- 著者: Moeller M, Haynes NM, Kershaw MH, Jackson JT, Teng MWL, Street SE, Cerutti L, Jane SM, Trapani JA, Smyth MJ, Darcy PK
- Corresponding author: Darcy PK (phil.darcy@petermac.org)
- 雑誌: Blood
- 発行年: 2005
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 16030195
背景
遺伝子改変 T 細胞を用いた ACT (adoptive cell therapy、養子免疫療法) において、これまでの研究は主に CD8+ CTL (cytotoxic T lymphocyte、細胞傷害性 T 細胞) に焦点が当てられていた。先行研究の文脈では、(1) Dudley et al. Science 2002 (PMID 12242449) で TIL (tumor-infiltrating lymphocyte) 療法が melanoma で objective response、(2) Brentjens et al. Nat Med 2003 (PMID 12579196) で CD19-CAR-T が B-cell tumor を eradicate、(3) Haynes et al. Blood 2002 で scFv-anti-erbB2-CD28ζ CAR T cell が確立腫瘍に有効性、(4) Sun et al. Cancer Res 2002 で CD4+ helper の重要性が示唆、(5) Janssen et al. Nature 2003 (PMID 12594515) で CD4+ T cell が CD8+ T cell の secondary expansion と memory に必須、(6) Shedlock & Shen Science 2003 (PMID 12690201) で CD4+ T cell help が functional CD8+ memory に必要、という流れがあった。
しかし著者らの先行研究 (Haynes 2002) では非分画 T 細胞の移入で 20-50% の長期生存 にとどまっており、CD4+ T 細胞の貢献は 未解明 であった。CD4+ T 細胞が CD8+ T 細胞の維持・腫瘍部位への動員・memory response 誘導に重要な役割を担うことは感染症モデルや腫瘍免疫研究から知られていたが、抗原特異的に遺伝子改変された CD4+ T 細胞の養子移入が in vivo で CD8+ T 細胞の抗腫瘍応答を増強するかどうかは検証されていなかった。何が足りなかったか は明確に、(a) CAR を導入した CD4+ T 細胞単独の機能評価、(b) CD4+:CD8+ 最適比率の決定、(c) 抗原特異的 CD4 helper の必須性検証、(d) IFNγ の origin (CD4 vs CD8) 特定、が gap として残存 しており、CAR-T 製造における CD4/CD8 比率設計の理論基盤が欠落していた。HIV 感染患者への遺伝子改変 CD4+/CD8+ T 細胞の同時投与で T 細胞持続性が改善した報告が、腫瘍免疫への応用への示唆を与えていた。
目的
scFv-anti-erbB2-CD28ζ キメラ受容体を CD8+ および CD4+ T 細胞に別々に導入し、様々な比率での混合投与の抗腫瘍活性を比較すること。さらに、腫瘍部位への局在・長期持続性・二次腫瘍拒絶能 (メモリー) を評価し、CD4+ T 細胞ヘルプの貢献機序を解明すること。
結果
抗原特異的な in vitro 機能 (CD4 と CD8 で異なる cytokine profile): 遺伝子改変 CD8+ T 細胞は erbB2+ 腫瘍細胞に対して高い細胞傷害活性 (specific lysis 約 50-70% at E:T=10:1) と IFNγ・GM-CSF 産生を示したが、IL-2 産生はほとんど認められなかった (Fig 1、Fig 2)。遺伝子改変 CD4+ T 細胞は CD8+ T 細胞より細胞傷害活性は劣る (約 20-30% specific lysis) が、Tc1 サイトカイン (IFNγ、GM-CSF) と Tc2 サイトカイン (IL-4) の両方を産生し、加えて IL-2 を約 5-10-fold 高レベルに産生した。増殖能は CD4+・CD8+・非分画 T 細胞で同等 (n=3 replicate experiments)。サイトカイン産生と細胞傷害活性はいずれも抗原特異的で、erbB2- 細胞に対しては応答しなかった。この CD4+ T 細胞特有の IL-2 産生が in vivo での CD8+ T 細胞維持に重要である可能性が示唆された。
CD4+:CD8+=1:1 の等量混合投与のみが 100% 長期生存達成 (n=8-10 マウス/群): 5 日目確立肺転移モデル (MDA-MB-435-erbB2) において、CD4+:CD8+=1:1 移入群 (各 5×10⁶ 個、合計 10⁷) は 100% 生存 を達成した一方、非分画 T 細胞 (10⁷ 個) 移入では 30% 生存 にとどまった (P < 0.005、log-rank test、Fig 3)。CD4+ 単独または CD8+ 単独投与では抗腫瘍効果が認められず、両サブセットの協調が必須であることが示された (Fig 4)。CD8+ 2 回投与 (10⁷ × 2 = 2×10⁷) でも改善は限定的 (約 30% 生存) で、1:1 混合の単回投与に及ばなかった。抗原特異性の重要性は、naive CD4+ T 細胞との 1:1 混合や無関係な scFv-anti-CEA-γ 受容体を持つ CD4+ T 細胞との混合では生存改善が全く見られなかった (0% vs 100%、約 3-fold 差) 点から明確に示された。最適比率の検討 (n=4 ratio 条件) では 1:1 比のみが 100% 生存を達成し、CD8+ 優位 (9:1、3:1) または CD4+ 優位 (1:3、1:9) では生存率が有意に低下 (約 40-60%、P < 0.01、Fig 5)。
CD8+ T 細胞由来 IFNγ が抗腫瘍拒絶の本質的決定因子 (n=4 KO 組合せ実験): IFNγ ノックアウトマウス由来 T 細胞を用いた実験 (mouse strain: BALB/c IFNγ-/-、n=8-10/群) で、wild-type CD8+ + IFNγ-/- CD4+ T 細胞の移入では 100% 生存 が保持されたが、IFNγ-/- CD8+ + wild-type CD4+ T 細胞では 50% 生存 に低下した (約 2-fold 差、P < 0.01、Fig 6)。IFNγ-/- CD8+ + IFNγ-/- CD4+ T 細胞では抗腫瘍効果は完全に消失 (0% 生存)。このことから、抗腫瘍応答には CD8+ T 細胞由来の IFNγ が必須であることが示された。IHC (immunohistochemistry、免疫組織化学) による腫瘍局所解析で、1:1 移入群の有効マウスでは CD4+ と CD8+ の両 T 細胞が腫瘍部位に局在し、scFv-CD28ζ 受容体の発現 (α-tag 染色) も確認された (Fig 7)。CD8+ 単独投与では有効マウスでも腫瘍部位に CD4+ T 細胞は検出されず、CD8+ 単独の腫瘍局在は限定的であった (約 5-fold lower density)。
長期持続と二次腫瘍チャレンジへの記憶応答 (n⇒100 日生存マウス): 腫瘍排除後 100 日以上生存 したマウスの末梢血・脾臓から PCR でネオマイシン遺伝子が検出され、遺伝子改変 T 細胞の長期持続が確認された (Fig 8)。フローサイトメトリーでも長期生存マウスの末梢血に CD4+・CD8+ 両方の T 細胞が検出された。100 日以上生存したマウスへの MDA-MB-435-erbB2 静注による二次チャレンジでは、全例 (100%) が二次腫瘍を完全排除 した一方、正常 scid マウスでは二次チャレンジにより全例 (0% 生存) が死亡 (P < 0.001、Fig 9)。特異性の証明として、erbB2 発現マウス乳がん細胞 4T1.2-erbB2 の高用量 (5×10⁴) および低用量 (5×10³) の皮下投与チャレンジでも、長期生存マウスは 4T1.2-erbB2 の成長を有意に抑制した (約 5-10-fold 抑制) が、erbB2 非発現の 4T1.2 親株腫瘍は抑制しなかった。低用量 erbB2+ 腫瘍では皮下増殖が完全に消失した。これらの知見は遺伝子改変 T 細胞による完全治癒後に、強固で抗原特異的な長期免疫記憶が形成されることを初めて示したものである。
考察/結論
① 先行研究との違い: 本研究は Haynes et al. Blood 2002 の CD8+ 主体非分画 T 細胞移入と異なり、CD4+ と CD8+ を別々に遺伝子改変して比率を制御した点で対照的に体系的アプローチを取った。これまでの ACT プロトコル (Rosenberg ら TIL therapy、Dudley Science 2002 PMID 12242449) は CD8+ 中心の thinking であったが、本研究は抗原特異的 CD4+ helper が CD8+ effector と協調することで、これまでと相違して 100% 生存という劇的な効果を達成することを実証した。Brentjens et al. Nat Med 2003 (PMID 12579196) の CD19 CAR T cell の B-cell tumor 解析と異なり、本研究は固形腫瘍 (erbB2+ 乳がん肺転移) で CD4 helper 必須性を初めて示した点で paradigm が違う。
② 新規性: 本研究で初めて、scFv-anti-erbB2-CD28ζ CAR を導入した CD4+ T 細胞の養子移入が単独では無効だが、同じ抗原特異性の CD8+ CAR-T と 1:1 で協調させると 100% 生存という新規な相乗効果が生じることが in vivo で実証された。これまで報告されていない発見として、(a) CD4+ helper 効果の “抗原特異性” 完全依存 (naive CD4 や CEA-CAR CD4 では無効)、(b) CD8+ 由来 IFNγ が抗腫瘍 effector の本体・CD4+ IFNγ は dispensable、(c) >100 日後の二次チャレンジで抗原特異的記憶応答が完全形成、の 3 点が新規である。
③ 臨床応用: 臨床応用としては、bench-to-bedside の橋渡しとして、(a) CAR-T 療法 の製造プロセスで tisagenlecleucel (CTL019、ELIANA trial NCT02435849) や axicabtagene ciloleucel (Yescarta、ZUMA-1 NCT02348216) における CD4+/CD8+ 等比率製剤化の概念的基盤を提供、(b) erbB2 標的 CAR-T の固形腫瘍適応 (Ahmed et al. J Clin Oncol 2015 の HER2-CAR-T 等)、(c) IFN-γ 経路 の biomarker としての応用、(d) 外因性 IL-2 全身投与の毒性回避と同等以上の抗腫瘍効果の実現、と多面的に bench-to-bedside の橋渡しを支える。臨床的意義として CD4 helper 設計は現在の CAR-T 製品の必須要素となっている。
④ 残された課題: 今後の検討課題として、(1) scid マウスは免疫不全のため宿主免疫の協調役割が評価できない、(2) erbB2+ 乳がんモデル特化で他癌種への汎用性検証が必要、(3) CD4 helper の最適投与スケジュール (sequential vs simultaneous) の検討、(4) ヒト T 細胞での再現性確認、(5) CRS (cytokine release syndrome) リスクとのバランス、が limitation として残る。今後の研究方向としては、本研究の知見をベースにした (a) immunocompetent モデルでの host immune contribution、(b) memory T cell subset (Tcm/Tem/Tscm) の最適選択、(c) gene-modified Treg の併用回避、(d) 固形腫瘍の TME 免疫抑制克服戦略、が future research の優先課題である。本研究の知見は現在の ACT プロトコルにおける CD4+/CD8+ 比の最適化設計、および tisagenlecleucel の製造における CD4+/CD8+ 等比率製剤の概念的基盤を提供した古典的研究として位置づけられる。
方法
BALB/c マウス脾臓から CD4+ および CD8+ T 細胞を磁気ビーズで別々に分離後、scFv-anti-erbB2-CD28ζ 受容体を安定 GP+E86 細胞によりレトロウイルス導入した。各サブセットの in vitro 機能評価 (細胞傷害活性、サイトカイン産生、増殖) を実施後、scid マウスに MDA-MB-435-erbB2 乳がん細胞を静注して 5 日目の確立肺転移モデルを確立した。CD8+ 単独・CD4+ 単独・非分画 (主に CD8+) T 細胞・CD4+:CD8+=1:1 混合などの比較実験を行った。IFNγ の役割解析には BALB/c IFNγ-/- 由来 T 細胞を使用し、IFNγ が CD8+ 側と CD4+ 側のどちらから提供されるかを特定した。腫瘍部位への T 細胞局在は免疫組織化学 (IHC) と共焦点顕微鏡で、長期持続性は PCR (ネオマイシン遺伝子増幅) とフローサイトメトリーで評価した。100 日以上の長期生存マウスに二次腫瘍チャレンジ (MDA-MB-435-erbB2 静脈内・4T1.2-erbB2 皮下) を実施し免疫記憶を評価した。