• 著者: Rampotas A, Wong ZC, Gannon I, Brierley CK, Shen Y, Benlabiod C, et al.
  • Corresponding author: Martin A. Pule (UCL, m.pule@ucl.ac.uk), co-senior: Bethan Psaila (Oxford)
  • 雑誌: Science Translational Medicine
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-07-01
  • Article種別: Original Article
  • DOI: 10.1126/scitranslmed.adz3553

背景

骨髄増殖性腫瘍 (MPN; Myeloproliferative Neoplasm) はクローン性骨髄系悪性腫瘍であり、その約 1/4 はカルレティキュリン遺伝子 (CALR; calreticulin, aberrant frameshift variant) の変異によって駆動される。CALR エクソン 9 における +1bp フレームシフトによって生じる変異型 CALR タンパク質 (mutCALR) はトロンボポエチン受容体 (TpoR) と異常複合体を形成し、癌始原幹細胞および線維化駆動巨核球の細胞膜上に提示されることで、選択的ターゲット療法の機会を生み出す。骨髄線維症 (MF; Myelofibrosis) は MPN の中でも最も重篤な病態であり、生命予後は 5〜7 年にすぎない。加速相・芽球期 MPN (AP/BP-MPN) への移行は予後をさらに 6〜12 ヵ月に短縮し、有効な治療法が存在しないのが現状である。

既存の MPN 治療法は細胞減少剤や JAK 阻害薬が中心であり、骨髄増殖の制御や症状緩和には寄与するものの、疾患を根治させるものではなく、ほとんどの患者が最終的に治療抵抗性となる。これらの薬剤は変異クローンに対して選択的な制御効果を持たず、疾患修飾効果は限定的である。唯一、同種造血幹細胞移植が長期的な転帰を大幅に改善しうる介入であるが、重篤な毒性を伴い、移植関連死亡率が最大 40% に達するため、恩恵を受けられる患者はごく一部に留まる。したがって、ドライバー変異を持つ造血幹細胞 (HSC) を強力かつ選択的に除去し、正常造血の回復を可能にする治療法の開発が強く求められている。

先行研究では、CAR T 細胞療法が再発難治性 B 細胞リンパ腫や形質細胞腫瘍において持続的な寛解をもたらすことが示された (Jena et al. Blood 2010)。また、4-1BBζ 共刺激ドメインの設計が CAR T 細胞の腫瘍排除動態と持続性に根本的な影響を与えることも明らかにされている (Zhao et al. CancerCell 2015)。しかし、骨髄線維症のような悪性腫瘍では、密な細胞外マトリックス、免疫抑制性微小環境、高度な線維化、および JAK 阻害薬による T 細胞機能抑制が治療を困難にしており、関連する骨髄微小環境を模倣した評価系の不足が大きな課題であった (Lee et al. Cell 2018)。mutCALR を特異的に標的とする CAR T 細胞療法の前臨床有効性、特に線維化骨髄微小環境下での有効性は本研究まで検証されておらず、この領域には大きな知識のギャップが残されていた。

目的

本研究の目的は、mutCALR の変異特異的 C 末端を標的とする RPG4 CAR T 細胞療法を開発し、その有効性と選択性を前臨床モデルで検証することである。具体的には、(i) 患者由来 CD34+ 幹細胞における mutCALR+ 細胞の選択的殺傷能、(ii) ヒト iPSC 由来骨髄オルガノイド (chimeroid) モデルを用いた機能的・分子的影響の評価、(iii) マウス異種移植モデルにおける in vivo 有効性の実証を目指した。さらに、AP/BP-MPN における TpoR 発現低下による CAR T 細胞の殺傷能低下を克服するため、TpoR 発現増強戦略の評価も目的とした。これらの検証を通じて、mutCALR 駆動型 MPN に対する新規治療戦略の基盤を確立することを意図した。

結果

mutCALR 特異的 scFv RPG4 の設計と結合選択性: mutCALR の変異 C 末端 (全既知病原性変異に共通) を認識する一本鎖可変領域 (scFv) RPG4 を設計した (Fig. 1A)。表面プラズモン共鳴 (SPR) および間接 ELISA により、変異型タンパク質への選択的結合と至適結合安定性を確認した (Fig. 1B-C)。細胞レベルの選択性評価では、ヒト (Marimo, UT-7/TPO) およびマウス (Ba/F3) 細胞株パネルを用い、RPG4-Fc は mutCALR および TpoR の両者を共発現する細胞にのみ結合し (P<0.0001)、野生型 CALR 単独または TpoR 単独発現細胞には結合しなかった (Fig. 1D-E)。患者 mutCALR+ MPN 骨髄生検 (n=8) の免疫組織化学でも巨核球および CD34+ HSPC に選択的陽性染色が得られ、JAK2V617F+ 生検では陰性であった (Fig. 1F)。この結果は、RPG4 scFv が mutCALR-TpoR 複合体を特異的に認識することを示唆する。

RPG4 CAR T 細胞の強力かつ特異的な殺傷能: RPG4 scFv を 4-1BBζ 共刺激 CAR コンストラクトに組み込んだ RPG4 CAR T 細胞 (RPG4-BBζ) を作製した (Fig. 2A)。RPG4 CAR T 細胞は、mutCALR と TpoR を共発現する Ba/F3 細胞を特異的に殺傷し、IFN-γ および IL-2 を放出したが、TpoR 単独または野生型 CALR 発現細胞には反応しなかった (Fig. 2C-D)。同様に、mutCALR 陽性 Marimo および UT-7 細胞に対しても殺傷能とサイトカイン放出を示し、TpoR 過剰発現により殺傷能がさらに増強された (Fig. 2E-F)。エフェクター:ターゲット比 (E:T) 1:4 の低比率でも 72 時間後にはわずかな殺傷能低下しか見られず、6 日後には 1:1 比率と同等の殺傷能を維持した (Fig. S3A-E)。慢性的な再刺激アッセイでは、RPG4 CAR T 細胞は 3 回の共培養後も標的細胞の強力な制御を示し、5 回目まで非疲弊状態を維持した (Fig. S4E-H)。

患者由来 CD34+ 幹細胞の選択的除去と AP/BP-MPN への対応: MF 患者由来 CD34+ 細胞 (mutCALR type 1 n=3、type 2 n=6、JAK2V617F+ 対照 n=5) と RPG4 CAR T 細胞を共培養した結果、RPG4 CAR T 細胞は mutCALR type 1/2 を等しく殺傷し、JAK2V617F+ 細胞への off-target 毒性は認めなかった (Fig. 3A-B)。変異クローン負荷 (VAF) の変化量は −20% から −79% であり、EZH2、ASXL1、CSF3R 等の高分子リスク変異を併せ持つ症例でも有効であった (Fig. 3D)。mutCALR 細胞が野生型細胞の 10% のみ存在する低頻度条件でも 96.7% の mutCALR+ 細胞を除去した (Fig. 3C)。AP/BP-MPN 由来 CD34+ 細胞では TpoR 発現低下により CAR T 細胞の殺傷が不十分であったが、eltrombopag による TpoR 刺激でマーカー発現が顕著に増加し、殺傷率が有意に改善した (P<0.001; Fig. 3H-I)。現行 MF 治療薬 (ruxolitinib、momelotinib) と比較して CAR T 細胞療法は有意に強力な細胞傷害性を示した (P<0.001; Fig. S6D)。

ヒト骨髄 chimeroid モデルでの scRNA-seq 解析: iPSC 由来骨髄オルガノイドに mutCALR+ MF 患者 CD34+ 細胞と RPG4 CAR T 細胞を共播種した “chimeroid” モデルを確立し、単一細胞 RNA シークエンス (scRNA-seq) を実施した。品質管理後 35,794 細胞 (iPSC 由来間質細胞 15,164 個、MF 細胞 13,810 個、CAR T 細胞 6,820 個; n=24 オルガノイド) を解析した (Fig. 5A-B)。CAR T 細胞投与後、TpoR 発現細胞サブセット (HSPC、巨核球/赤血球前駆細胞 MkEP、好酸球-好塩基球-肥満細胞前駆細胞 EBM) においてのみ Hallmark アポトーシス遺伝子セットの有意な濃縮が認められた (P<0.001)。個別遺伝子解析では CASP1 (log2FC 1.46)、CASP7 (log2FC 1.05)、FAS (log2FC 1.3) の発現上昇が mutCALR+ HSPCs 選択的に確認された (Wilcoxon rank sum 検定、調整 P<0.001; Fig. 5D)。TpoR 陰性変異細胞および TpoR 陽性野生型細胞ではアポトーシス濃縮は認めず、on-target 選択性が確認された。CAR T 細胞の転写プロファイルでは mutCALR 標的細胞に接した群で TNFα、IFN-γ、IL-2/STAT5 活性化経路の濃縮 (Fig. 5F)、間質細胞ではバイスタンダー炎症 (IFN-γ、IFN-α、TNF、アポトーシス経路; P<0.05) が示され、CAR T 細胞療法に伴う造血ニッチへの炎症的影響が明らかになった (Fig. 5G-H)。線維化オルガノイド (TGFβ 処理) においても CAR T 細胞の生着と有効な殺傷が確認された (Fig. 4E)。

マウス異種移植モデルでの in vivo 有効性: 2 つのヒト異種移植モデルで in vivo 有効性を評価した。Molm-14 モデルでは、mutCALR を発現するよう遺伝子改変した細胞を免疫不全マウスに移植し (n=6/群)、RPG4 CAR T 細胞投与群は対照 anti-CD19 CAR T 細胞群と比較して生物発光イメージング (BLI) による腫瘍増殖を有意に抑制し (log-rank P=0.0012)、生存を有意に延長した (Fig. 6B-C)。Marimo-TpoR モデルでは細胞播種 2 日後に mutCALR CAR T 細胞 5×10^6 個を投与し、対照群 (非形質転換 T 細胞、CD19 CAR T 細胞) と比較して腫瘍負荷の有意な減少 (P<0.05)、骨髄からの腫瘍細胞のほぼ完全な除去 (P<0.01)、T 細胞の有意な増殖 (P<0.01) を確認した (Fig. 6D-G)。独立コホートでの生存解析では mutCALR CAR T 細胞群の生存期間が対照群の 2 倍以上 (36 日 vs 16 日) に延長し、有意差が得られた (P=0.009; Fig. 6H-J)。

考察/結論

先行研究との違い: 既存の JAK 阻害薬 (ruxolitinib、momelotinib) は MPN の症状制御と血球数改善をもたらすが、変異クローン VAF を減少させず、疾患修飾効果がないという点でこれまでの治療アプローチとは対照的である。本研究の CAR T 細胞は VAF を最大 79% 減少させ、変異クローンを直接排除する作用機序を有し、現行治療とは異なり疾患修飾型の細胞傷害療法を提供する。また、先行研究では骨髄線維症の免疫敵対的な TME 下での CAR T 細胞機能を評価する適切なヒトモデルが存在しなかったが、本研究は iPSC 由来 chimeroid モデルを開発し、線維化 TME 下でも有効性が維持されることを初めて実証した。

新規性: 本研究で初めて、mutCALR の変異特異的ネオ抗原を標的とする CAR T 細胞療法が、患者由来細胞、ヒト骨髄 chimeroid、マウス異種移植の 3 系統で選択的有効性を示し、正常造血に off-target 毒性を与えないことが新規に確立された。特に scRNA-seq による分子レベル解析で、アポトーシスが TpoR 共発現 mutCALR+ 細胞のみに選択的に誘導されることを示したのは、これまで報告されていない知見である。eltrombopag による TpoR 発現増強で AP/BP-MPN という治療困難な病態にも対応可能にした戦略も新規な臨床的解決策である。

臨床応用: 本研究の成果は、mutCALR+ MPN 患者 (ET、MF) および AP/BP-MPN への臨床応用が視野に入ることを示唆する。eltrombopag との併用により、TpoR 低発現例への適応拡大が期待される。MF 患者由来 T 細胞から製造した CAR T 細胞が健常人由来と同等の機能を示したことは、同種・自己移植いずれの臨床開発経路も支持する。Chimeroid モデルは、CAR T 細胞療法による骨髄ニッチへの炎症的影響を前向きに評価できる新たなトランスレーショナルプラットフォームとして、臨床試験設計に直接活用できる臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討として、in vivo での長期 CAR T 細胞持続性および再発時の耐性機序の解明が必要である。scRNA-seq で明らかになった間質バイスタンダー炎症反応が、CAR T 細胞療法後の遷延性血球減少に臨床的に寄与するかどうかを検証する前向きな研究が残された課題である。また、AP/BP-MPN に対する eltrombopag 前処理と CAR T 細胞の最適スケジュールや、ヘテロ接合性変異例での残存変異クローンに対する対応策も今後の研究方向性として重要である。

方法

本研究は、mutCALR 発現標的の選択的除去を実証することを主要目的とした前臨床試験である。in vitro 試験では、ヒト mutCALR+ MPN 患者由来 CD34+ 造血幹細胞・前駆細胞 (HSPC)、ヒト MPN 細胞株 (Marimo、Marimo-TpoR、UT-7/TPO)、ヒト急性骨髄性白血病細胞株 (Molm-14; FLT3-ITD/MLL-AF9 変異)、および Ba/F3 マウス細胞株を使用した。CAR T 細胞は、健常ドナーおよび MF 患者からのアフェレーシス由来 T 細胞から製造された。すべての in vitro 実験は、最低 3 人の独立した健常ドナーからの T 細胞を用いて実施され、再現性を確保するための適切な対照が設定された。患者サンプルを使用する際は、利用可能なすべてのドナー/材料が用いられた。

骨髄 chimeroid モデルは、iPSC 由来骨髄オルガノイドに患者 CD34+ 細胞および CAR T 細胞を播種して構築された。単一細胞 RNA シークエンス (scRNA-seq) は、シングルヌクレオチド多型 (SNP) による遺伝的非多重化を用いて、3 ドナー (iPSC、MF、CAR T 細胞) を識別した (35,794 細胞; n=24 オルガノイド)。

in vivo 異種移植試験では、免疫不全マウスが使用され、各治療群に n=6 匹が割り当てられた。マウスは非盲検で無作為化された。腫瘍負荷は、生物発光イメージング (BLI) によって経時的に評価された。放射輝度 1×10^7 photons/s/cm^2/sr を安楽死基準とした。検出力計算は、BLI 測定値で 50% の差 (効果量 2)、生存率で 25% の増加を検出するために実施された。

統計解析には、3 群以上の比較に対しては 2 元配置 ANOVA (α=0.05、Prism v10.4、GraphPad, La Jolla, CA) が用いられた。生存解析には Kaplan-Meier 法と log-rank 検定が適用された。in vivo 実験では盲検化は行われなかったが、非形質転換 T 細胞または CAR T 細胞の注入前に、対照群と治療群間の平均発光シグナルが同等であることを確認した。