• 著者: Bipulendu Jena, Gianpietro Dotti, Laurence J.N. Cooper
  • Corresponding author: Laurence J.N. Cooper (Division of Pediatrics, University of Texas M. D. Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
  • 雑誌: Blood
  • 発行年: 2010
  • Epub日: 2010-06-24
  • Article種別: Review
  • PMID: 20439624

背景

がん治療における養子免疫細胞療法 (adoptive cell therapy) は、患者自身の免疫システムを動員して腫瘍を攻撃する革新的なアプローチとして期待されてきた。しかし、末梢血や腫瘍浸潤リンパ球 (tumor-infiltrating lymphocyte: TIL) から腫瘍特異的な内因性T細胞受容体 (T-cell receptor: TCR) を持つT細胞を同定・増殖させることは技術的に極めて困難であった。さらに、主要組織適合遺伝子複合体 (major histocompatibility complex: MHC) によるHLA拘束性が存在するため、患者個別の対応が必要となる点や、腫瘍細胞がHLAクラスI分子の発現を消失・低下させることで免疫監視から逃避する現象が本質的な限界として立ちはだかっていた。これらの課題を克服するため、抗体の抗原認識能とT細胞の細胞傷害活性を融合させた人工受容体であるキメラ抗原受容体 (chimeric antigen receptor: CAR) を遺伝子導入したCAR-T細胞療法が開発された。

初期の臨床試験においては、第一世代CAR (CD3ζ鎖またはFcεRIγ鎖のITAMドメインのみを細胞内シグナル伝達部に持つ設計) を用いた検討が行われたが、T細胞のin vivoにおける増殖能や持続性が著しく不足していることが明らかとなった。例えば、神経芽腫を標的としたL1-CAM (L1 cell adhesion molecule) 特異的CAR-T細胞の投与試験である Park et al. MolTher 2007 や、低悪性度非ホジキンリンパ腫およびマントル細胞リンパ腫を対象としたCD20特異的CAR-T細胞の投与試験である Till et al. Blood 2008 において、輸注されたT細胞は末梢血中から短期間で消失することが報告された。また、先行研究である Dudley et al. Science 2002Morgan et al. Science 2006 では、遺伝子改変T細胞療法の有効性が示唆されていたものの、CAR-T細胞に特化した詳細な設計原理、特に共刺激シグナルの付与による持続性改善や、安全な遺伝子導入プラットフォームの構築に関する知見は不十分であった。

2010年時点において、第一世代CARの限界を打破するために共刺激ドメイン (CD28や4-1BBなど) を組み込んだ第二世代および第三世代CARの開発が進められていたが、分子設計の最適化、臨床グレードの製造プロセス、および重篤な毒性管理に関する包括的な知見は依然として未確立であり、学術界および臨床現場において体系的な整理が強く求められていた。特に、固形腫瘍における免疫抑制性微小環境の克服や、遺伝子導入に伴う挿入変異原性のリスク、さらには標的外毒性 (on-target off-tumor toxicity) を制御するための安全スイッチの組み込みなど、臨床展開を加速させるための具体的なロードマップが不足している点が大きな課題であった。このように、安全性と有効性を両立させるための包括的な設計指針や、高コストなウイルスベクターに依存しない安価な製造プラットフォームの確立に関する知見が決定的に不足しており、技術的・臨床的なgapが残されていた。

目的

本レビューの目的は、2010年時点におけるCAR-T細胞療法の分子設計、遺伝子導入プラットフォーム、ex vivoにおける細胞製造プロセス、前臨床および初期臨床試験のデータを網羅的に整理することである。特に、第一世代から第二世代・第三世代へのCAR分子構造の進化、非ウイルス性遺伝子導入システムであるSleeping Beauty (SB) システムの有用性、および臨床試験で顕在化した安全性の課題を体系的に分析し、今後のマルチセンター臨床試験の実施に向けた技術的・規制上の課題を明確に提示することを目的とする。

結果

CAR分子のモジュール構造と世代別進化: キメラ抗原受容体 (chimeric antigen receptor: CAR) は、標的抗原を認識する細胞外ドメイン、細胞膜を貫通するドメイン、およびT細胞を活性化する細胞内シグナル伝達ドメインから構成されるモジュール構造を持つ (Figure 1)。細胞外ドメインには、モノクローナル抗体由来の単鎖可変領域である scFv (single-chain fragment variable) 領域 (VHとVLをリンカーで連結) や、特定の受容体を標的とするリガンド (IL-13Rα2を標的とするIL-13変異体など) が用いられる。第一世代CARは、細胞内シグナル伝達ドメインとしてCD3ζ鎖のITAM (immunoreceptor tyrosine-based activation motif) のみを搭載し、抗原結合時にシグナル1 (TCR活性化シグナル) のみを伝達する。しかし、第一世代CAR-T細胞はIL-2産生能が低く、in vivoでの増殖と持続性が極めて限定的であった。この限界を克服するため、CD28やCD137 (4-1BB) などの共刺激受容体由来のドメインをCD3ζと直列に連結した第二世代CARが開発された。第二世代CARは、単一分子でシグナル1とシグナル2 (共刺激シグナル) を同時に伝達可能であり、前臨床モデルにおいて優れた増殖能と抗腫瘍効果を示した。さらに、CD28、4-1BB、CD3ζなど、2つ以上の共刺激ドメインを組み合わせた第三世代CARの臨床開発も開始されていた (Table 1)。

2010年時点における臨床試験の全体像と治療効果: 2010年時点で、米国においてIND申請下で進行中のCAR-T細胞臨床試験は n=25 件存在した (Table 1)。標的抗原としては、B細胞性悪性腫瘍を対象としたCD19標的が n=11 件 (44%) と最多を占め、次いでCD20標的が n=2 件、GD2標的が n=1 件、CEA標的が n=4 件、HER2/neu標的が n=3 件などであった。初期の臨床試験において、限定的ではあるが明確な抗腫瘍効果や生物学的活性が報告された。例えば、NCI (National Cancer Institute) の Kochenderfer らは、化学療法抵抗性の慢性リンパ性白血病 (chronic lymphocytic leukemia: CLL) 患者に対し、CD28共刺激ドメインを搭載した第二世代CD19 CAR-T細胞を投与し、リンパ節腫脹の縮小と39週以上にわたる持続的なB細胞枯渇を観察した (NCT00466531)。また、Pule et al. NatMed 2008 らは、EBV (Epstein-Barr virus) 特異的T細胞にGD2特異的CARを導入した二重特異的T細胞を神経芽腫患者に投与し、内因性TCRシグナルを介したin vivoでの長期持続性と腫瘍縮小効果を実証した。さらに、Till et al. Blood 2008 らは、CD20特異的CAR-T細胞の投与により、低悪性度非ホジキンリンパ腫患者において部分奏効 (PR) を含む臨床的有用性を示した。

遺伝子導入プラットフォームと製造プロセスの革新: 臨床グレードのCAR-T細胞製造において、γレトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターが広く用いられてきた。γレトロウイルスは分裂細胞にのみ遺伝子導入が可能であるため、T細胞をPHA (phytohemagglutinin) やOKT3抗体とIL-2で活性化させた後、約3週間の培養期間を要した (Figure 2)。一方、自己不活化型である SIN (self-inactivating) レンチウイルスベクターは静止期T細胞にも導入可能であり、長期的な発現維持に優れるが、製造コストが極めて高いという課題があった。これに対し、著者らは非ウイルス性の遺伝子導入システムとして Sleeping Beauty (SB) トランスポゾンシステムを開発した。SBシステムは、CARトランスポゾンをコードするプラスミドと、ハイパーアクティブ型トランスポゼースである SB11 (hyperactive Sleeping Beauty transposase 11) をコードするプラスミドの2枚をエレクトロポレーション法によってT細胞に導入する (Figure 3)。この手法により、従来の単純なプラスミド導入と比較して約 60-fold の遺伝子組み込み効率向上を達成した。さらに、CD19、CD64、CD86、および共刺激リガンドである CD137L (CD137 ligand)、膜結合型IL-15を発現するように遺伝子改変されたK562細胞由来の人工抗原提示細胞 (artificial antigen-presenting cell: aAPC) を用いたex vivo増殖プラットフォームを組み合わせることで、3〜4週間以内に臨床適用に十分な数十億個のCAR-T細胞を安定的に製造することに成功した。

T細胞の持続性向上、ホーミング、および耐性克服戦略: CAR-T細胞の治療効果を最大化するため、in vivoでの持続性を高めるアプローチが多数試みられた。宿主環境の調整として、シクロホスファミドやフルダラビンを用いたリンパ球除去前処置 (lymphodepletion) を行うことで、制御性T細胞 (regulatory T cell: Treg) を排除し、IL-7やIL-15などのホメオスタシス維持サイトカインの利用効率を高め、CAR-T細胞の増殖を促進する手法が確立された。また、T細胞の生存をサポートするため、IL-7受容体α鎖 (CD127) の強制発現や、膜結合型IL-7、IL-15の共発現システムが開発された。さらに、腫瘍局所への遊走能 (ホーミング) を改善するためにCCR4やCXCR2などのケモカイン受容体を導入する試みや、腫瘍微小環境における免疫抑制因子に対抗するため、TGF-β優性陰性受容体 (dominant-negative receptor) の導入や、Brentjens et al. NatMed 2003 に示されるようなCD80とIL-15の共発現によるTreg抑制抵抗性の付与が検討された。

安全性の課題と重篤な有害事象 (SAE): CAR-T細胞療法の臨床展開において、4つの主要な安全性の懸念が顕在化した。第1に、レトロウイルスやレンチウイルスなどの組み込み型ベクターによる挿入変異原性 (insertional mutagenesis) のリスクであるが、T細胞においては現時点でクローン性増殖や白血病化の報告はなかった。第2に、「on-target off-tumor」毒性である。CAIX特異的CAR-T細胞を投与された腎細胞がん患者において、正常胆管上皮に発現する低レベルのCAIXを標的としたことによる肝毒性が報告された (Lamers et al. JClinOncol 2006)。さらに、NCIにおいて、第三世代HER2/neu特異的CAR-T細胞と高用量IL-2を投与された大腸がん患者が、投与直後に致死的な肺毒性を発症し死亡した例が報告された (Morgan et al. MolTher 2010)。これは、正常肺微小血管内皮細胞や心筋細胞に発現する低レベルのHER2に対する標的外反応が原因と考えられた。第3に、前処置に伴う毒性であり、CLL患者においてシクロホスファミド前処置後に敗血症様症候群および急性腎不全により死亡した例が報告された。これらの重篤な毒性を制御するため、誘導型Caspase-9である iCasp9 (inducible caspase 9) や、HSV-1 (herpes simplex virus-1) 由来のチミジンキナーゼである HSV-1 TK (herpes simplex virus-1 thymidine kinase)、またはCD20自殺遺伝子 (リツキシマブ投与による排除) などの安全スイッチ (safety switch) をCAR分子と共発現させる技術の重要性が強調された。米国連邦政府の規制当局である NIH-OBA (National Institutes of Health Office of Biotechnology Activities) においても、これら重篤な有害事象 (serious adverse event: SAE) の発生を踏まえ、投与プロトコルの厳格化や安全対策の標準化に関する議論が活発に行われた。

考察/結論

本レビューは、2010年時点におけるCAR-T細胞療法の設計原理と臨床的課題を体系的に総括した記念碑的な文献である。著者らは、CAR-T細胞が「デザイナーT細胞」として個別化医療の新たなパラダイムを切り拓く可能性を強く主張した。

先行研究との違い: 本研究は、単一の標的抗原や特定の臨床試験のみに焦点を当てた従来のレビューと異なり、第一世代から第三世代にわたるCARの世代別シグナル設計、多様な遺伝子導入プラットフォーム (特に非ウイルス性SBトランスポゾンシステム)、および米国で進行中の25件の臨床試験 (Table 1) を網羅的に比較分析した点で大きく異なる。特に、ウイルスベクターの製造コストと安全性の課題に対し、安価で効率的な非ウイルス性SBシステムとaAPCを用いた製造プロセスを提示した点は、当時の技術的限界を打破する極めて具体的な解決策であった。

新規性: 本研究で初めて、CAR分子のモジュール構造 (scFv、ヒンジ、膜貫通、細胞内ドメイン) がT細胞の機能や持続性に与える影響を構造生物学的・免疫学的な観点から整理し、in vivoでの挙動を最適化するための「再プログラミング戦略」を体系化した。また、Zhao et al. JImmunol 2009Milone et al. MolTher 2009 などの知見を統合し、CD28や4-1BB共刺激ドメインの付与がT細胞の生存維持に不可欠であることを明確に位置づけた。

臨床応用: 本知見は、CAR-T細胞療法の臨床応用 (translational research) における安全性と有効性のバランスを制御するための重要な指針を提供する。特に、Morgan et al. MolTher 2010 で報告された致死的なSAEを踏まえ、on-target off-tumor毒性の予測や、iCasp9などの自殺遺伝子を用いた安全スイッチの標準化が、今後の臨床現場における安全な普及に直結することを示した。

残された課題: 今後の検討課題 (limitation) として、以下の5点が挙げられる。

  1. 固形腫瘍における特異的標的抗原の選定と、免疫抑制的な腫瘍微小環境の克服。
  2. 輸注されたT細胞のin vivoにおける長期持続性と、腫瘍局所へのホーミング能のさらなる改善。
  3. サイトカイン放出症候群 (cytokine release syndrome: CRS) や神経毒性などの重篤な全身性副作用の予防および管理プロトコルの確立。
  4. 同種異系 (allogeneic) 設定における移植片対宿主病 (graft-versus-host disease: GVHD) のリスクを排除した「off-the-shelf」型ユニバーサルCAR-T細胞の開発。
  5. マルチセンター共同試験の実施に向けた、製造プロセスの標準化と規制当局 (FDAやNIH-OBA) との調整。

本レビューで示された設計原理は、その後のCD19標的CAR-T細胞療法の劇的な成功 (2017年のFDA承認) を予見するものであり、がん養子免疫療法の発展における歴史的マイルストーンとしての意義を持つ。

方法

本論文は総説 (Review) であり、特定の新規実験データの取得を伴うものではないが、著者らは2010年6月までに発表されたCAR-T細胞療法に関する基礎研究および臨床研究の文献を網羅的に検索・統合した。文献検索には、主要な医学データベースである PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Science を使用した。検索キーワードには、「chimeric antigen receptor」、「CAR-T cell」、「adoptive immunotherapy」、「T-cell engineering」、「Sleeping Beauty transposon」などの用語を組み合わせた。

具体的には、以下の3つの評価軸に基づいて文献の抽出と分析を行った。

  1. CARの分子設計と世代分類: scFv (single-chain fragment variable) 領域の抗原結合特性、ヒンジ/スペーサー領域 (IgG4、CD8αなど)、膜貫通領域、および細胞内シグナル伝達ドメイン (CD3ζ、CD28、CD137/4-1BB、CD134/OX40など) の組み合わせによる第一世代、第二世代、第三世代CARの機能的差異を整理した。
  2. 遺伝子導入プラットフォームの比較: γレトロウイルスベクター、自己不活化型 (self-inactivating: SIN) レンチウイルスベクター、および非ウイルス性の Sleeping Beauty (SB) トランスポゾン/トランスポゼースシステムによる遺伝子導入効率、ゲノム挿入特性、製造コスト、および培養期間の違いを評価した。
  3. 臨床試験データの統合: 2010年時点で米国においてIND (investigational new drug) 申請下で進行中または完了した25件の臨床試験 (Table 1) の情報を収集した。これらの試験から、対象疾患、標的抗原 (CD19、CD20、GD2、CEA、HER2/neu、IL-13Rα2、CAIXなど)、リンパ球除去前処置の有無、遺伝子導入法、および重篤な有害事象 (serious adverse event: SAE) の有無を抽出し、エビデンスを統合した。統計的な解析手法の記載がある文献については、カプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法による生存分析や、コックス比例ハザード回帰 (Cox regression) モデルを用いたハザード比 (hazard ratio: HR) の評価、さらには生存率の比較におけるログランク (log-rank) 検定などの適用状況を確認し、臨床的有効性の評価基準を整理した。