- 著者: Sourindra Maiti, Helen Huls, Harjeet Singh, Margaret Dawson, Matthew Figliola, Simon Olivares, Pullavathi Rao, Yi Jue, Asha Multani, Ge Yang, Ling Zhang, Denise Kellar, Sonny Ang, Hiroki Torikai, Brian Rabinovich, Dean A. Lee, Partow Kebriaei, Perry Hackett, Richard E. Champlin, Laurence J.N. Cooper
- Corresponding author: Laurence J.N. Cooper (Division of Pediatrics, The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
- 雑誌: J Immunother
- 発行年: 2013
- Epub日: 2013-02-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 23377665
背景
キメラ抗原受容体 (CAR) T細胞療法は、非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ性白血病、神経芽腫に対する初期臨床試験において有望な奏効が報告されている (例: Porter et al. NEnglJMed 2011、Kalos et al. SciTranslMed 2011、Kochenderfer et al. Blood 2010、Pule et al. NatMed 2008、Brentjens et al. Blood 2011、Till et al. Blood 2008、Pule et al. MolTher 2005、Jena et al. Blood 2010)。しかし、臨床グレードのCAR T細胞製造は主にγ-レトロウイルスやレンチウイルスなどのウイルスベクターに依存しており、その高コストと特定の施設インフラの必要性が、広範な普及における主要な障壁となっていた。非ウイルス性の遺伝子導入システムであるSleeping Beauty (SB) トランスポゾン/トランスポザーゼ系は、マウス組織、胚性幹細胞、およびヒトT細胞への遺伝子導入に利用されてきたDNAプラスミドベースの手法であり、製造コストの低減とインサーショナル変異原性のリスク低下の可能性を秘めている。
MD Anderson Cancer Centerのグループは、以前にSBシステムとK562由来の人工抗原提示細胞 (aAPC clone #4、CD19/CD64/CD86/CD137L/膜結合型IL-15を発現) を組み合わせたCD19特異的CAR T細胞の培養プロトコルを報告していた。しかし、この非ウイルス性システムをcGMP (current Good Manufacturing Practice) 準拠の臨床試験に適用するためには、その安全性、有効性、および製造の一貫性に関する系統的な前臨床評価が未確立であり、この点が臨床応用への大きなギャップとして残されていた。特に、ウイルスベクターと比較して、SBシステムにおけるトランスポザーゼのゲノム組込みリスク、T細胞の自律増殖の可能性、TCRレパートリーの多様性維持、テロメア長の維持といった安全性プロファイルの詳細な検証が不足していた。本研究は、これらの課題に対処し、B細胞悪性腫瘍に対するfirst-in-human臨床試験の基盤を確立することを目的とした。
目的
本研究の目的は、非ウイルス性Sleeping Beauty (SB) トランスポゾン系を用いたCD19特異的CAR T細胞のcGMP (current Good Manufacturing Practice) 準拠製造法を確立し、その安全性と有効性を前臨床的に評価することである。具体的には、以下の3点を検証する。
(1) SBトランスポゾン系 (CD19RCD28mz(CoOp)/pSBSOとpKan-CMV-SB11プラスミド) を用いたヒト末梢血単核球 (PBMC) 由来T細胞への電気穿孔と、CD19+人工抗原提示細胞 (aAPC clone #4) 上での数値的増幅が、cGMP準拠条件下で臨床使用量に足るCD19-CAR T細胞を安定的に拡大できるかを検証する。このプロセスにおけるCAR発現率、T細胞の増殖能、およびaAPC汚染の有無を評価する。
(2) 臨床応用に必要な安全性プロファイル、すなわち、CARトランスジーンの平均組込みコピー数 (単コピー組込みの確認)、SB11トランスポザーゼ (Sleeping Beauty transposase) のゲノム非組込みおよび非発現、T細胞の自律増殖の欠如、TCRレパートリーの多クローン性維持、およびテロメア長の維持を定量的に評価する。これらの安全性指標は、遺伝子改変T細胞療法の長期的な安全性と有効性を保証するために不可欠である。
(3) 輸注後のCAR T細胞のin vivoモニタリングに用いる、末梢血単核球 (PBMC) 中のCAR T細胞を0.01%の感度で検出可能な定量的PCR (Q-PCR) アッセイを確立する。これらの包括的な前臨床データは、B細胞悪性腫瘍を対象とした3件のfirst-in-human IND申請 (IND #14193, 14577, 14739) の基盤となる。
結果
CAR T細胞の拡大と表現型: 電気穿孔後のDay 1において、CAR発現率は18-65%であったが、aAPCの反復添加とIL-2/IL-21の存在下でDay 28には90%以上に濃縮された (n=5独立実験)。T細胞は2週間目以降、週あたり平均100-foldの増殖を示し、電気穿孔翌日と比較して10⁵-fold以上の細胞数拡大を達成した。Day 28時点でのaAPC残存指標であるCD32の発現は1%未満であり、aAPCによる汚染は事実上排除されたことが確認された (Figure 1c)。Day 28の表現型解析では、central memory (TCM: CD45RO+CD62L+)、effector memory (TEM: CD45RO+CD62L⁻)、effector (TE: CD45RA+CD62L⁻) の不均一な集団が維持されており、CD27、CD28、CD45RO、CD95、CD62Lなどのマーカー発現は、臨床的な持続性に望ましいメモリーサブセットの保持を示唆した (Supplementary Table S2)。SB11トランスポザーゼ非存在下では安定したCAR発現は得られず、CAR発現がトランスポゾン機構に依存していることが確認された。
特異的細胞傷害活性: CAR+ T細胞は、CD19+ U251T標的細胞に対して特異的な細胞傷害活性を示した。5時間の共培養において、20,000ターゲット条件で30%、40,000ターゲット条件で56%の特異的溶解が観察され (E:T=1:5)、これはCD19⁻親株に対する溶解の4-6倍高値であった (Figure 2a, b)。さらに、CD19+ NS0細胞に対する傷害性はCD19⁻ NS0細胞の40倍以上、autologous ΔCD19+ T細胞に対する傷害性はCD19⁻ T細胞の16倍以上であり (Figure 2d)、CAR依存的かつ抗原特異的なキリングが確認された。
自律増殖の欠如: 遺伝子導入後のインサーショナル変異による自律増殖クローンの出現リスクを評価するため、Day 21-35に採取したCAR+ T細胞をIL-2およびaAPC非存在下で培養した。その結果、Day 7時点での生存細胞はわずか0.4-2%にまで減少した (n=8, p=2.02×10⁻⁵, Student’s t-test) (Figure 3a)。このデータは、CAR+ T細胞が抗原刺激とIL-2なしでは自律的に増殖できないことを明確に示しており、望ましくない自律増殖クローンの出現が検出限界以下であることを示唆する。この所見は、FDA承認下のリリース試験に組み込まれた。
SB11トランスポザーゼの非組込み・非発現: 11の独立したCAR+ T細胞検体すべてにおいて、ゲノムPCRによるSB11の組込みは陰性であり、RT-PCRによるSB11 mRNAの検出もすべて陰性であった (Figure 3b, c)。これは、トランスポザーゼの「ホッピング」による既組込みCARの再動員リスクが検出限界以下であることを示唆する。University of Minnesotaグループの先行研究 (Huang et al.) では15クローン中5クローンでSB11の組込みが検出されたが、本研究のプロトコルでは使用するトランスポザーゼDNA量 (5 μg vs 10-15 μg) とPBMC数 (2×10⁷ vs 5×10⁶ cells/cuvette) の違いにより、組込み頻度が抑制されている可能性が示唆された。
多クローン性TCRレパートリーの維持: 3つの独立したCAR+ T細胞検体において、Day 0とDay 28のDTEA比較により、TCR Vα (Pearson r=0.88) およびTCR Vβ (Pearson r=0.76) の広範な多クローン性が維持されていることが示された (Figure 4a, b)。単クローンまたは少数クローンの優勢化は認められず、輸注後の複雑な免疫応答を示唆するような偏倚は観察されなかった。これは、遺伝子改変T細胞の安全性と多様な抗原認識能力の維持にとって重要な所見である。
テロメア長の維持: QFISHによるautologous未操作T細胞とCAR+ T細胞 (35日以上のaAPC共培養後) の対比較では、有意なテロメア短縮は認められなかった (p>0.05) (Figure 5a)。対照的に、OKT3+aAPC刺激で培養されたCD3+ T細胞では、テロメアが平均20%短縮したことが報告されている。CAR+ T細胞が複製老化に陥っていないことが示され、長期的なin vivoでの持続性にとって有利な特性であると考えられる。
CAR組込みコピー数: Southern blot (Jurkat clone 12で単一バンド、プラスミド骨格は消失) (Figure 6a)、FISH (メタフェーズ上で一染色体シグナルダブルレット) (Figure 6b, c)、およびQ-PCR (トランスジーン依存性法で平均1.2±0.315コピー、トランスジーン非依存性法で平均1.09±0.270コピー、n=11) (Figure 6d, e) のすべてにおいて、「平均1コピー/ゲノム」という結果が一致した。Jurkat clone 12のRNase P (CT=21.28) とCAR (CT=20.65) のCT値比較は、単一コピー組込みを強く示唆する。
PBMC中CAR+ T細胞検出感度: CD19RCD28プラスミドDNA標準曲線では、0.1 fg (=14コピー) まで検出可能であった (Figure 6f)。6名の健常ドナーPBMCにJurkat clone 12をスパイクした実験では、1 CAR+ T細胞 / 10,000 PBMC (0.01%) の感度で安定して検出可能であり、ドナー間のCT値差は有意でなかった (p>0.05) (Figure 6g)。この感度は、臨床試験における輸注後のCAR T細胞のin vivoモニタリングに十分であると判断された。
考察/結論
本研究は、非ウイルス性Sleeping Beauty (SB) トランスポゾン系とK562由来aAPC clone 4プラットフォームが、cGMP (current Good Manufacturing Practice) 準拠条件下で臨床使用量に足るCD19-CAR T細胞を製造可能であることを、安全性、有効性、およびトレーサビリティの全観点から実証した。安全性に関しては、CARトランスジーンの平均1コピー組込み、SB11トランスポザーゼの非持続的発現、およびT細胞の自律増殖の欠如が確認された。有効性の前提条件として、多クローン性TCRレパートリーの維持、テロメア長の維持、望ましいメモリー表現型の維持、およびCD19特異的な細胞傷害活性が示された。また、輸注後モニタリングのために、PBMC中0.01%の感度でCAR T細胞を検出可能なQ-PCR (定量的PCR) アッセイを確立した。
先行研究との違い: これまでのCAR T細胞製造は主にウイルスベクターに依存しており、高コストと規制上の課題が伴っていた。本研究は、非ウイルス性プラスミドDNAのみでCAR T細胞を製造するアプローチを確立した点で、既存のγ-レトロウイルスやレンチウイルスを用いたCAR T細胞製造法と対照的である。これにより、製造コストの削減とウイルス特有の規制上のハードルを回避できる可能性が示された。また、aAPC駆動型の増殖プロトコルにより、T細胞のテロメア短縮を防ぎ、複製老化を回避できる点が、非特異的なT細胞刺激法と異なり、長期的なin vivo持続性に寄与すると考えられる。
新規性: 本研究で初めて、MD Anderson独自のプラスミド量とPBMC数条件が、先行するMinnesotaグループの報告と比較して低いSB11組込み頻度を実現していることを示した。さらに、この非ウイルス性システムが、臨床グレードのCAR T細胞製造に必要な全ての安全性および有効性基準を満たすことを包括的に実証した点は新規性が高い。
臨床応用: 本データは、IND #14193, 14577, 14739として、自家および同種造血幹細胞移植 (臍帯血移植を含む) を受ける進行性B系統悪性腫瘍患者に対するautologous/allogeneic CD19-CAR T細胞輸注試験の基盤を形成する。メモリーサブセットの維持とテロメア長の保持は、輸注されたCAR T細胞の長期的なin vivo持続性と抗腫瘍効果に寄与すると期待される。これは、既存のγ-レトロウイルスCAR T細胞療法 (例: tisagenlecleucel) の高コスト課題に対する経済的な代替手段を提供する点で、臨床的意義は大きい。
残された課題: 今後の検討課題として、(a) Q-PCRでは同一細胞内の多重コピー組込みを完全に排除できないため、クローン解析による追加検証が必要である。(b) 本システムで製造されたCAR T細胞のin vivoでの持続性と臨床抗腫瘍効果の検証が不可欠である (後のKebriaei et al. J Clin Invest 2016などの臨床試験で報告されている)。(c) in vitro転写mRNAによるSB11トランスポザーゼの完全な過渡的発現化 (Jin et al. Gene Ther 2011) をさらに進めることで、安全性を向上させる余地がある。(d) CD22やBCMAなど、他の腫瘍関連抗原 (TAA) を標的としたCAR T細胞への応用展開、(e) 固形腫瘍に対するSBベースCAR T細胞の有効性検証も今後の重要な研究方向性である。本論文は、ウイルスベクターに依存しないCAR T細胞製造の実行可能性を示した歴史的基盤研究として位置づけられ、現在のSBベースおよびCRISPR/Cas9ベースの非ウイルス性CAR T細胞開発の土台となっている。
方法
プラスミドと電気穿孔: ヒトPBMCは、Nucleofector II (Lonza, Program U-14) を用いて電気穿孔された。各キュベットには2×10⁷個のPBMCが投入され、CD19RCD28mz(CoOp)/pSBSOプラスミド15 μgとpKan-CMV-SB11プラスミド5 μgが導入された。
aAPC共培養: 電気穿孔されたT細胞は、γ線照射されたK562由来aAPC clone #4 (CD19, CD64, CD86, CD137L (CD137 ligand), mIL-15-IRES-EGFPを発現) と1:2 (CAR T細胞:aAPC) の比率で共培養された。IL-2とIL-21を添加し、2週間ごとにaAPCを再添加することで、Day 28までT細胞を拡大培養した。
機能評価: (a) 細胞傷害アッセイ: EGFP+CD19⁻ U251T細胞とEGFP+ΔCD19+ U251T細胞 (膠芽腫細胞株) を標的としたタイムラプス蛍光顕微鏡細胞傷害アッセイが実施された (エフェクター:ターゲット比 E:T=1:5、6時間)。また、NS0異種細胞およびautologous CD19発現T細胞を標的とした4時間クロムリリースアッセイ (CRA) も行われた。 (b) 自律増殖スクリーニング: CAR+ T細胞の自律増殖能を評価するため、Day 21-35に採取したCAR+ T細胞をIL-2およびaAPC非存在下で7日間培養し、生存率を測定した。
ゲノム安全性評価: (a) SB11組込みの有無: 11検体のCAR+ T細胞について、ゲノムPCRによりSB11トランスポザーゼのゲノム組込みの有無を評価した。 (b) SB11 mRNA発現: RT-PCRによりSB11 mRNAの検出を試みた。 (c) CAR組込みコピー数: Southern blot、FISH (Jurkat clone 12を基準)、およびmultiplex TaqMan Q-PCR (定量的PCR) (トランスジーン依存性および非依存性の両手法) を用いて、CARトランスジーンのゲノム組込みコピー数を定量した。
テロメア長: 定量的FISH (QFISH) を用いて、CAR+ T細胞 (35日以上のaAPC共培養後) とautologous未操作T細胞のテロメア長を比較した。
TCR多様性: Nanostring barcoded probeを用いたDirect TCR Expression Assay (DTEA) により、45種類のVαおよび46種類のVβ転写産物をDay 0とDay 28で定量し、TCRレパートリーの多様性を評価した。
PBMC中CAR T細胞検出: Jurkat clone #12 (単一コピー組込み) を健常ドナーPBMCに0.001%から10%の範囲で段階希釈し、CAR特異的プライマーとRNase Pを multiplexしたQ-PCRにより、末梢血中のCAR+ T細胞検出感度を評価した。このアッセイは、臨床試験における輸注後モニタリングのために開発された。