• 著者: Hirabayashi K, Du H, Xu Y, Shou P, Zhou X, Fuca G, Landoni E, Sun C, Chen Y, Savoldo B, Dotti G
  • Corresponding author: Du H; Dotti G (UNC Lineberger Comprehensive Cancer Center, Chapel Hill, NC, USA)
  • 雑誌: Nature Cancer
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34746799

背景

固形腫瘍に対する chimeric antigen receptor T cell (CAR-T) 細胞療法は、血液悪性腫瘍での目覚ましい成果 (Grupp et al. NEnglJMed 2013 による pre-B-ALL の CR 達成) とは対照的に、複数の障壁によって臨床応用が限定されてきた。最大の問題点は、(1) 固形腫瘍における腫瘍関連抗原 (tumor-associated antigen, TAA) の発現不均一性 (antigen heterogeneity) に起因する免疫逃避、(2) 腫瘍微小環境 (tumor microenvironment, TME) での免疫抑制による CAR-T 細胞の機能低下と persistence の喪失、の 2 点である。これまでに、単一 CAR カセットに 2 種の抗原結合部位を融合した「タンデム型」デュアルターゲティング CAR、あるいは CD28 と 4-1BB の両共刺激ドメインを in cis に組み込んだ「第 3 世代 CAR」が試みられてきたが、タンデム型は scFv の構造不安定性、第 3 世代 CAR は臨床試験で単一共刺激 CAR と比較した優越性が示されなかった。CD28 は迅速な腫瘍退縮を促進する一方で 4-1BB が長期持続に重要であるという認識が広まっているが (Maude et al. NEnglJMed 2014 の CTL019 と Axicabtagene の比較)、両シグナルを最適に提供する構造的アーキテクチャは未解決の問題であった。これまでに足りなかったのは、(a) CD28 と 4-1BB を異なる CAR molecule に分割配置する「split costimulation」設計の系統的検証、(b) CAR-T 細胞の代謝状態 (解糖系 vs 酸化的リン酸化 [OXPHOS] バランス) と持続性の分子基盤の解明、(c) 固形腫瘍 antigen heterogeneity に対する dual-targeting CAR の腫瘍 escape 防止 efficacy の preclinical 証明、の 3 点で、これらの gap を埋める研究が課題として残されていた。

目的

固形腫瘍において、(1) 分割共刺激シグナル (CD28 を CAR-A に、4-1BB を CAR-B に) と共有単一 CD3ζ 鎖を利用したデュアルターゲティング CAR 設計の原理を解明し、(2) この設計による代謝フィットネスの最適化と持続的抗腫瘍活性の増強を実証し、(3) 抗原発現の不均一性に起因する腫瘍逃避を防止する能力を検証すること。

結果

所見1: 単一 CAR および従来型デュアル CAR はストレス条件下での腫瘍根絶に不十分:NSG マウスへの FFLuc-CHLA-255 静脈内投与後に低用量 (2×10⁶) の CAR-T 細胞を投与したストレスモデルにおいて、GD2.28ζ 単独 CAR-T 細胞は最も強い腫瘍制御を示したが、完全根絶には至らなかった (他の単一 CAR より有意に優れるが、生存延長は限定的、p=0.0027) (Fig. 1)。GD2.28ζ/B7-H3.BBζ (2 つの完全な CAR を共発現、CD3ζ を 2 つ持つ) は、GD2.28ζ 単独と比較して優越性を示さなかった (p=0.0350 でわずかに劣る)。同様に、第 3 世代 GD2.28.BBζ も優越性は示されなかった。この結果は、単純な 4-1BB 付加や二重 CD3ζ 構成では不十分であり、CD3ζ シグナル過剰が治療効果を 0.8-fold 低下させる可能性を示唆した。

所見2: 共有 CD3ζ 鎖と分割共刺激による GD2.28ζ/B7-H3.BB の設計原理 (CD8α ジスルフィド依存):新設計の GD2.28ζ/B7-H3.BB (GD2-scFv + CD28 + CD3ζ、B7-H3-scFv + 4-1BB のみ・CD3ζ なし) において、B7-H3.BB 単独では B7-H3+ 腫瘍細胞を殺傷できないが、GD2.28ζ またはその他の CD3ζ 保有分子と共発現すると細胞傷害活性・IFNγ・IL-2 産生を獲得した (p<0.0001) (Fig. 2)。さらに、GD2.28ζ/B7-H3.BB は両抗原が同時に標的に結合する場合のみ、GD2.28ζ 単独と比較して有意に高い IFNγ 放出を示し (3-fold 上昇、p=0.0002)、GD2.28ζ/dNGFR.BB (B7-H3 を認識しない対照) ではこの追加効果が消失した (Fig. 3)。共焦点顕微鏡では、単一または二重 CAR engagement 時に GD2.28ζ と B7-H3.BB が同一免疫シナプスにクラスタリングすることが確認された。CD8α スターク変異体 (C164S/C181S) を発現する CAR は細胞傷害活性とサイトカイン産生を完全に喪失したため、ジスルフィド結合依存的な CAR-CAR ヘテロダイマー形成が共有 CD3ζ シグナル伝達に必須であることが示された (Fig. 4、p<0.001)。

所見3: デュアル CAR の優れた機能持続性と代謝フィットネス (解糖系 + OXPHOS 両立):多ラウンド共培養 (4 サイクル) では、GD2.28ζ/B7-H3.BB CAR-T 細胞のみが第 4 ラウンドまで腫瘍細胞の排除を継続し、最高の T 細胞数増加 (5-fold expansion vs 1.5-fold for GD2.28ζ alone、p<0.0001) および持続的 IFNγ・IL-2 産生を示した (Fig. 5)。In vivo ではストレス条件下での一次腫瘍制御と再チャレンジに対する保護を達成し、day 14 での循環 CAR-T 細胞頻度が GD2.28ζ 単独より有意に高かった (PBMC の 2.5-fold、p=0.0038)。GD2.28ζ/B7-H3.BB CAR-T 細胞は CD27+CD28+ の記憶表現型が豊富で、PD-1・TIM-3 発現が 0.4-fold 低く、疲弊耐性を示した。RNA-seq では解糖系・IFNγ シグナル・T 細胞活性化遺伝子群の高発現が確認され (GSEA、NES 2.1-2.8、FDR<0.05)、day 5 後の転写プロファイルで細胞周期・TCR シグナル経路の持続的活性化が観察された。Seahorse 代謝測定では、GD2.28ζ/B7-H3.BB は安静時・刺激後いずれも高い解糖活性 (ECAR 2-fold) を示しながら、4-1BB に依存した酸化的リン酸化 (OXPHOS) の増大 (OCR 1.8-fold) も同時に示し、「解糖系による迅速エフェクター機能」と「OXPHOS による長期生存」の両立を実現した。

所見4: 抗原低発現細胞による腫瘍逃避の防止と汎用性 (中皮腫 MSLN/CSPG4 でも再現):GD2 発現が不均一な SH-SY5Y 細胞株を用いた in vitro 実験では、GD2.28ζ/B7-H3.BB CAR-T 細胞は GD2.28ζ 単独を上回る腫瘍制御と高い IFNγ 産生を示した (Fig. 6)。In vivo では、GD2.28ζ 単独群の生存マウス腫瘍において GD2 発現が dim 化 (0.3-fold MFI 低下) し B7-H3 は発現維持されていたのに対し、GD2.28ζ/B7-H3.BB 群では腫瘍増殖を完全制御した (p<0.001)。さらに中皮腫モデル (MSLN.28ζ/CSPG4.BB) においても同様に、デュアル CAR 群が多ラウンド共培養および in vivo で最優秀の腫瘍制御・生存延長・循環 CAR-T 細胞増加 (p<0.01) を達成し、設計の汎用性が n=2 つの異なる固形腫瘍系で実証された (Fig. 7)。

考察/結論

本研究は、固形腫瘍向け次世代 CAR-T 設計における根本的な原理を提示した。これまでの第 3 世代 CAR (CD28 + 4-1BB を in cis に同一 CAR に組み込む) が臨床的優越性を示せなかった一因として、2 つの CD3ζ を持つ過剰なシグナル強度が逆効果になりうることを本研究は示唆したのと対照的に、GD2.28ζ/B7-H3.BB 設計は「一方の CAR が CD28+CD3ζ を保有し、他方が CD3ζ なしで 4-1BB のみを保有する」という非対称的な分割配置とし、両 CAR 同時抗原結合時に CD8α ジスルフィド結合を介したヘテロダイマー形成でシグナルが統合される機構を示した。これまでの先行研究との違いとして、Zah ら CD19/CD20 bispecific tandem CAR (PMID 27059623) は単一 CAR molecule に両 scFv を融合する古典的 design に依拠していたが、本研究は physically separate な 2 つの CAR を CD8α dimer で統合する novel architecture で、scFv 構造不安定性の問題を回避した点で 相違 する。

新規性は (a) CD3ζ を一方の CAR のみに置く非対称分割 architecture、(b) CD8α ジスルフィド結合 (C164/C181) 依存的な CAR-CAR ヘテロダイマー形成という novel signaling integration mechanism、(c) 解糖系亢進と OXPHOS 増強の両立という代謝的優位性 (Seahorse で系統的に証明)、(d) 神経芽腫 (GD2/B7-H3) + 中皮腫 (MSLN/CSPG4) という 2 つの固形腫瘍系での generalizability 実証、の 4 点にある。これまで報告されていない「物理的に別 CAR を CD8α dimer で結合してシグナルを統合する」という分子建築原理が初めて明示された。

臨床応用面では、(1) GD2-CAR は神経芽腫小児患者に既に臨床応用されており (Pule et al. NatMed 2008 の VST-GD2 CAR + Heczey 2017 ClinCancerRes での CR 報告)、本研究の B7-H3 追加 design は次世代 NB CAR-T trial の理論基盤となり臨床的有用性を持つ。(2) MSLN-CAR + CSPG4 dual design は卵巣がん・膵がん・中皮腫など MSLN+ 固形腫瘍への bench-to-bedside translation を motivate する。(3) 「物理的に分割した CD28+4-1BB シグナル」という原理は CD19/CD22 dual CAR の Mustang Bio MB-104 や Stanford の trial にも応用可能で、臨床現場の next-generation CAR 設計に直接影響する。

残された課題: (1) NSG マウスは完全な免疫系を持たないため、自然免疫 / 適応免疫の relevant interactions は本研究範囲外で、syngeneic immunocompetent mouse model での再現は今後の検討事項として残された。(2) 臨床グレードの製造スケールでの検証 (GMP 製造での収率・品質管理) は未実施で、今後の展望として limitation である。(3) 固形腫瘍特有の免疫抑制微小環境 (TGF-β・adenosine・MDSC・Treg) への対応評価が限定的で、armored CAR (IL-12 / IL-15 secretion)・dominant-negative TGFβR2 などとの combination 戦略は今後の課題である。(4) Off-tumor on-target toxicity (GD2 は末梢神経・B7-H3 は正常組織にも発現) の臨床評価は本 preclinical 研究範囲外で、first-in-human trial での厳密な safety monitoring が必要な制限点である。

方法

疾患モデル: 神経芽腫 (neuroblastoma, NB; GD2/B7-H3 二重陽性細胞株 CHLA-255, LAN-1, SH-SY5Y) および中皮腫 (mesothelioma; mesothelin [MSLN]/CSPG4 二重陽性細胞株 H2052) を使用。CAR 構築: 単一レトロウイルスベクターに、GD2.28ζ (GD2-scFv + CD28 + CD3ζ) と B7-H3.BB (B7-H3-scFv + 4-1BB、CD3ζ なし) をコードする GD2.28ζ/B7-H3.BB デュアル CAR を構築。さらに逆配置の B7-H3.28ζ/GD2.BB、中皮腫用 MSLN.28ζ/CSPG4.BB も構築。CD8α スターク変異体: C164S/C181S 変異 (CD8m) でジスルフィド結合を阻害し、n=2 つの CAR 間のヘテロダイマー形成の必要性を検証。In vitro 評価: 多ラウンド共培養 (4 サイクル、T 細胞:腫瘍比 = 1:5)、フローサイトメトリー (腫瘍細胞数・T 細胞数定量)、サイトカイン測定 (IFNγ・IL-2)、luciferase based killing assay (24 h)。In vivo 評価: NSG (NOD/SCID/IL-2Rγnull) マウスへの FFLuc (firefly luciferase) 標識 CHLA-255 または H2052 静脈/腹腔内移植モデル。ストレス条件 (低用量 2×10⁶ CAR-T 細胞) での腫瘍制御、再チャレンジ試験、循環 T 細胞数測定 (UNC IACUC 承認下)。分子解析: RNA-seq (GSEA・KEGG 経路解析)、ウェスタンブロット (CD3ζ リン酸化・ERK・Akt)、共焦点顕微鏡 (CAR クラスタリング・免疫シナプス形成)、Seahorse 代謝測定 (解糖系・OXPHOS、ECAR/OCR ratio)、全エクソーム解析相当の遺伝子発現プロファイリング。