- 著者: Michael Hudecek, Maria-Teresa Lupo-Stanghellini, Paula L. Kosasih, Daniel Sommermeyer, Michael C. Jensen, Christoph Rader, Stanley R. Riddell
- Corresponding author: Michael Hudecek (Fred Hutchinson Cancer Research Center, Seattle, WA)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2013
- Epub日: 2013-04-25
- Article種別: Original Article
- PMID: 23620405
背景
CD19を標的とするCAR (chimeric antigen receptor) T細胞療法はB細胞悪性腫瘍に対して持続的寛解を誘導できることが臨床試験で示されており (Porter et al. NEnglJMed 2011、Kalos et al. SciTranslMed 2011、Kochenderfer et al. Blood 2012)、さらに多様な腫瘍抗原へのCAR T細胞の展開が急務であった。ROR1 (receptor tyrosine kinase-like orphan receptor 1; 受容体型チロシンキナーゼ様孤立受容体1) はCLL (chronic lymphocytic leukemia; B細胞慢性リンパ性白血病)、MCL (mantle cell lymphoma; マントル細胞リンパ腫)、t(1;19) ALL (acute lymphoblastic leukemia; 急性リンパ性白血病) に均一発現しながら正常成熟B細胞・主要臓器には発現しないため、CD19に代替しうる魅力的な標的として注目される。さらにROR1は肺腺がん・乳がん・腎細胞がん・膵がん・卵巣がんの一部にも発現が確認されており、単一のCARで血液腫瘍と固形腫瘍の両方を標的にできる可能性がある。しかしROR1を標的としたCARの設計においてscFv親和性・細胞外スペーサー長・共刺激ドメインの最適な組み合わせは手薄な状態であり、既報の2A2 mAb由来ROR1-CAR (ROR1-specific chimeric antigen receptor T cell) は229 AAの長スペーサーを用いていたが、ROR1エピトープの細胞膜からの距離を考慮した場合にこれが最適かどうかは全く検証されていなかった。scFv親和性・スペーサー長・共刺激ドメインがCAR T細胞の腫瘍認識と活性化誘導細胞死 (AICD; activation-induced cell death) に与える影響は未解明であり、各パラメータが独立してCAR機能を規定するかどうかについての知識が欠如していた。最適化されたROR1-CARの前臨床有効性を実証した系統的研究が不足しており、ROR1標的療法を臨床開発に進めるためのエビデンスが不十分であった。
目的
低親和性scFv 2A2と高親和性scFv R12 (high-affinity humanized anti-ROR1 scFv; 2A2比約50倍高親和性) を3種類のIgG4-Fcスペーサー長 (短:Hinge-only 12 AA、中:Hinge-CH3 119 AA、長:Hinge-CH2-CH3 229 AA) および2種類の共刺激ドメイン (CD28または4-1BB) と組み合わせたROR1-CARパネルを作製し、腫瘍認識・サイトカイン産生・増殖・AICD・in vivo抗腫瘍活性に対するそれぞれの影響を系統的に評価すること。
結果
スペーサー長の短縮が2A2 ROR1-CARの腫瘍認識を大幅に向上させた: 同一の2A2 scFVを持ちスペーサー長のみが異なる3種のROR1-CARを比較したところ、Hinge-only短スペーサー (12 AA) が全ROR1陽性標的 (K562/ROR1, Raji/ROR1, JeKo-1 MCL, 初代CLL) に対して最大の細胞溶解活性を示した (Fig 1B)。長スペーサー (229 AA) に対する正規化溶解活性は短>中>>長の明確な階層性を示した。CFSE増殖アッセイでは短スペーサー構築物が外因性サイトカイン非存在下でも最も多くのT細胞分裂を誘導し (Fig 1C)、サイトカイン産生 (IFNg/TNFa/IL-2) でも同様の優位性が確認された (Fig 1D)。注目すべき点として、長・中スペーサーのT細胞でAICD頻度が高かった (PI+CD8+: 短17.2% vs 中41.6% vs 長44.5%、Raji/ROR1刺激時、95% CI基準で有意差あり) のに対し、短スペーサーではAICDが著明に低く抑えられた。スペーサー長の差はCAR発現量の差ではなく (抗F(ab)染色でいずれも均一発現を確認)、T細胞とROR1陽性腫瘍細胞の空間的配置の最適化によるものと考えられた。
高親和性R12 scFvが独立したパラメータとして機能向上に寄与した: 2A2と同エピトープに結合するが50-fold以上の高親和性を持つR12 scFvを用いたCARは、最適短スペーサー条件下でも2A2と比較してさらに優れた機能を示した。CD8+ TCM発現時、R12+CD28 CARはRaji/ROR1刺激後のIFNg/TNFa/IL-2産生量が2A2対応構築物より有意に高かった (n=3独立実験、Student t検定) (Fig 2C)。増殖アッセイでもR12+CD28構築物でより多くの細胞分裂が観察された (R12 CD28: 4回以上分裂54%/84%/97%/99% vs 2A2 CD28: 21%/41%/69%/87% の4段階分裂比較) (Fig 2D)。AICDはR12 CARで2A2よりも低く (R12 CD28: 5.6%/6.9% vs 2A2 CD28: 10%/9.65%、Raji/ROR1/JeKo-1刺激時)、高親和性が慢性刺激による過活性化を引き起こすという懸念は否定された。CD4+ T細胞でも同様にR12が2A2より高い増殖・サイトカイン産生を示し、scFv親和性とスペーサー長は独立した機能決定因子であることが確認された。
初代CLL細胞に対してR12 ROR1-CARはCD19-CARと同等の活性を示した: ROR1はCD19の約10分の1の分子数でCLL細胞表面に発現するため、高ROR1発現に依存するCARが実際の患者由来腫瘍に有効かどうかが問題であった。初代CLL患者 (n=4) の腫瘍細胞を標的に51Cr放出試験 (E:T=30:1) を実施したところ、R12 ROR1-CAR T細胞の細胞溶解活性は2A2 ROR1-CARより有意に高く (p=0.05、95% CI)、CD19-CAR T細胞と同等であった (Fig 3B)。サイトカイン産生 (IFNg/TNFa) もR12とCD19-CARで近似しており、IL-2産生はCD19-CARがやや高かった (Fig 3C)。増殖については、ROR1-CAR T細胞はCD19-CARより低い傾向があったが (CD19>R12>2A2; Fig 3D)、CAR修飾CD4+ T細胞を1:1で共培養した場合にR12 CD8+ T細胞の増殖がCD19-CARと同等まで上昇し、CD4-helpがROR1-CAR T細胞の増殖を大きく規定することが示された。なお正常B細胞に対してはいずれのCAR T細胞も有意な細胞溶解活性を示さなかった (Fig 3B右)。
NSGマウスJeKo-1 MCLモデルでR12 ROR1-CARはin vivo有効性を初めて実証した: 全身性MCLモデル (NSG/JeKo-1/ffluc) を用いたin vivo試験では、未治療マウスは腫瘍接種から約4週間で安楽死が必要な状態に至った。R12 ROR1-CAR T細胞投与群では腫瘍退縮と生存延長が観察され、2A2 ROR1-CAR T細胞投与群と比較して有意に優れた抗腫瘍効果と生存率を示した (p<0.01、log-rank検定; Fig 4A-C)。最も重要な所見として、R12 ROR1-CAR T細胞の抗腫瘍活性はCD19-CAR T細胞群と統計的に同等であった。CFSE標識T細胞のin vivo増殖解析では、R12およびCD19-CAR T細胞が2A2 ROR1-CAR T細胞と比較して末梢血・骨髄・脾臓でより高い増殖を示し (R12骨髄内頻度0.15% vs 2A2 0.05%; CD19 0.29%) (Fig 4D)、in vitroの機能的優位性がin vivoでも再現された。腫瘍再発はいずれのCAR治療群でも最終的に起こり、再発腫瘍はROR1/CD19発現を維持しており抗原喪失変異体の選択ではなかった。
上皮系がん細胞への有効性 - ROR1 CARの適用範囲の拡大: R12 ROR1-CAR T細胞は乳がん細胞株MDA-MB-231・MDA-MB-468と腎細胞がん細胞株FARP・TREP・RWLに対して効率的な溶解活性・サイトカイン産生・増殖を示した (Fig 5A-C)。2A2との比較でも上皮系がんに対してR12が優位であり、AICDは両scFvで低かった (R12 9.8% vs 2A2 10.9%)。上皮系腫瘍細胞がCD80/CD86を発現しないにもかかわらず高いCAR T細胞応答が得られた理由として、MDA-MB-231上のNKG2D ligand (MICA/B) による共刺激が関与していることが示された。NKG2D経路阻害抗体カクテル (抗NKG2D/MICA/B/ULBP) 添加によりR12 ROR1-CAR T細胞のIL-2産生が有意に減少し (OD 0.6≒1,900 pg/mL から大幅低下) (Fig 5D)、NKG2Dシグナルが上皮系腫瘍への応答に積極的に寄与することが初めて明らかとなった。
考察/結論
本研究はROR1特異的CAR T細胞の機能的最適化において、細胞外スペーサー長とscFv親和性が独立した設計パラメータとして機能することを初めて体系的に示した。短スペーサー (12 AA Hinge-only) がROR1エピトープ (膜遠位Ig-like/Frizzledドメイン) に対する最適な立体的アクセスを提供するという知見は、これまでの研究で示されたスペーサー設計の重要性を強化するとともに、ROR1という具体的な分子に対するgap in knowledgeを埋めるものであり、本研究で初めて示された原則である。高親和性R12 scFvの使用によりAICDが増加するという懸念は否定され、むしろAICDが低下することが示されたが、これはこれまでの研究における高親和性TCRの危険性とは対照的な知見である。
既報の研究ではCD22・5T4・NCAM CARにおいてスペーサー長がエピトープの膜からの距離に依存することが示されていたが、本研究はROR1において短スペーサーが明確に優位であること、かつscFv親和性との相乗効果を持つことを示した点で新規の貢献をなす。特に同エピトープを認識しながら親和性のみが異なる2A2とR12の直接比較は、親和性がCAR機能に独立した影響を与えることを明確に証明したものであり、これまで報告されていない知見である。また上皮系がんへの有効性の実証と、NKG2D ligandによる共刺激機構の同定は本研究で初めて示された発見である。
臨床応用の観点から、ROR1はCD19と異なり正常成熟B細胞に発現しないため、CD19-CAR治療後に問題となる正常B細胞の長期枯渇を回避できる潜在的利点がある。また、本研究で示されたROR1 CAR T細胞のCLL・MCL・乳がん・腎細胞がんへの横断的有効性は、複数のがん種に対する単一CAR構築物による治療戦略の実現可能性を示す臨床的意義がある。本研究の最適化ROR1-CAR構築物はその後のFred Hutchinson Cancer Research CenterにおけるROR1 CAR臨床試験設計の基盤となった。
残された課題としては、まず脂肪細胞・未熟B細胞前駆体へのROR1低レベル発現に起因するon-target off-tumor毒性の安全性評価が不可欠であり、今後の検討としてマウス・非ヒト霊長類のROR1に結合するCARを用いたin vivo毒性試験が必要とされる。また、本研究では親和性上限の探索は未実施であり、R12より高親和性の変異体がT細胞機能をさらに向上させるか、あるいはAICDのリスクを生じさせるかについては更なる検討が求められる。加えてNSGマウスモデルの限界として、ヒト免疫環境・腫瘍微小環境・淋巴球減少状態での動態は前臨床モデルと異なる可能性があり、clinical trialsでのCAR T細胞の動態・安全性の厳密な監視が必要である。NKG2D costimulationが上皮系腫瘍in vivoでも機能するか、あるいは腫瘍浸潤リンパ球で報告される可溶性MICリガンドによる阻害が優位になるかも今後の研究課題として残されている。
方法
2A2 (低親和性、ROR1のIg-like/Frizzledドメインの膜遠位エピトープに結合) およびR12 (高親和性ヒト化scFv、同エピトープ結合、2A2比50-fold以上高親和性) を各スペーサー長と組み合わせ、CD28またはCD3z単独 (第一世代) もしくはCD28/4-1BB+CD3z (第二世代) を含む計10種以上のROR1-CAR構築物を設計した。各CARはT2A-tEGFR (truncated EGF receptor) を選択マーカーとして含むepHIV7レンチウイルスベクターでコードした。健常ドナー末梢血から精製したCD8+ CD45RO+ CD62L+ central memory T cells (TCM) または bulk CD4+ T細胞にlentiviral transduction (MOI=3) し、tEGFR免疫磁気選択で>90%純度に濃縮した。細胞株 (K562/ROR1, Raji/ROR1, JeKo-1 MCL) および初代患者由来CLL細胞 (n=4) を標的に、51Cr放出試験 (E:T比 30:1~1:1)、CFSE増殖アッセイ (72時間)、多重サイトカインアッセイ (IFNg/TNFa/IL-2、24時間)、PI染色によるAICD測定を実施した。In vivo実験ではNSG (NOD/SCID/gcnull) マウスにJeKo-1/ffluc細胞を尾静脈注射して全身性MCLを樹立 (day 0)、day 7にCAR T細胞 (5×10^6) を単回投与し、bioluminescence imaging (IVIS) で腫瘍量を経時的に測定、Kaplan-Meier生存解析 (log-rank検定) を実施した。上皮系がん細胞株 (乳がんMDA-MB-231・MDA-MB-468、腎細胞がんFARP・TREP・RWL) についても51Cr放出試験・サイトカイン産生・NKG2D阻害実験 (抗NKG2D/MICA/B/ULBP抗体カクテル) を実施した。統計解析はStudent t検定 (両側、95% CI) およびlog-rank検定を用い、p<0.05を有意とした。