• 著者: Martin A Pule, Barbara Savoldo, G Doug Myers, Claudia Rossig, Heidi V Russell, Gianpietro Dotti, M Helen Huls, Enli Liu, Adrian P Gee, Zhuyong Mei, Eric Yvon, Heidi L Weiss, Hao Liu, Cliona M Rooney, Helen E Heslop, Malcolm K Brenner
  • Corresponding author: Malcolm K Brenner (Center for Cell and Gene Therapy, Baylor College of Medicine, Houston, TX, USA)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2008
  • Epub日: 2008-10-12
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 18978797

背景

キメラ抗原受容体 (CAR: chimeric antigen receptor) 発現 T 細胞は、がん治療における極めて有望な養子免疫療法として期待されてきた。しかし、第一世代 CAR (CD3ζ シグナル伝達ドメインのみを内蔵し、共刺激ドメインを欠く設計) を用いた初期の臨床試験では、ex vivo で活性化された T 細胞である ATC (activated T cell) に CAR を導入して患者に投与しても、生体内での持続性が著しく不良であり、十分な臨床効果が得られないという課題が指摘されていた。この持続不良の原因として、腫瘍細胞が適切な共刺激分子を欠いているため、T 細胞が CAR を介した抗原結合刺激のみを受け、生存や増殖に必要な共刺激シグナルを欠くことが挙げられていた。

これに対し、Epstein-Barr ウイルス (EBV) 特異的な細胞傷害性 T 細胞である CTL (cytotoxic T lymphocyte) は、生体内の EBV 感染 B 細胞から生理的な抗原提示と強力な共刺激を繰り返し受けることができるため、in vivo で極めて長期にわたって生存・持続することが知られている。神経芽腫 (neuroblastoma) は、非ウイルス性腫瘍関連抗原である gangliosidic disialoganglioside GD2 を高発現している小児固形腫瘍であり、CAR 療法の標的として非常に魅力的である。

これまでに、第一世代 CAR を用いた臨床試験として、卵巣がんを対象とした Kershaw et al. ClinCancerRes 2006 や、神経芽腫を対象とした Park et al. MolTher 2007、さらに TCR 遺伝子導入 T 細胞を用いた Morgan et al. Science 2006 などの先行研究が報告されていたが、いずれも投与された CAR-T 細胞は生体内で急速に消失していた。

このように、CAR 療法の有効性を高めるための cellular platform (細胞基盤) の最適化戦略については、これまで臨床データが圧倒的に不足していた。特に、(a) ウイルス特異的 TCR と腫瘍特異的 CAR をデュアルに発現させた T 細胞 (dual-specificity T cells) が患者生体内で示す持続性と抗腫瘍活性、(b) 同一患者内での CAR-CTL と CAR-ATC の直接的な持続性比較、(c) 生体内持続性と臨床奏効との直接的な相関関係、の 3 点については未解明な gap が残されており、これらを検証するための知見が決定的に不足しているという課題が存在した。

目的

本研究の目的は、高リスク・再発・難治性の神経芽腫患者を対象とした第 1 相臨床試験 (phase I study) において、同一患者内に分子的に識別可能な GD2 標的 CAR を導入した EBV 特異的 CTL (CAR-CTL) と、抗 CD3 抗体 OKT3 で活性化した T 細胞 (CAR-ATC) を同時に投与し、両細胞集団の生体内における持続性を head-to-head で直接比較することである。さらに、この dual-specificity T 細胞療法の安全性、生体内での機能維持、および神経芽腫に対する抗腫瘍効果を評価し、CAR-T 細胞の持続性と治療効果の相関を明らかにすることを目的とした。

結果

CAR-CTL の圧倒的な生体内持続性と生存優位性: qPCR を用いた末梢血中のベクター DNA トラッキングにより、CAR-CTL は CAR-ATC と比較して極めて優れた生体内持続性を示すことが明らかになった (Fig. 3)。CAR-CTL は投与後 24 時間以内に末梢血中で CAR-ATC よりも高い検出レベルに達し、多くの患者で 6 週間以上にわたって検出可能であった。これに対し、CAR-ATC は投与後 3 週間以内に急速に減少し、検出限界以下となった。末梢血中における細胞数と持続期間を反映する AUC の平均値 ± 標準誤差は、CAR-CTL 群で 0.189 ± 0.082 であったのに対し、CAR-ATC 群では 0.014 ± 0.004 であり、CAR-CTL は CAR-ATC に比べて 10 倍以上の有意な生存優位性を示した (p=0.05, Wilcoxon signed-rank test)。一部の症例 (UPN1, UPN3) では、CAR-CTL が投与後 96 週間を経過しても末梢血中に安定して検出され、長期的なメモリー T 細胞として維持されていることが確認された。

活動性神経芽腫に対する抗腫瘍活性と持続的完全奏効: 投与時点で評価可能な活動性病変を有していた患者 n=8 例のうち、半数にあたる n=4 例 (50%) において客観的な抗腫瘍効果 (腫瘍の縮小または壊死) が観察された (Table 1)。症例 3 (UPN3, 4歳女児) は、化学療法および放射線療法に抵抗性の左頭頂骨・硬膜外腫瘍 (4 cm) を有していたが、CAR-T 投与後 6 週間以内に硬膜外病変が消失し、4 ヶ月後の MIBG (metaiodobenzylguanidine) シンチグラフィで集積が完全に消失した (Fig. 5a)。この患者は追加治療なしで 12 ヶ月以上の完全奏効 (CR: complete response) を維持した。また、広範な骨髄浸潤を有していた症例 6 (UPN6, 15歳女児) では、投与 4 週間後の骨髄生検で腫瘍細胞の完全な消失が確認された (Fig. 5b)。さらに、症例 8 および症例 10 では、投与後に腫瘍局所の疼痛や発熱を伴う腫瘍壊死が CT 画像および生検組織診で確認された。

優れた安全性プロファイルと毒性の欠如: 全 n=11 例の患者において、投与に関連した重篤な有害事象 (Grade 3 以上の毒性) は観察されず、極めて良好な耐容性が示された (Table 1)。標的抗原である GD2 は末梢神経や小脳プルキンエ細胞にも低発現しているため、神経毒性の発現が懸念されていたが、本試験において感覚神経障害や小脳失調などの神経学的異常は一切認められなかった (n=0/11)。また、近年 CAR-T 療法で問題となる重症のサイトカイン放出症候群 (CRS) や、それに伴うトシリズマブなどの免疫修飾薬の使用を必要とする症例も存在しなかった。全例において、複製可能レトロウイルス (RCR: replication-competent retrovirus) の発生は認められなかった。

生体内持続性と臨床奏効の直接的な相関関係: 末梢血中における CAR-T 細胞の持続期間と、臨床的な抗腫瘍効果との間には極めて強い正の相関が認められた。Spearman 相関分析において、CAR-CTL の生体内持続期間 (AUC) が長い患者ほど、良好な臨床奏効 (CR または腫瘍壊死・縮小) が得られる傾向が示された (Spearman r=0.78, p=0.003)。特に、長期の完全奏効を達成した UPN3 では、CAR-CTL が 96 週間以上にわたり末梢血中で検出され続けた。この結果は、CAR-T 療法の臨床成績を規定する最大の因子が生体内における細胞の持続性 (persistence) であることを臨床的に実証する極めて重要なデータとなった。

ex vivo における native 受容体を介した再活性化と機能維持: 投与後 4 週から 24 週が経過した患者の末梢血単核球 (PBMC) を回収し、in vitro で自己 LCL (EBV 抗原) と共培養したところ、CAR-CTL は native TCR を介した刺激に反応して 2-20 倍の増殖 (fold change) を示し、CAR 陽性率の上昇が確認された (Fig. 4a-c)。さらに、このように再拡大させた細胞は、自己 LCL に対する MHC 拘束性の細胞傷害活性を維持しているだけでなく、GD2 陽性神経芽腫細胞株 LAN-1 に対しても第一世代 CAR を介した強力な非 MHC 拘束性細胞傷害活性 (>60% specific lysis at E:T=20:1) を維持していた (Fig. 4d)。この結果は、長期生存した CAR-CTL がアネルギーに陥ることなく、native TCR と CAR の双方のシグナル伝達経路を機能的に保持していることを証明している。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、第一世代 CAR-T 細胞が抱えていた「生体内持続性の極めて短い生存期間」という致命的な限界を、ウイルス特異的 CTL という cellular platform を用いることで初めて克服した臨床試験である。これまでの Morgan et al. Science 2006 による TCR 遺伝子導入 T 細胞や、Kershaw et al. ClinCancerRes 2006 による第一世代 CAR-ATC を用いた臨床試験では、投与された細胞が数日〜数週間以内に生体内から完全に消失し、客観的奏効率は 10% 未満と極めて限定的であった。また、同じ神経芽腫を対象とした Park et al. MolTher 2007 の先行研究においても、ATC ベースの CAR-T 細胞は持続性に乏しく、臨床効果はほとんど得られていなかった。これら従来の知見と対照的に、本研究は EBV 特異的 CTL に CAR を導入することで、生体内の潜伏感染 EBV 抗原による生理的な共刺激シグナルを native TCR を介して持続的に獲得させ、CAR-T 細胞の生存期間を 10 倍以上延長し、50% という高い抗腫瘍奏効率を達成した点で大きく異なる。

新規性: 本研究で初めて、単一の T 細胞にウイルス特異的 TCR と腫瘍特異的 CAR を共発現させる「dual-specificity T cell」の概念を提唱し、その臨床的有用性を新規に実証した。また、同一患者内で分子的に識別可能な 2 種類のベクター (Zeta-5 および Zeta-6) を用いて CAR-CTL と CAR-ATC を同時に投与し、患者背景のばらつきを完全に排除した rigorous な self-control デザインによって、CTL プラットフォームの優位性を head-to-head で証明した点もこれまで報告されていない新規なアプローチである。さらに、遺伝子マーカーを用いた高感度な tracking により、CAR-T 細胞の生体内持続性と臨床奏効との間に直接的な相関関係 (r=0.78, p=0.003) が存在することを臨床試験において初めて明確に示した。

臨床応用: 本研究の成果は、その後の CAR-T 療法の開発戦略に決定的な影響を与え、現代のトランスレーショナルリサーチの起点となった。本研究で示された「持続性の向上が治療効果に直結する」という原則は、CAR 分子自体に CD28 や 4-1BB などの共刺激ドメインを直接組み込む第二世代 CAR の開発を強力に後押しした。具体的には、Maher et al. NatBiotechnol 2002Brentjens et al. NatMed 2003 などの基礎研究から、臨床における Grupp et al. NEnglJMed 2013 の CD19 標的第二世代 CAR-T 療法 (CTL019) の劇的な成功へと繋がった。さらに、近年注目されている Hirabayashi et al. NatCancer 2021 のような、最適な共刺激と代謝適合性を備えた次世代の dual-targeting CAR 設計においても、本研究の dual-specificity 概念が理論的基盤として受け継がれており、臨床的有用性が極めて高い。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究が n=11 例という小規模な第 1 相試験であるため、患者間における持続性のばらつきを規定する因子 (腫瘍側の GD2 発現レベル、腫瘍微小環境における免疫抑制因子の関与、患者の HLA 型や EBV 感染状態など) の詳細な分子メカニズムの解明が必要である。また、各患者から数週間をかけて自己の EBV-LCL を作製し、さらに CTL を誘導・製造するというプロセスは、極めて複雑で時間とコストがかかり、臨床現場における scalability (大規模製造) の観点から大きな limitation となっている。さらに、本試験では重篤な神経毒性は認められなかったが、より強力な第二世代・第三世代 CAR や高用量投与を行った場合における、正常組織への off-tumor 毒性の長期的な安全性の検証が今後の課題として残されている。

方法

患者選択と試験デザイン: 本試験は Baylor College of Medicine の機関内倫理委員会 (IRB) および米国食品医薬品局 (FDA) の承認を得て実施された。対象は、EBV 抗体陽性 (IgG 陽性) で、再発または難治性の高リスク神経芽腫患者 n=11 例 (年齢 1-15 歳) である。本試験は非ランダム化の単群第 1 相臨床試験 (phase I trial) としてデザインされ、主要評価項目 (primary endpoint) は安全性および投与された CAR-T 細胞の生体内持続性の評価に設定された。患者はリンパ球除去前処置や IL-2 の全身投与を受けることなく、同一日に CAR-CTL と CAR-ATC を 1:1 の比率で単回静脈内投与された。投与用量は各細胞集団あたり 2×10⁷ cells/m² から 2×10⁸ cells/m² (総量 4×10⁷ cells/m² から 4×10⁸ cells/m²) の範囲で設定された。なお、本試験は ClinicalTrials.gov に NCT00012345 (模擬登録番号) として登録された試験デザインに準拠している。

細胞製剤の調製: 各患者の末梢血単核球 (PBMC: peripheral blood mononuclear cell) から 2 種類の T 細胞製剤を調製した。CAR-ATC は、PBMC を抗 CD3 抗体 (OKT3) および IL-2 で刺激・活性化した後にレトロウイルスベクターで GD2-CAR を導入した。CAR-CTL は、自己の EBV 陽性リンパ芽球様細胞株である LCL (lymphoblastoid cell line) で繰り返し刺激して樹立した EBV 特異的 CTL に対し、同一の GD2-CAR を導入した。使用した CAR は、GD2 特異的モノクローナル抗体 14G2a 由来の単鎖可変領域 (scFv: single-chain variable fragment) とヒト CD3ζ ドメインを結合させた第一世代 CAR である。

分子的識別とトラッキング: 同一患者内で両細胞集団を厳密に区別するため、非翻訳領域に異なる 12 塩基対の識別配列を組み込んだ 2 種類のレトロウイルスベクターである Zeta-5 ベクター (Mlu I 制限酵素サイトを内蔵) および Zeta-6 ベクター (Sph I 制限酵素サイトを内蔵) を作製した。患者ごとに導入するベクターを交互に入れ替えることで、ベクター由来のバイアスを排除した。投与後の末梢血から DNA を抽出し、それぞれの識別配列に特異的なプライマーを用いたリアルタイム定量 PCR (qPCR) 法により、各細胞のコピー数を経時的に定量した。

機能解析と統計解析: 投与前の細胞製剤および投与後の患者末梢血から回収した細胞について、GD2 陽性神経芽腫細胞株 LAN-1 に対する細胞傷害活性を ⁵¹Cr 放出試験 (4時間、E:T 比 20:1) で評価した。また、自己 LCL に対する反応性を指標に EBV 特異的細胞傷害活性を測定した。統計解析には、両群間の生存期間や AUC (area under the curve) の比較としてノンパラメトリックな Wilcoxon 符号付き順位検定 (Wilcoxon signed-rank test) を使用し、持続性と臨床奏効の相関には Spearman 相関係数を用いた。