- 著者: Matthew J. Frigault, Jihyun Lee, Maria Ciocca Basil, Carmine Carpenito, Shinichiro Motohashi, John Scholler, Omkar U. Kawalekar, Sonia Guedan, Shannon E. McGettigan, Avery D. Posey Jr, Sonny Ang, Laurence J.N. Cooper, Jesse M. Platt, F. Brad Johnson, Chrystal M. Paulos, Yangbing Zhao, Michael Kalos, Michael C. Milone, Carl H. June
- Corresponding author: Carl H. June (University of Pennsylvania)
- 雑誌: Cancer Immunology Research
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-01-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 25600436
背景
CAR-T (chimeric antigen receptor T) 細胞療法は、抗体由来のscFv (single-chain variable fragment) とTCR/CD3ζ活性化シグナルを組み合わせた合成受容体を発現させることでMHC非依存的に腫瘍を認識する強力な養子細胞療法として注目を集めてきた。CD19を標的とした第2世代CAR (CD28/CD3ζまたは4-1BB/CD3ζ) による臨床試験では、移入T細胞のin vivo増殖が腫瘍免疫排除の主要規定因子であることが明確にされ (Porter et al. NEnglJMed 2011、Kalos et al. SciTranslMed 2011)、CAR設計においてコスティムラトリーシグナルドメインの最適化が治療効果に直結することが示されていた。CD28シグナルドメインの組み込みがリンパ腫患者でのCAR-T生着を改善するというデータも報告され (Savoldo et al. JClinInvest 2011)、CD28/CD3ζを含む多様な設計のCARが複数施設で開発されてきた。
しかしながら、これらのCARは異なる研究機関が各々の発現システム・培養条件・scFvの組み合わせで評価しており、同一の標準化された臨床用システムで比較した際にどのように振る舞うかは不明であった。特に、複数のscFvとCD28/CD3ζシグナルドメインの組み合わせが、リガンド非依存的な構成的 (constitutive) T細胞増殖を誘導し得るという可能性は全く検討されておらず、これが gap in knowledge となっていた。
目的
c-Met、メソセリンSS1 (anti-mesothelin scFv)、CD19を標的とし、IgG4またはCD8αヒンジ、CD28/ICOS (inducible T cell co-stimulator)/CD8α膜貫通ドメイン、CD28/4-1BB/TNFRSF9 (tumor necrosis factor receptor superfamily member 9)/ICOS/CD3ζシグナルドメインの組み合わせからなる12種のCARを一次ヒトT細胞で系統的に比較し、リガンド非依存的な構成的増殖を誘導するCARの同定、その構造的・分子的決定因子の解明、および抗腫瘍効果への影響を評価すること。
結果
構成的増殖 (continuous) CARの同定と増殖動態:12種のCAR構築体比較において、c-Met IgG4 CD28/CD3ζ、SS1 (anti-mesothelin scFv) IgG4 CD28/CD3ζ、SS1 CD8α CD28/CD3ζの3種がcontinuous CARとして同定された (Fig 1A, B)。これらを導入したT細胞は単回TCR刺激後、外因性サイトカイン・フィーダー細胞なしで60〜90日間の指数的増殖を持続した。一方CD19 CD8α (4-1BB/CD3ζ)、CD19 IgG4 (4-1BB/CD3ζ)、ICOS含有CARはnoncontinuous表現型を示し、初期増殖後20日以内に増殖停止・培養終了した。MCV (mean cell volume) 追跡では、day 20においてcontinuous CAR T細胞が約400 flの代謝活性細胞容量を維持した一方、noncontinuous CAR T細胞は静止期サイズ約180 flへ復帰した (Fig 1A右)。同一scFvを持つ変異体実験 (シグナルドメインのみ置換) から、CD28/CD3ζシグナルドメインが構成的増殖に必須であることが確認された (Fig 1D)。Continuous表現型はCD4+ T細胞のみならずCD8+ T細胞でも再現され、n=10 donors以上の独立ドナー実験で確認された (Fig 1C)。
Continuous CAR T細胞の構成的サイトカイン分泌:Luminexアッセイでの培養上清解析では、continuous CAR T細胞におけるIFNγ、TNFα、IL-2、GM-CSF、IL-13等の濃度がnoncontinuous CAR T細胞より100- to >1,000-fold高値を示し (Fig 2)、Th1/Th2両サイトカインプロファイルの持続的分泌が認められた。Continuous CAR T細胞のday 56培養条件培地は未刺激ナイーブCD4+ T細胞の活性化を誘導可能であり、サイトカインが増殖の外因性支持因子として機能していることが示唆された。マイクロアレイ解析でもIFNγ、TNFα、IL-2、IL-3、IL-4、GM-CSFの転写産物が著増し、Granzyme BおよびPerforinも高発現であった (Fig 3)。
構成的増殖の分子基盤:転写因子とシグナル伝達:マイクロアレイ解析 (day 11、n=3 donors) ではcontinuous CAR T細胞が独自の遺伝子発現シグネチャーを示し、5-foldカットオフで183遺伝子がアップレギュレート、36遺伝子がダウンレギュレートされた (Fig 5)。マスター転写因子T-bet (TBX21)、Eomes、GATA-3の高発現が持続し、アポトーシス抵抗性関連因子BclxL (B-cell lymphoma extra-large) の早期高発現 (p<0.001 vs. noncontinuous CAR、day 11) と終末分化・老化マーカーKLRG1 (killer cell lectin-like receptor G1) の低発現が特徴的であった。シグナル伝達では、AKT pS473、ERK1/2 pT202/pY204、RelA pS529のリン酸化がday 6では両群で同等であったが、day 10・25においてcontinuous CARのみで持続的高値を示した (Fig 4B)。S6 pS240はわずかな変化しか示さず、CARがすべてのシグナル経路を普遍的に活性化するわけではないことが示された。NFAT-GFP Jurkat細胞系でも、continuous CARのみが構成的NFAT活性化を誘導し、これが細胞内因性のシグナルであることが確認された。
CAR表面発現量が構成的増殖の規定因子:同一のc-Met IgG4 CAR構造において、EF-1αプロモーター (高発現) ではcontinuous表現型が確認されたが、CMVプロモーターでは平均蛍光強度 (MFI, mean fluorescence intensity) が約5-fold低下し (Fig 6C)、day 12以降増殖停止してnoncontinuous表現型へ転換した (Fig 6A, B)。PGKプロモーター切断変異シリーズ (10- to 20-fold発現範囲) でも、発現量の低下に伴いcontinuous表現型が消失した。ただし高い表面発現量は必要条件であるが十分条件ではなく、CD19 CARをEF-1αで高発現させてもcontinuous表現型が出現しなかったことから、scFvの特性 (分子間相互作用や受容体クラスタリング特性) がCD28/CD3ζシグナルドメインと相乗してcontinuous表現型を決定することが明示された。
In vivo抗腫瘍効果の逆転:continuous CARの劣勢:NSGマウス腹腔内SK-OV3卵巣癌モデル (day 16腫瘍; n=10 mice per group) において、noncontinuous c-Met CAR T細胞 (PGK100プロモーター) はcontinuous c-Met CAR T細胞 (EF-1αプロモーター) より生物発光・生存・in vivo生着の全指標で優れた抗腫瘍効果を示した (Fig 7A, B, C)。腫瘍浸潤T細胞数もPGK100群で多く、末梢血循環CAR T細胞数も有意に高かった (Mann-Whitney検定、p<0.05相当)。P=0.39でcontinuous CAR群と未導入活性化T細胞群の生着に差がなかったことも、continuous CARの生着不全を示す。形質転換性の確認では、長期培養でテロメア短縮が確認され、hTERT恒常発現は検出されず、NSGマウス>20実験での移入試験で腫瘍形成は一例も観察されなかった。Continuous CAR T細胞はTCRレパートリーの多様性を維持し (クローン性増殖なし)、CD25とCD70を持続高発現する一方でCD28・CD62L・CCR7 (C-C chemokine receptor type 7) を経時的に低下させる分化パターンを示した。
考察/結論
本研究は、一次ヒトT細胞においてCARが長期のリガンド非依存的・外因性サイトカイン非依存的な構成的増殖を付与できることを本研究で初めて報告した。この現象の発見は、これまでの研究でCD28/CD3ζ CARの増殖はリガン依存的であるとされていたという既報の前提と対照的であり、scFvの特性と発現量閾値の組み合わせが全く異なる生物学的表現型を生み出すことを示す新規の知見である。同種のCD28過剰シグナリングによるT細胞過形成はマウスでのCD28リガンド過剰発現モデルでも報告されており、本研究の発見と機構的に整合する。HTLV-1 (human T-cell leukemia virus type 1) 感染T細胞でのIL-2恒常発現と類似したCD28依存的・シクロスポリン耐性IL-2産生も、CD28シグナルが内因性IL-2遺伝子発現に直接関与することを示唆する。
新規に同定されたcontinuous表現型の分子決定因子として、(1) CD28膜貫通・細胞質ドメインの必須性 (ICOSや4-1BBでは出現しない)、(2) scFvの特性依存性 (c-Met/メソセリンspecificでCD19特異的scFvでは出現しない)、(3) 高い表面発現量の閾値依存性 (5- to 10-fold発現差がphenotypeを決定) の三要素が明確化された。一方でヒンジ領域の役割は本研究では検討されておらず、IgG4とCD8αヒンジ両方でcontinuous表現型が観察されたことは既報 (Hudecek et al. CancerImmunolRes 2013) とは異なる状況を示している。
臨床応用の観点から最も重要な知見は、continuous CARがin vivoで非構成的CARより抗腫瘍効果・生着ともに劣るという逆説的な発見である。過剰なCD28シグナリングが早期分化・消耗を誘導し腫瘍浸潤能を損なうと解釈され、CAR発現量を適切な範囲に制御 (non-continuous phenotype) することが最大の臨床的有用性につながるという設計原則を示した。先行する4-1BB/CD3ζ CD19 CARでの安全性・有効性 (Kalos et al. SciTranslMed 2011) と、4-1BBドメインを持つCARでは観察されなかったcontinuous表現型は、シグナルドメインの選択がCAR-T製品特性に与える影響の大きさを裏付ける。レンチウイルスベクターとEF-1αプロモーターという特定の発現システムがcontinuous表現型を生じ得ることは、CAR-T製造プロセス設計において発現量・プロモーター選択が最終製品の安全性と有効性に直結することを示す (Milone et al. MolTher 2009 が確立した4-1BB CAR設計との対比でも重要)。
残された課題として、scFvと CD28ドメインの相互作用がなぜcontinuous表現型を決定するかの完全な機構解明、ヒンジ領域の役割、continuous CARが将来の臨床試験で有用・安全である条件、発現量最適化の具体的閾値設計、そして現行の臨床試験でのCD28/CD3ζ CAR製品 (異なる細胞培養・ウイルスベクター使用) が同様の表現型を示すかどうかの評価が今後の検討として残る。本研究の核心的提言は、noncontinuous growth phenotypeを持つCARを意図的に選択・設計することでCAR-T細胞の抗腫瘍効果と生着持続性を同時に最大化できるという原則であり、この設計思想が臨床試験での差次的CAR-T生存パターンの解釈にも新たな視点を与える。
方法
健常ドナー由来CD4+ T細胞 (一部の実験ではCD8+ T細胞) をanti-CD3/anti-CD28ビーズで単回活性化後、第3世代自己不活性化レンチウイルスベクターでCARを導入した。12種の構築体はscFv (c-Met 5D5、メソセリンSS1、CD19 FMC63 (anti-CD19 scFv))、ヒンジ (IgG4または短いCD8α)、膜貫通 (CD28/ICOS/CD8α)、シグナルドメイン (CD28/4-1BB/ICOS/CD3ζ各種組み合わせ) を多様に組み合わせ、臨床試験で使用されているCART19 (CD19-targeted chimeric antigen receptor T cell using 4-1BB and CD3zeta signaling) を対照とした。CAR発現プロモーターはEF-1α (elongation factor 1 alpha)、CMV、またはPGK (phosphoglycerate kinase 1) プロモーターの5’側切断変異シリーズ (PGK100/200/300/400、転写開始点から-38〜-341の範囲) を用い、表面発現量を10- to 20-foldの範囲でコントロールした。外因性サイトカインおよびフィーダー細胞を一切添加せず60〜90日間追跡し、増殖曲線および平均細胞容量 (mean cell volume, MCV) を継時的に計測した。
サイトカイン・ケモカイン産生はLuminexアッセイで培養上清を定量化 (ベースライン値: IFNγ 5 pg/mL、TNFα 2 pg/mL、IL-2 1 pg/mL、GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor) 15.25 pg/mL、IL-13 1 pg/mL)。遺伝子発現プロファイルはAffymetrix Human Gene 1.0 ST GeneChipマイクロアレイ (データ寄託: GSE64914) で解析し、3-way mixed model ANOVA (sample date × treatment group × donor IDの因子)、FDR (false discovery rate) 補正 (Benjamini-Hochberg法)、5-foldカットオフでの差次的発現遺伝子抽出、ユークリッド距離・average linkageを用いた階層クラスタリングを実施した。シグナル伝達はAKT (AKT serine/threonine kinase) pS473、ERK1/2 (extracellular signal-regulated kinase) pT202/pY204、NFκB (nuclear factor kappa B) RelA pS529、S6 pS240のリン酸化を評価。構成的NFAT (nuclear factor of activated T cells) シグナリングはNFATプロモーター-GFP (green fluorescent protein) を安定発現するJurkat細胞で確認した。
細胞形質転換の評価は、テロメア制限フラグメット解析 (RsaI+HinfI消化・32P標識(CCCTAA)4プローブ)、hTERT (human telomerase reverse transcriptase) 転写量、NSG (NOD-SCIDγc-/-) マウスへの移入試験 (n=10/群、>20実験) で実施した。in vivo抗腫瘍評価ではNSGマウス腹腔内にSK-OV3ヒト卵巣癌細胞 (c-Met発現)、または皮下にL55ヒト肺腺癌 (クリックビートル-グリーン発現) を移植後、CAR T細胞を静注し生物発光イメージングで腫瘍増殖を、末梢血中human CD45+ T細胞をTruCountチューブで定量した。in vivo生着差の検定にはMann-Whitney検定を使用した。