- 著者: Razieh Monjezi, Csaba Miskey, Tea Gogishvili, Martin Schleef, Marco Schmeer, Hermann Einsele, Zoltán Ivics, Michael Hudecek
- Corresponding author: Michael Hudecek (Universitätsklinikum Würzburg)
- 雑誌: Leukemia
- 発行年: 2017
- Epub日: 2016-07-18
- Article種別: Original Article
- PMID: 27491640
背景
CD19を標的とするキメラ抗原受容体 (chimeric antigen receptor, CAR) T細胞療法はB細胞悪性腫瘍に対して高い臨床効果を示し、Maude et al. NEnglJMed 2014 らによる大規模試験では白血病患者の持続的完全寛解が報告されている。その後の定義されたCD4+/CD8+サブセット組成によるCAR-T細胞投与試験 (Turtle et al. JClinInvest 2016) においても高い奏効率が示され、CD19-CAR T細胞療法は標準治療不応B細胞悪性腫瘍の有望な選択肢として確立されつつある。しかしながら、臨床試験で報告された全例においてγレトロウイルスベクター (retroviral vector, RV) またはレンチウイルスベクター (lentiviral vector, LV) が遺伝子導入に用いられており、これらは高発現遺伝子・癌関連遺伝子近傍への選択的統合という性質を持つため、挿入変異および遺伝毒性のリスクが懸念されている。過去にSCID-X1 (severe combined immunodeficiency type X1) 遺伝子治療でLMO2 (LIM domain only 2) 遺伝子近傍への挿入がT細胞白血病を誘発した事例 (Hacein-Bey-Abina 2003) はこの懸念を現実のものとしており、より安全な遺伝子導入手段の開発が求められてきた。さらに、ウイルスベクターの製造コストと規制上の複雑さはCAR-T細胞療法のグローバルな普及を妨げる構造的な障壁となっている。
Sleeping Beauty (SB) トランスポゾンシステムは魚類ゲノムからの分子再構築により誕生した非ウイルス性の遺伝子導入ツールであり (Maiti et al. JImmunother 2013)、哺乳類ゲノムへのTA (thymine-adenine) -dinucleotide選択的な擬似ランダム統合パターンを持つことからLV/RVに対する安全な代替系として注目されている。超活性型SB100X変異体の分子進化により、ヒトT細胞を含む複数の細胞種での安定遺伝子導入が改善されたが、従来プラスミドDNAを用いた電気穿孔によるSBトランスポジションは遺伝子導入率が低く細胞毒性が著しいという課題が未解決のままであり、多くの研究者が依然としてウイルスベクターに依存せざるを得ない状況が続いていた。ミニサークル (minicircle, MC) DNAはプラスミドから細菌複製起点と抗生物質耐性遺伝子を除去した最小発現ベクターであり、HeLa細胞でのSBトランスポジションへの応用が示されていたものの、初代ヒトT細胞における有効性という重大な知識ギャップが未解決であった。
目的
ミニサークルDNAをSBトランスポジションのドナーベクターとして活用することで、(1) 従来プラスミドDNAと比較して遺伝子導入率と細胞生存率を改善できるか、(2) SB100X mRNAとMCの組み合わせがさらに優れた製造プロセスを提供するか、(3) MC由来CD19-CAR T細胞がLV由来と同等の抗腫瘍機能を発揮するか、(4) MC-SBのゲノム統合プロファイルがLVよりゲノムセーフハーバー (genomic safe harbor, GSH) に偏る安全なプロファイルを示すか、を系統的に検証する。
結果
MCによる遺伝子導入率の大幅改善: 健常ドナーCD8+ T細胞への電気穿孔後day 14において、MC-MC (MCトランスポゾン + MC-SB100X) 群のEGFRt+ T細胞率は平均49.8% vs P-P群12.8%であり、4.4-fold の有意な改善が認められた (n=7, p<0.0001) (Fig 1b)。SB100Xを含まない対照群ではEGFRt発現は検出されず、トランスポジション依存性が確認された。EGFRt発現はday 14以降安定して推移し、CD19+フィーダー細胞による拡張後も複数のサイクルにわたり安定した導入遺伝子発現が6週間以上維持された。eGFP発現実験でも同様のMCの優越性が再現され、CD4+ T細胞においてもCD8+と同等の改善効果が複数ドナーで確認された。
MCによる細胞毒性の軽減と産生量増加: 電気穿孔後48時間での生存T細胞率 (7-AAD染色) はCD19-CAR実験でMCが1.4-fold、eGFP実験で3.2-fold高く (n=3 each, p<0.05)、MCの低細胞毒性が定量的に示された (Fig 1c)。この高い遺伝子導入率と低毒性の相乗効果として、14日間培養で1×10^6個の入力CD8+ T細胞から得られるCAR+ T細胞数はMC-MC群がP-P群の6-fold に達した (n=4, p<0.05)。フィーダー細胞による抗原依存的拡張なしに治療量のCAR-T細胞を短期間で製造できることが初めて示された。
SB100X mRNA + CD19-CAR MCの最適組み合わせ: SB100Xをプラスミドではなく mRNAとして供給した場合でも、CD19-CAR MCドナーとの組み合わせ (mRNA:MC = 4:1が最適モル比) でP-P群比3.7-fold の遺伝子導入率向上を達成した (n=5, p<0.005) (Fig 2c)。mRNA量を8:1に増加させると転移効率が低下し、過剰産生阻害 (overproduction inhibition) 効果の可能性が示唆された。mRNA-MC組み合わせでも生存率は1.4-fold高く (p<0.05)、14日間産生量は3.6-fold増加した (n=4, p<0.05) (Fig 2d)、この最適条件はナイーブ・セントラルメモリー・エフェクターメモリーCD8+サブセット全てで均一に高い遺伝子導入効率を示し、特定サブセットへの選択バイアスが生じないことが確認された。なお、EGFRt+細胞のCD19-CAR構成性シグナリングがday 14以降の漸増的な発現率上昇に関与する可能性が指摘されており (Frigault et al. CancerImmunolRes 2015)、SBトランスポジション由来CAR-T細胞でも同現象が観察された。
抗腫瘍機能はLV由来CAR-T細胞と同等: mRNA-MC、MC-MC、P-P (全SB系) およびLV由来CD19-CAR T細胞を機能的に直接比較したところ、K562/CD19、Raji、JeKo-1リンパ腫細胞に対する特異的溶解活性は全群間で統計的差異がなかった (one-way ANOVA有意差なし) (Fig 3b)。ELISAによるIFNγ・IL-2産生量 (n=3 donors) も同等であり、CFSE希釈法での増殖能評価 (72時間、≥3細胞分裂) においても全てのCD8+・CD4+ CAR-T細胞株で差異は認められなかった (Fig 3c, 3d)。SBトランスポジションにより生成したCAR-T細胞がLV由来と機能的に非劣性であることが head-to-head比較で初めて実証された。
in vivo抗腫瘍効果の実証: NSG/Raji-ffluc異種移植モデル (n=5/群) において、SB100X mRNA + CD19-CAR MC由来CAR-T細胞 (CD8+:CD4+=1:1) を単回投与した全マウスでT細胞投与後7日以内の急速なリンパ腫消退が生物発光イメージングで確認され、対照T細胞群は進行性リンパ腫を呈した (Mann-Whitney test p<0.05) (Fig 4a, 4b)。末梢血ではT細胞ピーク時 (day 3・7・14) に顕著なCAR-T細胞が検出され、リンパ腫消退後も骨髄での持続的生着が全マウスで確認された (Fig 4c, 4d)。骨髄内リンパ腫の完全消退はフローサイトメトリーでも証明された (Fig 4e)。Kaplan-Meier解析では観察期間末まで全SB CAR-T治療マウスが生存し、LV由来CAR-T細胞治療群 (n=5) と同等の生存曲線を示した (Fig 4f)。
ゲノム統合プロファイルの安全性優位性: n=3 donors のポリクローナルCD8+ T細胞のIllumina HiSeqで同定した26,834か所のMC-SB統合部位を解析したところ、遺伝子領域への統合はランダム比1.15倍 (LVは2.11倍、p<0.01)、癌関連遺伝子への統合はランダム比1.29倍 (LVは2.64倍、p<0.05) であり、SBの統合がランダムに近い性質を示した (Fig 5a)。高発現遺伝子への統合頻度は遺伝子発現量と指数関数的に相関するLV (R²=0.976) と対照的に、SBは軽微な線形相関のみを示した (Fig 5b)。5条件を全て満たすGSHへの統合率はSBが20.8%、LVが3%、コンピューター生成ランダム位置が28%であり、SBのGSH統合がLVの約7倍に達した (Fig 5c)。癌関連遺伝子から>300kb外側の統合は59% (SB) vs 38% (LV)、非遺伝子領域への統合は48% (SB) vs 12% (LV) であった。T細胞クローンの統合コピー数はCD8+クローンで平均n=5 (範囲3-8個)、CD4+クローンで平均n=6 (範囲3-12個) であり、polyclonal集団のflow cytometryによる発現量と相関した。
考察/結論
本研究は、ミニサークルDNAをSleeping Beautyトランスポジションのドナーベクターとして使用するという新規な (novel) アプローチにより、従来の非ウイルスCAR-T細胞製造における最大の障壁であった低い遺伝子導入率と高い細胞毒性を同時に克服した最初の実証報告である。これまでの研究はプラスミドDNAによるトランスポジションが典型的に20%以下の遺伝子導入率に留まり、臨床量のCAR-T細胞製造のためにCD19+フィーダー細胞との繰り返し共培養が必須であったが、本研究のMC-SBアプローチはフィーダー細胞拡張なしに14日以内で同等の細胞数を提供できることを実証しており、既報のアプローチと異なる重要な製造プロセス上の進歩を示している。
新規性: 本研究で初めて、MC由来SBトランスポジションが初代ヒトT細胞で高効率かつ安全に機能することを実証し、LVとの機能的同等性を直接比較するhead-to-head試験を実施した。MCの優越性は複数のメカニズムによると考えられ、細菌CpGモチーフの欠如による免疫刺激性低下、スーパーコイル構造維持による核内移行効率向上、大型環状プラスミドと比較した小型ベクターからのトランスポゾン動員容易性が主要な寄与因子として挙げられる。また、本研究は定義されたCD8+/CD4+サブセット組成によるCAR-T細胞製造 (Sommermeyer et al. Leukemia 2015) とMC-SBアプローチが組み合わせ可能であることを示した最初の研究でもある。
SB100X transposaseをmRNA形態で供給する戦略には少なくとも2つの安全上の利点がある。第一に、mRNAは短命であるため既統合トランスポゾンの「再動員 (re-mobilization)」リスクが大幅に低下する。第二に、トランスポザーゼ発現カセット自体がゲノムに意図せず統合することを原理的に排除でき、持続的・制御不能なトランスポジションを防止できる。これらの安全特性とMCの製造容易性が組み合わさることで、mRNA + MC戦略は安全性・効率性・コスト全ての面でウイルスベクターに対する優位性を持つ非ウイルス遺伝子導入系として位置づけられる。
ゲノム統合安全性の観点では、SB統合のGSH比率 (20.8%) がLV (3%) の約7倍であり、ランダム期待値 (28%) に近い点が特筆される。LV統合の指数関数的な高発現遺伝子選好 (R²=0.976) とは対照的に、SBはH3K36・H3K79トリメチル化やRNAポリメラーゼIIタグなどの活性クロマチンマーカーへの親和性が軽微であり、転写的に不活性なヘテロクロマチン領域への統合もほぼランダムに許容されていた。GSH 5条件のうち癌関連遺伝子距離 (>300kb) と非遺伝子領域がとくに安全性の上位規準であり、SBはいずれでもLVを大きく上回った。臨床的意義として、このより安全なゲノム統合プロファイルは長期的な遺伝毒性リスクを低減し、規制当局への承認申請を容易にする根拠を提供すると期待される。CAR-T細胞療法そのものが遺伝子変異誘発事例を今日まで報告していないとはいえ、エイズウイルス (HIV) 統合部位に選択的なクローン増殖が観察された事実は将来リスクへの備えを正当化するものであり、より安全なベクターシステムへの移行には臨床的意義がある。
残された課題としては、本研究がB細胞悪性腫瘍の in vitro・マウスモデルに限定されており、固形がんやT細胞悪性腫瘍への応用可能性の検討が今後の検討課題である。さらに、コピー数が平均5-6個 (CD8+ range 3-8、CD4+ range 3-12) という複数統合が長期的な導入遺伝子発現安定性とCAR-T細胞機能に及ぼす影響、MC製造の臨床グレードへのスケールアップの実証、そして他のトランスポゾン系 (piggyBac、Tol2) の同様のMC応用による比較評価が future research として挙げられる。MCの製造プロトコルは既に確立されており、SB100X mRNA + CD19-CAR MCという最適化された製造プロセスが将来の臨床試験の基盤となることが期待される。
方法
ベクター構築: FMC63 scFv (single-chain variable fragment) + IgG4-Fcヒンジスペーサー + 4-1BB共刺激ドメイン + CD3ζシグナル鎖にT2Aエレメント経由でEGFRt (truncated epidermal growth factor receptor, 選択マーカー) を連結したCD19-CARカセットをpT2/HBトランスポゾンドナープラスミドに組み込み (Hudecek et al. ClinCancerRes 2013)、PlasmidFactory (Bielefeld, Germany) がsite-specific intramolecular recombinationによりMC化した。SB100X mRNAはT7プロモーター駆動プラスミド (Addgene #34879) からmMESSAGE mMACHINEキットでin vitro転写し、Poly(A)-tailed ARCA (anti-reverse cap analog) -capped形態でMEGAclearカラム精製した。
T細胞製造: 健常ドナー末梢血よりCD8+およびCD4+ T細胞を純化し、抗CD3/CD28ビーズで活性化後day 2に4D Nucleofector (Lonza) で電気穿孔した。MCとプラスミドをequimolar量 (1 μgプラスミド相当) で比較した。LV transductionは同一CD19-CAR構造を含むepHIV7ベクターでday 1 spinoculation実施。EGFRt+ T細胞をビオチン標識抗EGFR mAb + 抗ビオチンビーズ (Miltenyi) で磁気選択後、照射CD19+フィーダー細胞で7日間抗原依存的に拡張した。mRNA-MCの最適化実験ではSB100X mRNA:MC比を1:1, 2:1, 4:1, 8:1でflow cytometry (day 14 EGFRt発現) を指標に評価した。
機能評価: 生体発光ベースのcytotoxicity assayでK562/CD19、Raji、JeKo-1リンパ腫細胞に対する特異的溶解活性 (エフェクター:ターゲット比; E:T ratio = 10:1) を評価。ELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) で24時間共培養上清のIFNγ・IL-2産生を定量 (n=3 donors)。CFSE (carboxyfluorescein succinimidyl ester) 希釈法で72時間の増殖能を評価した。統計解析はone-way ANOVA (analysis of variance) およびStudent’s t-testを用いた。in vivo評価: NSG (NOD/SCID/γc-null) マウスにRaji-ffluc/eGFP細胞を播種し7日後にSB100X mRNA + CD19-CAR MC由来CAR-T細胞 (CD8+:CD4+=1:1、計5×10^6個) を単回投与し (各群n=5)、生物発光イメージングとKaplan-Meier解析 (Mann-Whitney test) で腫瘍制御と生存を評価した。
ゲノム統合部位解析: CD8+ T細胞クローンをlimiting dilutionで調製し、FspBI/DpnI消化後Linker-mediated PCRで統合部位を増幅した。ポリクローナルCD8+ T細胞株 (n=3ドナー) のゲノムDNAをIllumina HiSeqで大規模並列シーケンシングし26,834か所の統合部位を同定した。LV統合部位データベース (ヒトCD4+ T細胞由来) を対照として使用した。GSH基準はSadelain 2012の5条件 (非超保存領域・miRNA遺伝子から>300kb・転写開始部位から>50kb・癌関連遺伝子から>300kb・転写単位外) を適用した。