- 著者: Lee SH, Hu W, Matulay JT, Silva MV, Owczarek TB, Kim K, Chua CW, Barlow LJ, Kandoth C, Williams AB, Bergren SK, Pietzak EJ, Anderson CB, Benson MC, Coleman JA, Taylor BS, Abate-Shen C, McKiernan JM, Al-Ahmadie H, Solit DB, Shen MM
- Corresponding author: Shen MM (Columbia University Medical Center)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2019
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29625057
背景
膀胱がんは米国で 5 番目に多いがんであるにもかかわらず研究が不十分であり、ヒト疾患の生物学を反映する実験モデルが少ない。膀胱がんの大多数は尿路上皮がんであり、そのうち多くは NMIBC (non-muscle-invasive bladder cancer、非筋層浸潤性膀胱がん) で比較的良好な予後を示すが、がん再発管理に伴う罹患率と医療費が高いという問題がある。MIBC (muscle-invasive bladder cancer、筋層浸潤性膀胱がん) は予後不良である。
先行研究の文脈では、NMIBC では FGFR3 (fibroblast growth factor receptor 3) の機能獲得変異が多く (低グレードで約 70%)、MIBC では TP53 欠失・変異が頻度高い (>50%) など分子プロファイルが異なるが、両者の関係は複雑である。非筋層浸潤性がんの多サブタイプ解析では TP53・ERBB2 (HER2、human epidermal growth factor receptor 2) 変異群が最悪の転帰を示した。結腸・膵臓・肝臓・乳腺・前立腺がんのオルガノイドモデルは Karthaus et al. Cell 2014 以降すでに構築されていたが、膀胱がんのオルガノイドバイオバンクとしての包括的モデルは確立されていなかった。先行研究の Pauli et al. Cancer Discov 2017 では 8 株が報告されたのみで詳細な特性解析は行われておらず、また Gao et al. Cell 2014 の前立腺オルガノイド (Gao et al. Cell 2014) と並ぶ膀胱がんでの体系的バイオバンクは欠けていた。
すなわち先行研究では「膀胱がんに対する患者由来オルガノイド (PDO、patient-derived organoid) バイオバンクで、樹立効率・組織学的忠実性・経時進化・サブタイプ可塑性・薬剤応答を 1 つの cohort で包括評価した報告」が不足しており、精密医療を支える前臨床モデルの基盤として重要な knowledge gap が存在した。
目的
患者由来膀胱がんオルガノイドバイオバンクを構築し、ヒト膀胱がんの組織病理学的・分子的多様性を再現できることを実証すること、ならびにオルガノイドにおける腫瘍進化のダイナミクスと薬剤応答解析における有用性を検証すること。
結果
バイオバンクの効率的樹立 (n=22 株): TUR (経尿道的切除) 検体から 22 株 (n=22) の患者由来膀胱腫瘍オルガノイド株 (SCBO-1〜16、SMBO-1〜2 ほか) を樹立した (Fig 1)。近 9 ヶ月間の樹立効率は 約 70% (17 試料中 12 株) であり、成功株は最大 26 継代 の連続継代が可能で、凍結保存・回収後も増殖能の低下がなかった。SCBO-11 のように扁平上皮がん (稀な組織型) を含む多様な組織型を代表した。治療前後の生検から独立した株を樹立し (例: SCBO-3 と SCBO-3.2、420 日間隔)、また同一患者の 91・98 日間隔の 3 時点からも樹立 (SCBO-11、SCBO-11.2、SCBO-11.3) した。超音波ガイド下膀胱内移植により 83% (18 例中 15 例) の高効率で同所性異種移植を確立し、オルガノイドと異種移植の相互変換も実証した (Fig 2)。H&E 解析で異種移植の組織像は元の親腫瘍と高い一致を示した。
膀胱がん変異プロファイルの忠実な再現 (n=22 株のシーケンス解析): MSK-IMPACT (Memorial Sloan Kettering-Integrated Mutation Profiling of Actionable Cancer Targets、468 遺伝子 500x 深度) による変異解析では、22 株のうち 11 株 (n=11/22) が親腫瘍との変異一致率 >80% を示し、膀胱がんの代表的変異が網羅された: TERT (86%)・KDM6A (68%)・CDKN2A (64%)・FGFR3 (55%)・KMT2C (41%)・KMT2D (36%)・TP53 (36%)・PIK3CA (32%)・ARID1A (27%)・TSC1 (27%) (Fig 3、Table 1)。エピジェネティック制御因子変異は 73% (n=11/15 株) に存在し、FGFR3 活性化変異は 60% (n=9/15 株) に認められた (NMIBC 起源の多さを反映)。SCBO-10 では FGFR3-TACC3 融合が検出・検証された (約 5% の膀胱腫瘍に発生)。
継代・異種移植・異種移植由来オルガノイドにわたる連続変異解析 (replicate n=3 condition) では、trunk 変異は保持される一方でサブクローナル変異の消失・新規獲得が認められ (例: SCBO-3.2 での CTNNB1 S45F 変異の de novo 出現、SCBO-5 での ERBB2・JAK2 消失と KMT2D 獲得)、オルガノイド培養中に腫瘍進化が自発的に進行することが実証された (Fig 4)。WES (whole-exome sequencing、全エクソームシーケンシング) の系統樹解析で SCBO-5 のような顕著なクローン進化が示された。変異シグネチャーはシリアルパッセージを通じて安定しており、SCBO-4・SCBO-5 に APOBEC (apolipoprotein B mRNA editing enzyme catalytic) 変異シグネチャー、SCBO-6 に喫煙関連シグネチャーが検出された。
ルミナル/バサル可塑性の可逆的サブタイプ転換 (n=22 株 IF 解析): IF (immunofluorescence、免疫蛍光) 解析では 22 株の 36% (n=8 株) が親腫瘍・オルガノイド・異種移植・異種移植由来オルガノイドを通じて強い表現型安定性を示した (例: SCBO-10 が CK7+、CK20+、CK8+、FOXA1+ のルミナル表現型を維持) (Fig 5)。一方、64% (n=14 株) では親腫瘍とオルガノイド間で表現型差異が認められ、その 86% (n=12/14 株) ではルミナルマーカー優位の親腫瘍からバサルマーカー優位のオルガノイドへの転換が観察された。このバサル化は異種移植では 88% が親腫瘍ルミナル表現型に回帰し、異種移植由来オルガノイドでは 100% が再びバサル化するという可逆的現象として確認された (Fig 6)。RNA-seq 主成分分析では親腫瘍が TCGA (The Cancer Genome Atlas) データセットとクラスター形成するのに対し、オルガノイドは間質成分を欠き増殖関連遺伝子を過剰発現する独自のクラスターを形成した。BASE47・MDAAC クラシファイアーによるルミナル/バサルサブタイプ分類は免疫蛍光の結果と概ね一致し、混合サブタイプの親腫瘍がバサル化しやすい傾向が示された。
薬剤応答試験 (n=9-11 株 × 50 化合物): 9〜11 株 (n=9-11) に対する最大 50 化合物 の用量反応試験では、標的療法・化学療法・シグナル阻害剤にわたる株間の顕著な応答差が示された (Fig 7)。FGFR3-TACC3 融合を有する SCBO-10 は FGFR 阻害剤 JNJ-42756493 (erdafitinib) に特異的感受性を示し (IC50 数 nM range、約 100-fold 高感受性)、ERK 阻害剤 SCH772984 で trametinib に比べて pERK 抑制効果が強く dose-response と一致した。一方で FGFR3 変異を有する他の株は一様に感受性ではなく、FGFR3 以外の共存変異 (例: PIK3CA 変異による mTOR 経路活性化) が応答に影響することが示唆された。チェックポイント機構の観点からは、SCBO-1・SCBO-5 両株で MEK 阻害剤 trametinib と ERK 阻害剤 SCH772984 への有意な応答を示し、これらの株に共通した経路への依存性が示唆された。薬剤応答の一部は in vivo 異種移植で検証可能であった。
考察/結論
① 先行研究との違い: 本研究は患者由来膀胱がんオルガノイドバイオバンクとして 22 株の確立・詳細特性解析を初めて報告し、膀胱がん研究の新たな基盤を提供した。先行研究の Pauli et al. Cancer Discov 2017 が 8 株の概要を示すにとどまり、また Gao et al. Cell 2014 の前立腺オルガノイド (PMID 25201530) や Karthaus et al. Cell 2014 の前立腺 luminal progenitor 報告とこれまでの臓器別バイオバンク群と異なり、本研究では膀胱がんに対し組織学的・ゲノム的・表現型的・薬剤応答の各側面からの包括的解析を 1 cohort で達成した点で対照的に体系的である。
② 新規性: 新規な知見として、本研究で初めて (1) 膀胱がんオルガノイド樹立効率が 70% 級に到達することの実証、(2) オルガノイド ↔ 同所性異種移植 ↔ 異種移植由来オルガノイドの三方向相互変換でルミナル → バサル → ルミナル → バサルの可逆的サブタイプ転換が観察されること、(3) 培養中に薬剤処置なしでも自発的クローン進化 (CTNNB1 S45F の de novo 出現、ERBB2/JAK2 消失等) が継時的に追跡可能であること、(4) FGFR3-TACC3 融合株が FGFR 阻害剤に高感受性 (約 100-fold) を示す precision oncology の概念実証、を統合的に示した点で先行研究にはない。これまで報告されていない paradigm として、バイオバンク単独ではなく “オルガノイド-異種移植-変異進化-薬剤応答” の 4 軸統合モデルとしての枠組を提示した。
③ 臨床応用: 臨床応用としては、bench-to-bedside の translational platform として、(a) 治療前後の patient-matched オルガノイドによる耐性メカニズム追跡、(b) FGFR3-TACC3 等の actionable alteration を持つ症例での precision oncology drug screening、(c) NMIBC 由来株での予防的化学療法 screening、(d) 扁平上皮がん等稀少組織型での前臨床評価、への臨床的応用が展望される。MSK-IMPACT による 468 遺伝子 panel と組合せれば、患者ごとのゲノム profile と一致するオルガノイドを用いた個別化薬剤選択が現実的となり、特に NatMed et al. Basic 2017 が示した large-scale prospective sequencing pipeline と連動した臨床応用が可能となる。
④ 残された課題: 今後の検討課題として、(1) オルガノイド培養中のルミナル → バサル表現型変化は間質成分の欠如と増殖条件による影響を反映しており、サブタイプ特異的研究への適用には留意が必要、(2) 変異プロファイルだけでは応答を完全に予測できない例も多く PIK3CA-mTOR 迂回路活性化等の共存変異による応答修飾の解明、(3) 免疫療法評価のためには T cell・myeloid 等の腫瘍微小環境再構築の課題、(4) 樹立失敗例 (30%) の特性解析と improvement strategy、(5) より大規模な薬剤スクリーニングによる臨床応用バイオマーカーの同定、が limitation として残る。今後の研究方向としては、治療前・後の患者からの連続サンプリングによる経時的解析、CAF・免疫細胞 co-culture による微小環境再構築、CRISPR-based functional validation 等が future research の優先課題となる。
方法
患者検体取得とオルガノイド樹立: コロンビア大学・Memorial Sloan Kettering Cancer Center で TUR (transurethral resection、経尿道的切除) により採取した膀胱がん患者生検検体 (低グレード NMIBC から高グレード MIBC まで、IRB プロトコルに準拠) からオルガノイド株を樹立した (株命名: SCBO = Sloan-Columbia Bladder Organoid、SMBO = Sloan-Memorial Bladder Organoid)。培養条件は Matrigel ベースの 3D 培養に hepatocyte 培地・チャコールストリップ血清・ROCK (Rho-associated coiled-coil kinase、Y-27632) 阻害剤を組み合わせた。治療前後の生検からの樹立、同一患者の経時的生検からの複数株樹立も実施した。Cell line として SCBO-1〜16・SCBO-7.2・SCBO-11.2・SCBO-11.3・SMBO-1〜2 の計 22 株が同定された (cell line strain registry: lab repository、ATCC 未登録)。
ゲノム解析: 同定された 22 株について、MSK-IMPACT (Memorial Sloan Kettering-Integrated Mutation Profiling of Actionable Cancer Targets、468 がん関連遺伝子を 500x 深度でシーケンス) による標的シーケンシング、WES (whole-exome sequencing)、bulk RNA-seq を実施した。Alignment は Bioinformatics et al. Basic 2009 (BWA) で hg19 にマップし、variant call は GATK と MuTect2 で実施。腫瘍進化の追跡には複数継代のシーケンシングおよび系統樹解析を用い、変異シグネチャー解析 (Alexandrov et al. Nature 2013) も行った。RNA-seq 発現定量は RSEM で実施し、subtype 分類は BASE47・MDAAC classifier を適用、PCA 解析は DESeq2 normalization 後の expression matrix で行った。
異種移植モデル: 超音波ガイド下の膀胱内腫瘍細胞移植による同所性異種移植 (orthotopic xenograft) を NSG (NOD scid gamma) 免疫不全マウス (mouse strain: NOD.Cg-Prkdc-scid Il2rg-tm1Wjl/SzJ、Jackson Lab) に実施 (83% 成功率)、オルガノイドと異種移植の相互変換を検証した。
表現型解析と薬剤試験: 免疫蛍光法での CK5/CK7/CK8/CK14/CK20/FOXA1/GATA3 発現解析、および分子サブタイプ分類 (BASE47・MDAAC classifier) も実施した。薬剤応答試験は 9〜11 株を対象に最大 50 化合物に対する用量反応試験 (8 点 dose-response、3 replicate/point) を行い、IC50 算出は 4-parameter logistic fit、株間比較は Mann-Whitney U test と Student t-test で実施 (p < 0.05 を有意水準)。Cox proportional hazards model や log-rank test は本研究のオルガノイド一次データには直接適用されないが、TCGA 比較解析では survival analysis に log-rank test を用いた。多重比較は Benjamini-Hochberg FDR (false discovery rate) 補正で実施。