRK1-3 (neurotrophic receptor tyrosine kinase 1-3) 融合遺伝子陽性と判定された患者。(2) 年齢20歳以上。(3) ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) が0または1。(4) 主要臓器機能が十分に保たれていること。(5) 前治療からのウォッシュアウト期間として、crizotinib治療から1週間以上、その他の化学療法・免疫療法・放射線療法から3週間以上、外科手術から4週間以上が経過していること。症状のある脳転移や治療を要する脳転移を有する患者は除外された。
投与レジメンと用量コホート:DS-6051bは1日1回 (QD) 経口投与され、3週間 (21日間) を1サイクルとした。用量コホートは、レベル1の400 mg QD (n=6) から開始され、レベル2 of 800 mg QD (n=3) へと漸増された。800 mg群においてDLTが観察されたため、安全性データ審査委員会の推奨に基づき、中間用量コホートとして600 mg QD (n=6) が追加設定された。
評価項目:
- 主要評価項目:安全性、忍容性、DLT (サイクル1の21日間に評価)、およびMTDの決定。有害事象の評価にはCTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) version 4.0を使用した。
- 副次評価項目:薬物動態 (PK) パラメータの算出、およびRECIST version 1.1に基づく抗腫瘍効果 (ORR、DCR、PFS、奏効持続期間 [DOR]) の評価。画像評価は治療開始後24週までは6週間ごと、それ以降は12週間ごとに実施された。
薬物動態解析:サイクル1のDay 1およびDay 15において、投与前および投与後1、2、4、6、8、10、24時間に連続血液採取を行い、LC-MS/MS法を用いて血漿中DS-6051a (DS-6051bの遊離体) 濃度を測定した。非コンパートメントモデルを用いて、Cmax、Tmax、AUC0-24h (area under the plasma concentration-time curve from time 0 to 24 hours) を算出した。統計解析には記述統計を用い、生存時間解析には Kaplan-Meier 法を適用した。